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第-157話:舞い狂う神楽1

 ついに古代樹の森の石版をすべて赤に染めた私は基点と推測していたドームに向かった。

 ドームの近くまで来ると、妙な魔力の圧を感じて少したじろいだけれど、ここまでくれば後は確認するのみだ・・・。

 私は「銀腕」の全身鎧を装着し注意深くドームに下降した。



 目の前にそれなりに巨大な石の塔が出現していた。

 森のドームの石版がそのまま上に伸び、まっすぐな円柱の塔になっていた。

 高さは森のドームの高さギリギリの12mくらい


 慎重に近づくと、内部が空洞になっておりその内部には1本の槍が突き立っているのが分かった。

 妙な魔力と気配もこの槍が放っている・・・。

「なんだろうこの槍・・・、なんだか鎧装フォルトを完全解放した時みたいな、空気自体書き変わってるみたいな感じ・・・。」

 槍の見た目は2m近くある、持ち手がひどく湾曲した槍で、戦端はドリルの様になっている。


 恐る恐る手を伸ばすと、魔力の圧が強くなる。

 怖気づきそうになるけれど、とりあえず触れてみないことにはどんな影響があるかも分からない。


 さらに手を伸ばしそっと触れると、休息に魔力が体に流し込まれる感じがした。

(これ危ない!)

 慌てて手を引っ込めると、流れ込んできた魔力を「銀腕」の魔力が相殺しているのが分かった。

 もしも「銀腕」の力がなかったらどうなっていたか分からない。

 ただ相殺できるのがわかった以上コレをどうにかして持ち出すのが、古代樹の森の仕掛けを解く事に繋がると判断した私は、今度は一旦収納に入れることを考える。


(もし収納しても私が影響を受ける様ならまた元に戻せばいい・・・今少しの間なら「銀腕」で相殺できる。)

 そう思って今度は一息に、槍を掴み、抜き、収納に納める。


 それから意識を集中するけれど、魔力や体を書き換えられる不快さはないし、デネボラも不具合を報告しない。

 大丈夫そうだ。

 時間が止まるわけではないとはいえ空間的には異空間に断絶した状態になり、内部で物同士が接触することもない構造らしいので槍の影響は受けない様だ。

 収納からの射出を使えば武装としても使えそうだけれど、効果が未知数なのが怖い・・・。


 槍を収納して数秒すると森の空気が変わった。

 なんというか、立ち込めていた魔力が霧消していく。

(これは今度こそひょっとするかも・・・?)


 私はまた空を飛び、眼下のドームの跡から岩山に向かって魔力攻撃を行い木を叩き潰して道を作った

 すると、魔物たちが破壊された木の周りに集まってくるのが分かるのはいつもと同等だけれど

「今日は一度帰ってこのままで明日どうなるか見てみよう。」

 念のため岩山より東の川沿いの地域に小さい範囲に火も放って森の一部を焼いておく


 それから道中のMの岩山により山羊を一頭狩り、村に帰り村人に山羊を預けると、大きいだけで魔物ではなく一般の生物だと判明する。

 毛皮と肉を取り、角も笛に加工できるということなので、引き取ってもらった。



 翌日森を上空から確認すると、昨日木を叩き潰したところや、焼いたところは木の生え変わりが発生していなかった。

 森の仕掛けは解除されたと見て良いだろう。

 また、不確かではあるけれど、森を切り開いたところに集まってきている魔物たちの動きが昨日までよりも鈍重に見える。


(疲れているというか、弱っているというか?)

 ためしに近場に見えた猿型に近くまで行ってちょっかいをかけてみたが、こちらには寄ってこずどこかに逃げてしまった。

「魔物の攻撃性が下がっているということでいいのかしら?」

 何にせよ、森の再生の仕掛けが止まったというのであれば・・・

(今日は一旦村に戻り、明日もう一度確認してから帝都に戻ろうかな。)


 昼になる前に村に戻ると、村長は畑で私が持ち込んだ果物のタネを何箇所かに分けて植えていた。

 昼前だというのに私が帰ってきたのを見て、村長が駆け寄ってくる

「カナリア!早いなどうした?ケガでもしたか?」


「村長さん、いいえ、ケガとかではなくて、私の目的が恐らく達成できたので、明日帝都に帰ろうかと思いまして。」

 そう伝えると、村長は少し複雑な表情をしたあと、笑顔を浮かべて

「そうか、それは良かった。今夜はまた村に泊まっていくのか?」

 と尋ねた。


 私は少しだけ考えて・・・。

「そうですね今夜は泊まっていきます。ただ村にはお世話になりましたから、最後に薪とか、山羊とか猪とか川魚、あぁ少し時間はかかりますが海の魚なんかも取ってこれますよ?」

 と伝えた。

 10日ほどもお世話になったのでお礼を用意したいのだ。


「ソレはありがたい申し出だ。この村は僻地なので薪以外はそれなりに貴重な資源になる。」

 どうも薪には魅力がなかった様だ。

 まぁ近くに森がいくらでもあるしね?


 村長は少し考えたあとで

「それでは猪を中心にお願いできるかな?アレは塩漬けにすれば保存も多少きくのでな」

 と仰ったのでその日のうちに6頭の猪を取って戻った。


 その日の夜もゴルフさんの家で寝て。

 翌朝村を出ることにした。


「長々とお世話になりました。」

 村長の家で朝食を頂いた後、村長が気を利かせて、村人を集めてくれて、お別れをした。


 最後に森を上空から見下ろすとやっぱり森の再生は始まっておらず、昨日猪狩りをしたときに切り倒した木々もそのままになっていた。

 私はそのまま帝都への進路をとって、昼頃には帝都の近くに着いた。


 12日ぶりの帝都は上空から見てもとくになにも変わらない、私は目立たない様に街道近くの林に降りて、装備をメイド服と通常の「銀腕」だけにして街道に戻る。

 そして何事もなかったかの様に門の順番を待って帝都に入った。



 それから帝城に戻るために門番に話しかけたところどうも様子がおかしい。

 いつもならばすぐに許可が出て出入りできるのに兵士に呼び止められた。

「守護メイドのカナリア・ローゼンフィールドだよな?」

 兵士は私の格好を足元から頭までゆっくりと見てから確認をしてくる。


「はい、そうですが、どうかなさいましたか?」

 いつもなら結構顔パスに近いのだ。

 何しろ黒髪はそれなりに目立つ上私とカーラ、リスタは城に日ごろから出入りする人間の中では若年だ。


「ゲイルズィ将軍の命により貴様を拘束する!」

 突然兵士が槍を私に向けた。

 同時に門番をしていた兵士3人も私の背後に回る。


「え・・・?いきなりなんですか?」

 いみがわからないよ?

 やっと城に戻ってこられたというのに


 抵抗するにしても味方のはずの兵士に拳は向けられない。

 戸惑っていると詰め所の裏から件のゲイルズィ将軍が現れる。

「おい、貴様、もう一人の孤児メイドと獣メイドはどうした?」

(いきなり何をいっているの?)


「仰ってる意味が分かりません、将軍も私が任務のため帝都を出るところに居合わせたでしょうに」

 多分将軍が言っているのはカーラとリスタのことだ。

 むしろ将軍たちと一緒に帝都に残って私に手を振っていたのを見ているはずだ。

(というか、私に二人の居場所を聞くということは二人が今城に居ないということ?)


「突如都を出奔し、10日以上も行方をくらませた貴様とあの二人にはスパイ容疑がかかっている。取り押さえろ!」

 そういってゲイルズィは私を捉える様に兵士たちに命を下した。

「出奔もなにも私は陛下の密命を受けて、地方の調査に出かけただけですよ!?」

 一番早くに私を捕まえそうになった兵の手をすり抜けながら言うと、僅かに兵が同様する。


 この私に対する捕縛の命令は、ゲイルズィ将軍から直接命じられたということかな?

 だから陛下からの密命という言葉に同様する兵士が出るのだ。

「動揺するな、出奔したものが城に戻ろうというのだ。姫様や陛下に何かがあってからでは遅い、殺しても構わん!」

(殺!?)


 さすがに殺すとまで言われたら無抵抗で捕まるわけにはいかない。

「将軍、ナニかの間違いです、陛下に確認を取ってください。」

「本性を現したな?陛下に近づいて何をする気か・・・大方会談のときに王国のメイドにでも懐柔されたのだろう?」

 そういって将軍は自ら剣を抜いた。


(何をいってるの?姫様と一緒にいたのに王国メイドのノイシュさんが裏切りを私にそそのかせるわけがない、そもそも協調していきましょうという話し合いの最中にそこまで露骨なことをすると本気で思っているのだろうか?)


「話にならないです!私まだ武器も構えていないのに話合うつもりもないというのですか!?」

 実際には「銀腕」を装備しているが、外見的にはコレは防具になる。

 そしてゲイルズィ将軍は私の戦闘能力をちゃんと知らない、ただセメトリィさんに勝ったことがあるということだけが伝わっている。


「まだと言ったな!語るに落ちたわ!武器を隠し持っているということだ。即刻殺せ!」

(コレはもう仕方ないのかな?明らかに何らかの目論見があって、私を殺そうとしている。そもそもリスタとカーラの身柄がどうなっているのか)


 私は「銀腕」に魔力を流して兵士に突き出された槍を2本掴み、握りつぶした。

 ギ、ギ、バキィと音を立てて槍が折れるのをみて突き出した兵士が腰を抜かす。

「ひぃ、鉄の槍を!?」


「私にとって姫様は恩人です。ソレを裏切る様なまねはしません、将軍は一体なんのために私を殺そうとしているのですか!」

 折れた穂先を放り捨てながら1歩踏み出すと将軍は剣を斜めに構えて抗戦の姿勢。

「奸賊の分際で将軍の私に楯突こうというのか?貴様に勝ち目はないここでおとなしく死んでおけ!」


 言っていることが既にむちゃくちゃで、どうしようもない。

 どうするべきか・・・


「何の騒ぎか!これは・・・ゲイルズィ将軍、カナリア、双方剣を収めよ・・・っとカナリアはそもそも抜いてすらおらぬか。どういうことか!ゲイルズィ将軍。」

 対応に苦慮しているとギエン内務卿が城の方からやってきて声をかけた。


「コレは内務卿!いま12日ぶりに城にやってきたカナリアに何故10日も出仕しなかったのか?他の二人はどうしたのか?と尋ねたところいきなり襲い掛かってまいりまして!」

 剣を構えたままひどい言いがかりをつける将軍に、門番の兵士たちの方が混乱している。


「ゲイルズィ、嘘は良くないのう、カナリアが急に襲いかかったのであれば貴様の心の臓はとっくに止まっておる、カナリア何があった?」

 何気なく将軍と呼ばなくなった内務卿は次いで私のほうに話を向けてきたので、ありのままに応えた。


 途中将軍が「嘘だ!先に手を出したのはメイド殿のほうだ!そうであろう兵たちよ!」といい

 兵士のほうは「それでは、3人のメイドに出奔、内通の疑惑と捕縛令は出ていなかったのですか!?」

 とギエン内務卿へ尋ねた。


 次第に苦しくなってきたゲイルズィは、12日前に帝都から出る私にカーラとリスタが着いていくのを見たと言い出し、それから数日戻らなかったため、出奔したと判断したと言い出した。


 がそれもそもそもおかしい。

「将軍は私が一人で帝都を出るのを見ていらっしゃったはずです。将軍とお話もしたではないですか?」

 私が言うと将軍は驚いた表情を浮かべ

「私は、遠距離から帝都を出る後ろ姿しか見ておらん、メイドが3人連れ立って一人がキス族となれば貴様らしかおるまい?」

 と、あたかも私が間違った証言をしている様に言葉を紡いだ。


「カナリアよ、私もてっきりあの二人のメイドは貴様についていったものと判断して、姿をみかけないのも問題ないと判断しておったが、違うのだな?」

 とギエン内務卿は私に尋ねた。

 将軍の言い分は聞いていない様だ。

 無言で頷く


「ゲイルズィ貴様は独断で動きすぎている、後で処罰があると思え。すぐにメイド2名の捜索をする。片方がキス族であるから、もしかしたら、人攫いにでもあっているかもしれん」

「お待ちください、そもそも、将軍たちはカーラとリスタと一緒に居る時に私を見送ったのです。それがこのように知らぬ存ぜぬというのであればそれは将軍がカーラたちを・・・・」

 私は声を荒らげて将軍を責めようとすると将軍が構えていたままだった剣を振りかぶって私に切りかかった。


「私がメイドを拐かしたというのか!この無礼者が!!」

 セメトリィさんの様に強い人から無防備なところを不意打ちされたら私は死んでいただろうけれど、幸い「銀腕」は装備したままで、この人は弱い。

 剣を裏拳で受けると剣は真っ二つになって弾けとんだ。


「ゲイルズィを取り押さえよ!」

 すぐさまギエン内務卿が命をだし兵士たちはすぐに将軍を取り押さえた。

「貴様らぁ、将軍の私でなく内務の言いなりになるのか!放せ!ぶ、無礼者が!」

 なんて喚いているけれど無視してギエン内務卿は私と話を続ける。


「カナリアよ、他に何か覚えていることはないか?その時将軍がなにか探りをいれてこなかったか?」

 出発のときの事を思い出す・・・もしかしたらアレが2人との最後になってしまうのかと考えると、怖くて声が震える

「えっと・・・、3人そろって脱走か?と尋ねられたので陛下からの密命を受けて出かけますと応えました。そうしたら将軍が・・・マリオとブルーノという男を付けると言い出しましたので私は陛下の信頼に応えるために任務の内容は漏らせないといって断りました。」

 ギエン内務卿はひげに手を当てて少し考え込んでから私の肩に手を置いて言った。


「なんとか今夜中には二人の居場所に目星を付ける、カナリアは一旦陛下に御報告と、姫様に顔をお見せしてきなさい、皆の者ゲイルズィを取り調べる、帝都内の将軍の拠点をすべて押さえ、巡回中隊のマリオとブルーノを優先して探させよ。」


 内務卿は、マリオとブルーノという名前の組み合わせだけで巡回中隊とかいう部隊の目星までつけてしまわれた。

 私を嫌っているはずのギエン内務卿だけが、今の私にとって、リスタとカーラを見つけるために頼れる人だった。


今日中に神楽の回想を終わらせたかったのですが、花粉症が辛くって中々進みませんでした。

明日にもつれ込みそうです。


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