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第150.1話:暗夜、散華

ウェリントン襲撃のノヴァリスの話なので、不快な描写が多分に含まれます。

本編だけでも差し障りない様にはなっている部分ですので苦手な方はみない方がいいかもです。

 私、ノヴァリス・パースフィスは僻地の村に生を受けた。

 両親ともに普通の村人で、私のうちはお婆ちゃんと姉ちゃんも合わせて五人家族の一番下と言うことで、それなりに甘やかされて生きてきた。


 姉アルンは、礼儀正しくて賢くて見ためも整っている自慢の姉。

 ただこの村にはそれらをすべて軽く上回るサークラやアンナ、キスカ、エッラが居るから、姉はそんなに目立たなかった。


 姉は早くからこの村を出たがって居て、そのために村で学べることはなんでも学ぶ、意欲的な人、私は頭もよくないし努力も嫌いなので、アルン姉からはいつもバカリスとか頭スカリスとか言われてたけれど、それでもアルン姉が私のことを思って言ってくれているのがわかっていたから、決して姉のことは嫌いではなかった。



 特にここ最近は、オルセーが亡くなってから遊ぶ気持ちにもなれなくて、いつもは遊び回っていたモーラと一緒にアルン姉に勉強をみてもらっていて、姉は私の出来の悪さにガミガミ言いながらも、ちゃんと私が理解するまで付き合ってくれるし、出来れば誉めてくれる。

「あんたはやらないだけで、やれば要領よくできる子なんだから、この調子で頑張りなさい」

 なんて言ってね。


 今日は勉強をしている時にサークラの妹のアイラがやってきたのだけれど、アルン姉はやたらあの5歳児に敬意を払う。

 そりゃ村長のエドガーさんの娘だから私たちより偉いのかも知れないけど、あんなチビっ子に下手に出るなんて・・・と思ったことも何度か有ったけれど、どうやらそうではなくて、アイラだから敬意を払っている様子が姉の言葉の端端に出ていた。

 実際、アイラの双子のアイリスにはもう少し子ども扱いをしているのだから。


 正直羨ましかった。

 ただでさえ僻地に生まれたのにただの農民な上、なんの取り柄もない私、次女とは言え村長の娘で、ありとあらゆる才能に恵まれているらしいアイラ、あそこの姉妹は同性の私から見ても美人揃いだし、トーレスも格好いい。

 なるほど、姉の言う通りアイラならば、今の私の陥っている窮地など軽々と越えてしまえるのだろう。


 田舎の性教育は早い。

 10才頃には、親から性交渉のやり方と目的を教わる。

 うちはアルン姉がいるからその時一緒に聞いた。


 まだ肉体的に目的を達成することも出来かねるというのに、手段だけは先に教わる訳だ。

 それを教わってから私はずっと、トーレスに猛アピールしてきた。

 仮にも乙女である私に軽々しく一回だけでいいから、何て言うカールや女の子の体に興味津々のピピンと違いトーレスは慎重で、アピールの成果はなかなか上がらなかったが、こんなことになるならカールにでも触らせてやれば良かった・・・・。



 一瞬呆けていた。

 現実から逃避した私を呼び戻したのは、下卑た男の声と、体と心に響く痛み。

「田舎のガキだから慣れてるかと思ったが、二人ともおぼこだったなぁ、泣いて痛がるばっかで具合がよくねぇわ」

 私の体に瑕をつけた男は、そればかりでなく、父を殺した男でもあった。


 そんな男に体の自由を奪われて、トーレスにあげたかった大切なものも、全部奪われた。

 だからかな?少しの間私は現実逃避と言うやつをしていたらしい。

 こんな自分もう嫌だ。

「殺すなら、もう殺してよ・・・」

 やっと絞り出せた言葉は死を請うだけのもの、死ぬ所はすでに両親と祖母が見本を見せてくれたのだから、きっと今よりは幸せになれると思う。

 ただ男は死を請う私の声には耳を貸さず身勝手に暴力を続けた。


「おい、ジャック!やべえ!なんか憲兵隊っぽいのにデニスたちが殺されてる!」

 どれくらい経っただろうか?

 姉の嬌声も聞こえなくなってきた頃、外を見ていた男が慌てた様子で騒ぎ始める。


「あぁん!?なんで憲兵が俺たちを殺すんだよ?免状の事も分からない田舎の自警団かなにかか?」

 私を抱えたまま、ジャックと呼ばれた男は窓口に立って驚きの声をあげた。

「やべえ、あれホーリーウッドの兵士だ。最初の守備兵が言ってたことは本当だったらしい、ずらかるぞ!」

 ジャックはようやく私を床に下ろすと、膝に残っていた私の下着を抜くと私の口に押し込む。


「おいガキども、絶対に声を出すなよ?連れてってやるから」

 連れていかれる、それはつまり、私はウェリントンに帰ってこられないと言うこと・・・両親が殺されても、体と心をズタズタにされてもウェリントンに居られるなら、きっと私はまだ生きていける、でもここじゃないところにつれていかれたら、私はきっと壊れてしまう。

(死ぬならウェリントンがいい!)

「うー!ああぁぁぁぁぁら!!」


 私はもうとっくに諦めていたと思っていたのだけれど、やっぱりウェリントンから離れたくないと思った。

 口に布が入っているのであまり大きな声はでないが、それでもどこにこんな元気が残っていたのだろうと思えるくらいに大きな声がでた。


「うるせぇ!」

 ジャックは私のお腹を蹴りつけて。

「ヴェッ!!」

 私は床に倒れ、ジャック自身が私の体に残したモノが床に零れた。

「止めて!妹を殺さないで!私が貴方になんでもしてあげるから」

 裸のアルン姉が、ジャックにしがみついてその手を止めたけれど、その時ジャックの手には60センチくらいの剣が握られていた。


「フゥン?」

 ジャックは少しの間姉を見て

「よし二人とも連れてくぞ、いざとなりゃ人質にできるだろ。おいお姉ちゃんよ、妹ちゃんに服を一枚着せてやれ、それでお前も服を着ろ、リロイ!こっちの妹はおめぇが担げ!エース!お前は姉ちゃんの方だ。無事に逃げられたら金に代えるからな、顔には傷をつけるんじゃねぇぞ!」


「ノヴァ、お姉ちゃんが絶対に何とかするから、だから諦めないで・・・」

 ジャックの指示の通りに私に服を着せながら耳打ちされたアルン姉の声はひどく優しい、小さい頃の私の愛称、呼ばれたのは三年ぶりくらいか?


 男たちは首尾よく家から逃げ出して、明け方の森に駆け出した。3人は手に武器を持ち、二人は私と姉を担いでいる。

 まだ昏い森は視界が悪かった。


 10分ほど走ったあたりで、私は男の肩がずっと胸と腹の間に食い込んでいて、吐き気が込み上げてきていた。

「ギャア!痛え!ジャック!助けてくれ!」


 最後尾を走っていた男が叫びをあげた。

 見ると捕食型のエント、中でも獰猛で知られる柊のエントだ。

 叫んだ男の足にその枝が食い込んでいた。

「ち、のろまが!その足じゃあどうしたってこのあと森を抜けるまでには死ぬ、諦めろ、行くぞお前ら」


 ジャックは助けを求めた仲間に非情な言葉を残して、走り出した。

 私を担いだ男も小さく謝罪の言葉を残して走り出して

「い、嫌だ!死にたくない!!うわ、わぁぁぁぁぁぁ!」

 後ろの方に徐々に離れていく悲鳴が耳に残った。

(そうだ誰も、死にたくなんてない、それはわかっていたハズなのに)


 朝、なんでだったか忘れたけれど、私を撫でた母の顔が浮かぶ。

 今叫びをあげた男は命乞いをする母を笑いながら刺し殺した。

 ざまぁみろ!柊のエントはエモノの目を最初に食べて、そのあとは生きたまま徐々に指や足を端っこから切り取って食べる・・・せいぜい後悔して死ね!!


 そんなことを考えていたら胃の中のモノが込み上げてきた。

 といっても口に下着を押し込まれているので、吐こうにも吐けずのどが焼けるように熱くなった。

「ジャックこの娘臭い、吐いてるぞ、下も少し漏らしている、さっきお前が腹蹴ったから、内蔵を痛めているかも知れん」

 私を担いだ男にばれた。

 男に吐瀉物の匂いを嗅がれた羞恥で顔が熱くなる。


「あー、そっか、もったいないが次魔物が出たら囮にしよう」

 !?

 一気に血の気が引いた。

「んーんー!!」

「暴れんなガキ!」

 頭を叩かれる。

 そしてすぐに、次のエントに出会った。


 そいつは最弱最悪の捕食型エントで動きも遅い、弱いが、エサにとってはもっとも忌避するべき、長い苦しみを与えてくるエントだ。

 走れば逃げれるのに、剣、いやナイフでもあれば倒せるのに、男は躊躇なく私を投げ捨てた。

「んー!んー!」

 変な態勢で投げ捨てられ、体調もよくない私はそんな相手にさえ容易くくみつかれた。

「ォア!ォアァァァァァァ!」

 遠ざかる姉の、くぐもった叫び声が聞こえた。


 大きな口は粘液にまみれていて、その内側にはたくさんの粘液が溢れているのがみてとれる。

 今はその口を手で押さえているけれど、長く持ちそうになかった。

(せめて、平常時ならば・・・)

 そう思わずには居られない。


 手元に刃物はなく、吐き気と腹痛、足に力は入らずにふらつく。

 こんな!こんな風に終わってしまう?

 世界が遠くなる、私にはなんの希望もなく、光もなく、音も聴こえない。

 何秒か、何分たったかわからないけど、もうダメだと諦めた。


 私の腕がエントのしまりの悪い口に呑み込まれようとした瞬間だった。

 ドンと体に衝撃が走り、私は急速に感覚を取り戻した。

 真っ暗な森で視界は悪いままだけれど。


 木の葉の間から漏れる月の明かりか星の明かりかで照らされて、その衝撃がなんだったのかわかった。

「アゥ!アルン姉ぇ!!」

 叫ぼうとして、すぐに口に布を詰め込まれていたことを思い出し取り出す。

 エントの口の中に姉が収まる瞬間を見てしまった。


「アルン姉!」

 パシャパシャと水音が聞こえて、その後棒立ちになったエントの中からアルン姉は落ち着いた声で告げた。

「ノヴァリス、ノヴァ、お姉ちゃんは大丈夫だから、私はコイツにはやられない、逃げられるから、ノヴァリスは早くウェリントンに走りなさい、走って助けを呼んできて!」


「アルン姉!すぐ助けるから!だから一緒に逃げよう!」

 どうして姉が、自由になれたかはわからないが、姉のことだ巧く賊を騙したのだろう。

 しかし次の姉の声は悲痛だった。

「ダメよ!あんたはノロマなんだからいても足手まといよ!」


 それからすぐに賊の怒声と足音が聞こえ始め、私たちを捕まえに戻って来たのかと思ったが、獰猛な魔物の声も聞こえ始めた。

「もう時間がない、あんたが居たら私も逃げ切れなくなる!早くいけぇ!たまには姉ちゃんの言うこときけぇ!!このバカリスゥー!!」


 姉の声を聞いて私は走り出していた。

 あの魔物の声はセラファントだろう。

 エドガーさんやテオロさんたちが皆でかかれば倒せるはずだ。

 私は今までにない速度で走っていた。


 私が助けを呼んで、姉ちゃんを助けるんだ。

 そう思って走り続けたが、多分1キロ位は戻ったところで私は転倒した。

 足に激痛が走る。

「あぁー!痛っ~」

 涙が出るが、

 こんなところで止まって居られない、そう思って立ち上がろうとしたが、脚・・・?


「ひっ!」

 足に蔦が絡み付いていた。

 回りを見ると無数の骨

(しまった、イバラのエントだ!)


 私の足に走る激痛は転倒したものではなく、イバラエントによるケガだ。

 徐々に這い上がってきた蔦に腹や背も傷付きドクドクと血が出てもうダメかも知れないと思ったその時。

 一気に蔦が緩んだ。


 見れば柊のエントがイバラのエントにケンカを仕掛けていた。

 多分私の血の臭いに興奮したんだろう。

 私は最後の力を振り絞って蔦に絡まった服を捨てて、全裸で腕の力だけで這い、逃げ始めた。

 多分ケンカが終わって、柊が生き残れば、私はすぐに追いつかれて食われる。


(っていうか、血が流れすぎてるかな・・・?ウェリントンにたどり着いても死ぬかもしれないな・・・でも!)

 それでも私はウェリントンに帰らなくてはならない。

(アルン姉!姉ちゃん!)

 その時ふわりと体が持ち上がる感覚がして、私は意識を喪った。



 次に目が覚めたとき、多分洞窟の中だった。

 薄暗いけれど、なぜか灯りが点っていて、壁には自然に出来たものではない何かの紋様が彫られていた。

(そんなことよりも、だ。)

 体に浮遊感がある。


 事実私の体は地面についておらず。不愉快な感覚が体中を這い回り、ズチュズチュと水音がしていることに気がついた。

 薄い灯りの中で見たそれはやどり木型のエント、その移動体だ。


 移動体はそれ自体が、生殖器なのか本体なのか今一つわからない存在で、やどり木型エントから切り離されると寄生相手を求めて移動を開始する。

 コイツもそんなやつだったんだろう、都合よく私を拾い安全そうな洞穴まで運んで、今私を苗床にしようとしているんだ。


 私の足やお腹に空いた穴にエントの蔦が少しずつ前後しながら押し込まれていく、その度にズチュズチュと血と肉が音を立てているんだ。

(終わっちゃった・・)

 こうなってはもう私は助からないだろう。


 おぞましい感覚のはずなのに、エントの毒にでもあてられたのか体は痛みに快感を覚え始めていた。

 死ぬのも近そうだ。

 蔦が、先程まで賊に玩弄されていた私の体全部に蔦を這わせて、紅い雫、白い粘液、果ては黄色みがかった老廃物まで掻き出していく。


 体の中身を失っていくのに、体の方は熱く、熱く、火照っていく。

「んっ!」

 徐々に胸元や顔まで上がってくる、痒い様な痛みに声が漏れてしまった。

 次第に快感が強くなり、喘ぐ様な声をあげ始めた私は口からも大量に涎が漏れ始めた。

 エントは今度はそれも掻き出す様に口にも蔦を這わせてくる。


 息苦しくなり、今度は涙が・・・そうやって全部全部奪われると、今度は蔦の方が何かの汁を私の体の中に流し込む。

 すると頭がおかしくなったみたいに、快感が走る。

 そんなことを、何度も何度も繰り返して、最後にはその場に捨て置かれた。


 体に力は入らず、肺まで満たす様に流し込まれた液体にむせる、否、むせる体力もなくただ失われていく熱と、体内に蔓延り始めた蔦を感じながら・・・

(アルン姉・・・)


 私の、ノヴァリス・パースフィスの意識は失われた。


本編の10話当初、この内容で他者10.2話位で投稿しようと思っていた内容を本編の進行度に合わせて少しだけ変更したものですが、これを投稿して100話以上放置はひどいと思って書かずに放置していたものです。

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