第150.9話:声
この世界で、最初に知恵を持った生物はドラゴンだった。
ドラゴンだけが神王と聖母より以前に知恵を持った生物だった。
故に顕現した神王と聖母はドラゴンの王に提案した。
「この世界を見守る役を負ってくれないか?」
ドラゴンの王は平伏した。
あたし、オルセーがドラゴニュートになってから4年が過ぎた。
あたしは龍王の娘のナタリィが初めて排卵した卵から生れたドラゴニュートなので、少し特別らしくそれなりに大事にされている。
(ナタリィが、ドラゴニュートのあたしのお母さんな訳だ。)
少し不思議な感覚
ドラゴニュートは生まれたときから人化することができ、その姿は生前の自分自身の姿だけれど、ドラゴニュートとしては赤ちゃんなので柔らかい食べ物しか食べられなかったり、体を動かすのが覚束なかったりと大変で、ナタリィに世話してもらった。
ドラグーンは神々の祝福は受けなかったけれど、その頃に人化と、体の構造の変化を得ていて、それ以前のドラゴンとは体の構造がことなり、授乳による子育てをする。
ドラグーンとドラゴニュートはほぼ同じ違う生き物だ。
ドラグーンは有精卵でドラグーンか、無精卵に祝福された魂を合わせてドラゴニュートを産み分けれるけれど、ドラゴニュートの繁殖は一般の亜人に準じ混血する。
ドラゴニュートの混血はドラグーンとの場合ドラグーンが、ドラゴニュート同士ならドラゴニュートが、その他の人種との場合ドラゴニュートよりか相手の人種よりのハーフ、または人化龍化の不完全なリザードマンが生まれる。
ドラグーンは1500年~15000年以上生きるとされるがドラゴニュートは150年~1200年ほど、リザードマンは60~150程度とバラツキが多い種族でもある。
ドラグーンは非常に長命な為あまり頻繁に繁殖しないが、子どもがドラグーンでもドラゴニュートでも親子の情はちゃんとあるらしくドラゴニュートでも親ドラグーンの元で養育される。
ゼフィランサス、ダリア、フィサリスは龍王に仕えるメイド(みたいななにか)が生んだドラゴニュートで、ナタリィのメイドや従者みたいなものらしい。
「オルセー、今日は試験頑張ってください。」
朝食を摂っているとナタリィがあたしの口周りについた食べかすをとってくれながら今日のことを応援してくれた。
「うん、頑張るね、早く皆に会いたい」
ナタリィは以前はあたしのことをさん付けでよんでいたけど、ドラゴニュートになってからは呼び捨てる様になった。
それと・・・
「オルセーが島を出たら、私もお役目に戻らないと」
そういいながら頬ずりしてくるナタリィ、人化しているとあたしと大差ない年頃に見えるけれど、ナタリィ的にあたしはもう娘なのですごくべたべたしてくる。
「もーナタリィってばぁ」
あたしの方もドラゴニュートになった直後は、ナタリィの小さなおっぱいを吸って成長したので彼女のことは慕っている。
「そろそろ行かないと、学校に遅刻しちゃう。」
「それはよくないよね、行ってらっしゃいオルセー」
ナタリィがほっぺにいってらっしゃいのキスをくれる
「行って来るねナタリィ」
だからあたしもナタリィにキスを返す
幼年のドラゴニュートとドラグーンの通う学校は龍の島中央にある神殿から歩いて5分ほどのところにある。
といってもドラゴニュートは生まれたときから言葉も話せるし、生まれ変わる前の常識もあるので、教えられるのはドラゴニュートの役割についての知識を生後3年目の年から丸1年かけて教わる。
そしてドラグーンの幼体は成長がゆっくりで知性を宿すのが遅いので生後3年目から10年ほどかけて教育される。
地上に降りることを希望するドラゴニュートは試験に合格すると、地上での活動を許される。
試験の内容としては前述の使命に関する簡単な知識と人々の生活を見つめる上での心構え、人に龍の力で迷惑をかけないこと、目立たない様力の制御を完璧にすることなんかだ。
元が人である以上前者はあたしにとって、簡単な内容だった。
今まで自分が信じていた常識に沿って考えるだけだ。
後者は頑張って修行した。
ドラグーンもドラゴニュートも数はそれなりにいるけれど寿命が長いからか、学校であたしと同い年なのはドラグーンの女の子クリストリカだけだ。
クリストリカはまだちゃんと4才なので甘えん坊で可愛い、伝説の種族も赤ちゃんは赤ちゃんということらしい。
学校で2人きりの同い年なので、これまで仲良くさせてもらって来たけれど試験も合格したのでもうすぐお別れ、少し寂しくはあるけれど、ドラゴニュートの寿命はすごく長いので、地上暮らしを終えたときにはまた仲良くしてもらおう
龍の島、または龍の巣と呼ばれる空中を浮遊する巨大なこの島の大きさは、一番小さな大陸ハルピュイアの1/5ほどの大きさがあるそうで、一年の半分を暗黒大陸沿いに残り半分はそれ以外の大陸沿いに海上を、上に住んでいるドラグーン、ドラゴニュート、リザードマン、ヒトもろともに移動しているらしい。
サテュロス大陸には大陸西側から南西部にかけて7月中頃から8月頭まで接近しその後南のハルピュイアに向かう。
今は10月頭なのでまだ一年近く島にはいられるけれど、次の時、とうとうあのウェリントンに帰ることができる。
あたしは最初、生まれかわる必要はないと考えていたし、死ぬのも怖くない、笑って死んでやると思っていたけれど、いざ死ぬ時は怖かったし、寂しかった。
今は生まれ変わったことに、ナタリィたちと出会えたことに感謝している。
「早く皆に会いたいな・・・」
時期が来るまでクリストリカの甥にあたる2歳の男の子(クリストリカの907歳上のお兄さんの長男、クリストリカにはもう一人562歳上のお兄さんもいる)のシッターをしたりして過ごして、とうとうサテュロスに降りると決まった前日は興奮して眠れなかった。
ナタリィやクリストリカ、シッターの仕事をくれたお兄さん夫婦、島での生活を支えてくれたゼファーたちに別れを告げて、一番飛ぶのが上手なダリアに龍化して乗せて貰い
前回ここから龍の島に昇ったというレジンの森の真っ只中に降下した。
今回はサテュロスに降りるのはあたし一人で、ダリアを含めてナタリィたちは次のハルピュイア大陸に1年その後一年間島に戻りその次はセントールに降りて調査して、と予定があるのでダリアは慌しく帰って行った。
「さてと・・・ここからは一人だ」
大きな背嚢を背負ったあたしはつぶやいた。
ここからウェリントンまでは、人の足で歩いて1週間くらい、目立たない様に龍化してこっそり走るのでたぶん二日ちょっとくらいかな?
まずは近くの集落でお金を工面しないといけない。
このレジンの森には大小50ほどの集落が点在しており、そこにはフィオナ族とシャ族、キス族、サテュロス族など多数の亜人種たちが暮らしているそうだ。
ナタリィから持たされた地図に従って小一時間ほど歩くと、キス族の町アメティッシュに着いた。
そこで龍の島から持ち込んだ金属を売りイシュタルト王国の貨幣を受け取った。
人の手でこの辺りまで金属を運ぶのはそれなりに骨なので高く売れた。
空間魔法を使えれば重さを気にせずに運べるが、使い手が少ないらしい、その点龍の島には収納袋と呼ばれる魔道具があり容量は大きくないけれど重さは無視して運ぶことが出来る。
地上では人目につかない様にしないといけない道具の一つだ。
(ウェリントンには空間魔法どころか魔法使いが一切いなかったけど、この町は魔法使い自体は結構いるみたいだ)
手に入れたお金の大半を収納袋に収め、残りをお財布に入れてお昼ご飯の場所を探す。
適当に入ったお店で、ウェリントンでも良く食べていたウサギを野菜と一緒に塩焼きしたものを食べた。
龍の島では鳥は良く食べられているけれど、ウサギは高級であまり食べられなかったのだけれど、この食堂ではそこそこの値段で食べられて、地上の味の懐かしさにちょっと涙が出てしまった。
夕方まで広場のベンチで昼寝し、それから町を出た。
食料や飲み物は収納袋に用意してあるし、ウェリントンに着いたときのイイワケも用意してある。
今夜は日付が変わる前くらいまでに道のりの半分ほどを行き、人の足で2日半かかるギュレシという町まで行き、ちょっと道に迷って到着が遅くなった風を装って宿を取った。
宿と言ってもさっきの町とは違い僻地の町なので宿屋や旅館はなく教会にお布施して部屋だけ提供してもらった。
起こしてしまったシスターのお姉さんにはごめんなさいを言って、干し野菜と塩を追加で寄付した。
ギュレシは人口1200人程度の町だけれど、少し前に流行病で30人ばかり亡くなったらしく教会の孤児院には現在子どもが6人いるらしい、食べ物もお金もいくらあっても困らないということでとても喜んでくれた。
翌日はちょっと遅く起きて
教会にお金と食料を追加で渡して、子どもたちとお昼をご一緒させてもらった。
普通はやっていないことだけれど、あたしが子どもだからというのと、食材持ち寄りだったためシスターさんが気を利かせてくれたのだ。
それからお礼を言って夕方になる前に隣村に行くからと言って村を出た。
そして昨夜と同じ様に、日付が変わるくらいのところで適当な村に入りこの日は村長さんに岩塩を渡して泊めてもらった。
翌日は起きてから、昨夜の残りだという猪肉のシチューを食べさせてもらってから出発した。
夕方には、ウェリントンに着く
(昨夜ドキドキして眠れなかったや・・・。)
皆なんていうだろうか?
死んで6年たったはずのあたしが元と同じ位の姿で帰ってきたらきっと驚いてしまうだろう。
ママやパパに抱きしめて欲しい。
マディソン神父はびっくりして死んじゃうかもしれない。
想像すると楽しくなってきていた。
これからの生活に心が躍っていた・・・それなのに。
「なぁに・・・?これ・・・」
村は村じゃなくなっていた。
草が生い茂り、あたしの家もない。
ほとんどの家は明らかに人の手によって解体されていて
残りの一部は手入れがされていない状態だと分かる。
(なにが、あったかは分からないけれど・・・)
とりあえずあたしのお墓があるはずだし、墓地に行こう・・・。
教会の近くの小高くなっているところに墓地があったはず・・・・
恐る恐る、墓地に向かって歩く歩いてすぐに立ち竦んでしまった・・・。
あまりにもたくさんの墓標・・・。
つい30分ほど前までは、あんなにも楽しい未来に心躍っていたというのに・・・。
自分の墓を探す・・・。
ほとんどの墓碑は急拵えなのか木に彫られて作られている。
そんな中左の入り口側のいくつかだけが石造りの見慣れたお墓で、一つだけ見慣れないシルエットだったので恐らくアレだろうとあたりをつけて近づいていく。
最初の辺りにカルロスと読めるものがあった。
途中にケイトと読めるものがあった。
・・・そして今あたしの目の前に、予測の通り石造りの見知らぬ墓はあたしの名前が彫られていて、その右隣にテオロ・グランデ、オルリール・グランデと続いている。
その横にリルルとリルルの両親の名前も刻まれていた。
「やだよ・・・なんで・・・だよ・・・。まだあれから6年しか経ってないはずなのに・・・。」
あたしが生まれなおして5年しか経っていないというのに
コレでは何のために生まれなおしてきたか分からない
「ママから貰った体を捨てて、ヒトであることを捨ててその結果がこれ?」
あたしの・・・帰る場所は・・・・?
「ふぇぇん・・・うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!ママ!パパ!リルル!トーレス、アイラ、アイリス・・・ノラ、モーラ、ケイト」
頭の中に一人ひとり思い浮かべては消えていく。
やだよ・・・やだよ・・・。
あたしは泣いた。
泣いて、泣いて、泣きつかれてそのまま眠った。
それからどれくらい経ったのかは分からないけれど
聞き覚えのある声が、叫びが聞こえた気がしてあたしは目を覚ました。
更新遅れております申し訳ありません、オルセーとノヴァリスでウェリントン(ダンジョン)を作るところも書こうかと思いましたが、都合で後回しにすることにしました。
次回は神楽の話を挟む予定です。




