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第-156.5話:舞い踊る神楽3


 ルクセンティアを出発して3時間ほど、かつてゴルフさんと歩いた時には20日ほどかかった道のりをほぼ消化した。


 もう10分ばかり先に行ったところに、ゴルフさんと10日ほど暮らしたあの村がある。

 目的地の古代樹の森はさらにその15分ほど先だが、今日はここに挨拶するために寄ったのだ。

 姫様と陛下にも相談してここに寄る事は決めていたため、私の分以外の物資も実はそれなりに積んでいる。


 この辺りは木材の加工とイルタマと呼ばれるジャガイモの栽培で暮らしていて麦系の穀物と鉄器、新鮮な魚介なんかが喜ばれるとアドバイスされたのでそれらを余分に持ち込んでいる。

 それから・・・。


「ゴルフさんの使っていた鉈と腕輪・・・。」

 遺体は帝都で葬って頂いたので持ち帰ることが憚られた。

 せめて遺品だけでもとこの二つは埋葬せずに取っておいたのだ。


 あの頃は言葉が通じなかったけれど、今ならば言葉も通じる。

 ゴルフさんのことをあの村に伝える義務が私にはある。


 程よいところで地面におり通常の銀腕を装備する。

 去年のあの頃と同じ格好。

 それから歩いて村へ向かう、前回出たのと同じ門から村に近づくと入り口には見張りをしている男性が居た。

 見覚えがある顔だけれど名前はなんだったかな・・・?


 ある程度近づくと向こうも私に気付いたので声をかける。

「こんにちわ」

「誰だ・・・?なんか見覚えが・・・。」

 ペコリと頭を下げたあと顔を上げると訝しげに私の顔を見つめる。


「あぁ、一年半くらい前にゴルフと一緒に帝都に向かったお嬢ちゃんか!」

 気付いてすぐに表情が綻ぶ彼。

「はい、そうです。その節はお世話になりました。」

 

「驚いたな去年はまだぜんぜん言葉が分からない感じだったのに、もうこんなに達者だなんて・・・一人か?とりあえず村長に会ってくれ、ゴルフのことなんかもソッチで話してくれ、俺が先に聞くわけには行かない。」

 そういって察してくれたらしい彼は私を村に入れてくれた。


 村長さんの家は覚えている。

 村の真ん中付近にある広場の花壇がある家だ。

 村長宅に入るまでに数人にすれ違い、挨拶をされ、私も返した。

 1年以上前にほんの10日ばかりいただけの私をまだ覚えてくれているらしい。


「報告が遅れて申し訳ありませんでした。」

 村長宅に入り着座を促された私は、奥さんの入れたお茶を頂きながらゴルフさんの死の顛末を伝え謝罪。

「いや、お嬢さんが無事にゴルフの遺品をもって帰って死を伝えてくれたおかげで、ゴルフを家族と一緒に弔ってやれる。」


「ゴルフさんの家族はだれも居ないのですか?」

 私がこの村に居たときもゴルフさんはずっと一人で暮らしていた様だった。

「強いて言うならわしが最後の家族だな、ゴルフの母がワシの従妹だった。お嬢さんがここにやってくる前にはもう亡くなっていたんだよ、父親は8年ばかり前に魔物に襲われて、母親は6年前に病気で、妹も今から3年前、まだ8歳だったが得体の知れない病気で亡くなった。お嬢さんほど真っ黒じゃないが黒髪の素直な娘じゃった。」

 しみじみと目を瞑って語る村長さんはゴルフさんのことを大切に思っていたのがわかる。


「ごめんなさい・・・、私が迷い込んだせいで、ゴルフさんを、村長さんの家族を一人喪わせてしまいました。」

 少し頬を濡らしてしまった。


「気にするな・・・とは言えんよなぁ、それはお嬢さんに失礼だ。」

 そういって村長さんは私の頭に手を置いて撫で始める。

「きっとゴルフはお嬢さんのことを妹の様に大事に思っていたと思う。ゴルフの妹はゴルフが行商に隣の村に言っている5日ほどの間に急に発病し、帰ってきたときには既に意識がなかった。あやつは、妹とちゃんとしたお別れを出来なかった。それを悔やんでいたんだろうよ。だからな、お嬢さんの世話をすることでゴルフは気を晴らしたかったのだろう、お嬢さんはただゴルフの事を忘れんでやってくれればそれが手向けになる。」


「はい・・・。」

 それだけしか言えなかった。


 都から持ち込んだ手土産と遺品を村長さんに渡すとすごく喜んでくれて、村人で必要そうな人で分けると約束してくれた。

 幸い、私が前回村の周囲の魔物の巣と群れ半壊させたことで村への魔物の襲撃は劇的に減ったそうで、あれから村人に死人は出ていないそうだ。

 私が持ち込んだ食材でちょっとしたお祭りの様な状態となり、保存の利かない魚やこちらでは取れない果物なんかをふんだんに使った食べ物を私がたくさん作って振舞った。

 

 暗くなったので一晩村に泊まることになり、私は一年ぶりにゴルフさんと寝泊りした彼の家で寝ることになって、村長夫人が、たまに手入れをしていてくれたそうで、ゴルフさんの家はあまりくたびれていなかったけれど、持ち主がいなくなってしまった家というのは少し物悲しい。


(あれ・・・なんか懐かしいからなのか、申し訳ないからなのか、涙が出ちゃった。)

 ほんの10日くらいのことだったけれど、ここで暮らしたこともかけがえのない思い出になってる。

 懐かしい匂いのする布団を被るとすぐに寝てしまったけれど、夢見は良くなかった。


 翌朝、村長さんの家で食事を摂り、皇帝陛下の命で任務中なので、食事が終わったら村を出る旨を伝えると少し残念がられて、それからご好意で保存の利く塩味のパンを持たされた。

 さらに出発しようとしたところで

「カナリアちゃん!ちょっといいかしら」

 コレはどなただったろうか?40歳くらいの女性と20前後のお姉さんに声をかけられた


「はい、いかがなさいました?」

「私は、昨年カナリアちゃんがこの村に来た頃に魔物に殺されたアコの母です。」

「姉です。」

 なんだろうか?


「はい、あの、食べられた子ですね。私と同じくらいの年頃の・・・。」

 今でも覚えている、暁さんが噛み付かれたのと同じくらい衝撃的だったあの光景は、一生忘れることが出来ないだろう。


「はい、そうです。それでお願いがありまして、アコの服を少し貰ってやってくれませんか?あの子自分で服を作る子で、いつか町で自分の作った服を着て歩くんだって言っていたのですが、もうあの子がその夢をかなえることは出来ません、カナリアちゃんは今帝都で働いているんでしょ?お休みの日にでも着てもらえないからしら」

 そういって女性が差し出した服は、丁寧に縫製されたシンプルだけれど可愛い服で


「あ、コレ丁寧に縫ってますね。いただけるのですか?大事な遺品でしょう?」

 私の問いかけにはお姉さんのほうが応えた。、

「服は着ないとダメになるから、カナリアちゃんなら丁度着れるかなって思って。」

「では頂きたいと思います。こんなに可愛い服ならきっとどこで買ったのかってきかれちゃいますね。」

 家に立ち寄り、なぜかアコさんが作っていたらしい、幼児用の服まで頂いてしまった。


「カナリアちゃんかわいいし都会の人だからきっと結婚してから子どもできるのもあっという間でしょ?その子に着せてあげて?」

 なんて言われて女の子用の服を大量に渡されてしまった。



 それから改めて村を出発して、古代樹の森の入り口に差し掛かったのはお昼前

 ぞわり

(今確かに空気が変わった。この下が森の境目みたい・・・。)

 私は空を飛んでいるので魔物の分布が変わったかどうかとかは分からないけれど。


 一旦停止して陛下から渡された地図を確認する。

 村からまっすぐ南へきて古代樹の森に当たる位置・・・、西の方位に・・・先端が二股の大岩山。

 王国側、東のだいぶ遠方の森の中に大きな湖。

 地図と照らし合わせて現在位置を確認する。


「ここから南西の方位にあの岩山が真北に見えるまで移動して・・・。」

 推定されている森の中央付近までまずは空から偵察。


(このあたりかな・・・?)

 渡された地図とは少しずれているけれど、森の木がやけに背が高い地域を見付けた。

 森に入ってから30kmくらいでしょうか?

 ここからは足元の森に分け入って調査しないといけない。


 空を飛べるおかげで楽が出来るけれど、それでもこの森に分け入っての調査というのはやや気が重い。

 私はため息を一つ吐いて一番扱いなれた「銀腕」の鎧装で森に降下した。


 空からの侵入者に森のあちらこちらからギャーギャーと鳥や動物の声、虫の声も聞こえる。

 全身鎧は重たそうな見た目に対して重さを感じさせないほど軽く、頭も覆っているけれどちゃんと音は聞こえている。

 最大開放では30分も持たないので、私の身の丈にあった大きさの銀腕で起動しているけれど、この世界の使い手であるところのセメトリィさんや他の騎士さんたちはこの鎧の威圧だけでも怯んでいたし、恐らく大丈夫だと思う。


 ここの東の森にはセラファントという剣の様に長い角の生えたゾウににた魔物がいて、さらに北の森にはフォレストタイガーという魔物が頂点として君臨いるけれど、そのどちらもセメトリィさんは単独で倒したことがあるそうなのでそれよりちょっと強いくらいならば、倒せるだろう。


 ここの頂点の魔物はどんなのだろう・・・。

 少し歩いても魔物は出てこないし、どこまでも木が生えていて視界が悪い。

 木を切ると魔物が集まってくるという話だったけれどわざわざ危ない橋を渡るのはどうなのだろうか?


 足場も木の根が張っていてすごく歩き難いし、上を見上げると枝葉が幾重にも重なりあっていてお日様が少ししか見えない。

(あれ?なんか動いた様な?)

「きゃっ!」


 ブンと音を立てて木の枝が飛んできたのを避ける。

 パァン!と破裂音を立てて地面に当った枝が砕ける

「何!?」

「アーアーアーアーアーギャギャギャ!」

 手を叩く様な音と気味の悪い声が頭上から響いてきた。


「アーアーギャギャッ!」

「ギャーギャーギャッ!」

 四方八方から同じ様な声が響いてくる。


 頭上の声の主を見付けた。

 猿の仲間と思える形をした毛深い魔物か動物、名前は分からないけれど長い腕で木の枝にぶら下がり、足同士を器用に叩いて音を立てている。

 どうもあの猿たちの縄張りに入ったらしい。


「見逃してくれそうにないかなぁ・・・」

 その醜悪な顔は可愛いお猿さんではなくどう見ても捕食者の顔、並んだ牙がその肉食性を教えてくれる。

 手にした不活性状態の光の剣をしっかりと握り、飛行盾も構える。

 何匹いるのか分からないけれどこんなところでやられるわけにはいかない。


「正直、殺したいわけではないけれど」

 やるしかない、やらなければやられるし、私にはまだやる事がたくさんあるのだから。


古代樹の森に行く前に寄り道しました。


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