第157.2話:アスタリ湖攻略1
大陸全土を巻き込んだ戦争終結から2年と半ば経った。
4方向に戦線を抱えれば普通は負けるか、もっと泥沼の戦いになったのだろうけれど、王国は戦争に勝利した。
小さくない犠牲を払い、多くの人々が悲しみに沈んだけれど、大陸は一つの連邦国家となり、その名前をサテュロス連邦と変えた。
普通ならかつてのミナカタ協商の様にお互いの足を引っ張りあう政治闘争が始まるのだろうけれど、最初からすべての地域間である程度血の交換を行っていたイシュタルト王国の王家と侯爵家、さらに新しく加わった元ルクス、元ドライセンの指導者層とも婚姻による縁がつながれ、サテュロス連邦はそれなりに足並みを揃えてスタートしたのだ。
現在、私、アイヴィ・グレートワールは、ホーリウッド軍の代表の一人として、国境なきサテュロス実現のためのアスタリ湖攻略に参加している。
この大陸にある大小のダンジョンは、完全攻略されることでその力の大半を喪うのだけれど、このアスタリ湖のダンジョンが力を喪うことでこの巨大な湖自体が姿を変えるといわれているそうで
この湖は湖とは名づけられているもののその水深はどれだけ長雨が降ろうとも20cm程度しかなく、広さが旧オケアノス侯爵領の半分に迫る面積を誇っている。
その特徴故に、穀物の栽培も、泥地の栽培に向く根菜類も栽培が上手くいかず。
人が住むことも出来ない土地が広がっているのだ。
また冬場は凍結するのだがけれど、その季節には山のほうからヘラジカが大量に流れ込んできて冬を越すため、何箇所かの安全な地点を除いて、人が住むことも出来ていない地方である。
ほとりにある数少ない村では、この湖で取れる貝の一種を食用としているが、泥抜きすれば旨いものの身が小さいため、よほど食料が不足しているとき以外は人気もそうない食材だそうだ。
アイラちゃんやアイリスちゃんたちに見送られて、ホーリーウッドをでた後私たちは、2日間の王都滞在を経て精霊の森に立ち寄って旧知であるエル族のサーニャと、トレント族のリスティを拾ってからアスタリ湖沿岸のキャンプ地に到着した。
ここでは既にイシュタルト、トライブ(旧ドライラント兵たちがキャンプを構えており、人数は少ないけれど我々ホーリーウッドとペイロードは拠点構築中だったので、私たちも合流した。
今回スザクは出兵していない。
先に到着していた黒騎兵隊の副長ウェルズさんと軍官学校時代の先輩のシア先輩、それに元ルクスの3人のおじさんが既に構築済みの立派なテントでお茶を飲みながら段取りを相談していたが、私たち(というかユーリ様)が入室すると全員が立ち上がって挨拶をした。
「長旅お疲れ様です、我々も昨日到着し拠点の構築は8割方完了いたしております。本日のところは拠点構築のみが予定と成っており、明日が周囲の魔物の掃討、明後日から攻略についての段取りの確認となります。今回のダンジョン攻略が殿下とサーリア殿下の兵役となっておりますので、ダンジョンの本格的な探索が始まるまでは拠点で演習をしてお待ちください。」
ウェルズさんが代表してユーリ様に日程を伝えてユーリ様は一番奥の席に座る。
「今回のダンジョン攻略は距離が遠いこともあり、ホーリーウッド兵はここにいる近衛やカグラ様、サクヤ様、ナディア殿を除けば30人程度ですが、魔物の討伐や拠点防衛にはペイロードとイシュタルトが兵をお貸しくださるそうです。」
そういってウェルズさんが書類をユーリ様の前のテーブルに置くと。
ユーリ様はちらりと目をやって。
「ペイロードの指揮官はアレク様やユミナ先輩ではないんだね。このトーマ・ルベライトってだれかな?初めて見る名前な気がするけれど?」
ユーリ様は既にそんなところに目をやっていたらしい。今の一瞬でそういったところに気がつくのがやっぱり貴族ってことなんだろうなと思う。
(4年間、足かけ6年クラスメイトだったけれど、こうやって時々格好良いところを見ると、初めて見たときのときめきがよみがえってしまう。)
「トーマ殿は、亡くなられたジャスパー様の乳兄弟ですね、現在23歳で将来的にはペイロードの上位指揮官候補です。ペイロード侯が息子の様に可愛がっていらして、一度はユミナ様との婚姻も考えていたそうですが、あのお二人はどういうわけか仲は良いのですが、どうしても兄妹という感じになってしまい結局ユミナ様が生涯未婚宣言をなさったため縁談も立ち消えたそうで・・・。それと、ユミナ様との縁談話が合ったとはいえ未だ結婚もしておりませんので、男色ではないかという噂もある方です。」
ウェルズさんがそういうとちょっとイヤミに聞こえてしまう。
ウェルズさんは30歳にして近衛の出世株で見た目が若いので、未だに言い寄られることも多い人だが、、とっくに結婚しており3人も娘さんがいる。
しかも奥さんは12歳も年下の幼馴染で大変にラブラブだというので老後も安心な人だ。
(というか、12歳年下ってことは今18歳で既に3人生んでるってことよね・・・?何歳のとき一人目を生んだのか非常に気になるところだけれど、アイラちゃんも初産は12歳の時だし今15歳なのに3回目の妊娠中だし、存外珍しいことでもないのかもしれない。)
「ウェルズ、そういう噂を立場のある人間が口にするのは感心しないかな?」
ユーリ様がそうつぶやいてウェルズさんのほうを見るとウェルズさんは姿勢を正して。
「失礼いたしました、お忘れ頂けるとありがたいです。」
とすぐに謝罪した。
単に失言を恥じるというよりも、ユーリ様に悪いと思っている様な感じなのは何か過去にあった感じなのだろうか?
私たちは拠点構築には参加しないで良いそうでカグラ様とサクヤ様、セシリア様を護衛して、ナディアさんと一緒にテントを出た。
ナディアさんはホーリーウッド家のメイドで今年20歳になるとてもきれいな人だ。
普段はメイドキャップで隠している黒の髪が風に揺れて、私と同じ黒でどうしてこうも違うのかと思うくらい艶々としている。
私のはなんていうか硬いけれど、ナディアさんのソレはしっとりとしているのだ。
そしてもう一人、20台半ばらしいのだけれど、どう見てもナディアさんと同じくらいにしか見えないカグラお姉様、落ち着いた雰囲気とナディアさん同様美しい、柔らかな光沢のある黒髪、私の理想の女性像、二人とも私と違ってとても女性らしい体つきをしており、髪の色や身長が近いこともあってちょっと劣等感がある。
それにしてもセシリア様とカグラお姉様の間に手を繋いで御満悦のサクヤ様がむやみやたらに可愛い。
私もいつかこんな可愛い子が欲しいなぁ・・・でもまずは恋人探しからだなぁ・・・・。
私の初恋は今仕えている主人であるユーリ様だ。
ただの平民だった私は、生まれ持った特殊な魔法のおかげで、無料で軍官学校に入れる事が幼い頃から決まっていた。
ソレを少しばかり鼻にかけていた私は、気が強く我ながら男勝りな女の子だった。
ただ7歳頃になると可愛いものが好きになって、母に習ってリボンやフリルのついたワンピースなんかを自作するようになっていたのだけれど、その頃にはもう近所の子たちからも、おとこ女とか生まれる性別間違えてんだよ!とか言われる様になってしまっていて・・・そんな私がいよいよ軍官学校に入って、クラスも決まって最初の授業の日、斜め前にものすごく可愛い子が座っていて、ソレはもうドキッとしたものだ。
しかもソレが男の子だったからさらに驚いた、こんなにきれいな男の子がいるんだ!って一目惚れだった。
隣に座った白髪の男の子が押せ押せで話しかけてるから、てっきり机で足元が見えてなくって女の子だと勘違いしてナンパしてるんじゃないかって思ったけれど、どうも顔見知りの様だった。
それから班を決めるときにお調子者の白髪のおかげで4人組でやることになって、何とかこの機会にこの可愛い男の子とお近づきになりたかったのだけれど、名前を聞いてびっくり、ホーリーウッド家の嫡孫で・・・しかも婚約者も居た。
でも婚約者なら必ずしも相思相愛ってワケじゃないはずだし・・・私まだ男女ってばれてないし、容姿はそれなりに自信があった。
軍官学校の4年間で胸も大きくなるはずだし・・・、目に留まるチャンスはあるかもっなーんて思ったけれど、そもそも隣にいるメイドさんが私とほとんど身長変わらないのに胸囲が1.4倍くらいある暴力装置・・・しかも髪を上げると超絶可愛い。
メイドさんがコレなら婚約者はさぞやと戦慄したものだ。
放課後待ち合わせているというので一緒に待たせてもらって、その婚約者と顔を合わせたら天使みたいに可愛いアイラちゃんで・・・、あぁコレもう無理だ・・・勝てないや!って勝負が始まる前から投げた。
しかもアイラちゃんは双子で、アイリスちゃんが後からやってきてそのアイリスちゃんも婚約者で。
ユーリ様とアイラちゃんアイリスちゃんが並ぶともう完全に3姉妹か!って言いたくなるくらい可愛いくて、この子たちがどんな素敵な家族を作るのか見ていたくなってしまったのだ。
私は初恋に敗れると同時に次の恋をしたわけだ。
ユーリ様の作る家族というものに。
それから3年の半ばまでは東連中の対応に追われながらも順調に愛をはぐくむ3人をかなり間近で見続けてきた。
開戦後は少し離れてしまったけれど、それでもまた終戦後には一緒にいたし?
今はたくさん増えたユーリ様の側室たちや婚約者たち、そして子どもたち、その誰もが皆可愛くって、見ているだけで身悶えてしまう。
この職場は可愛いもの好きの私にとって天国かもしれない。
3分ほど歩くと、イシュタルト本隊の本陣に着いた。
ここにはナディアさんが到着するまでの間、同じ碧騎兵隊のアビー先輩がサーリア殿下を警護していて、その交代のために来たのだ。
すぐ中に通される。
サーリア殿下の妹であるセシリア様がこちらにいるから当然といえば当然だ。
「お姉様!!」
テントに入った途端セシリア様が駆け出して、大好きな姉であるサーリア殿下に飛びついていく。
「シシィ!もうーはしたないんだから。」
と殿下は口では嗜めるが満面の笑顔で、大切な妹を抱きしめた。
幸い現在このテント内には一般の兵士はいない。
私がわかるのは、殿下とアビー先輩、それに今一緒に歩いてきた面子だけだけれど
殿下の後ろに二人メイドさんが控えているくらいで他に兵士はいない様だ。
姫様の周りだから普段は女性で固めているのだろう。
(ていうかメイドさんも両方レベル高い・・・きれいな人だ・・・)
何秒かセシリア様を抱きしめたあと殿下は後ろのメイドさんたちに声をかけた。
「ヨミー、ラスティナ、皆さんにお茶を御用意して差し上げて」
短く礼をした二人のメイドさんが洗練された所作でお茶を入れていく。
用意された数は5客、私とナディアさんにも座れといっている様だが、さすがに仕える立場としてはそうも行かない。
ナディアさんもそのつもりの様で、カグラお姉様とサクヤ様、シシィ様はイスに座ったけれどナディアさんはサクヤ様の補助についた。
すると殿下は
「ナディアさん、アイヴィちゃん、二人は私の後輩で、大事なお客様なのだから、座ってくれないと困ります。」
と笑顔で仰った。
「いいえサーリア殿下、私はメイドの身分ですから。」
と即座にナディアさんは断る。
「サーリア殿下、私も、その近衛兵ですのでいざというときに動けないと・・・」
私もとっさに断りを口にするが
「もう、二人とも、学生の時の様に呼んでください。コレは命令ではなく、先輩からのお願いです!」
そういって口を尖らせるサリィ先輩は、学生時代とは違い髪が肩の下くらいの位置までに切られているが、とても丹念に手入れされている事が分かる。
茶色の髪はセシリア様とそっくりで、知っている王侯貴族の女性の例に漏れずどころか群を抜いて美人。
自分の見た目に自信があるとか思ってた頃の私を殴りたい。
「参りました。悲しそうなお顔をされては叶いません、ソレでは私も頂きますねサリィ様」
そういってナディアさんは座る事を選んだ。
「そうですね、では私も失礼しますね、サリィ先輩」
私も後を追いかける。
学校時代ほとんどの学生はサーリア様かサーリア先輩と呼んでいたけれど、私たちはアイラちゃんの影響でサリィ先輩と呼んでいた。
今でもそう呼んだほうが、本当は落ち着く
「ありがとう二人とも、ソレはそれとして・・・サクちゃん久しぶりー、おばちゃんのことおぼえてるー?」
サリィ先輩まだ20歳になってませんよね?おばちゃん名乗ってるんですか!?
「ぅ?」
しかもサクヤ様はえ?なに?っていう表情でミルクを飲んでいる、口の周りが真っ白ヒゲになっていて愛らしい。
「ほらサクちゃんパパの従姉のサーリアおねえちゃんだよーお屋敷に住んでたころいっぱい遊んでもらったんだよー」
カグラお姉様がそういいながらサクヤ様の口の周りを拭いてから「ごあいさつして~」とイスから降ろすと、サクヤ様は自分の足でよたよたとテーブルの右を回ってサリィ先輩の膝に飛びついた、そして
「さーゃーたん?」
と首を傾げながらか細い声で名前を呼んだ。
途端に表情が綻び花の咲いた様な笑顔になるサリィ先輩
「キャーかわいい、サクちゃんだっこしていいですか?」
そういってサリィ先輩はサクヤ様の許可を貰うとサクちゃんの靴を脱がせてから膝の上に抱きかかえた。
やっぱり女の子ってのは何歳になっても可愛いものが好き、という人が多いのかもしれない。
「あーやっぱり小さい子はいいですね。もうサクちゃんはおっぱい飲んでないんですかね?アルを置いてきてるので正直私胸がパンパンでちょっときついんですよね?飲みませんか?」
とサリィ先輩は驚く事を言う。
しかしカグラお姉様も落ち着いたもので
「もうしわけありません、サクちゃんもリムちゃんも卒乳しておりますので」
と断ったのに対してサリィ先輩は
「そうですか残念、そういえばこうやって、カグラさんとアイラちゃんのいないところでお話するのは初めてですね」
と話しかけた。
「そぅ・・・ですね、といいますかお話をすること自体あまり機会がありませんでしたから。」
「今回は、サクちゃんやシシィと一緒にお留守番してくれるんですよね?たくさんお話しましょう?」
と続けて、それから暫く雑談をしてから、ナディアさんとアビー先輩を護衛に残して私は一人ホーリーウッドの拠点に戻った。
その日は夕暮れ時にセシリア様とアビー先輩だけ残して、カグラお姉様とサクヤ様、ナディアさんは帰ってきた。
ホーリーウッドの司令室テントの横に簡単に作られた家があり、部屋が5つある。
ここにはユーリ様たちが寝泊りするのだけれど、私もテントではなくこちらに止めていただけることになった。
理由は多分私が女だからである。
この拠点キャンプには女性がほとんどいないらしく。
私が把握している、カグラお姉様、セシリア様、ナディアさん、私、アビー先輩、サリィ先輩、そのメイドさんたちが2人、一緒に来たサーニャとリスティ、それにダンジョンを下調べ中のシア先輩と一応サクヤ様も女の子ではあるけれど、あとは私の知らない女性が二人いるらしいが、少なくとも顔を合わせた女性はみんな美人で、ソレがこの男が500人以上もいるキャンプにたったそれだけ女性がいるのだ。
統制されている軍人だけならまだしも、今回は冒険者もいる。
そのためテントとは別に小屋を2つ建ててそこを要人用の建屋としたのだ。
なおホーリーウッドのキャンプにある建屋の5つの部屋には、1部屋目にユーリ様と護衛にナディアさん、二部屋目にカグラ様とサクヤ様、3部屋目にサーニャとリスティ、4部屋目にシア先輩と私、そして5部屋目に北の兵を指揮しているトーマ・ルベライト様が寝泊りするとのことで、5つの部屋とは別に玄関に当る場所に小さな部屋があり、元ルクスの3人のおじさんと、ウェルズさんとが警備のために交代で寝泊りしている。
他の女性はサリィ先輩と一緒にイシュタルト側の小屋に寝泊りしている。
「シア先輩、ダンジョン内部はどんな感じですか?」
眠る前に、今日もダンジョン内部を偵察してきていたらしいシア先輩に尋ねる。
「うーん、そうだね、なんかじめじめした洞窟型で、スライム系やカエル型の魔物が多いね。」
学生時代と変わらないスラリとした脚を組みなおしながらシア先輩は洗ったばかりの濃い緑の髪を拭きながら今日の調査の結果を教えてくれる。
現在シア先輩はその実力を生かしてダンジョン内部を少人数で偵察している。
本格的調査が始まるとその偵察結果を元に物資の持ち込みや内部で拠点の構築が行われる予定だ。
「あと狭い道が多くて、私のシロッコじゃあちょっと戦い難いところが多いかな?仕方ないからナイフのほうを使ってるよ。」
シロッコというのはシア先輩が使う大型の装備で手を覆うような持ち手から腕から離れていく様に幅の広い金属板が伸び、逆方向にはまっすぐな両刃の付いた特殊な武器だ。
先輩以外使っているところを見た事がないし、使える人がいるとも思えない。
「じゃあ私もあまり向いてないかも知れないですね?あまり跳ね回ったり出来ない上に、スライムやカエルってことは打撃が効き難いんですよね?私の得意がどっちも使えないじゃないですか?」
私の得意なのは細剣を用いた回避重視の剣術か、先天魔法の鋼体化という体を金属みたいに硬くできる魔法、こちらの場合武器を持ち替えたり飛んだり跳ねたりは苦手になるので、殴る蹴るがメインの攻撃になるのだけれど、スライム系もカエル系も打撃には強い。
「でも一応アイヴィもナイフは使えるでしょ?」
使えるといっても得意というわけじゃあないから、不安かなぁ。
「まぁ任務ですし、なるようにしかならないですよね。そろそろ私もお風呂いってきます。」
「そうだね、そろそろねとかないとね」
お風呂場と廊下を挟んで逆側にはトイレがある
一応この小屋の中には風呂とトイレが用意されている。
下水設備がないのでトイレの下に深い穴を掘っただけのものでちょっと匂いも気になるが仕方ない。
周りに壁と屋根があるだけでも大変ありがたいものだ。
通常の行軍なら、川沿いに幌を張っただけのトイレなんてのもありえることを考えればすごくありがたい。
しかも匂いが小屋の中に行かないように外に空気を逃がす設備も着いている豪華なトイレだ。
「下手をするとうちの実家のトイレより立派かも・・・あーぁ母さん元気かなぁもう3ヶ月もあってないなぁ・・・」
学校に行っている間も会っていなかったけれど、ちょっと卒業後に親元に顔を出したら、里心がついちゃった・・・。
脱衣所に移り、さっさと裸になると浴室へ
とても小さな浴槽に魔力を通すとお湯が上から流れる様に道具がしかけてある。
温度も調整はできるけれど、造りは雑だ。
一応石鹸も置かれているのでソレとダイバーラットの皮で体を洗い、お湯で洗い流し、ものの5分ほどで入浴を終え脱衣所で体を拭いていると、ガチャリと廊下側のドアが開いた。
(あ、鍵閉めてなかったや、宿舎だと女性しかいないから鍵かけないんだよね・・・。)
「ごめんなさい使ってます」
「あぁ気にしないでください。布を1枚拝借しにきただけなので」
と先ほど顔だけ見たトーマ・ルベライト様がそのまま脱衣所に入ってきた。
「ちょ、今裸なんですけど!!」
「はは、恥ずかしがらなくっても、男同士なんですから、護衛任務ご苦労様です。」
そういって私と正面で向かい合った状態になった。
私は大混乱、嫁入り前なのに全裸で体を拭いている最中に男性が、同じ室内に入ってきているのだ。
手にもっている布で胸を隠すか下を隠すか悩んだ末下を隠し遅れて手で胸を隠した。
「女性みたいな隠し方ですね?たしかに女性みたいに可愛らしい顔をされていますし声も可愛い感じですから、そうしてると女の子に見えますね。少し興奮しちゃいそうです。それでは失礼。」
そういって何事もなかったかの様に脱衣所を出て行ってしまった・・・。
「うん・・・忘れよう・・・薄暗かったし、あの人に悪気はなかったんだ・・・。」
泣きたいほど惨めな感覚に打ちのめされながら服を着て部屋に戻り、すごく落ち込んだ私をシア先輩が気にしていたけれど、疲れてるだけなので大丈夫ですと告げうつぶせになって寝た。
ドアが開いた瞬間に使ってますとかじゃなくって、キャっと叫べばよかったんだろうけれど・・・
こうなった以上もう攻略が終るまで女だってばれないようにしないとあの人も私も気まずい思いをする、何とか隠し通さないと・・・・
こうして私にとって運命の分かれ道となる、アスタリ湖攻略が始まったのである。
シア先輩は非常にスレンダーな体つきの先輩です。
アイヴィは胸にふくらみが一切ありません。
鎧姿をまだ見ていないトーマくんは自分の部屋と、サーニャとリスティとの間に部屋を割り当てられた二人をその胸のなさと髪の短さから顔立ちが可愛い痩せ型の男の子だと勘違いしている様です。




