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第150.5話:慟哭

 気が付くと暗い所にいた。

(ここはどこ?)

 足元にはただ立っているという感覚があるだけで、ここが石畳なのか茂みなのか家の中なのか、それすらも定かではない。

 ただ空を見ても、足元を見ても真っ暗闇、髪が肩に触れているから、足元が下なのは間違いないと思うけれど・・・?


「なんで逃げてくれなかったの?」

(え?)

 声が聞こえた。

 懐かしい、懐かしい声。


 それは幼い頃の私にとって全能とも思えたあの人の声。

 そして、その能力全てを以てなお敵わない人がいる、上には上がいるのだと、私に無力感を知らしめた・・・


「なんで、さっさと逃げなかったのかって訊いてるのよ」

(逃げたよ?逃げたけどさ、仕方ないじゃん?足元見えなかったんだよ、夜にあんな深い森に入ったことなかったんだもの。)

 なんでそんなに私を責めるの?


「やっと見つけたと思ったのに、あなたは何者にもなれずに死んでいったの?この私が身代わりになったのに」

(アルン姉!責めないでよ、私も一生懸命・・・っ!?)


 突然目の前に粘液まみれのアルン姉が苦しそうな顔で現れて、私を見つめた。

 生気のない濁った瞳はいままでみたことのない表情で私を睨んでいた。

「アルン姉ぇ!!」

 私の手は宙を切った。



(夢・・・・?どこからどこまでが夢だったんだろう?)

 私は天井の崩れた祠の様な場所に裸で横たわっていた。

 目を開けた時私は右手を虚空に伸ばし、姉の名前を呼んだ。

 体を見ると素っ裸で、記憶にある、多分記憶のはずのケガは存在しなかった。

(お腹も、足も、背中も綺麗なものだ。)

「ここは・・・?」


 見覚えはある様なない様な・・・夢か現か、意識を失う前に見たのと良く似た紋様の彫られた壁が、しかし記憶と比べると随分と朽ちて残っている。


 天井も、あったはずなのに崩れてるし、あれが夢でないとしたら、私をここに運び込んだエントが近くにいるはずだけれど、それもいない。

「体、普通に動く」


 私は体を起こすと辺りを見回してみた。

 やっぱりエントはいないし、ここは洞穴だったはずなのに、崩れていて上側が開いている、そして・・・


 目の前に不思議な質感の斧があった。

 あったというか、地面に刺さっていた。

 やはり崩れているが、明らかに自然に出来たものではない紋様の刻まれた岩に無理矢理叩きつけたみたいに突き立っていた。


 自然と手が伸びる。

 柄は私の肩より少し上にくるくらいの長さで、刃は片側のみ極端に下側が長い半月型、刃のない方には多分頭の部分を重くする為の円柱形の金属の塊がついていて上側先端にはナイフみたいな短い刃が付いている、変わった形の斧だ。


 握ると不思議と手に馴染む。

「伐採用にしては上のナイフが邪魔だし、枝打するのに重りは要らないよね?」

 だとすると、屠殺用かな?


 ここを出たらまたエントに襲われるかもしれないし、武器はあった方が良いよね?

 不思議と馴染むし。

 そう思って斧を引き抜くと

「あれ?軽い、っていうか、体の一部みたいな感じ。」

 持っていけそうだ。


 しかしこの斧軽いのはいいけれど、ちょっとかさばるのでこの崩れた元洞穴を出るのに岩を登るとき邪魔になりそうだ。

(背負ったりできたらいいけど私は下着すらつけていないし・・・)

「あれ!?斧がない!!」


 いざ瓦礫を登ろうとしたところ、登るのに邪魔なはずの斧がなくなっている。

(登るには邪魔だけど、あれがないと困る、どこに行ったの?おとしたかな?)

 そう考えた途端手元に斧がある。

「あれ!?」

(うーん・・・?)


「邪魔だなあ・・・・ちら」

 斧は消えている。

「ないと困るなぁー、ちら」

 斧は手の中にある。


 どうも出し入れ出来るっぽい!

 生活魔道具なのかな?

 そういえば木こりの人たちはいつも斧を持たずに森に入っていき、帰りも斧を持たずに帰ってきていた。

 てっきり作業場の近くに置きっぱなしなのかと思っていたが・・・

「なるほど、すごい便利。」


 裸なのでもう少し苦労するかと思ったけれど、岩肌でケガをすることもなくすんなり脱出に成功。

「もうあんなに日が高くなってる、ウェリントンに走るか、アルン姉を助けに行くか・・・?」

(肌寒いので服も欲しいところ・・・)


 うん、先にアルン姉を助けに行こう・・・この斧があるからエントの繊維は裂けるはず。

 あのエントならまだ消化液も出ていない時間のはずだ。

 問題は、いまいる場所がわからないこと。

 高い木に登り辺りを見渡しても、見える範囲に目印になるものがない


 とりあえずイバラエントの群生地を探して、そこから現在位置の確認と壺型エントとセラファントの生息地の重なる位置を探せば大体の位置はわかるはず


 方針を決めたら後は走るばかり

(待っててね、アルン姉!)

 それから10分程で村の方角、エントの分布、セラファントの分布もわかったし後は辺り探すだけ、だったはずなのに・・・

(アルン姉・・・どうして見つからないの?)

 エントやセラファントの気配はそれなりにあるけれど歩き回れど歩き回れど姉の気配はない。


 捜索開始から多分3時間くらい、お日様も少し傾いてきた。

(もう少し帝国側までいってみようかな)

 決めたら即行動・・・。


 エントに襲われたはずの地点から帝国側に移動してみる、辺りに注意を向けながら歩いていると、把握できる範囲ぎりぎりに人の気配が感じられた。

「姉ちゃん!?」

 思わず走り出す。


 それから5分ばかり走ったら武装した男たちがたくさん見えた。

 躊躇する、私はいま下着すら着けていない生まれたままの姿で斧だけ持っている状態だ。

 こんな姿をたくさんの人の前にさらすなんていくら私が13の子供とはいえ恥ずかしい、でもきっと山狩りしてるのだから女の子を見つけて保護してるかもしれない。


 でも待てよ?私帝国側に走ったからこいつら帝国の兵だよね?この方向にはホーリーウッドの町も基地もないし、でもウェリントンからの距離で推定すればここはまだ王国の領土のはず・・・

(戦争?昨夜のアレも帝国の斥候だった?)

「確かめないと、あの人たちがいい人たちなのかどうか」


 幸い裸で森を走ってきたから、擦り傷は全身にある。

 斧は消しておこう。

 胸は・・・ないからいいや、下は手で隠そう。

「すーはーすー・・・た、助けてえ!」


 私は人の特に少ないところを狙って男たちに向かって駆け出した。


 すぐに6人の男が私を見つけて駆け寄る。

「そんな格好でどうした嬢ちゃん?この辺りの村の子かい(裸の女だ。)」

「魔物に襲われでもしたか?それにしちゃ股は汚れてねぇな、逃げてきたか(魔物の後は嫌だが、これなら大丈夫そうだな)」

「胸はないが中々綺麗な顔じゃないか?(従軍でしばらく女日照りだからな、こんなガキでも旨そうに見えるぜ)」

「おいジャック、せっかくの若い女だ、いきなり腹を殴ったりはするなよ、お前が最後だからな?(この間も四人でメスネコを買ったのに2週目まで行く前に壊しやがってよ)」

(ジャック!?)


 その名前に反応するけれど、昨日私を襲った男ではなかった。

 まぁ、ジャックなんてメアリーくらいどこにでもいる名前らしいし、仕方ないか。

 それよりも・・・

「嬢ちゃん災難だったな、魔物に襲われて命からがら逃げてきたんだろうに(お陰で俺たちゃ女にありつけるからありがたいぜ)」

「俺たちは明日から戦争するから、今ここにいるのがばれちゃいけないんだよ。」

 男たちは一様にいやらしい目をしている。


「でな?お嬢ちゃんは死んでもらうけれど、ただ死ぬのも可哀想だからさ、最後に良い夢を見せてあげよう。(お嬢ちゃんにはどっちにしろ悪夢だろうがな)」

 そういって私の体に手を伸ばしてきて、ボトリとその手が落ちた。

「あ?」


 そうか、こいつら全員がそうか

 探れる範囲に100人以上が10個以上ある。

 見える限り、装備も整ってるし同じ槍と斧とを交差させた紋章のワッペンがついてるから、同じ軍勢、同じ目的なんだろう・・・

(周りの6人はなにか喚いているけれど、まぁもういいや)

 斧を軽く一回しすれば首という首が落ちる。


 不思議な感覚だ。

 初めて人を殺したはずだけれど、そこに感慨みたいなものはなかった。

(なんでだろうこの人たちのこと、ウェリントンのみんなと同じ様には想えない。こいつらは敵、全部解体してしまえ!)


 そこからはあっという間だった。

「敵襲ゥゥゥゥゥゥグバァ!」

「女の子が、可愛い女の子が!斧を!!」

「将軍お逃げください!ここはきけゲェェェエ!!」

「ま、待て!金ならー」

「く、首のなくなった兵士が、ぎゃぁぁぁぁ!!」


 途中から私が首を落した屍体も動き出して敵を襲っていた。

 私にはそんな力はないはずだから、多分この斧がすごい道具なんだろう。

 2時間程で、誰もいなくなった。

 動き回っていた屍体も役目を終えると、ただの骸にもどり、今や血のにおいを嗅ぎ付けたエントたちだけがうごめいている。

 結局100を20以上も足した数の遺体が出来上がり、まだ温かく新鮮な肉を求めてエントがワラワラワラワラと・・・エントも嫌いだから伐採しておこう。


 何となく、エントには嫌悪感がする。

 寄ってきたエントを片っ端から薪に代える。

 エントから作る薪は、普通の木より長い時間燃えるので篝火なんかを焚く時に便利だから少しもってかえろう。

(帰る?どこに・・・?)


「ウェリントン!そうだ、姉ちゃんが無事ならウェリントンに帰ってるかも!」

 ここまで探していなかったのだから多分もう、森の中を探してもそうそう姉は見つからない。

 だったらウェリントンだ。

 アルン姉が無事に救助されるか逃げきってるかもしれない。


 そうと決まればウェリントンだ。

 服も着たいし、服・・・?

 ウェリントン(推定)に向いていた体にを翻し後ろをみる。

 こいつらの着てた服は真っ赤になってるけれど背嚢をあされば防寒着とかあるかも?



 薄い生地だがそこそこ暖かく軽い防寒着を身に纏い、私はウェリントンに向かって走る。

 途中見かけたエントは無造作に切り捨てる、生命力の強い魔物だけれど心臓部を壊せば動かなくなるのはさっき覚えた。


 ウェリントンに帰りついた。

 多分ウェリントンだと思う、けれどどうしてだろう

(なんで、こんな草ぼうぼうなんだろう?)

 何年も人が住んでないみたいに、草が生い茂ってるしそれに

 家が・・・・ない?


「道を間違えたのかな?んーん、教会があるし、ウェリントンで間違いないはず・・・だとしたらすぐ近くに私の家があるはずなのに」

 念のために教会の中に入って確認するけれど、ほこりまみれなのと、懺悔室が倒れていること以外はいつもと変わらない。


 昨日も一昨日も勉強していた部屋に入るけれど、テーブルも本棚も赤ちゃん用ベッドも記憶と変わらず、ただ降り積もったほこりが、かなりの時間が経過していることを私に教えている。

「なに?なんなの?」


 その後村の中を歩き回ったけど、何も、誰も、見付けることはできなかった。

 訳がわからない。


 あとは教会の裏手の墓地くらいだけれど、あそこはまだ数えるほどしか眠っているものがいない。

 村人全員がお参りしているわけもないし、そもそもこの村に今人が住んでる様には見えない、賊に襲われたことでみんなどこか安全な土地に逃げたのかもしれない。

 それなら私もお墓参りして、それからみんなの後を追いかけよう。


 そう思って、墓地に足を踏み入れて・・・ゾッとした。

 数えきれないほどの墓碑に、忘れられない名前がいくつもいくつも刻まれている。


 ウェリントンは私の世界だった。

 私はウェリントンしか知らない、ウェリントンしか要らない

 場所がウェリントンじゃなくても、ウェリントンの友達が居ればそこで私は生きていられるそう思ったのに。

 でも、これはダメだ・・・これはもうダメだ。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・!」


 立っていられなかった。

 前なんて見ていられなかった。

 たどり着いた両親と祖母の墓の前で泣き崩れて、次に私を呼ぶ声が聞こえるまで叫び続けた。


次はオルセーのターン(予定)です

本編側が滞り申し訳ありません、なるべく急ぎます。


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