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第-156.8話:舞い踊る神楽6

 古代樹の森の探索を続ける私は、4日目にして遺跡と思われる石版を発見した。

 数度にわたる魔物との戦闘、視界の聞かない森の中を進む緊張感は私をそれなりに追い詰めているけれど、飛んで帰ることが出来るという、優位性とゴルフさんの家という安全基地が、私の心を保つ力になっていた。



 探索開始5日目、帝都を経って6日、こちらの暦では丁度一週間が経った。

 探索にも少し慣れてきたし、昨日発見した遺跡のこともある。

 成果はあげているつもり。


 まずは昨日の円形の石版までやってきた私は、W字が示す南の方角へ進んだ。

 途中初日と同じ醜悪な顔の猿の投網猿の群に襲撃を受けたが、危なげなく排除することに成功した。


 さて襲撃さえなければ20分ほどでたどり着く距離で、恐らくはコレがあの図形が示していたのであろう構造物にたどり着いた。

「これはどう見ても地下への階段だよね・・・。」

 森の中に岩で出来たステージの様な場所がありその上に上がると、真ん中に階段があった。


 階段は入り口からはゆるやかな傾斜で降りていくのが見えるがどれくらい地下に潜るのかも分からない。

 入り口が開いたままになっていたので魔物が入り込んでいることも警戒するべきだし、ここに潜ってしまうと非常時に空へと逃れる事ができない。

(ちょっと怖い・・・なぁ・・・。)


 それでも調査を続ける以上ここに潜らないわけにはいかない。

 覚悟を決めて階段を下る、無論警戒は怠らない。

 角度が緩やかなせいで、入り口からは見えなかったけれど階段は一段の落差は急だが幅が広く僅かに20段ほどで、深さも7m程度、岩のステージの分を考えれば地下3m程度の浅い穴だった。


(奥行きは入り口付近からは見えないね・・・?)

 入り口に近いここからならば、いざとなれば飛んで逃げられるしちょっと確認してみよう。


 私は「三」に鎧装を変更すると剣を構えた。

 頭に、草原に火を放つイメージを浮かべながら剣を振るうと横幅1mの炎が30mほど先まで燃え盛る道を造り地下通路を明るく照らした。

 そして見てしまう、その奥に隠れていた黒い影に

「きゃっ!?」

 そのギョロっとした目の動きに、驚いた私はとっさに入り口に跳躍し、そのまま空中へ逃げ枝葉の間に隠れる。


 地下通路から私のすぐ後に黒っぽい生き物が飛び出してきた。

 大きさは単純な長さで言えば昨日の虎型より2周りほど大きい、しかしその肉付きの少ない体は骨が透けるほどでとくに後ろ足は貧弱だった。


 ソレは腕の力で地面を這いながら獲物を探して入り口の周りをキョロキョロと見やるがどうも空中は死角の様で、こちらには気付いていない、鼻も良くないらしい。

 アレは、この世界のダンジョンにはつき物の魔物らしい地を這うものコウモリだ。


 外見は地球に居たコウモリの様に薄い皮膜を持った腕と細長く気味の悪い枝みたいな指が一本だけ伸びている。獣らしい歯牙を持った顔は耳が上向きに尖っていて悪魔みたいだ。

 体が1mを優に超え10m近くなるものも居るという獰猛な魔物でどういうわけかダンジョンにしか生息していないとされる。(ダンジョンのない地域で同種の魔物が見つからない)

 体の大きい割りに狭く暗い場所を好み獲物が近づくと一気に飛び掛ってしとめる生粋の待ち伏せハンターだが、その大きさと引き換えに空は飛べない様だ。


 暫くキョロキョロとしていたコウモリが巣穴に頭を向けてゆっくり戻り始めたところで仕掛ける。

 剣を構えて魔力を込めて投擲する。

 コウモリ系魔物は背後からクチに入るサイズのものが飛んでくると口で受け止める習性があるので、強力な投擲武器があるならこれが一番だと聞いている。


 案の定コウモリはクチで剣を受け止めようとしてその頭蓋を剣に貫かれた。

 ギェピィィィィィ!!

 この世のものとは思えないおぞましい叫び声を上げて30秒ほどその場でのた打ち回りコウモリは動かなくなった。


 コウモリは別に珍しくないはずなので、死体は回収せず焼却することにした。

 素材に使える部位もあるかもしれないが、あのグロテスクなものを切り刻む様な度胸は私にはない。


 幸いにして近づかなくても、刺さっている剣に遺っている魔力で剣ごと焼き尽くすことが出来た。

 焼却後剣を新たに生成しつつステージに戻ると、コウモリの焼け跡にぼろぼろに焼け切った骨格とどうも無事に残っているらしい牙の部分を見つけたので回収する。


 再び、階段を慎重に下っていくとさっきと同じ様に火を放つ。

 30mとちょっとその先までが炎に照らされるけど、まだ通路は続いている様だ。


 私は少し考える「三」は攻守のバランスの良い装備ではあるけれどこまめにモードの変更をしないと器用貧乏な鎧装、この狭い通路ないではとっさの対応が命にかかわる。

 それならバランスよりも先読みと決定力に特化したほうがいい。


 そう結論付けた私は再び装備の変更を行う。

 私は、「慧眼」と名づけた鎧装を装着した。

 北欧神話の主神の1柱をモチーフにしたこの外装は、様々な能力を発現するがその最たるものは極めて短時間の未来視と簡易的な復活の魔法だ。


 この復活は太陽の出ている時間帯に私がもし死んだ場合に、日没と同時に息を吹き返すという反則染みた魔法だけれど、本来は3人いる姉妹たちの魔力を元にして復活を果たすものなので、恐らくこの世界では使うことは出来ない。

 それでも未来視の力も、他の様々な能力も非常に優れている。

 何より光源と武器と障壁と偵察系の術を使えるこの鎧装は、ダンジョン探索にはもっとも優れている。


 ただ、魔力の消耗が非常に激しいので、今からだと2時間がせいぜい、50分後にデネボラのタイマーをセットして、光のルーンを使いながら奥に進んでいく・・・。


 この地下通路の構造は非常に単純なものだった。

 まっすぐな通路に左右に時折垂直に通路があるが20mほどで行き止まり。

 魔物も最初の一匹以外体長30cm程度の仔コウモリしかおらず、倒すのは少し気が引けたが、コウモリ型は危険な魔物でもあるので着実に潰していく。


 20分ほど進んだ所で初めて上方向に通路が合った。

 ちょっとドキドキする、まだちょっと距離があるけれど上から急に何か落ちてくるかもしれない・・・ここがダンジョンならば上からスライム型が降ってきたり、大量の水が流れてきたりしてもおかしくない。


 慎重に天井の穴に近づいていき、逆側の壁が見える様になったあたりで内部に光のルーンを5秒程度激しく明滅する様にして投げ込む。

 もしもコウモリ型が居るなら目をやられるはずだ。

 少し待つが期待した反応はなく、音もしなかったので魔法障壁を張りながら近づくと、穴はずいぶんと高い所まで続いている様だ。


(この穴は地下3~4mくらいしかなかったはずなのにどうみても10m以上は上に上がってるよね?)

 見える範囲に魔物も見えないが、念のために飛行して上に上がる。

 一番上につくと壁に丸い石版があった。

(あれ?)

 光で石版を照らしておかしなことに気付く。


「森のドームにあったのとちょっと違う・・・?」

 赤くなっている図形は北方向に丸い図形の描かれた石盤だけで、真ん中の円の石版がWを倒した様な図形、北西に湖と思われる楕円が描かれていた。

(赤くなってるのは現在地じゃなくって、現在地が真ん中だったんだ?)

 そう思って赤い石版を触ってみるけれど、とくに反応はない。

 それならば、と恐らく現在地だと想定されるW字を触ってみたところカチリと音がしたあと、ゴゴゴと何かが音を立て始めた。


(え?なにかトラップのスイッチでも押しちゃった!?)

 そう思って回りを警戒するけれど、暫くして音は止んでしまった。

「・・・罠とかじゃなかったのかな?」

 もう一度石版に視線を戻すと・・・?

「あれ?」


 色が変わっている。

 中央の丸いW字が刻印された石版が赤くなり円刻印の石版が黒くなっている。

(これは・・・)

 もう一度W字を押してみる。

 すると同じようにして音が鳴り始め最後に勢い良く円盤のW字と円が回転してリバースする。


(テレビゲームのRPGみたいです、こういうのは定石的に全部色を同じにする・・・といったところなんだけど・・・?)

 ちょっと頭の中で考える、今このW字を押しても、W字と円以外は動かなかった。

 動くのは十字に隣あったものだけで、初めに真ん中だけが色が違って・・・・?

 

(あれ?隣あってる石版が回るならどうやってもこの4枚全部の色を揃えられない・・・?)

「むぅ・・・とりあえず湖と岩山に石版があるかどうか探してみて、それから考えよう、目標は周りを赤真ん中を黒にしてみるか、もしほかにも石版がある様なら全部を赤か全部を黒にしてみることかな。」

 最初と逆の色にしてみようということ、それならば三方向の石を一回ずつ押してやれば出来上がる。


 もう一度W字を赤丸を黒にして、元の通路に下りる。

「あぁでもこの通路もっと奥があるんだよね・・・」

 そっちも見て回ったほうがいいのかも・・・?

 でも南方向には図形は描かれていなかったし、赤くなりもしなかった。多分石版はないか、動かないものしかない。

 ならばやはり一度湖に行ってみよう。


 通路を戻ると先ほど討伐した甲斐あって、魔物は居なかった。

 急ぎ足で5分ほどで入り口まで戻ってこれた。

 ステージまで戻ると、再度装備を「三」に変更して湖まで飛行しそのまま水の中に潜る。


 前回は底のほうまであまり気にしていなかったが、今回は探すものがあるので薄暗い湖底を探す。

 すると湖の中心付近で割とすぐに石盤を見つけた。

 真ん中の円形の石版に湖をあらわす楕円、北東から南東にかけてM字、円、倒したW字が刻印されていて南西に新しく+型があり、現在はWのみが赤くなっていた。

 とりあえず真ん中の楕円を押してみるとまた駆動音がして、暫くすると押した楕円と東の円とが赤くなったが、+は黒のままだった。


(やっぱり押したところから十字方向の図形のある石版だけ変化するみたい。)

 次の目的地は星印にしよう。

 急いで水面に上がりそのまま飛行して☆に相当する遺跡を求めて南西へと飛ぶ。

 空から探しても一面森ばかりで分からないかもと思ったが、小さく開けている場所を見つけた。


 周囲を警戒しながらそこに降り立つと、先ほどと同じ様に岩で出来たステージがありそこに石版を見つけた。

 +の意味は分からないがここが+の場所であるのは石版の中心の円形の石版が+の図形であることから見ても間違いない、この石版は今までのように円形と8方向に囲む様な9枚切りの石版ではなく、北西から南西にかけてが土台と一体化して枠の様になっていた。

(コレってつまりここが一番外側ってことだよね?)


 真ん中が+字、北東が楕円、北、東、南東、南が無地の石版で楕円は赤くなっている。

 迷わずに真ん中の+字を押すと、暫く音がしたあと+字の石版がひっくり返って赤くなった。

(もう間違いはなさそう)

 糸口が見えてきた気がする。

 次は北の岩山に行ってみよう、そう思って北のほうに視線をやると少し離れたところに狼型魔物が一頭居た。

 脚の数は普通の4本だけれど異様に体が大きくみえる。


 狼型なら群れているかもしれないので気付かれないうちに空に抜けようと思いソロソロと飛行を開始したところ、突然その音は鳴り響いた。

 ピーピー、ピーピー、ピーピー

 慌ててデネボラのタイマーを切る。


(びっくりしたぁ、タイマー仕掛けたの忘れてた・・・)

 短く3回、でもはっきりと聞こえる音は、狼の耳にも届いてしまった様で、恐る恐る狼のほうに視線をやるとこちらを見つけた狼が走ってきた。

「ひっ!?」

 全速で空に舞い狼から逃れる、間一髪で間に合い、跳躍した狼が3mくらい下でその大きな口を空振りして落下していく。

 良く見ると目が4つあり、そのすべてが私のほうを睨んでいる。


 空中で自由に動けない狼に向かって、剣から炎を放ちその口の中と顔にぶつける。

 キャイン!

 大きさの割りに可愛い声を上げて狼は火達磨になりジタバタしながら落下していき、地面に叩きつけられた。

 地面に落ちてからも暫くジタバタしていたが、次第に弱弱しくなり真っ黒に焦げて動かなくなった。


 元は灰色だったけれど今は真っ黒な狼を見ると、あの夜暁さんと私を襲った大きな犬型を思い出す。

 大きさはこの狼のほうが大きいと思うが、不思議と威圧感はあの夜のものより弱かった様に感じる。

(あの時はお義父様とお義母様がなくなった直後で緊張してたからなのか、それとも私が魔物を殺すことになれてしまったからなのか・・・?)

 狼の大きさを確認すると鼻先から尻尾の先まででおおよそ7mほどあり、足から頭までの高さは2mを超えるくらいある。


 大きいくらいしか特徴が分からなかったけれど、一応コレは回収しておこう。

 黒コゲの狼をデネボラに収納して岩山に向かう。


 岩山までは空を飛んでらくらくと移動できた。

 森の中を探す必要もなく岩山の頂上付近に着くとそれなりに急な斜面に山羊型の魔物か動物か判別のつかない生き物が何頭か張り付いている。


 とりあえずこちらに向かってくる様子もないので、頂上に見えている石版の上に飛んだままで移動すると。

 中央の円形の石版が黒のMでここをあらわし、南に赤い円、南西に赤い楕円、西、東、南東は無地だけれど・・・

(北西から北東に向かってI字、X字、V字・・・このままこのM字を押すと、真ん中が黒になっちゃうからもう一つ北のX時の石版をを押したら全部キレイに赤くなるかも?)


 魔力も半分を切っているので、次のX字の様子をみて、行くか行かないか決めよう。

 岩山から北に向かって飛び始めると前方に川が見える、例の西側の楕円の湖から流れている川の下流に当ると思われるけれど、それが橋と交差して空から見るとX字になっている様に見える。

 ここからほんの数百メートル北に行くと古代樹の森のエリアを抜けた普通の森になる。

 ここがX字の位置で間違いないだろう。


 周囲に魔物が居ないか気を配りながら橋の上から見下ろし、下に回って見上げる。

 この石橋から見ても、あれらの遺跡や仕掛けを見ても人の手によって仕掛けが設けられているのは間違いない。

(橋には石版は見あたらない・・・なら・・・?)

 川底を軽くつつくと水深は1mほどまで浅くなっていて橋の真下は平たいところが多い。

 暫く川底を探すと石版を見つけた。


 水の流れのせいで少し見にくいけれど、真ん中の円形の石版が×字、南がM、東がV、西がIですべて黒、南西と南東が無地で、北西から北東までが土台と一体になっている、ここが北側の端っこの様だ。

 そして・・・・

「ここを押せば、今分かっている図形は全部が赤になりますね。」

 迷わずに押すと少し経ってこの石版に見えている図形はすべて赤くなった。

 今現在の明らかになっている並びが、

 ?IXV

 無無M無

 無楕円無

 +無W無

 無無無無

 ということになる。もしかするとIの西の?の位置にまだ石版があるかもしれないが、ソレよりさらに外側にはないはずなので今日のところは初日に焼いたのと同じMの岩山と円のドームの間の地点で軽く火を放って、村に帰ることにする。



 村に帰り、討伐したコウモリの牙を見せると、村長は少し驚いていた。

 肉を切る切れ味の良い刃物に加工できるというので、ぜひ村で使って欲しいといって差し上げると喜んでいた。

 この日も村長宅で夕飯を頂き、代わりにそろそろ食べておかないといけない持込の果物と肉を明日の朝食夕食用に渡しておいた。



そろそろ古代樹の森の終わりが見えてきました。

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