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第-156.6話:舞い踊る神楽4

 陛下から調査を命じられた古代樹の森の探索中、猿型の魔物と遭遇した私はすばやく頭を戦闘モードに切り替えた。


 ある程度数が集まってきた猿たちは私を囲む様に位置をとっている。

 その内に最初に足を叩いて音を出していたモノが号令するかの様に大きな声を挙げた。

「ギャー!!」


 すると周りを囲んでいた猿たちが一斉に握りこんでいた何かを投げてきた。

 ふと頭に思い浮かぶのは動物好きだったカナちゃんと見た動物のハプニング映像特集のテレビでゴリラが汚物を飼育員に投げた姿・・・。

 ビシャアッ

 とっさに魔力によるバリアを張りながら飛びのくと私が居たところにいくつか着弾がある。

 見ればそれは汚物ではなくなにか白っぽい繊維質の塊で・・・?


「網・・・・?っと!」

 ビシャ、ビシャア


 考えている暇はないけれどどうも身体の自由を奪うタイプの攻撃の様だ。

 次から次に飛んでくる。


 仕方ないか。

「せやぁぁあ!」 

 とにかく仕掛けてきた以上アレは私に対して害意を持っているとわかったのだから、抗って見せなければ、いつまでも狙ってくるだろう。


 一先ず手近にいた一匹に飛行して一息に20mほどの距離を詰め、勢いのままに剣を叩きつけると

 不活性状態でも鉄くらいなら切れてしまう光の剣はその猿型の胴体を容易く切り裂いた。


 少しは経験したこととは言え、手に伝わる柔らかいものを斬る感覚は気持ち悪い。

「ウッウッヴヴヴ・・・」

 よくわからない断末魔をあげて落下していく猿。


 すぐにまた近くの猿に向かって切りかかる。

 二匹目を斬ったところで猿たちが声を上げた、仲間を殺されて苛立っている様だ、


「ごめんね!でも私も死ぬわけにはいかないから!!」

 3匹並んで居た猿を一息に斬り捨てる。


「ギャガ!」

「ゲゥ」

 一匹は声を上げる間もなく事切れて落下していく

 一匹一匹が恐ろしく大きい、2m半くらいの巨大な猿たち

 それがあっという間に数を減らしていく。


 そうして10分も経つ頃には猿の数は数えるほどまでに減っていた。

 飛んでくる網や木の枝の量も次第に減ってきた。

 その時最初の一匹がそれまでの投擲ではなく身体ごとこちらに突っ込んできた。

(大きい!)

 慌てて回避する。


 しかしある程度自由に飛べるこちらと違い猿は勢いで木を蹴った勢いで突っ込んできているので直線的な動きだった。

 大きさこそ3mを超えているが、その知能はたいしたことない様だ。


 私に避けられたのが悔しいのか大きな声を上げた猿はもう一度木に踏ん張るとまたこちらに向かって突っ込んできた。

「もう今度は驚かないです!」

 手に持っていた剣を異なる神の槍と替えて突き出して待つ、その長さは3m以上あり猿の腕よりも長い。

 

 ズンと腕に重さが伝わり飛んできた猿が突き刺さる。

 猿の勢いは激しく槍は深々と突き刺さったが、予想外のことも起きた。

 猿の腕より長い槍なら、猿は私には届かないと思ったのだけれど、勢いが強かったため槍は猿の背中を貫通し、槍の中ほどまで猿が進んできたのだ。

「ギャァァァァァァギャァギャァァ!!」


「ヒゥッ!?」

 私の目の前に、手を伸ばせば届く距離に醜悪な猿の顔が、エイリアンみたいな口を広げて蠢かせて吼える。

(怖い!臭い!)

 そのあまりの醜悪さに私は一瞬怯えてしまって、猿の動きに気付くのが遅れた。

 断末魔をあげる猿はその右腕を振りかぶり私を殴りつけた。


 ガンと頭を襲う衝撃に怯む

「いやぁ!!」

 とっさに槍を活性化させて光を帯びさせると一瞬で猿の肉体が消滅した。


 猿の断末魔が途切れ、あたりに静寂が戻る。

 生き残った猿たちも逃げ去った様だ。


「うぅ・・・ふぐぅ・・・怖かった、怖かったよ・・・。」

 使うつもりのなかった力まで使い一気に魔力を喪った反動か恐怖が心を支配する。

 足が震えて手も震える。

 大きな槍を剣に持ち替えなおして、ゆっくりと地面に降りるとそこかしこに事切れた猿たちが転がっている。


 力なく地面にへたり込む、一戦目だというのに魔力を消耗しすぎた。

 鎧を展開しているから、死にかけの猿の攻撃なんて効くはずもないのに、その衝撃に驚いて使うつもりのない魔力量を消耗してしまった。


(ちょっと早いけれど今日はこのあたりで終わるべきかも・・・?)

 調査の期間として35日貰っているのに(片道10日と調査に15日計算)、移動でズルをしている分日程には余裕がある。

 あぁそういえば森は燃え難いというのと、切り開いても少しの期間で森に戻ってしまうという話があったからそれも試してみようかしら。


 魔力を消耗しているので鎧装は変えないで、火を操る槍のみ召喚する。

 来たときの様に空中に飛び上がり足元を睥睨すると、直径10mくらいの範囲を円く焼き払った。

 北にある岩山との位置を確認して大体の現在地を地図にも描き写す。


 火をつける時に思ったけれど、火の魔術を使えば火自体はすぐに着いた。

 ただその火が別の木になかなか移らない、確かにこれは燃え難いと言っていい。

 今も私が火を放った半径約10mの円形の区域以外はまったく火が燃え広がっていない

 ある程度燃えたのを確認したところで一旦村に戻ることにした。


 初日の探索時間は森に下りてから1時間半くらいで終了と相成った。

 来るときは手探りでゆっくり場所を探していたので時間がかかったけれど、帰りは直線で飛んで帰ってこられる。

 所詮30kmくらいの距離なので25分くらいで帰り着いた。


 調査に時間がかかりそうなので、本腰を入れるまでは、毎日村まで帰ってくることにした旨を村長さんに伝えると村長さんはうれしそうにゴルフさんの家を使う様に言い、村に滞在する間は、毎日朝夕のご飯を食べに来る様にと提案してくださったので、お言葉に甘えることにした。



 さらに翌日。

 昨日と同様昼前に森に着くとまずは昨日焼き払った地点を探す。

 昨日焼いたばかりだというのに木が生え始めていて、確かにこの森は普通でないというのが分かった。


 それでも完全に元通りというわけではなかったので少しずつ高度を下げながら森の様子を見ていると焼き払って木が薄くなった森にたくさんの魔物が蠢いているのが分かる。

 魔物が寄ってくるというのも正しい様だ。

 今日はもうちょっと長い時間森を探索する予定だけれど、あの場所は魔物が多いのでもう少し先の場所に降りることにした。



 昨日の地点よりさらに2kmほど西側に降りた。

 森の雰囲気は昨日と大差ないけれど、川が近くにあったから川沿いに遡っていこうと思う。

 魔法的仕掛けがあるのならば何か人為的な遺跡や遺構があるはずで、それがあるのは人が住んでいた場所、人が住むには水場が必要だから、そういった遺跡があるのなら川沿いではないかという考えから今日は川沿いに調査することにした。


 川幅は大体10mくらいで深さもだいたい3mくらいはある、水は比較的澄んでいて農業をやるには十分そうだ。

 この川沿いなら古代に人が住んでいたとしても不思議じゃないだろう。


 川沿いを歩く。

 昨日の森の真っ只中と違って川の上は空が開けているので多少気分も良い。

 水の流れる音が耳に気持ちいいし、ときどき魚の跳ねる音も聞こえてくる。


 二日目の探索は特に魔物の襲撃もなく、川沿いを7キロメートルほど遡上して終了した。



 三日目は昨日の終了時の場所からスタート、少し小高い場所に来ている様だ。

 周囲を調査しながら二時間ほど歩くと水源かと思われる湖についた。

 鎧装を『三』に替えて水の中に潜ると水深は80メートルほどで底から大量の水が湧いているのを確認した。


 さらに横穴があり南東の方角に向かって地下水脈として水が流れているのも確認できた。

 暗くて恐かったのでそちらには向かわず湖から上がる。


 さて私が遡って来たのと概ね逆側に流れる川があるがそちらは流石に森の中央から外れていく海の方角だ。


 ここまで川沿いに人工的な遺物は確認できなかったけれど流石に森の中央の方は調べておいた方がいいと思う。

 ここは少し高台になっていて空からとは違う角度で森を見渡せるがやや東に色の濃い木が生えた一帯がある、そこが調度目印の岩山の真南、森の中央と予測している場所になる。


 今日はひとまずここまでにしようと思い、湖の魚を少し採取して村に帰る。

 村長に確認したところ近くの村の川で少し獲れる川魚と同じ種類らしく、腸を取って塩焼きにして食べた。

 身がしっかりしていておいしかった。


 明日はまた森の中に入る。

 サメの様な牙の密集した猿の化け物の醜悪な顔が、まだ目に焼き付いている。

 少し怖いけれどお仕事だし、いざとなれば飛んで逃げられるのだから私は森の調査には向いている。


 そう自分に言い聞かせて、布団を頭まで被って眠った。


カナちゃんは神楽の四つ子姉妹の一人の彼方です。

森という屋外の探索で空を飛べるというのはかなり有利ですね。

蜘蛛の巣みたいなのさえ張られてなければ一時離脱も可能ですし。

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