第十九話~接近~
綾目留奈と京橋楠の二人は、拳銃を撃ちながら、襲撃部隊に突撃する。先程までは防弾加工の施されたセダンの中で攻撃をやり過ごしていたが、相手が救援部隊に気を取られてくれたおかげで討って出る余裕が生まれた。
駆けながら、楠が跳躍した。背中から撃たれた味方に気付いた敵の一人が、ちょうど振り向く。その顔面に、跳び膝蹴りを叩き込んだ。男の鼻が潰れ、血と共に折れた歯が飛ぶ。楠は傍にいた敵の一人に至近距離から拳銃を連射しながら着地する。
「くそっ!」
敵が短機関銃の銃口を楠に向ける。
「はっ!」
その瞬間には、再び楠は猫のようにその男へ跳びかかっていた。虚を突かれた相手のこめかみに、楠の跳び上段蹴りが炸裂する。打撃音と共に頭蓋骨が砕けた。
その間、ルナは拳銃で楠の周りの敵に牽制射撃を行いながら、別の敵に近付く。空いている左手でナイフを抜き、背後から首を貫いた。絶命した男の手から短機関銃を奪うと、近くの敵へ撃ちまくる。
短機関銃の弾倉が空になると同時に、残りの敵が振り向く。その数三人。まず、一人の鼻面に拳銃を突きつけ、引き金を絞る。そこで、拳銃のスライドが交代しながら止まった。ホールドオープン――弾切れだ。
二人目の持つ短機関銃の銃口を、左手で咄嗟に逸らした。間一髪のところで、放たれた弾丸がルナの足下のアスファルトを抉る。ルナは右手の拳銃のグリップで男の顔面を殴打した。二度、三度と殴り続け、相手がよろけたところで、ローキックで足を払う。左手で予備の拳銃を抜くと、アスファルトで頭を打った相手に撃ち込んだ。
最後に残った敵に銃口を向けようとしたが、そいつは銃撃戦にこだわらなかった。短機関銃のハンドガードを両手で握り、ハンマーのように振るった。左手の拳銃の先端にグリップが当たり、手からもぎ取られる。
さらに、相手が短機関銃で殴りかかってくるのを、ルナは冷静に捌いた。そして、振り切ったところを狙って、相手の短機関銃を左手で掴んだ。再度、右手に握ったままの拳銃で殴ろうとする。
だが、相手は咄嗟に短機関銃を手放し、蹴りを放った。脇腹に蹴りを受けた衝撃で、ルナは短機関銃を落とし、数歩後ずさる。そこへ、追い打ちで肩からの体当たりを食らう。
ルナの体が後方に吹き飛んだ。
男は好機とばかりにホルスターから拳銃を抜く。
しかし、吹っ飛ばされたはずのルナは難なく足から地面に着地した。男のタックルを食らう瞬間、自ら後方に跳ぶことでダメージを抑えたのだ。
ルナは弾切れを起こしている自身の拳銃を男へ投擲した。回転しながら顔に飛んでくる拳銃を、男は首を傾けて回避する。
ルナは男に接近した。男が拳銃の引き金を絞る。
ルナは身を沈ませながら、男の拳銃を握る手を下から掌底で弾く。男の手が跳ね上がり、発射された弾丸がルナの銀髪を数本巻き込みながら虚空へ飛んでいった。
さらにルナは踏み出しながら右の掌底を放つ。男の鳩尾を捉え、男が俯いた。再び掌底を繰り出し、男の顎を打ち上げる。伸びたままの男の右腕から、三度目の掌底で拳銃を弾き飛ばしてから掴む。相手の懐に踏み込むと、掴んだ腕を引きながら回転、膝のバネを使って背負い、一息で投げ飛ばした。全身をアスファルトに打ち付けた男の体が痙攣を起こす。
「このアマ!」
まだ生き残っている敵が二人、ルナに銃口を向けた。ルナは自身の銃を拾うため、地面に身を投げようとする。
だが、その必要はなかった。次の瞬間、男達の頭部が爆発した。ライフル弾が、頭を撃ち抜いたのだ。
「……いいところは持って行くのね」
ルナは鼻を鳴らしながら、駆け寄ってきた勇海を睨む。
「全部持っていかれたら、助けに来た意味がなくなるんでね」
勇海が肩を竦めながら、拾った拳銃を投げた。ルナは受け取ると、弾倉を交換する。
「……まぁ、助かったのは事実よ。ありがとう」
「うんうん、素直なのはいいことだ」
勇海が頷いたところに、楠や救援に来た三人が駆けつける。その中に一人、見覚えのない男がいた。無愛想な表情を貼り付けた、老け顔の男だ。老けている割に、他の面子に比べ、動作のぎこちなさがどうもアンバランスだ。
「初めて見る顔ね」
「半年前に入ったばっかりの新人だ」
勇海の言葉に、オケアノス号制圧で活躍したという新人の噂を思い出す。
「紹介は後にするぞ。綾目、京橋、今の状況は?」
指揮官の勝連武が尋ねる。
「最悪です。私達も先程まで攻撃を一方的に受けていました。雲早さん達の安否も分かりません」
報告の内容に、勝連は眉をしかめる。
「まぁ、あいつらも修羅場慣れしてるんだ。簡単にはくたばらんだろ」
勇海が信頼か薄情か判断しづらい言葉を出し、
「勝連さん、あんまり手こずってるとドラッグを持ち出されてしまいます。ここは、一気に攻め込んで、生存者は見つけ次第救出すべきじゃないかと思います」
と、進言する。
勝連は一秒に満たない時間で考え、
「……それが一番現実的だな。時間がない。即座に奪い返す」
と、指示を出した。
「ルナ、クスノ。お前らも行けそう?」
「武器さえあれば」
勇海の問いに簡潔に応えると、
「分かった。これ使え」
と、勇海がルナにG36Kカービンを予備弾倉と共に渡す。そして、背負っていたレミントンM870ショットガンを手に取った。
「悪いけど、クスノの分の武器が足らんから、あまり前に出ないようにしてくれ」
「仕方ないわね……」
楠が残念そうな顔をする。
「よし、私と駿河で奴らのトレーラーの運転席を叩く。お前達は荷台の方から攻めろ」
「了解」
勝連と駿河の二人が先行した。宣告通りに襲撃者達が用意した運搬用のトレーラーの運転席を潰すのだろう。
「よし、俺達も行くぞ、ルナ、クスノ、マコト」
勇海が先導する。
ルナは聞き覚えのない名前に一瞬戸惑うが、初めて顔を合わせた新人のことかと気付く。
「綾目留奈よ」
「……明智真……です」
本当に顔同様の無愛想な男、とルナは胸中で評価し、勇海達に続いて駆け始めた。




