第-1話:暁と神楽
暁くんと神楽ちゃんの婚約前の少しの罪悪感に駆られる姉の話です。
西暦2015年 天成6年春 日ノ本
九州立花藩においても特殊な立場にある都市朱鷺見台において、いやここを治める十家と呼ばれる家とそれに連なる家の者たちに衝撃が走った。
十家の中でも結界の範囲を司る家柄であった各務家の士輝さんとその妻の澪さんが突然の事故で亡くなり結界面が不安定になってしまったのだ。
私、桐生天音は非常に重大な問題をいくつも抱えている。
まずは一番の問題として、結界面の不安定化のために、かなりの長期に渡る防衛計画と、結界の補填が必要そうなこと。
コレに関しては各務家の分家である水各務家の才媛水穂さんと水凪さんが中心となって補填を開始したが、もともと各務家の跡継ぎの士郎さんを取り合っているのが激化しそうである。
(胃が痛いわ・・・)
次に士郎さんの妹で、各務家の長女の雫ちゃんの世話だ、雫ちゃんは私の2つ下の学年の女の子で現在13才の中1多感なお年頃なのだけれどいきなり両親を失ったので、うちでとりあえず面倒を見ることにしたのだけれど、うちも母は大体留守だし、お父さんは既に亡くなっている。
(子ども同士で一体何を世話すればいいのか・・・。)
更に各務家の葬式の最中に、同じ十家のメンバーで最強と名高い雪村神奈とその双子の弟雪村昂夜、その恋人の矢沢樹が行方不明になった。
歪んだ結界面から何処かに飛ばされたと思われるが、行き先は不明。
(行き先さえわかれば大体私が拾いにいけるはずなんだけどなぁ。)
一気に戦力が不足してしまった。
ここは分家や他家から優秀な戦力を2~3人引っ張り込みたいのだけど。
目星はつけている、花子は・・・私の双子の妹黒乃が頼めば大体聞いてくれるだろう。
翔君は妹ちゃんに甘いからたぶん此方からいわなくてもやってくれる。
(問題は・・・)
近衛暁くんかぁ・・・今は11歳半ば、翔君と同い年だけど、どうやって説得したらいいのかな?
どういう子なのかしら?
優秀らしいのは聞いてるんだけど、手持ちに情報が少ない。
あぁそういえば妹たちのだれかが今年の歓迎遠足で手を繋いだって言ってたわね、誰だったかしら?
お夕飯の時間、私の特製ハンバーグを頬張る可愛い妹たち、上の子じゃなくって下の4人
上の妹達は、可愛くないわけじゃあないけどちょっと我が強すぎてね・・・・。
まぁ今はいいわ。
「ねぇ、ちびちゃんたち?」
「はい、なんでしょうか?姉樣」
下の四つ子で一番上の四女の刹那がまだ小1とは思えないほど丁寧に聞き返す。
下の四姉妹はみんな私や黒乃と顔の造形がそっくりで
服を脱がせて髪型を4人同じにしていれば姉の私が見分けがつかないほどだ。
それでも私ならば魔力の波長でだれかわかるのだけれど、喋ると途端に個性が出るし服の好みも違う
「4人の中でだれか、遠足の時に近衛の暁くんと手を繋いだ子がいたよね?」
「はい、私ですお姉様。」
手をあげたのは六女の神楽だ。この子は4人の中で一番人懐こい子で、私からしても特にかわいい妹(みんなかわいいけどね!)
「お姉樣?いかがさいましたか?暁さんのお話ですか?」
「神楽は暁くんのこと、どう思いましたか?」
「素敵な方です、私まだ6才なのにしっかりとレディ扱いしていただきましたよ?」
・・・それはお互い脈アリということでいいのかしら?
小6と小1ならまああり得る年の差に聴こえるが、来年になれば中1と小2 さらに高2と小6ともなれば致命的な差に聞こえてしまう、たった5つ差なんだけど
たったの5つと言ってもまだ7才前の神楽には十分な差かも知れないが
「神楽、まだこういうこと聴くの早いかも知れないけれど、暁くんのこと好き?」
「はい!」
手を挙げて即答する神楽はかわいい、一生膝の上で撫でていたいけれど
「将来、暁くんのお嫁さんになりたい?」
「お嫁さん!なりたいです!!」
言質はとったわね・・・素直に喜べないけど、こんな小さな子の初恋とも呼べない樣な恋心まで道具の樣に使う私を、涅槃の父は赦してくれるだろうか?
「じゃあ暁くんのご両親に伝えてもいい?他の男の子に目移りなんてできなくなるわよ?」
そんなだめ押しの私の言葉にも笑顔で答える神楽はやはり心に天使を飼っているのだろう
恙無くと言えば聞こえはいいが・・・・それから3日と立たず、二人の婚約は成立した。
幸いだったのは当人達が互いにそれなりに相思相愛だったことと、ご両親が察しがよかったこと
「それほどまでに状況は悪いですか?」
と聞かれた私は素直にありのままを話した
「致命的ではないけれど、手が足りないですね、雪村の双子が行方不明はやはり痛いですね」
雪村の双子も樹も私の従兄弟で幼馴染で十家の同い年だ
仲の良い友達がもう1ヶ月も行方不明なのだから私もさぞ疲れているんだろう
不安そうに心配する言葉を投げてくれる近衛のおば様は善良な方だと思う
「うちの暁で十家の方々のお役に立てるのであれば」
と了承してくれた。
「近衛本家の方へは既に許可を得ているので、おば様方はなにも心配なされないで大丈夫ですよ」
そうやって私の都合で決めた2人の婚約だったけれど
あれからもうじき3年現在二人は順調に愛を育んでいる
本当のところ雪村の双子や樹が異世界から帰還し、その仲間だった少女もこちらについてきたので、戦力は足りているのだけれどいまさらやっぱり結婚しなくても良いわよなんて言わないし言えない
見ているこちらが妬けるほどのイチャラブに対抗してつい私も許嫁の悠姫(姫というけど綺麗な男の子で、名前は女の名前をつけたほうが丈夫に育つという昔ながらの弦担ぎです)くんとのディープなイチャイチャを見せつけてしまったけれど、これは幼女虐待になるのかしら・・・?
法律の勉強もしないと・・・。
今日は週末だから、神楽は暁くんの家にお泊まりする日
「おば様によろしく、しっかり暁くんのお世話するのよ?」
「はいお姉様、神楽は今日こそはお姉様の樣に愛を示して見せます!」
いつもの会話、かわいい妹が学校から帰るなり今日こそはその乙女を愛しい良い人に捧ぐのだと意気込んでかわいい服に着替えて出掛けていく
「今日もだめかな・・・」
その翻ったスカートから覗くクマさんになら桐生家の家督をかけてもいいわ
あまり中身はないですが、そのうち続きをしようと思います。