第-157.1話:舞い狂う神楽2
古代樹の森の魔法的仕組みの解除を終えて、帝都ルクセンティアに戻った私は、リスタとカーラが行方不明で、ゲイルズィ将軍が独断で私たちに対して脱走と王国への内通の嫌疑をかけて捕縛命令を出していた事を知る。
その場はギエン内務卿の介入によって事なきを得たものの、リスタとカーラが行方不明という状況にあり、陛下への報告も上手に出来ず報告は後回しにしてよいことになった。
この日、姫様とも顔を合わせて、一緒に過ごしたものの、二人の事が気になって気持ちが落ち着かなかった。
明日になれば、何か進展があるはずだ。
ギエン様は私のことは嫌ってらっしゃるけれど、公平で有能な人物だから、きっと二人のことも少しは分かるはず・・・その時すぐに助けに行ける様に体を休めなければ・・・。
そう自分に言い聞かせて寝た。
翌朝になった。
あまりに長い夜だった。
不安でほとんどまともに眠れなかったけれど、私にはやるべき事がある。
(今度、一緒に料理をする約束をしたんだ。約束を破らせたりなんかしない!)
昨日指示された通りに先日と同じ部屋に行くと、陛下とギエン内務卿が二人で待っていらっしゃった。
「来たかカナリア」
短く私の名前を呼んだ陛下は申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「カナリア、此度の件は申し訳ないとしか言いようがない、貴様が守ろうとしていたものを私が提案した作戦のために、その手から零させてしまった。この責任に関しては言い訳のしようがない。」
ギエン内務卿が頭を下げた?メイドの私に?
「今は責任とかはどうでもいいです。二人の居場所は分かったんですか?」
でもそんな面目とか、言い訳が出来るかどうかなんて私には関係ない、今はリスタとカーラの身柄の確保が最優先・・・。
「あぁそのことだが、将軍はいまだに、昨日と同じ内容しか口にしておらん、つまり君たち3人がそろって帝都を出た。10日以上も音沙汰がないため脱走したのだろうと判断し見つけたら捕縛することを部下に命令した。カナリアは先の会談で王国のメイドと接触しているのでスパイになっている恐れもある。そればかりを主張している。」
「内務卿それでは!」
約束が違う!進展させるといっていたではないか、二人の行方の目星をつけてみせると言っていたではないか!
そう詰ろうとしたが内務卿が先に次の句を繋いだ。
「が、やつの配下たちの足取りは掴んだ。マリオとブルーノの所属していた巡回中隊第一小隊30名のうち、マリオ、ブルーノ、バリオス、デニーロ、カマロの5名が行方不明になっていることが分かった。またこの5名に関しては他の部隊員に何も告げることなくいなくなったにもかかわらず、将軍は処罰を申請していないどころか、ゲイルズィ名義で特別任務を与えた処理になっていた。」
それはもう決定的ではないだろうか?
「・・・任務の内容は?」
「将軍の領地である帝国南部に届け物だそうだ。」
わざわざ帝都付近を巡回する部隊を使って?
「それではやはり、私の任務についてばれていたか、リスタとカーラを捕まえたあと何らかの手段で聴きだしたか・・・と考えるべきですね。」
リスタとカーラは私の森の仕掛けを調べるという任務内容は知らなかったけれど、古代樹の森まで私が足を伸ばすことは知っていた。
そうそう喋ることはないと思うけれど、拷問でもされればその限りではない、何せ二人とも私と同じ年頃の普通の女の子なんだから。
「ゲイルズィ将軍が絡んでいるのは確定として、目的はなんなのでしょうか?」
なんでそんな風に私の行き先を調べて、何をしたかったのか。
「ゲイルズィは自尊心の強い男だ。恐らく先日の会談で陛下に叱責された恨みをカナリアに対して向けたのだろう。」
ギエン内務卿はあきれた様にいう。
本当にそうなら私もあきれる。
「それで私を殺そうとまでしますか?」
私の問いかけに内務卿は申し訳なさそうな顔をする。
「実のところな、私も初め、貴様の事を北か中の王国のスパイではないかと疑った時期がある。今も伝統ある帝城に貴様が歩いていることに抵抗もある。しかし貴様が姫様に感謝し、誠心誠意仕えていることも、姫様が貴様ら3人を寵愛していることも理解している。」
それが私たちに対してあたりが強いことの理由だとして・・・?
「ゲイルズィの側室の娘が一人、帝城に侍女で入っているが姫様の目にも留まらず、陛下にもとくに接点がない状態だ。あるいはそういう部分でのうらみというのもあるかも知れぬ」
一国の将軍ともあろうものがなんて狭量なことか・・・。
「悪い考えをするなら。二人を捕らえて、追いかけてカナリアを亡き者にし・・・そなたが任務に怖気付いて、仲の良い3人をつれて脱走したと吹聴する算段だったのやも知れぬ、帝都の外で殺せば魔物に襲われたことになど簡単に出来るだろうしな。それがカナリアが戻ってきてしまったため、将軍は対応に困った。対応に困ったということは、そなたたち3人を同じ場所で殺す命令をしているのかも知れんな」
黙って聞いていらっしゃった陛下が意見を下さる。
「もしそうなら、今も二人は生きていて、私を追いかけるために古代樹の森に連れ出されているかもしれないということですか!?それなら助けに行かなくては!」
ギエン内務卿は焦る私にテーブル上の地図を示しながら言う。
「カナリアよ、落ち着きたまえ、将軍の領地はこのあたりだ。古代樹の森の最寄の村としては、こことこことここ、それにココのあたりになる。」
ゴルフさんの村より少し東よりの位置の村を4箇所示される、範囲は広くない。
ゴルフさんの村は調べてきた古代樹木の森の仕掛けでいうならXとVの間の地点を北側に出た場所だけれど、示された村村はそこよりもさらに東の村ばかりで、村同士は歩いて十数分~2時間程度で行き来できる距離の様だ。
「恐らくいずれかの村に立ち寄ってから森に入るはずだ。まずは村にいきどこを通ったか調べるといいだろう。それと少し待ちなさい。」
そういうとギエン内務卿は何かの書状を書き始めた。
内容は要約すると、マリオ、ブルーノ、バリオス、デニーロ、カマロという5人の男が、嘘の命令書を持って協力を要請していないかの調査のため協力せよ、と皇帝と内務卿の命で動いている。信任の証として皇帝より宝剣を持たせている。となる
「コレは・・・」
「ソナタの持っている魔法の剣を、陛下から預かったものとして扱って良い。大体のものはそれで言う事を聞くだろう。」
ギエン内務卿はそういうと書状を普段通信使などに持たせる筒に入れて私に手渡した。
そこから先は一部記憶が曖昧だけど
私は急いで南に向かい、村村を訪問、3番目の村で昨日その5人が、娘を二人連れて村に訪れ泊まり、今朝方森のほうへ向かった。
という報告を受けた。
2人の娘の特徴からリスタとカーラだと確信した私は、村人たちにお礼に金属や食料を置いて急いでその侵入した道から森に入った。
一旦まっすぐ古代樹の森まで侵入したが、戦った痕跡が見えず。
さらに初めて見るが、狸っぽい魔物の縄張りであったためここにはきていないと判断、安堵しつつ戦った真新しい痕跡を探すことにした。
古代樹の森より僅か北には通常の森も広く存在し古代樹の森ほど凶悪ではないが、魔物もでる
そんな森に戻り広く探していると、戦いの痕跡を見つけた。
小さい犬型魔物の死体をいくつか発見したのだ。
まだ他の魔物に食われたりもしていないので、新しいはずのそれを手がかりにさらにその近辺を探すと
私自身も6頭の犬型魔物に襲われた、魔物は近くにあった洞穴から出てきて
魔力で強化された体当たりをしてきた。
古代樹の森それらと比べるとあまりに弱弱しいそれを回避して6頭すべてを斬り、その洞穴に入ると
5mばかり奥に入ったところに帝国兵の遺体を一つ発見した。
さらに7mばかり進んだところにもう一人遺体を発見したため回収しつつ奥へ進む、どちらも犬型に噛まれ、食われた痕があった。
嫌な予感をひしひしと感じながら、私は置くまで進み、かなり奥まったところまできたときに声を聞いた。
女の子の泣き叫び、人を非難する声。
それと男が怒鳴り散らす声・・・。
洞穴の中に音が反響して場所はわかり難いけれど、正面に見えている洞穴の出口ではなく。
洞窟内で声は聞こえている。
私は周囲を注意深く探して腰の高さほどの横穴を見つけた。
草が生えているせいで見落とした様だ。
中に入ると部屋の様になったドーム状の構造があってその真ん中に帝国兵が二人と泣き叫びながら服を破かれ抑えつけられているカーラの姿を見つけたのだ。
「カーラァァァァァ!」
私は怒声を上げて男たちを蹴りつけた。
「ぐあ!」
「ゲフ・・・」
「カナリア!!・・・グズッ・・リスタが、リスタが・・・」
混乱して息が整っていないカーラを抱きしめて私は少し安堵した。
少なくともコレで私は一人ぼっちにならなくてすむ、リスタが見えないことよりも、カーラが居たことに安堵してしまったんだ。
「あなたたち!何をしてるんですか!こんなところで・・・女の子に乱暴して!!」
ギリギリ間に合ったのか、そもそも襲うつもりまではなかったのか、男たちは服をしっかり着ている。
ただ、カーラはメイド服ではなく通常の町娘が着ている様な服を着ていて上のシャツはビリビリに破れている。
「な!どうやって・・・ここに入ってきたんだ?犬の魔物は居なかったのか!?」
「6頭居ましたが全部斬ってきました。それよりも何をしているんですか!あなたたちは!!」
私は情けなく打ちつけた腰を抑える男たちを睥睨しながら訪ねた。
男たちは一回顔を見合わせたあと自分たちの任務を話した。
曰く、将軍の命で私と、リスタ、カーラは王国が送り込んだ刺客のためこの機に排除する。
しかしながら3人は姫のお気に入りのメイドという立場を確立しているため表立って行動はできない、
そこで将軍はずっと機をうかがっていたが、3人がそろって帝都の門まで来ているのを見つけて3人共に外に出る様なら・・・と考えたとのことだが
(さすがに身を寄せている国の将軍がそこまで考えなしだと考えたくないなぁ・・・)
残念ながら外に出るのは私だけだったけれど、それならそれで残り二人をそのまま連れ出して、念のため3人同じところで魔物に殺させる様にと指示を受けたそうだ。
だけど私を見失い・・・、帝都近郊の詰め所でカマロが二人に精神汚染系の魔法を使って私の目的地を聞き出してここまで追ってきたらしい。
なおカマロは特徴から入り口に近いところで死んでいた男のことの様だ。
「それで、ココで何をしていたんですか?」
剣は構えたままで男たちに聞く
「俺たちは、将軍からはお前がココから王国側に抜けるのではないかという予測を聞いて、追ってきたがここのケイブドッグたちに勝てず2人死に・・・ようやくそれでも洞窟を抜けたと思ったらスライムに襲われて、もうこの3人だけになってしまった。任務は達成できず、洞窟の入り口側のケイブドッグたちを抜ける手立てもない・・・それで諦めて、安全そうなここに隠れてその・・・そっちのお嬢ちゃんをその・・・・えっと・・・・」
「もういいです。」
言いよどむ男にこれ以上期待しない、下衆な話なんて聞きたくない
それに・・・スライムに襲われたといった。
だとしたら、リスタはもう・・・。
「カーラ、リスタがどこで襲われたか教えてくれる?せめて帝都に連れて帰ってあげたいの・・・」
少しは落ち着いてきたらしいカーラに私の予備のコートを羽織らせながら尋ねると
「うん・・・」
と小さく頷いた。
その足元を見ると一昨日まで何度も見たのと同じ種類のプレートがあった。
どうもv字の石版のポイントだったらしい。
ということはそのスライムというのは古代樹の森の魔物だったのかもしれない。
あの犬よりさらに手ごわい魔物なら、この兵士たちは何も出来なかっただろう。
「じゃあ行こう。」
そういって踵を返すと男たちがすがり付いてくる。
「ま、待ってくれ!俺たちも連れて行ってくれ!」
「剣も落として!もうこのままじゃあ無抵抗で食われるだけだ!頼む!この通りだ!」
涙を浮かべて縋る男たちのなんと惨めなことか・・・。この人たちには何の呵責もないのだろうか?
「じゃあこれどうぞ」
私はそう言って洞穴内で拾った剣を男たちに渡した。
「え・・・?」
いみがわからないという顔を浮かべる男たちに私は言う。
「もう洞窟の中にいた犬は倒しましたから、なににも出会わずに村にたどり着けるのではないですか?私は親友を回収しないといけませんのでそれでは・・・。」
村の人には既にあなたたち5人は賊で、帝室のメイドをさらった不届き者だと報せてあるけれど。
生き残れたらいいんだよね?捕まって帝都まで護送されてくると私の手間が減って楽だ。
この男たちが通ってきた道のりは馬や馬車でも走れる道の作られたもので、先ほどの村もこのあたりの村の中心とするべくそこそこ整備されていた。
帝都への護送も請け負えるはず。
男たちは青い顔をしていたがそのまま置いてきた。
正直死んでしまってもいい、私には人は殺せないけれど、あの人たちには死んで欲しいと思っている。
カーラの肩を抱いて洞窟を出るとそこは先日飛び回ったv字になった谷の一部だった。
前回見落としたけど・・・こんなところに穴があったなんて・・・。
そこからカーラの指差したほうに行くと木の茂みにスライムタイプがいて、その半透明の体内に男が一人とリスタが居た。
(リスタ・・・約束守ってくれなかった・・・。一緒に堅パン作るっていったのに・・・)
私は無造作に光の剣を抜くと、半透明なために丸見えになっている核を刺し貫いた。
途端に形を喪い崩れるスライムからリスタの体を引っ張り出す。
「リスタ、リスタ・・・」
ゆすっても叩いてもリスタは反応してくれない・・・。
耳を触るとふさふさの毛はスライムの体の水分でかベチャベチャになっていた。
「アイツら、スライムから逃げるとき足を止めるために、リスタの脚を折ったの・・・ココまで無理やり連れてきておいて最後に餌にしたの。ソッチの兵隊さんが飲み込まれるときにスライムが10秒以上立ち止まったから。追いつかれそうになったときにね・・・」
泣いているカーラの表情はあの初めて出会った日の鉄輪をつけていた少女のものよりも、はるかに絶望していた。
「なんでだろう・・・なんでこんな目にあうんだろう・・・リスタ、死んじゃったよ・・・・。」
泣きあって、抱き合って、少し落ち着いてから、リスタともう一人の男の死体を回収しようとしたが容量的にもう入らなかったので男は放置して、飛行盾を呼び出してカーラを載せて帝都に帰った。
その後例の二人の男は帰ってこず、後に森の中で剣が見つかったことから。帰り道に魔物に襲われて死んだと判定された。
ゲイルズィ将軍が処刑される事を私たちは望んだけれど、彼は名門であり代々将軍職を世襲する家の主を即座に処刑も出来ず。
実権をすべて取り上げ、帝都での任を解き、自領での謹慎を言い渡された。
西海岸警備の任務についている彼の息子ゲイズシィが任期を終えて将軍職になるまでは据え置いたのだ。
はるか昔には17家あったらしい将軍家も既に3家しかなく、ソレを絶やすのが憚られた結果らしい。
それから私とカーラもなんとなく、二人だけで話すということはしなくなった。
なんだか怖くなってしまったのだ。
仲良く話していることで、またカーラが狙われるのではないか・・・?と
それで少し疎遠になってしまったけれど、今でもカーラのことは大切に思っている。
カーラもそう思ってくれているとうれしい。
それからヘルワールの攻略までずっと帝都から離れなかった。
ヘルワールの攻略は謎解きもなく、ただ過酷な環境下でそれに適用した魔物が出続けるものだったけれど、それ故に鎧装の力をもってすれば、兵士をつけられたせいで道のりは長かったけれど、攻略は一人で潜った為短かった。
「とまぁそういうわけで、古代樹の森は広範囲にわたる石版捜索が面倒でした。ヘルワールのほうは環境そのものが厄介でしたね。、ですので定石というものはないですが、環境に合わせて進化した魔物たちは厄介ですので気をつけてください。」
話を終えたころも私の手はアイラさんに握りこまれていた。
アイラさんは私の右手を両手で包み込む様にしてくれていて。
その温もりがあるから、今悲しいお話を思い出しても落ち着いていられるのがわかった。
そして今その温もりと触れ合っていられるのも、最初にゴルフさんやリスタに出会えたおかげだと思うと、無性に堅パンを食べたくなっていた。
ヘルワールをまるっと飛ばしてますがアスタリ湖前の神楽の回想終了です。
次からアスタリ湖です。




