第-156.1話:舞い踊る神楽1
こんにちは、桐生神楽改めカグラ・アインベルク・フォン・コノエです。
来週には、アスタリ湖のダンジョン攻略が始まるということで、今日は実際にダンジョン攻略に参加するユーリさんとナディアさん、アイヴィちゃんに、今回は参加しないけれど今後のためにアイラさん、エッラさんと集まって、古代樹の森とヘルワール火山攻略の際の話をすることになりました。
「それではここにいる方だけでいいのですか?」
人死にも含む話なので、心優しいアイリスちゃんやトリエラさんには余り聴かせたい話でもない、ありがたいと言えばそうなのだけれどエイラさんやオルセーちゃん、ノヴァリスさんは聞きに来ると思っていた。
「うん、他の子達はリリやプリムラたちの面倒を見てくれてる。カグラはいまここにいるみんなに、ダンジョンの事を聞かせくれればいい」
アイラさんが、15才になっても少し小柄な愛しい方がそのちいさなおててで私の手を握ってくれる。
「それでは簡単にご説明しますね。」
どこから、何から話そうか、開示出来ない情報もある。
例えば私が異世界人なことはユーリさんは知っているけれど、他の人は知らない。
私がどうして帝国の帝室にお世話になっていたのかとかそういうのは伏せるべきだろう、話始める前に私の思考は鮮明にあの頃の事を思い出していた。
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ゴルフさんが亡くなってから丸一年経ち。
私神楽は、ルクス帝国の帝都ルクセンティアの帝城にお世話になっている
五つばかり年下の姫様にこちらの言葉と文字を教わり最近なんとか簡単な話は通じる様になり
それでも、早口な人や方言のある人なんかとは通じないから、同僚のリスタかカーラと共に居ないときは、筆談をしないといけなかったけれど・・・
読み書きのほかに、この世界の暦や神話、国の成り立ちといった常識も教えて頂いた
城の中での私の味方は皇帝陛下とクレアリグル姫、槍のおじさんことセメトリィさんとリスタとカーラ位で、他の人たちは言葉も分からず常識も無かった私のことを得体の知れないもの扱いするか、一部の特殊な性癖の方は興奮した目で私を見ていたと思う。
特殊、でもないのでしょうか?姫様がおっしゃるには12歳なら結婚もざらで出産も13歳未満は珍しいがそれなりにあると仰っていた。
そして私の見た目はこの世界では整っている部類とのことで。
それならまぁもうすぐ11才になる私をそういう目で見る人がいるのも仕方ないことなのかな
それとは別の枠で私たちを極端に敵視する人たちがいます。
ギエン内務卿やその派閥の方々。
彼らは出自の知れない私を危険視している
それも仕方ないことでしょう。
言葉も話せなかったものが一国の姫の側仕えをしているのだから、その上カーラは孤児、リスタは、この国ではやや差別的に扱われる種族らしい、だから持主が帝室であると示すためにリスタには紋章付きの首輪を着けているのだと誰かがいっていた。
「よし!きれいになりました。」
ルクセンティアの下級墓地に改葬したゴルフさんのお墓を掃除し終わり、私は帝城への帰途につく、もう以前の様に人さらいや人身売買目的の人たちが近寄ってくることはないし、私の持ちものを奪おうとするものもいない、私が帝室のメイドだと言うことは知れ渡っているから
姫様は割りと市井に興味を持たれている方で、よく護衛を伴って街を視察するので、私も自然と周知された。
カーラと私は年の比較的近いメイドとして重用される様になっている。
私は多分護衛も兼ねているけれど、その事もギエン内務卿やゲイルズィ将軍たちにはよい顔をされていない。
ある時、皇帝陛下と姫様が揃って隣のイシュタルト王国の国王と皇太子と非公式会談することになりました。
場所は中立地帯グリム盆地北側にあるツェラー渓谷内、かつて高地系サテュロス族の小国だったという都市国家の遺跡カプラスだそうで。
「カナリアよ、今回の会談ではお互いの護衛の兵はカプラスの市街地に待機させて、旧城跡にはこちらもあちらもごく限られた人数しか入らないことになっている。メイドや使用人たちは入れられるが武官はセメトリィとゲイルズィ将軍だけとなる、王国側も恐らく2名か3名の武官とメイドや秘書官を連れ込むだけとなる。が、そなたはクレアのメイドとして付き添い、いつでも武装できる様にしておいてくれ、一番はクレアの安全の確保だ。」
皇帝陛下に呼び出された私は、その会談への付き添いを命じられました。
「カナリア、たよりにしてますからね、私と父上のあんぜんがいちばん、あちらの王さまたちに危険があった時もお守りするように」
クレア姫がその若草の髪を弄りながら私に指示を出す。
まだ幼い姫様をそんな危険な、他国との、それも非公式の場に連れ出すと言うのでしょうか?
「陛下、姫様はまだ幼いです。そんな危ないかもしれないところにお連れになるのですか?」
姫は年のわりにしっかりしているとはいえまだ6歳前、そんな幼子に言葉と文字を教えてもらったのは少し恥ずかしいが、そんなことより今は姫の安全について。
「そなたの言うことはもっともだがな」
私の反論とも言える言葉に陛下はその柔和な表情を崩すことなくお応えくださる。
「イシュタルトの国力はルクスの倍近くで、この大陸最大の国家だ。そんな大国と300年以上、実際には戦争をして居らず交易も小規模ながらしているものの公式には継戦状態だ。余の祖父の代までは帝国と王国の方針は噛み合わなかったが、余とかの国のジークハルト陛下は方針が近い、ここで歩み寄り私の代で健全な状態に戻しておきたいのだ。」
少し目を閉じて間をあける陛下とその心中のなにかを察しているのか膝に甘える姫様
「今回はその時の為の布石だが、我々の方が国力が低い以上、国としては対等に、だが我々が下手にでなければならない、しかし我が子はクレア以外夭折しておるからな連れていかざるを得ない、それに、ジークハルト陛下と私が懇意にしては困ると、余計な策謀を巡らせる者もいるかもしれない、それが帝国の内患である時にクレアを旗頭にでもされてはやりきれないからな。」
そういって姫様を撫でる陛下は優しい表情で、年取ってからできた姫様をどれだけ大切に思われているかが伝わってきました。
なぜ四人いた男子がすべて夭折してしまったのか、私にはわからないけれど、すでに純粋血統の帝室は陛下と姫様だけらしいので、一所にまとめておけば、下手なことを考える輩もいないだろうとのお考えの様子
それから姫様をお世話と護衛するためにメイドが3名つくことになり、私以外は長くお城に仕えている先輩メイドのサマリさんとエイプリルさんが随行することに決まる。
「カナリア、気を付けてね、カナリア可愛いから一人でいたら、王国の大臣とかに手篭めにされるかも。絶対姫様の近くから離れない様にね!」
私のことをすごく心配してくれてるのはわかるけれど・・・
「リスタ、私は姫様をこっそり護衛するためにお側につくのだから、私の安全の為じゃなくても姫様の近くは離れないよ。」
私と一緒に姫様にお仕えしたリスタは姫様よりも私のことを大事に扱う傾向があるためよく怒られている、それでなくても差別的に一部の大臣からメス犬だの動物だのと呼ばれて蔑まれることがある彼女の、自らの立場を危うくする発言にも困りもの。
「カナリアは実際に珍しい黒髪だし容姿もすごく整ってるから、心配なのはみんな一緒だよ?」
同じくカーラが私の身を案じてくれる。
「あっはっは、カナリア優秀だけど、ちょっと無防備な所あるもんね、私らが先輩メイドとしてそういう所は守ったげるから、リスタとカーラは安心して留守番お願いね」
「カナリアも、私たちのことはいいから安心して姫様と自分の身体を守ってね」
先輩メイドたちも陛下と姫様が選ばれただけあって平等でお優しい方たちで基本的に和気藹々としている。
頭をわしゃわしゃ撫でられて、折角キャップに収まっていた髪がはみ出てしまった。
「カナリア髪きれいだよねー、キャップにいれないといけないのがもったいない、てかキャップに入ってたのにこんなにクセがつかないのがすごいよね!」
なんて他愛ない会話
「サマリ先輩!苦労して収めたのに~」
もー、とふくれて見せながら実は余り悪い気はしていない、このメイドの同僚たちこそ、今の私にとっては家族みたいなもので、こんなじゃれあいが今の私が私を保てている生命線なのだから。
12日ほどかかって目的地のカプラスに到着しました。
一部の大臣は疲れきって「わざわざ皇帝陛下が歩み寄っているのだから王国の方がもっとこちらの土地まで足を運ぶべきだ!」なんて恥知らずなことをいっているがさすがに冗談だと思いたい
先方も時間には正確な方たちの様で、あちらの方が遠くから来ている筈なのにカプラスに私たちが着いたタイミングて、すでに設営を開始していた。
二日目からは会談がスタートした。
私も姫のメイドとして会談の場にはずっと入っていたが、関税や治安維持費の負担の話など私には難しい話を詰めて居られた。
私は姫様が退屈されているときにお茶やお菓子を追加する役をしていたのだけれど、ふと視線に気付いた。
(イシュタルトの王様?)
視線をたどると、それは会談中のはずの相手側の国王様
なぜかじっと私を見つめている。
(なになに?私ナニかミスでもした!?)
どうして王様さんが陛下や姫様ではなく私の様なメイドを見るのか・・・
(まさかとはおもうけれど、護衛戦力だと見抜かれたとか!?)
帝国側は会談の場にはセメトリィさんとゲイルズィ将軍しか武官は入れていない、他は陛下と姫様、私とサマリ、エイプリル両先輩、ギエン内務卿以下政治官4名で全てだ。
王国側もほぼ同様で、王様さんと皇太子さん、武官2名と文官3名、そしてメイドさん5名。
姫様を守るためとはいえ、前もって決めた護衛の人数を偽って居るのが、私のせいでばれたとしたら・・・
(怖い・・・暁さん・・・)
自分の手を握りこんで視線から逃げる様にサマリ先輩の陰に隠れる。
「(カナリアどうしたの?)」
姫様が直接心に話しかけてきた。
不安がらせてしまったらしい。
「(いえ、どうもイシュタルトの王様に見られている様で)」
心に念じて応えると姫様は愉快そうに言う
「(カナリアがかわいいからよ、クレアのお気にいりだもの、ほらこんなにかわいい。)」
そういうと姫様は急に私のメイド服のスカートを軽く持ち上げた。
「ひゃ!?」
なんの心構えもしていなかった私は足が急に空気にさらされた感覚に、ぞわっとして、小さな悲鳴をあげてしまった。
全ての視線が私に集まる。
(目立ってしまった目立ってしまった目立ってしまった目立ってしまった目立ってしまった・・・)
泣きそうになる、これで護衛だなんてばれたら!?
「どうしたカナリア、珍しいな、声をあげるとは、だが今は大事な会談の最中である」
陛下がやんわりと注意する
「陛下!やはりこの様な下賎な娘は帝室のメイドにふさわしくありません!」
ギエン配下の一人が対外的会談の場だと言うのにここぞとばかりに声を荒らげるが、姫様がすぐさまに謝罪する。
「ごめんなさいおとうさま、クレアがカナリアのスカートの中に手をいれてたの」
すると陛下は優しい表情で告げる。
「クレア、真面目なカナリアで遊ぶのは止めなさい、長い話し合いで退屈ならば、少しカナリアと遊んできなさい。ジークハルト、娘が退席しても良いだろうか?やはりまだ早かった様だ。」
陛下はきわめて気さくに王様さんに声をかけ、あちらも同様気楽に応える。
「うむ、構わんよ、ノイシュ、クレアリグル姫と年の近い娘がいるだろう?姫と可愛いメイド殿に付き添って差し上げなさい、メイド殿、そなたの可愛らしい声で、我らが可愛い民草のために政治の話をしているのだと思い出した。じゃから気に病まず、姫の遊び相手を務めなさい。」
どうも王様さんに気を使って頂いた様だ。
「それではゲイルズィが護衛に就きなさい」
陛下はゲイルズィ将軍に護衛を命じるが、ゲイルズィ将軍は抗います。
「しかし、それでは御身が!?王国の武官が不埒な謀りをするかもしれません!」
ザワリと空気が悪くなる。
王国がと言わなかったのはまだマシなのかも知れないけれど、ゲイルズィ将軍は政治をする気がないのでしょうか!?
「なんのつもりだ!」
「なんと言う侮辱か・・・」
相手の武官は怒りを顕すが、ゲイルズィ将軍は涼しい顔で言う。
「そこでムキになると言うことは少なからず後ろめたいことがあるのだろう?やはり浅はかな国よ」
と、したり顔で言う。
(明らかに自分の無能さをひけらかすだけのゲイルズィ将軍にさしもの内務卿も口が塞がらないみたい。)
それに対して王様さんは王様だけあって余裕な態度だ。
「ゲイルズィ殿が出るまでもなかろう、姫のメイド殿だけあって、歳の割に中々の手練れの様にお見受けする、少なくともゲイルズィ将軍よりは実戦向きであろう?」
と仰った。
やはり私が護衛だとはばれていたらしい
しかし今度慌てたのはゲイルズィ将軍の方だ。
私の方を睨んで顔を真っ赤にしている。
そして多分怒鳴ろうとして息を吸い込んだが
「ゲイルズィ!」
皇帝陛下の声が先に響く。
「は、なんでございましょうか陛下」
すぐさま跪く将軍に陛下は怒気を孕んだ声で告げる。
「これ以上恥をかかせてくれるでないぞ?姫の護衛をする必要もない、幕舎へ戻っておれ!!ガリク、貴様もだ。」
先程私の悲鳴に対して文句を言った政務官にも退出を命じる。
「な、陛下、わたくしは!?」
「黙れ!余とクレア以外の誰が、帝室のメイドのことに文句をつけられようか!?」
「陛下!何卒!」
「陛下の御身を慮ってのことでございます。」
「「陛下~!」」
二人して陛下に謝罪するが、陛下はその日二人を幕舎に戻しました。
「ギエン、後程そなたからよく指導しておく様に、ジークハルト、すまなかった、こちらのものはどうも血気に逸る様だ。」
陛下は王様さんに頭を下げて、王様さんもそれを受け入れた。
「いやなに、可愛い姫とメイド殿に免じて忘れよう、メイド殿も気に病まぬ様にな」
と笑いかけてくださった。
やはり子どもには退屈であろうと、王様さんがおっしゃり
翌日の会談も昼を過ぎたら姫様は退出することを許可され、私も遺跡の古い街並を見て回って楽しんだ。
日程を全て消化して帝都に戻ったときには季節が変わっていた。
途中で兵の大半と大臣たちだけ帰し、静養地に寄ったこともあり、実に50日もの間帝都を空けてしまった。
それからさらに数日たったある日、陛下に呼び出された私は謁見の間の裏にある応接室にやって来た。
(姫様抜きで呼ばれるのは珍しい)
そこには陛下とギエン内務卿がいて
「カナリアよ、セメトリィすらも敵わぬというソナタの魔法の力を見込んで、やってほしいことがある。」
陛下は少しだけネガティブな感情を感じさせる声で私にとある命を下した。
アスタリ湖攻略前に参考の為古代樹の森を攻略した際の話をユーリたちに話す為思い出しているところです。




