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幕間6+K:暁に誓うもの

 おはようございます、神楽です。

 昨夜は、以前にアイラさんが天衣無縫を実戦で使用したヘスクロの町で一夜を明かした。

 今朝はリリちゃんの面倒をエッラさんがみているし、昨夜は眠りが浅かったので疲れがとりきれてなくて、エッラさんにリリちゃんを任せて朝からお風呂に入って来ることにした。


 結局アイラさんはユーリさんと同衾した様だ。

 仕方ないことだと思う、彼女は暁さんではあっても、今はユーリさんの奥さんなんだから。

 ユーリさんのことも最初に聞いている、暁さんと同じ様な生まれかわりで、前世は女性であったらしい。


(昔の女・・・にすらならない。私は暁さんの婚約者であっても、今のアイラさんからすれば世代の違う年上の女性なんだ。)

 かつて黒乃お姉様が言っていたことを思い出す。

『生まれかわりは心細い、前世の記憶があるのに回りに知る者はない、赤子の体では自分ではなにもできず、精神面も体側に寄り不安定になるのだ』


 ましてや、私が暁さんと遠足で手を繋いでからあの夜まで三年半しかたっていなかったのに、アイラさんとユーリさんが出会ってから私と出会った日まで6年弱、さらにアイラとして生を受ける前、お腹の中にいるときから記憶があるアイラさんはもうすでに13年近くも女の子をやっているんだから・・・


 私よりユーリさんといる方が、今の暁さん・・・アイラさんにとっては幸せなんだろう

(それでも私は、暁さんのお側に居たい)

 たとえ今はアイラさんで、私のことが一番ではないとしても

 私はアイラさんと寄り添って生きていたい、家族になりたい。


 多分、今更こんなことを考える様になったのは、ラピスさんとヒアシンスさんのことがあったからだ。

 あの二人は前世では友達以上恋人未満の相思相愛でのんちゃんとも親しく付き合いがあったそうだ。

 そんな彼らはこちらで再会を果たし、ラピスさんとヒアシンスさんは婚約していて、恐らく昨日ははとうとう一線を越えるという話をしていた。

 羨ましかった。


(私は生まれかわりではないから、女の子のまま。暁さんはアイラさんに生まれ変わったから女の子同士になってしまった。)

 それに比べてラピスさんは前世では昌人君という男の子、ヒアシンスさんは前世では環ちゃんという女の子だったけれど、両方が逆の性別に生まれたので添い遂げることが出来るのだからなんて羨ましいことか・・・


 あの二人は家族になろうとしている。

 私は、私には家族がいない、本当はいるけれどこの世界にはいない。

 もしもあの頃に暁さんと関係を持っていればまた少し違ったのかも知れないけれど・・・この世界には優しい姉たちも、仲良し四つ子の3人もいない。

 暁さんとも婚約者であって、まだ妻にはなれていなかった。


 アイラさんとたまに一緒に寝るけれどアイラさんは精々のキスと手を繋ぐくらいで、私がその手を胸もとに導けば、意識はしてくれるけれどそれ以上のことはなかなかしてくれない。

 アイラさんは、他のメイドさんたちや、妹のアイリスさんやアニスちゃん、のんちゃんとも一緒に寝たりするけれど、私が寝ることがあるのはアイラさんと元のんちゃんのアイビス、それと姫様だけ。

 カーラとはリスタのことがあってから少し疎遠になってしまった。

 ナディアさんたちメイドさんたちは私のことを受け入れてくれたけれども、それは仲間としてのもので家族としてではない。


 もうひとつ懸念もある、アイラさんは私に気をつかってかユーリさんとの関係に積極さが失われているらしい、はじめはリリちゃんが生まれたことでリリちゃんを重要視してのことかと思ったとトリエラさんたちが話していたが、ユーリさんも積極性が以前ほどではなく、昨日は宿の雰囲気とラピスさんたちの空気に当てられて同衾した様だが、確かに私がアイラさんたちに出会ってからは、男女の交わりはない様だった。

 新婚8ヶ月ちょっとでほとんどいつも一緒に居るのに、妊娠、出産を挟んだとは言えそれが一年以上も無かったのはやはり不自然、タイミングを考えれば私に気を使っていたんだろう。


 私は今も暁さんを愛しているし、アイラさんを好いている、家族になりたいとおもっている。

 ただ私が、重荷になってアイラさんが女の子として振る舞いきれないのはやはり嫌だ。

 アイラさんには幸せでいて欲しい、たとえ暁さんとしての記憶があってもアイラさんはアイラさんの幸せを持つべきだと私はわかっている。


(私がアイラさんと家族になれば、こんな悩みもなくなるのかな?)

 家族になるというのは、『なる』という言葉を使う以上元は家族でないものが、何かの手順を踏んで家族になることだ。

 漠然とした思考はうまく定まらず、次から次に浮かんでは消えていくけれど


 廊下にアイラさんがいた。

 多分お風呂にいくんだろうと思う。

 声をかけずに立ち去るかどうか迷ったけれど、やはりアイラさんと会うのは痛みよりも喜びが勝るのだ。

「アイラさん、おはようございます」

 

「おはようカグラ」

 アイラさんは、手を学生服のスカート前側で組んだままで挨拶を返した。

 声をかけてからハッとする、私はゆったりとした部屋着姿だ。

 だらしないと思われたかもしれない

 ごまかす様に会話をつづける

「アイラさん今からお風呂ですよね?お背中流させてください」

 努めて明るく声を出すと、アイラさんは苦しそうに笑って一緒にお風呂に向かうことになった。


 脱衣場に着くとすぐに服を脱ぎ去った、以前であればはしたないと言われたかもしれないけれど

「カグラ、その前を・・・」

 訂正、今も私のこと異性の様に扱ってくれるらしい。

 でも言い切る前に口を挟む。


「今は女の子同士ですから」

 そういって先に浴室に入ると、貸し切り状態だった。

 少し遅れてタオル一枚を胸もとに押し当てて、上手い具合に鼠径部辺りまで隠しているアイラさんが入ってきて、何か言いたそうに

「カグラ、ボクは・・・」

 と、語り始めたのでまた先回りして


「アイラさん、ここへどうぞおすわり下さい。」

 と用意していた座椅子を示すと仕方なくといった感じで座ってくれたので、よく泡立てたタオルでその背中を撫でた。

 暁と神楽の時のように全力ではなく、優しく加減して撫でる、それくらいじゃないとアイラさんの薄い肌はすぐに真っ赤になってしまう。


「リリちゃん昨夜はお利口さんでしたよ・・・」

「うん」

「エッラさんのおっぱいが大好きみたいです。」

「うん」

 気まずい沈黙に耐えかねて昨日のリリちゃんのことを告げる。

 頷く旅に細い首の筋が少し動いているのがとても不思議。 


「不思議ですね、この小さな背中があのアキラさんだなんて・・・前失礼しますね」

 そうこうしているうちに背中は洗い終わったので前に回る

「そっちは自分でできるから!」

 そういって手で止めようとするけれど、体の大きさで前に割り入って、座った膝の間に座り込んだ。

「やらせて下さい!やらせて、ください・・・・」

「カグラ・・?」

 思ったよりも必死な声が出てしまった。

 必死な声に必死な本音も少し漏れてしまった。


「アイラさんはユーリさんのお嫁さんだから、家を繋ぐ役割りを持つ女として務めがあることはわかります。ユーリさんもアイラさんの事がわかっていて、お二人が好き合っていることも知ってます、でもどうして逆じゃないんですか!?」

 アイラさんを見上げた。

 その目は狼狽えていた。


 アイラさんはなにも言えないままで私の手にその小さな手を重ねる。

「リリーがアイラさんで、アキラさんがユーリさんで良かったじゃないですか!?何で逆なんですか!!」

 重ねられた手に逆の手を重ねながら叫ぶ。

 暁さんがユーリだったならば・・・もしそうでも、暁さんはたくさんの嫁を受け入れられる様な器用さはないから、アイラさん(リリーさんが生まれ変わった)を受け入れていたら、私との関係にやはり迷っただろうけれど


「アイラさんには幸せになってほしいけれど、ユーリさんにも幸せになってほしいけれど、私はアイラさんと一緒にいたい!暁さんに抱いてほしい!!」

 

 この世界に迷い込んで暫く経った頃から再会を果たすまで、暁さんは死んだんだろうなと漠然と思っていた。

 もう二度と会えない愛しい人、その遺品の一つも見つけて、そうしたら姫様に仕えて生きていこうと思っていた。

 でも転生なんていう奇跡でまた出会えてしまった。

(私は何を口走ったんだろうか?)


「ワガママでごめんね。ボクは神楽のことを大好きだけど、ユーリのことも大好きなんだ・・・キミの想いに応えたい、ユーリのことも愛したい。」

 こんな私をアイラさんは、暁さんとして愛してくれようとしている

「アイラさん、会話が噛み合ってないです。私は今も貴方が好きです。暁さんのアイラさんが好きなんです。アイラさんは私のことを好きにしていいんです」

 そういって私は手を抜き、腕を組み胸を押し上げる。

 アイラさんは真っ赤になった。


「カグラ・・・?」

「どうですか?こんなに大きくなりました。もう子どもの神楽じゃないんです。赤ちゃんだって作れます。でも暁さんの赤ちゃんはもう絶対に作れません・・・」

 何を言っているんだろう、私はアイラさんを困らせたい訳じゃないし、暁さんの家族になりたかっただけなのに。


「だから・・・暁さんが産んだリリちゃんの弟か妹を、私に生ませてください、私をアイラさんの家族にしてください。」

 言ってしまってから気づいた。

 私はやっぱりアイラさんの家族になりたいんだ。

 

「ボクは、アイラに生まれてしまったから。キミがボクと一緒にユーリを支えてくれるというなら。断る理由も資格もない、ボクも出来ることならキミと離れたくないから・・・だから、これからもよろしくね神楽」

 私は、取り返しのつかないことを言ったのかもしれない、アイラさんは悲しそうに、私がユーリさんの側室になることを認めた。

 アイラさんがそれを認めてしまったことで私は失望とも絶望ともつかない喪失感に襲われながらせっかくいろいろ失ったのだからと次の言葉を紡ぐ

「ありがとうございます、アイラさん、それとまだお願いがあるんですが・・・」

 アイラさんはかつて私のワガママを受け入れていた時の様に

「何でもいって、ボクの大切な神楽」

 苦笑いを浮かべて言った。


 私は、アイラさんの家族になりたいのであって、ユーリさんを愛している訳ではない、嫌いではないけれど、私の暁さんへの貞操を捧げられるのはアイラさんだけだ。

「私はユーリさんのモノになるわけではなくて、アイラさんの家族になりたいので、その時は一緒にいてくださいね?」

 

「勿論良いよ?」

 その答えを聞いて少しだけ安心する

 安心するとワガママな神楽がむくむくと息を吹き返す

「あとあと!今からたくさん甘えてもいいですか?」

 上目遣いで見つめるとアイラさんは快諾してくれた。私たちは体をを洗いあった。

 途中アイラさんの薄い胸もとに内出血の痕を認めたり、恐らくはユーリさんが残したと思われる行為の残滓を見つける度に少しだけ寂しくなったりしながら。

 それでもいちゃいちゃとアイラさんとのバスタイムを楽しむ。

 

「昨夜は結ばれるというラピスさんたちが羨ましくて、アイラさんとユーリさんもそういう雰囲気になってましたし、ちょっと我を忘れてしまいました。」

 二人湯槽の中体を寄せ合っていると少し冷静になってきた

 まだ赤ちゃんを産んだばかりだからか、赤ちゃんみたいな甘い匂いのするアイラさんを抱き締めて、スンスンと匂いを嗅いだり。

 暁さんは遠慮して触らなかった胸を押し付けてうろたえるアイラさんの反応を楽しんだ。

 三十分近くも長湯してしまったけれど、少しは落ち着いた。

 

 その後火照った身体で浴室をでるとそこには、ちょうど服を脱ごうとしているラピスさんがいて

 前世では男の子だったという彼女が、意気込んでいた昨日とはうって変わって消沈していた。

 そのフォローというか励ましている間に、私は自分の選択したことについて考えるのををまだ未来のことだと、先伸ばしにした。


 出発前、既に登りきった太陽を見ながら今は戦争を終わらせる事を考えようと気持ちを切り替えた。

 今はただアイラさんと一緒にいられるだけで幸せだから、赦される限り側にいようと思う。

 そして今日も空へと飛び立つのだ。

神楽側です。

神楽の過去話や結婚関連、子ども関連の話はまだだいぶ先になりますが本編内やこちらで続けることになります。


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