第-156.7話:舞い踊る神楽5
探索4日目、昨日の湖から調査を再開。
なお上空から見た限り初日に焼いた森はほとんど元の通りに生い茂った状態になっていた。
恐ろしい早さだと思う。
さて、湖から森の方に入ると、また背の高い木が鬱蒼と生い茂っていて薄暗い。
先日の網を投げてくる猿は居ないが、代わりに肢が三対ある猿が木の上からこちらを監視している。
いまのところ遠巻きに見ているだけだけれど少し数が多いのが気になる。
囲まれる前に倒すべきなのかもしれないけれど、仕掛けられても居ないのに殺したりするのは忍びない。
今しばらくは警戒だけして無視しよう。
次第に数が増えていく多脚猿を気にしながらどんどん東に進む
湖からたぶん3kmくらい東にきたところで、猿たちが動いた。
先ず一匹の雄猿がものすごい勢いで接近してきた。
「きゃっ!」
慌てて回避するが、雄猿の怒張したモノが視界に入りつい小さく悲鳴を上げてしまった。
それが良くなかったのか猿たちが集団でこちらに近づいてくる様になった。
(もしかしなくっても発情してる!?)
姫様が言っていた。
この世界の魔物はほとんど種族を問わず繁殖できるため発情期には多種族の雌を襲うことがあると・・・・。
「そうはいっても・・・今のは・・・・。」
(私の太ももくらいあるんですけど!?)
暁さんのモノだって数えるほどしか見たことないというのに・・・・。
嫁入り前の乙女になんてものを見せてくれるのか!
唐突ではあるけれど向こうは臨戦態勢、ならばこちらも容赦はしない
光の剣を抜き構える。
(さぁ来なさい!)
と、心構えをした途端猿たちはギャーギャーと声を上げて木の上に戻っていく・・・?
「え?なに?なんですか?」
本当に瞬く間の出来事で、猿たちは姿を隠した。
そして・・・。
「グラァァァァァァァァア!!」
何かの声!足元に振動?でも足音はしない。
慌てて飛行盾で空中に身を躍らせると、私の立っていた位置に大きな虎の様な生き物が姿を現していた。
「すごく、大きい・・・」
茶色地に黒の混じった縞模様、大きさは3m半ばほどで、猿たちより一回り大きい程度だけれど、その脚の太さは猿よりも3倍くらいはあり、熊の様でもある。
虎の様に見えるが脚は4対あり、異形。
そしてそのたくさんの脚を使い体をうねらせながら木と木の間を跳び登って再びこちらに向かってくる。
「ひぃ!」
慌てて森よりも上まで飛び上がる。
途中猿たちが怯えた表情をしていたのが分かったが無視して通り過ぎると、虎は私めがけて勢いをつけて飛び上がり、森の上4mくらいまで飛び上がってきたが、届かずに落ちていった。
そして地面への帰り道に近くにいた猿を一匹捕まえると地面に降りていった。
捕まった猿はメスで、虎はオスだったらしく、虎は猿の右側の腕を二本へし折ると樹上に猿も居るというのにその場で交尾を始めた。
(繁殖目的で私の事も襲ったの?)
想像するとかなり恐ろしい。
交尾中にちょっと申し訳ないけれど、あとあと脅威になりそうだし、数を減らさせてもらおう。
投擲用の弾に魔法をかけて投げる。
本能のままに交尾をしていた虎は気付くことなく真上から頭を貫かれて絶命。
同時に下に組み敷かれていたメスの猿も胸の辺りを貫通し息絶えた。
周りの木に逃れている猿たちも、一度襲ってきた以上また襲ってくる可能性もあるので、全部倒してしまおう。
光の剣を構えなおして森に突入する。
未だ虎の襲撃の余韻で怯えているのか猿たちは身動きもせず息を潜めていた。
それをデネボラのアシストを受けて索敵し石弾と斬撃で片付けていく。
せめてなるべく苦しまずにすむ様に、一撃で胴と首を破断するか頭部を破壊する。
初めの猿の襲撃から30分ほどかかったけれどなんとか全ての魔物に止めをさして、次に進める状態になった。
(だいぶ感覚が麻痺してきた気がする、こんなに簡単に生き物が死ぬなんて・・・。)
でも、油断をすれば死ぬのは私、切り替えていこう。
魔力の残量は7割と言ったところ、昨日まではコレくらいで村に帰っていたけれど今日はもうすこし進んでおきたい。
虎の魔物は明らかに異形だと思うので死体を回収する。
帝都への帰還はまだ暫く先になるので痛むかもしれないけれど仕方ない。
続けて東方向に進むと暫くは何も現れなかった。
さっきの虎型魔物はたぶん縄張りの広いタイプなので、他の魔物が寄り付きにくいのだろう。
しかし10分ほど歩くとまた別の魔物の縄張りに入ったらしい。
さっきの虎型の色違いといえるだろう、緑と茶色の縞模様。
八本脚に巨大な体躯は共通だが先ほどのものよりさらに一回り大きい。
真正面にそんな化け物が居る。
今度は先ほどの様に擦り付ける相手もいない。
さらに頭上には蜘蛛の巣が張っている。
空に逃げるときは巣を避けないといけない。
盾を構え剣も横に構える。
虎のほうは先ほどのものの様に突っ込んでは来ず、その場でこちらに警戒をしている。
少しでも動いたら、こちらも動ける様に虎に意識を集中していると虎が少し顔を上に向けた。
(上には蜘蛛の巣があるけれど、まさか蜘蛛もきているの?)
ちらりと頭上を伺うが蜘蛛の姿は見えない。
と思ったら前のほうから網が飛んできた。
(蜘蛛!?)
反応が間に合わず盾に網がかかる。
するとすぐさま盾が恐ろしい力で引っ張られた。
見れば網は虎の口から繋がったままで虎が盾を引っ張っている。
踏ん張るだけ無駄だと判断して盾を消してすぐに再構成する、虎は急に抵抗を失ったせいでバランスを崩している。
その隙を突いて接近して喉を一刺し。
致命傷を負った虎が暴れるので離れる。
30秒ほどその場で虎はもがき喉から血を噴出しながら暴れ続けやがて動かなくなった。
「虎が糸を吐くなんて・・・」
猫が取った毛玉を吐くみたいな仕組みでしているのか・・・?
もしかすると上の蜘蛛の巣もこの虎が作ったものなのか・・・?
疑問は残るけれど、光の剣の一撃を受けた虎は既に絶命しており、もうこれ以上は動かない。
死体を回収して、さらに東へ進むと少し雰囲気が変わった。
「すごい・・・キレイ・・・。」
今までの森の中よりも低いところの枝が少なくなっていて、高いところの枝葉は他以上に鬱蒼としてドームを形勢しているいる。
そのドーム隙間から射し込む光が丁度夜空の星のように瞬いて見える。
そしてその天然のドームの中央には木の生えていない空間がある。
そこの地面に円形の石のプレートがあり、周囲がドーナツを8分割にした形のブロック、真ん中に小さな円の赤いブロック。
周囲のブロックのうち私に一番近いブロックには楕円に近い図形が彫られているが、そちらからきたばかりの私には分かる。
コレは私の今日のスタート地点の湖だ。
どうやらこのプレートは地図をあらわしている。
赤が現在地として、西の湖、北側のMに似た図形はたぶん岩山の形、他のブロックのうち5つには特長がなく、南側にのみWを横倒しにした様な図形が描かれている。
ここから南に向かえば何か遺構があるかもしれない・・・。
お腹が空いてきたのでバタークッキーをポリポリと齧りながら考える。
今日はこのくらいで帰ってもいい気がする。
もしかするとこのプレートこそが、この森の再生をつかさどる魔法的仕組みかもしれないけれど、南にあるらしい何か遺跡のほうに仕掛けがあるかもしれない、それらを調べるのに、今日はすでに疲れすぎている。
大量の猿型と、2匹の虎型魔物、どこから敵が来るかわからない緊張感は、私の精神力をすり減らしていた。
「うん、今日は終わろう。」
私は帰り支度を始める、と言っても空に抜けて地形を覚えて帰るだけだけれど。
ドームの天井を抜けて空から見下ろすとわかり難いけれど、少し森が薄く見える。
西の湖が・・・、コレくらいの距離感で見えて、北の岩山は真北に見える。
うん覚えた。
4日目の探索は非常に満足できる成果を出せたと思う。
念願の人工的構造物を見付けて、魔法的仕掛けの基点かも知れないプレートも見付けた。
十分な成果だよね?何せまだ本当ならば、道中のはずなのだから。
私は自分自身の頑張りと成果に満足しつつ、この日もゴルフさんの家に泊まった。
短いですが古代樹の森4日目です。
忙しさにかまけてぜんぜん目標の話までたどり着けないでいます。
本編更新については今しばらくお待ちください




