第十五話~疑惑~
「それでは、頼んだぞ」
押収したドラッグを積み込み終わったことを確認し、太刀掛仁が指示を出す。
輸送班は七人で、トラック含め三両の車両で行う。
一台目のセダンに雲早と英賀、茂澄が乗り、先頭を走る。続いてつかさが運転するトラックが続き、最後尾にルナの操るセダンが付く。久代はトラック、楠は最後尾のセダンの助手席に乗り込んだ。
輸送班が出発し、港から出ていったことを確認した太刀掛は、無線を取り出す。
「こちら太刀掛。輸送班出発。ヘリの調子はどうなっている?」
港のヘリポートでは、MDSI保有の戦闘ヘリコプター、UHブラックホークの整備が行われていた。米軍でも使われている、兵員輸送や地上部隊の援護が可能なヘリコプター。ドラッグの入ったコンテナを運ぶのに十分な能力を持っていたが、港に降りた後、突然の機体トラブルが起きた。現在はパイロットの翼秋夏と、戦闘要員ながら機械に詳しい通津理と弦間匠の三人で原因を調べている。
「僕の専門は、電子機器であってエンジンとかは専門外なんですけどね……」
エンジンブロックを見ながら、通津がボヤく。彼はおよそ特殊部隊隊員とは思えないほど整った顔立ちで、よく韓国の俳優に例えられる。
「なんか、申し訳ないです」
通津の呟きに、秋夏が反応する。若く中性的な顔立ちだが、ヘリの運転は一流であり、オケアノス号制圧戦の際もリトルバードを華麗に操っていた。
「いちいちツヅくんの弱音に付き合う必要はないですよ」
聞き逃さなかった弦間がフォローする。
「彼のボヤきの大半は聞いても益になりませんし」
「タッくんヒドい!」
通津が悲鳴を上げるが、
「はいはいヒドくて申し訳ございません」
「もうちょっと申し訳なさそうにしてくださいよ! せめて形だけでも!」
「……何やってんのよ、あんたたちは」
二人の言い争い(という名のじゃれ合い)を見ていた望月香が声を掛ける。
「あ、カオリさん」
と、秋夏は会釈する。
「タチさんからヘリの様子どうなっているか聞かれたけど、これじゃ捗らないのも納得ね」
「そうでしょう?」
香の苦言に、弦間が相打ちする。
「ちょ、タッ君だけ何逃れようとしてるんですか!」
「ほらほら、手を動かさないと。まだ故障の原因も掴めてないんですよ」
「いや、だからあんたもやれよ!」
のらりくらりと逃れる弦間に通津がついに怒鳴り声を上げるが、
「はい、責任を押しつけない!」
ここで、香が回し蹴りを放った。通津の尻に炸裂し、スパーンと肉を叩く音が響く。
「痛い!」
悲鳴を上げながら臀部を押さえる通津。一応香も加減していたが、結構なダメージを与えたらしい。前のめりに倒れ掛ける通津を、間一髪で弦間が襟を掴んで止める。
「カオリさん、今のはさすがにやりすぎですよ」
「そうですよ。危うくエンジンに突っ込むところだったじゃないですか」
「下手したらエンジンぶっ壊れますよ」
「そうしたら直せなくなってしまいますね」
秋夏と弦間が口々に文句を言い、
「そうね……二度と飛べなくしてしまうところだったわね……ごめんなさい」
「少しは僕の心配もしてくださいよ!」
全く通津に言及しない姿勢に、怒りの声が上がった。
弦間は全く悪びれずに、「ほらちゃんと立って」と掴んだ襟から引っ張り上げる。
「んもぅ……えぇと、眼鏡眼鏡……」
先程蹴られた際に、顔から眼鏡が飛んでしまったらしい。
「あれは違いますか?」
と、弦間が指す。そちらに通津が手を伸ばした。眼鏡は、ヘリのエンジンと制御機器を繋ぐケーブルに引っかかっていた。
「あった……」
ホッとした様子で眼鏡を掛け直す通津。掛け直した眼鏡に手を掛けたまま、「ん?」と声を上げる。目線を一点に固定したままの通津に、弦間が不信感を覚え、声を掛けた。
「どうしました?」
「……これじゃ飛ぶ訳ないですね」
通津の視線の先を、皆が追う。
「エンジントラブルじゃないですよ、これ。動力のケーブルが切られています」
切られている、と表現したのは、切断面がなめらかだったからだ。劣化によって自然に千切れたのではなく、ニッパーか何かを使用し、人の手によって切られている。
「ツバサさんや僕ら以外で触った人間はいますか?」




