第157.5話:アスタリ湖攻略4
おはようございます、アイヴィ・グレートワール少尉です。
拠点周囲の魔物の討伐、数日間に及ぶダンジョン内の調査を経て、とうとう本日から本格的なダンジョン攻略が開始される。
話し合いの末決まった攻略方針は、まずは上位の戦力で強力そうな魔物の討伐、その後兵士を投入して残敵の掃討、その後比較的広くなっているポイントに簡易拠点を設営していく。
そうして少しずつ奥へと進んでいくのだ。
偵察隊の報告ではダンジョン内の魔物はスライム型とカエル型が多く、周辺の森にいる様なウサギや虎、熊型は今のところいないそうだ。
ただ私にとっては敵の情報よりも隣を歩いているトーマ様の様子のほうが気になる。
ジル先輩とサーニャに相談したところジル先輩から
「トーマお兄様は悪い人じゃないから、今はなにか考え込んでいるみたいだけれど、アイヴィちゃんに不誠実なことはしてこないとおもうから、もう少しまってあげて?アイヴィちゃんもお兄様のこと責め立てたいわけじゃないんでしょ?わざわざ黙っていたくらいなんだから。」
ジル先輩が合流した日、相談を持ちかけた私は、ジル先輩からただ待つ様にいわれた。
いわれてそのまま昨日も一昨日も何の動きもないまま過ぎてしまった。
(本当にまってるだけでいいのかな・・・?)
そもそも私はなんで黙っちゃったんだろう、初めは男と間違われたという敗北感と、トーマ様が女性の着替えを覗いてしまったという醜聞を伏せておいたほうが私にとって都合が良いと思ったけれど、私は被害者側だと考えてしまうと、別にその場でユーリ様に泣きついてもよかったのだ。
トーマ様も否定は出来なかっただろう。
じゃあ私が何でそうしなかったのか。
やっぱりトーマ様へ悪い風評が立つことが「嫌」だったからなんだろう。
数日一緒にいてみた結果ではあるけれど、私はトーマ様のことが気になっている。
あの美人でスタイルも良くて家柄もいいユミナ様と婚姻話まであったという
ソレが流れたものの、今もペイロード家に可愛がられていて、将来を嘱望されている優秀な官僚候補。
意図せずそんな人の弱みになってしまったかもしれないことが私は落ち着かなかった。
アスタリ湖ダンジョンは、アスタリ湖の沖合いにある島の中央から地下に向かって伸びる洞穴のようなところがダンジョンの入り口になっている。
そこに私とユーリ様、それとトーマ様を指揮官に据えた部隊で下っていく。
兵士たちの疲弊や健康管理を考慮して部隊は4つに分けられて、私たちは第一部隊だ。
第一部隊の目的は速やかな敵の排除と拠点予定地の確保となっており、一番敵との遭遇戦を行う予定の精鋭部隊。
普通一番遭遇戦を行う部隊に冒険者をもってくるんじゃないのかな・・・?
と、思わなくもないけれど、連邦の事業なので連邦の関係者が率先して任務に着くべきだというアピールらしい。
第二部隊がウェルズさん、セメトリィさん、シア先輩、女性冒険者のナギアさんが所属する部隊この部隊は拠点の設営と通路への明かりの設置などだ。
この部隊が拠点化した土地の防衛も担当するため第一から第三の中で人数が一番多い
第三部隊の指揮はモールさん、冒険者のイスカさん、とそのお嫁さんの冒険者アマリさん、役割は拠点化した地点の安定化のための残党狩りだ。
そして第四部隊の指揮がバルロールさん、イシュタルトの中尉スクピンさん、トライブのグ族系のトミヤ
さん(頭の横で巻いた角がとても雄雄しい人)だ。
第四部隊は少し特殊で、休んでいる部隊の分を補う役割を果たす。
そのため器用貧乏、もといなんでもそれなりにこなすバルロールさんに指揮を任せることになった。
第一から第三攻略班が休んでいる間のダンジョン内拠点の防衛を担当し、私たちが潜っている間は、地上の拠点の防衛組が休んでいるときに穴を埋めることになる。
本当ならセメトリィさんとトーマさんの配置が逆だったのだけれど、第二部隊の最高戦力が女性二人とい状況があまりよろしくないとのことでこうなった。
第一部隊の戦力は、軍官学校卒業の冒険者と軍人を中心に30人の精鋭たちと、目印になる魔法道具「光精の鼻歌」というぼんやりと光を放つ道具を設置したり、進行方向の道に目印をつけたりする工作部隊3人である
前者には学校謹製の魔導籠手を貸し出していて、後者はセイバー開発で得られた技術を再度落とし込むことで改良したらしいアシガル装備フェンサーを装備している。
フェンサーはセイバー開発で得られた魔法陣技術をかつての戦争でペイルゼンが生産していた複製アシガルに利用することて強度や運動性をましたもので、セイバーでは手狭な通路でも活動でき、戦闘力の低い兵でも戦力を底上げして、自衛できる装備として開発されたものだ。
それでも一般の鎧よりも大きくなるので、今回は設置や設営を担当する兵士たちに装備してもらっている。
さて、探索開始から1時間ばかりたった。
今のところたまに魔物の強襲はあるものの、けが人も出すことなく順調に前進を続けている。
問題やトラブルも発生せず、最初の拠点設営地点までたどり着いた。
一旦ここで第二部隊が来るのを待つ。
このアスタリ湖ダンジョンは、鍾乳洞の様な場所で、ところどころ細い道だったり、少量の水が流れているところがあったり、たまに開けている空洞があったりする。
今いる場所はその開けている場所でキャンプを設営するわけだけれど、問題もあって、地底湖が同じ空洞内にあり、そこの安全が確保できているかが確定できない。
内部に「光精の鼻歌」を 放りこんでも魔物らしきものは見えないが、どこかに繋がっていて魔物が出る可能性ものあるので拠点の防衛には第二部隊のセイバー部隊が着くことになるだろう。
私の役目はユーリ様の護衛だけれど、私がユーリ様についても邪魔にしかならないのでトーマ様のほうに付いている、そのトーマ様が先ほどからちらりちらりとこちらを伺ってきてちょっと落ち着かない。
(ジル先輩の言うとおりまってみたけれど、アレからなにも言ってこない・・・、モヤモヤする。)
何かを伝えたいらしいけれど、何も言ってこない。
何かあるのなら、さっさと言ってくればいいのに・・・。
言ってこないものだからついついこちらもチラチラみてしまうし、トーマ様の事が気になってしまう。
(こんなに誰かのことが気になるのってなんか久しぶりかも知れない)
軍官学校の剣士かの一日目は、すっごいユーリ様のことが気になっていたけれど、アイラちゃんを見たらアイラちゃんの可愛さに二重の意味で敗北しちゃったし。
それから思いのほか身体の一部分が成長しなくって、アイラちゃんの妹のアニス様どころか、セシリア様やシトリン様にまで胸の大きさで負けている現状だし・・・。
身長はそれなりに伸びたのに胸がないから、トーマ様に男と間違われたわけだしね・・・。
「アイヴィちょっといい?」
考え事をしていると、いつ野間にかユーリ様が私とトーマ様の目の前に来ていて・・・その整った顔を傾げて私の顔を見つめていた。
(近い近い!)
顔に血が集まり熱くなるのがわかる。
身長がほとんど一緒だから、私の顔をユーリ様が見つめるとほとんど真正面から見つめ合うみたいになってしまう。
諦めた恋とはいえ、ユーリ様が一目惚れするくらい好みの顔なのは変わらないし、あの頃と違ってその人柄も私にとって好ましい方だと分かっている。
顔が赤くなっているのはばれていないだろうか?
いや、ユーリ様は女の子の感情の動きにとても敏感な方だから、きっと分かっているだろう、もしかしたら、私がユーリ君と呼ばなくなった理由、恋を諦めきれなくなるからだってことだって、もしかしたらばれてるかもしれないもの。
「事前の偵察に拠れば、ここから右手側の横穴にローパー型がいる、僕と冒険者たちで狩ってくるから、僕がいない間、拠点の防衛をお願いできるかな?」
初めてカエルとスライム以外の魔物がでてきたけれど、よりによってローパーか・・・
「つくづく私が役に立たないダンジョンですよね。」
カエル型やスライム型と同じくローパー型も打撃に強い魔物で、狭い通路でスピードを殺されている私は本日いいところなしだ。
「本当なら私のほうがそういう仕事をするべきなのに、申し訳ありません」
「気にしないでよ、単に適材適所の話だよ、ここみたいな広いところのほうが君のスピードを生かせるし、後できっと君にお世話になることもあるよ。」
そういってユーリ様は冒険者3名と兵士5名を連れて、横道に入っていった。
(ユーリ様はあぁいう風に仰ったけれど、本当はスピードもユーリ様のほうが速い・・・、私がユーリ様に勝てるのは硬さくらいで、他はすべての能力ユーリ様のほうが優れてる・・・何のための護衛なんだろう・・・。)
それでも今はこの拠点の防衛を任せてくださった。
任された以上ユーリ様がもどってくるまできっちり守ってみせる。
ユーリ様達が横穴の魔物退治に出て行き10分ほど経った頃か
私たちにこの拠点の防衛を任せていることを、追いついてきた第二部隊のウェルズさんに伝え、私たちは引き続き警戒中、第二部隊が拠点の設営を開始した。
こちらの工作部隊が、第二の兵士から「光精の鼻歌」
私たちが置いてきた「光精の鼻歌」は置くだけでいい手軽な光源だけれど、光の量が少なく淡く洩れるだけなので、第二部隊がしっかりとした魔導灯を敷設、交換して、拠点設営の際に私たちに戻すのだ。
「あの・・・アイヴィ殿、少しよいでしょうか?」
もうダンジョン探索から一時間半近く経っているというのにようやくトーマさんが話しかけてきた。
私より5つも年上で立場も上の方なのに、なんでこんなに弱腰なのか・・・あぁ私に対して負い目があるからか・・・なんか嫌だな。
「どうされましたかトーマ様?」
私がトーマ様と呼ぶとビクリと少し表情が動く、年上の男性にそんな態度を取られるほど、私は怖いだろうか?
身長は女としては高いほうだけれど、それでもトーマさんのほうが拳一個分大きい。
(体格だって、トーマさんはインテリっぽい雰囲気を漂わせているのに、軍務課とはいえ軍官学校卒だけあって意外とガッチリとしたいい体つきだし・・・。)
「・・・ヴィ殿・・・アイヴィ殿?」
「は、はい!?」
「聴いていらっしゃいましたか?」
(いけない・・・ちょっと変なこと考えてた)
「申し訳ありません、ちょっとぼんやりしておりました。」
すぐに謝る。
軍人としてあまりに不甲斐ない私を、トーマ様は叱責するでも、あきれるでもなくもう一度告げる。
「ユークリッド様がたが少し遅い気がしませんか?」
「そう・・・ですね」
言われて魔導篭手備え付けの時計を見ると時間はユーリ様たちが横穴に入ってから25分ほど経過している。
確かに少し時間が経ちすぎている。
穴から音も聞こえてこないということは、この穴は偵察隊が想定していたよりも深いということだろうか?
「たしかに多少経ちすぎていますが、ユーリ様が遅れを取る様なことはありえませんので、きっと想定より横穴が深かったか、何か見つけたのだと思います。私たちの任務はこの拠点の防衛ですが、御心配ならばすでに第二部隊も追いついているので、指揮をウェルズさんに任せて私とトーマ様で確認しに行くことも出来ますが、いかがなさいますか?」
そういって選択を委ねるとトーマ様はあごに手を当てて考えられてから無言で頷いた。
あくまで魔物が討伐されている道を追従するだけ、トーマ様も私も軍官学校卒生なので兵士よりも上位戦力そういう言い訳の元にウェルズさんとシア先輩に部隊を預けて、私とトーマ様と二人だけで、ユーリ様たちが向かった横穴を追いかけることにした。
思ったより書き進められませんでした。
あと4回でアスタリ湖攻略終わるかちょっと怪しいですね。
そろそろ本編をちゃんとすすめたいので、4回で終わらせたいです。




