第-156.9話:舞い踊る神楽7
古代樹の森攻略開始から5日目の夜、私は劇的に進みつつある攻略具合にほくそ笑み、帝都の友達たちの元に帰るのを楽しみにしながら、明日か明後日にはすべて終わるかもしれないと思いながら眠りに着いた。
そして6日目の今日の朝食は穀物のスープとパン、昨日渡したイチゴに似た果物とを食べ朝からゴキゲン、村長さんもめったに食卓に並ばないイチゴに似た果物を食べられてゴキゲンで、今日もがんばろう!とテンションも高めに出発したのだけれど・・・
「むぅ・・・」
私は不愉快を隠すことなく呻きながら森の中を歩いている。
時刻は昼を過ぎたところで、今私はI字に相当する遺跡を探して森の中を歩き回っている。
昨日の成果を確認するために焼いた森に行けば2日目の時の様に木が育ち始めていて、どうもまだ仕掛けは解除できていないと判断できた。
恐らくは基点だろうと推定している森のドームの中の石版に向かい確認すると
真ん中の円は勿論、M字とW字に楕円すべてが赤くなっているが、ここの円形石版は押してみても何の反応もなかった。
それではやはりI字の左にも円盤があるのかも知れないと思い探索を開始したのがもう4時間近く前のことで・・・。
Iの字の構造物ということで最初は空から軽く石塔の様な物か、森が開けている場所がないかを探し、次に森の中に入りソレらしい遺物がないか探し始めたが時々猿型の魔物に襲撃を受ける以外には動きもなく、ただただ無為に時間が過ぎていく。
結局夕方まで探してもソレらしい遺跡を発見できず6日目の探索は一切進捗しないままで終わってしまった。
7日目今日もI字の遺跡を探すために、来るときに一昨日焼いた森を確認しながらやってきたがもうほぼ木が生えそろっていた。
仕掛けが解除されていないことは明らかで、私は焦燥感に狩られる。
もしかしたらW字の遺跡の通路の奥側に続いていた通路になにかあるのでは?なんて考えて朝からW字の階段のほうへ向かい奥の通路から先に進んでみたが、1メートル級のコウモリが2,3匹居たくらいで延々と歩き続けることになり、途中で古代樹の森の領域を抜けた感覚を感じ、それでもまだ通路が続いていて、光が見えたので出口だと、一気に進むと海岸にたどり着いた。
どうも大陸の南端のどこかにたどり着いたらしい。
後ろを振り向けばあまり広くはないが平地があり、空を飛んでみると森の中央からまっすぐ南に来ていたはずなのにだいぶ東にずれていることが分かる。
王国側の湖が良く見える。
通路が少しずつ東に反れていたのだろう。
だから沿岸まで古代樹の森の領域のはずなのに途中で領域を抜けたのだ。
そのまま空を飛んで昨日中断したところまで戻ったときには、もう昼を過ぎていた。
無意味な探索に時間を使いすぎた・・・いや無意味じゃないと思いたい。
戻りながら地図に簡単な地形の特徴をメモしたので、帝都に帰ったあともう少し正しい地図が作れるはずだ。
ソレも森が復活しなくなるならやっぱり意味がないかもしれないが・・・
その後夕方まで魔物との遭遇を繰り返しながら森を探索していると、枯れ井戸を見つけた。
コレはと思い井戸の底まで入ると深さは7メートルほどであったがそこに井戸とほとんど同じ大きさの石版を見つけた。
西から南が無地、北西から北東までが土台と一体で、真ん中の円形の石版がI、東がX、南東がM・・・。
ほとんど2日かけて探した遺跡がとくに意味を成さずただどうもコレより西には石版がないということだけが把握できてこの日の探索も終了した。
井戸にたどり着く直前に猪の魔物か動物か分からないものが襲ってきたのを狩っていて、念のために回収していたので村長さんに確認してもらったところ、このあたりで良く食用にされている猪だと判明、村長さんに引き渡して村に役立ててもらうことになった、早速一昨日渡したコウモリの牙で作られた肉きりナイフで血抜きなどの処理が行われて明日の夕飯に並べてくれるという話になった。
8日目、次の探索対象はV時の地点、村から一番近い位置になり、X字が森と古代樹の森の境界近くだったため村と、平地と森と古代樹の森の境の入り乱れた区画を空から探索し、古代樹の森の区画に入ったすぐのところに小さな川を見つけた。
初心に帰り、人の手による遺跡なら川沿いはありえると、川沿いを歩いていくと川に削られたのかV字に切り立った谷が続いている場所を見つけた。
ただそのV時に削れている範囲は広く、ちょっと骨が折れそうだなと思いつつ、暫く東に向かっていると谷に橋がかかっているところが見えた。
X字の橋と年代が近そうなのでその近くを探してみようと思いまずは橋の下の川底を探すが何も見つからず、次に橋の底を見あげて、最後にまさかと思いつつ橋の上に行くと欄干の上に石版があった・・・。
(この1時間はなんだったの!?)
と少しがっかりしながら石版を見ると真ん中の円形の石版のマークが⌒の様な上に反った弧を描いたもので色は黒、北西側がVで赤、北、西、南西が無地、北東から南東が土台と一体になっており、南に⇒の様な図形が描かれていた。
V字を通り過ぎてその南東の石版にたどり着いたらしい、コレで大体全体も見えてきた。
すなわち・・・
無IXV無
無無M無⌒
無楕円無⇒
+無W無?
無無無無?
この5×5の枠が古代樹の森の石版の配置だ。
これは一旦⇒のポイントを確認してから石版を押したほうがいいかも?とも思える。
(でもあとから押しなおしも出来るし、残った2箇所の?次第だけれど、村への帰り道に⌒はまた押すことも出来るのよね・・・?)
うん押して置こう。
石版を押すと⌒と矢印がひっくり返り赤くなる。
そして私は⇒がなんなのか考えながら空へと戻った。
海からの帰りにメモした地図に書き加えた地形を見ながら考える。
(何か目立つものはあったかしら・・・?)
蛇行しながら東に向かって流れる川は途中で南に向きを変えて海に注がれていた。
海岸沿いは途中から崖になっていてある程度行くと古代樹の森の領域を外れる。
そしてまた暫く西に行くと領域に入る。
(そっか・・・西から東の⇒は川の流れだろう・・・、ここからほぼ真南の範囲の川で川が真東に流れる様になってるところを探してみよう・・・。)
少し高度を上げて森を広く見渡す、川沿いは割りと森が切れているので高度をとっても形が分かり易い。
暫く観察して3箇所に絞った私は近いところから探し、川沿いや川底、橋なんかがあればその周辺を念入りに探すが中々見つからない。
3箇所を丹念に探したが見つからなかったのでもう一度空に上がって、見渡す。
後怪しそうなのは滝くらいかな・・・?
一番大きな滝でも落差は4メートル程度だったけれど、その滝の裏に空洞がなか探したが何もなく、次に滝つぼの中に潜ると、水底に石版を見つけた。もう夕方近い時間なのでそろそろ帰りたい。
コレで終われる配置ならいいけれど、と思い石版を確認すると北西から南西は無地、北東から南東は土台と一体、北と真ん中は赤で南側に黒の)があった。
すなわち
無IXV無
無無M無⌒
無楕円無⇒
+無W無)
無無無無?
時間的に今日はもう)を探す余力もないし、仮に最後の?が無地だったと仮定して、⌒⇒)を赤にするために私は⇒を押して帰り道に⌒を押して、途中の森を焼き払いながら村に帰った。
昨日約束された通り猪の肉を香草と岩塩に漬けて焼いたものを村長さんの家で食べて少し元気になった。
少し筋っぽいけれど、お肉は美味しい。
9日目は昨日の成果を確認しに森を通り、まだ樹木が再生していることを確認。
次に基点と推定している中央のドームに顔をだすがやはり変化はない。
これで恐らく)の下の?も石版があるのだと推定し、まずは⌒の石版を押し次に⇒の石盤を押したこれで最後の?の位置を押せば、すべて赤になるはず。
滝からまた空に舞い上がり人工物か目立った特徴のある場所を探す。
()ってなんだろう?カーブを描いた地形?遺跡?)
⌒は橋だったけれど縦において梯子とか・・・?
考えても分からない・・・いっそ逆に考えて範囲のギリギリから攻めてみようかな?
と崖になっている海岸線まで行き古代樹の森の領域と外の境を探しだす。
ここが南東の外れなのだから、ここからあの滝までの間に)かまだ不明の最後の一箇所がある、そう思えばその範囲は直線では25km程度なのだからだいぶ狭い。
横幅もあるからそれでもだいぶ広いけれど・・・
空から見ていて目立つ地形はやはり川と、崖になっている海岸線、それと王国側の森の湖だけれどそちらは関係ないだろう。
とりあえず一番外側に近い海岸から虱潰しに探しているとどうも何箇所か足場になりそうな場所がある。
(足場があるなら可能性はあるのかな?)
そう考えて足場のある場所を順に調べていく。
昼を過ぎるとお日様を遮るものがない海岸沿いは非常に熱い・・・飛行による魔力の消費は少ないけれど、太陽によって奪われる体力はそれなりに大きかった。
せめてお昼ご飯は涼しいところで食べようと思って、海面近くまで高度を下げて、適当な岩場を探していると空からは見えなかった洞窟があるのが見えた。
(魔物がいるかも知れないけれど、いなかったらあそこで食べよう)
そう思って洞窟に近づく、海面には近いけれどそれでも海面まで7mくらいはある、今が仮に干潮だったとしてもそうそうここまで海面が来ることはないと思いたい。
洞窟に近づいていって中の様子を伺うと、とりあえず魔物は居ない様に見える。
確認しながら内部に入っていくと洞窟はそこまで深いモノではなく中も完全な真っ暗闇ではなかった。
奥行きは100mくらいだと思われるが奥のほうに光が上から射しているどこか地上と繋がっているらしい。
そして奥の光に気をとられて気付くのが遅れたが足元に石版が合った。
(図形は!?)
確認すると中央が黒のL字、北東から時計回りに南西までが土台と一体で北西と西が無地、北が黒の)と成っている。
すなわち
無IXV無
無無M無⌒
無楕円無⇒
+無W無)
無無無無L
ということになり、最後の区画が間違いなく端っこでおそらく過不足なく生める事ができたということだ。
Vと)の位置が不明のままになったが、一旦全部赤にして、だめな場合に全部黒にすることは出来る。
「はー、ふーぅ」
緊張してちょっと長い息が出てしまったがとりあえず先にご飯を食べよう。
昨日の豚肉の残りで村長夫人のアスミタさんが作ってくれた塩をした肉を挟んだパンと、コンポートにしていたリンゴ、それに朝村人から貰ったミルクをグラスに注いでのむ収納には冷蔵、冷凍の昨日もあるのでミルクは良く冷やしてある。
ちょっとサンドイッチは少し塩辛いけれど、汗をかいて疲れた体に丁度いい。
甘いリンゴとならいつまでも食べられそうだ。
ミルクも甘くて美味しい。
お腹も程よく満ちて安全なうちにその他の用も足して。
さぁいざ石版を押すといつも通り暫く音がしてから石版がひっくり返り赤色になった、コレですべての石版が赤になったことになる。
いつもならこれで終わりであるが、いつもと違う音と動きがあった。
ギャリギャリギャリ!と激しい音がして石版が土台ごと回転している。
暫くすると土台ごと5cmほどめり込んで、その後真ん中の石版を押しても反応がなくなってしまった。
(これは仕掛けが解除されたということでいいのかな?)
とりあえず入ってきたのと同じ穴から海上に飛び出した私は、基点とみなしていた森の中央のドームを目指す。
ドームのあたりにつくとなにか妙な気配みたいなものを感じた。
(私は武術をやっていたといっても、子どもの手習い程度で、暁さんやお姉様たちの様に気配で敵の位置を探る・・・みたいなことは出来ないはずなのに、なんだろうこの感覚は・・・。森に入ったときの魔力の揺らぎに似ているけれどなんだか違うし・・・。)
行ってみれば分かるかな?
実際、既に直上まではきているのだからあとは、注意して近づいていくしかない・・・。
私は使い慣れた「銀腕」を全身鎧の姿で装備して、ドームに向かって下降を開始した。
明日はお出かけしないのでなんとかこの話を終えて、アスタリ湖の話を進められたらと思います。
早く本編に戻らねば・・・




