第十四話~新人~
フォークリフトが、押収したドラッグの詰まった小型コンテナを運ぶ。
「オーライ、オーライ」
やがて、大型トラックの荷台の中に収まる。
「お見事、ツカサ」
誘導していた隊員が、フォークリフトの運転手を褒める。
「こんなの朝飯前よ」
フォークリフトから降りながら、梓馬つかさは応える。
彼女は褐色の髪をうなじが隠れる程度のセミショートに揃えており、日に焼けた肌が活発な印象を与える。
さっぱりした答えに、誘導していた女性隊員――京橋楠も笑う。
こちらは、栗色のショートカットにスラリとした体型で、笑うと鋭い八重歯が見えた。仲間からはよくシャム猫を思い浮かべると言われる。
「あらあら、いつの間にか終わっていますね」
そこへ新たに一人、女性隊員が現れる。ウェーブのかかった金色のロングヘアと、長身で均整の取れたプロポーションから、一見するとモデルと勘違いしてしまいそうな美人。だが、彼女はモデルなどではなく、歴としたMDSIの隊員である。
「あ、ヒサ」
気付いたつかさが姫由久代を呼ぶ。
「ルナは一緒じゃなかったの?」
楠が久代にもう一人の隊員の所在を尋ねる。
「先程までは一緒でした」
「先程までは、って……今は?」
「分かりません」
「いやいや、分かりませんって……」
楠が呆れる。
「これも任務だって分かってんのかね、あいつは」
つかさも怒った様子を隠すことなく口にする。
「分かっているわよ。だから見回ってたんでしょ」
と、四人目の声。
噂をすれば、と三人は声の方向を向く。
彼女は他の三人に比べ日本人離れした容姿を持っていた。肩までセミロングにした髪は銀色で、肌は陶器のような白い。整った顔立ちの中で目立つ碧眼のおかげで、一見すると西洋人形を連想させる女性だ。
しかし、付き合いの長い三人は知っている。彼女は見た目通りの人形などではなく、自分達同様、牙と爪を隠し持った戦士であることを。
「ひょっとして、サボタージュしていると思ってたのかしら?」
「まぁね」
綾目留奈の問いに、さらっと答えを返すつかさ。
ルナは表面上は声を荒げず、
「あら、私はそんな人間に思われていたのかしら?」
「いや、この任務が来たとき、あんた思いっきり不満言ってたよね? ちゃんと聞いてたよ?」
「それとこれとは別でしょ?」
「別って……明らかにやる気ないこと臭わせといて何言ってるの?」
「まぁ、貴女はやる気がスゴかったわね。トラックにフォークリフト……唯一の特技が役に立っているわけだし?」
「ちょっと待ちな。さすがに唯一ってのは聞き捨てならないよ」
「格闘訓練の模擬戦、私に勝ってから言いなさいな」
「はぁ? それ今関係ある?」
「……また始まったわ……」
ルナとつかさが言い争いを始める様子を見て、楠は溜息を吐く。
ルナの毒舌に対し、真っ向から言い返すつかさ。それに対しルナも皮肉を言っては、つかさも歯に衣着せずに言い放つ。この二人は顔を合わせれば常にこんな状態だ。
見慣れたとはいえ、止める自分達の身になって欲しい、と楠は思う。
ちらりと久代の方を見れば、久代も久代で割れ関せずの姿勢を貫いていた。要は、二人の言い争いについて特に自分でアクションを起こすつもりがない。その様子を見てさらに楠は肩を落とす。
「……本当に大丈夫なの、あれ?」
そんな様子を遠目で見ていた望月香が、すっかり冷めた目で隣の男達に聞く。
「まぁ……」
「や、やるときはちゃんとやる子なんですよ!」
雲早柊も英賀敦も、そう答えるのが関の山だった。




