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第-156.3話:舞い踊る神楽2

 イシュタルト王国との非公式会談から帝都に戻ってきて数日

 皇帝陛下に呼び出されて一人応接室に出向いた私は、陛下とギエン内務卿に挟まれて、とある命を受けた。


「カナリアよ、此度の会談は非公式であったが故に和平条約などは結んでおらぬ、だがかのジークハルト王は余と手を取り合える思想の持ち主だと十分に認識できた。これからはやはり協調していくべきなのだ。」

 前置きは王様さんのひととなりと国同士の関係について


「陛下、カナリアに思想や政治の話をなさった所で理解できますまい、簡潔に伝えれば宜しいかと」

 ギエン内務卿は、相変わらず私のことを嫌っている様だ。

 言葉もわからなかった頃を見られているし、出自も不明なので見下されるのも仕方ないといえば仕方ないのかな?


(将軍や部下の大臣たちよりましですかね、嫌がらせはしてこないですし)

 むしろ姫様の身を案じていると言えるし、確かに政治やお金の話は分からないし、実際今回の会談でも今後お互いの国内で流通させる貨幣の質を徐々に合わせましょうということくらいしかわからなかった。


「そうですね、私は所詮外様の人間、この国の都合や歴史に興味はありません、今はただこの国の言葉や常識を教えてくださった姫様と陛下への恩義に働きで返すのみです。」

 そのつもりはなかったのだけれど少し険のある言葉になってしまったかもしれない


 しかしギエン内務卿も、もちろん陛下も不愉快な顔をせず話題を進める。

「カナリアよ、そなたに古代樹の森の調査を頼みたい。」

 重々しく告げられたその森の名は、帝国東部から南部に広がる大森林地帯の中でももっとも危険なエリアで、奥まで入り込むと周囲の森の何段階も危険な魔物がうようよいるという地域のことだ。


「調査、ですか?」

 私にはなにか調査出来るほどの学識はないけれど、一体何を調査すればいいのだろうか?


「然様、三騎士最強のセメトリィが認める貴様の実力を見込んでのことだ。」

 王様ではなくギエン内務卿が言葉を続ける。


「先日の会談で、中の王国が北の王国に農地を貸与する代わりに、セントールから入る魔鉄の類を安く売る契約をしていると判明している、余裕があるということだ。」

 これから協調する国であれば豊かなのは良いことなのではないだろうか?

 それと危険な土地の調査というのが結び付かない


「やはり分からぬ様だな、帝国には未だ収穫が安定せず年によっては飢餓に喘ぐ地域が出る、その時は備蓄分を開放して補うが、飢餓が3年も続けて起きれば間に合わん。それに比べて収穫量が多くないとはいえ、ペイルゼン国内での農地開発を続けることを条件にしているとはいえ30年もの間魔鉄の割引だけで広大な農地を貸してやれる程度には余裕がかの国にはあるということだ。いままで我が国の2倍は無かろうと見積もっていた王国の国力だが、3倍にせまるやもしれん」


 苦しい顔で続けるギエン内務卿

「仲良くする国であれば、豊かなのはよいではありませんか?」

 思ったままに尋ねると

「貴様の言う通り、豊かなのは良い、しかし差が大きすぎるのは良くない。加えてあの森は帝国南部には位置しているが まともに人が住んでおらぬため我らの国土とも言い切れぬ。シャ族などはあんな森にでも住めたと言うが・・・」

 少しだけヒントの様なものをくれるが言葉を濁す。


 が直ぐに陛下が続きを補ってくださる。

「我が国は長く亜人を迫害してきた。協力的な亜人も少ないし、命令して亜人の村を作らせても恐らく闇ルートでの奴隷目的に襲う賊などが出るだろう。」

 あぁ・・・と思う、私がセメトリィさんやリスタとカーラと出会ったのもそんな奴隷を扱う商館だった。


「それで、私の行う調査とは?」

「あの森はどういうわけか切り開いても数年で森に戻ってしまい開拓が進まない、木を斬ると魔物が集まり始める、火にも燃えにくい、なにかな魔法的な仕掛けでもないかと思うてな、深部に入り込んで仕掛けがないか見てきてはもらえんか?無論危ないと判断すれば戻ってきて良い。」

 陛下は人が住める土地を拡げたいということか?

(むしろあの辺りを帝国領にしておきたいということか)


「了解致しました。それでは姫様に挨拶して、日程を相談してきます」

「物資などはこちらで用意するので、日程が決まり次第報告してくれ」


 陛下に見送られて部屋を出る。

(陛下は少し申し訳なさそうにしていたけれど、私からすれば軍事系のお仕事よりずっと気が楽かな?)

 少なくとも訓練に付き合っているのに、女の癖にとか、孤児の癖に生意気とか言ってくる兵士はいないのだから・・・。



 三日後に出発することになり、私は保存食作りを始めた。

 幸い私には魔力偏向機(マジカレイドシステム)『デネボラ』があるので、かなりの量の荷物を嵩張らずに持ち込める。

 それでも冷凍庫と同じ程度の保存機能しかないので長丁場なら保存食は必須・・・そのため今は焼き菓子をいくつか作っている。


「カナリア、何を作ってるの?」

 リスタとカーラが調理場で堅パンを作っている私に声をかけた。

「うん今は堅パンとバタークッキー、そっちの鍋は果物を砂糖で煮てるの」

 クンクンと匂いをかぐリスタは嬉しそうに尻尾を振った。

「ジャムかな?」


「ううん、コンポートっていうの、これは試作品で出来を見て前日に作り直すから、これは後で食べようね。」

 何日くらいかかるか分からないけれど、最初の内は普通の食品、後半には保存食を食べないといけないだろう。


「水は魔法で用意できるけれど、食料は用意しないとだから。」

 あとは保存の利く人参やジャガイモに似た野菜と米っぽい穀物に豆、調味料に調理器具。

 初めのうちは新鮮な食べ物も持っていく。

(小さい頃から天音お姉様とお料理してて良かった)

 

「カナリア一人で行くのよね?危険じゃないの?」

 カーラが不安そうな表情で尋ねる。

「んー、危険かも知れないけれど、一人ならいざとなれば逃げられるから」


 実際魔導鎧装(マギリンクフォルト)まで使えばほとんどの脅威は払拭出来るだろう。

「カーラは心配してないけど、リスタは私がいない間に無茶とかしないでよ?」


「えー?別に私無茶しないよ?」

 嘘ばっかり、この間だって奴隷にされそうな獣人を救うために大立ち回りした癖に・・・

 無言でリスタの耳を撫でるとリスタは気持ち良さそうに目を瞑る。


「なんで急にご褒美?カナリアのなでなで好きだけどさ」

 撫でるのを止めると不思議そうな表情で首をかしげる。


「出発したらしばらく会えなくなるから撫で溜めてるの」

 リスタの耳はコリコリしていて気持ちいい、たまに無性に触りたくなる。

 リスタも気持ちいいらしいのでお母様の言うウィンウィンの関係といって差し支えないだろう。


「二人でいちゃいちゃいちゃするのはいいんだけれど、私のことも忘れないでよね?」

 カーラが拗ねている。

「じゃ今日は久しぶりに三人でお風呂会議してから一緒に寝ようか?」

 顔を覗き込んで誘うと顔を赤らめそっぽを向くカーラは、多分拗ねてることを私に見せてしまったことを恥ずかしがっていた。




 出発当日の朝になった。

 姫様に見送られて城を出た私はリスタとカーラをお供に都の出口に向かって歩いていく。

 都を出たという、事実も必要なため都を出た後で飛んで行く予定。


「カナリアはしっかりしてるから、大丈夫だと思うけど気を付けてね?」

 カーラは私の一歩後ろを歩きながら、リスタは私の左腕にしがみついて歩いている。


「カナリア帰ってきたらまたこの間の堅パンっていうの作ってね!」

 試食した際にリスタは堅パンの歯応えが気に入ったらしくて、持っていく分の堅パンにまで手をつけてしまいそうだった。


「うん、今度は一緒に、もっと色々な味の堅パン作ろうね」

 もっともリスタが気に入っていなくとも、陛下にもお見せしたところ堅パンを研究する様に言われてしまったのでそのつもりだ。

 交易をするのに保存食の研究も役立つだろうとのことだ。


 さて城門までたどり着くとそこに知った顔があった。

(うわ、ゲイルズィ将軍・・・)

 厚顔無恥な、でも帝国の軍部のトップゲイルズィ将軍・・・先日の会談でも空気をぶち壊してくれた戦犯。


「獣臭いと思えば、これはこれは姫のメイド殿たちではないですか?姫様がそばにいない様ですが、脱走ですかな?」

 ニタニタと笑い気持ち悪い声で話しかけてくる。


「いいえ、陛下と内務卿閣下からの指示で私一人で地方にお使いです。」

 嘘はついていない、ただあの森の一部はこの男の領地に面しているので場所は隠したいと思ってしまった。


「陛下と内務卿の・・・?よし私も手伝ってやろう、マリオ、ブルーノ、お前たちメイド殿についていけ」

 将軍が言うと二人の兵士が前に出た。


「要りません!私一人の物資しか用意していませんし、それに・・・」

 よりにもよって彼が名を呼んだ二人は私に好色そうな目を向けてくる代表格なのだ。


「それに・・・?なにかね?よもやメイドごときが私の顔に泥を塗る気か?」

 顔を歪めるゲイルズイ


「将軍、申し訳ありませんが任務は機密性を重視するものです。陛下から私が一人で賜ったお使いを、例え将軍相手とはいえ城外のものにバラすのは、私が陛下の信頼を裏切る様なものです。この二人にも私の任務の内容は伝えていません。」

 冷静に断らせていただく。


「それはそうだな、下賎な出のメイドとはいえ陛下の信頼には応える様に!」

 意外なことにゲイルズィ将軍はすんなりこちらの言葉を聞き入れ引き下がった。


「はい、ありがとうございます。それでは将軍閣下もどうぞお気をつけて、カーラ、リスタ、行って来るから姫様のお相手をお願いね」


 思えばなぜここで将軍がすんなり引き下がったのか考えておくべきだったのに、私は一刻も早く彼らと離れたいと思ってしまった。

 将軍らとカーラとリスタに見送られてルクセンティアを出ると、私は人に見られていないか確認しつつ私は古代樹の森へ向けて飛び立った。

三日振りなのに短いです。

ちょっと忙しくなってきたので暫く更新が滞りがちになりますが、なんとか1ヶ月以上空けずに本編の更新に戻りたいと思っています。

明日はお休みなので何とか1つは進めたいと思います

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