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冥府の剣(改訂後版)  作者: 梅院 暁
第二章 ~覚醒編~
16/24

プロローグ

――勇海新が喜三枝邸を訪ねる数日前――


 新潟港の一角で、小型コンテナの中身を確かめている男達がいた。

 中に入っていたのは、色とりどり、を通り越してケバケバしい色をした粉末ーーそれが頑丈にパッケージングされた状態で、コンテナ一杯に収まっていた。

「どうだ、茂澄もずみ?」

 男の一人、太刀掛たちかけひとしが尋ねる。

 尋ねられた男、茂澄もずみゆたかは、中身の一つを開け、少量を検査薬に浸す作業をしていた。切りがよくなったか、少しの間を開け、太刀掛達に向かい合う。

「こいつがもし世に出回ったら、本当に恐ろしいことになってましたよ」

「そこまでかよ?」

 口を挟んできたのは、龍村たつむら=レイ=主水もんどだ。さらに何かを言いそうなレイモンドを同席していた力石りきいしみつるが止め、無言で続きを促す。

「まず、こいつは中国産の合成ヘロイン……通称、チャイナホワイト」

 と、一つのパッケージを示す。

「で、こっちはロシアで一時期流行ったクロコダイルでしょう」

 と、今度は別のパッケージを手に取る。

「他にも色々種類が揃っています」

「麻薬のバーゲンセール、ってか?」

 結局、黙ることの出来なかったレイモンドが割り込む。

「しかし、何でこんな種類を揃えて? 種類揃える分手間と金が掛かるだろ?」

 と、さらに疑問を口にする。

「それは、こいつらがただの麻薬じゃないからですよ」

「というと?」

 レイモンドが首を傾げたところで、力石が口を開く。

「……ケミカルドラッグ、か」

「知っているのか、リキ!」

 レイモンドが驚きの声を上げる。

「危険ドラッグ……はさすがに知っているだろう?」

「えぇと……規制されていないのに、規制されている薬物と同等の成分を持っている薬物、だったか?」

 麻薬の摘発は日本ではいたちごっこ、海外ではモグラ叩き、と揶揄される。一つを規制しても、成分や効果が酷似したものがすぐ出回るのだ。先程茂澄が口にしたチャイナホワイトも、ヘロインが規制された後、その効果がほぼ同じな上簡単に作れるために大量に出回った時期があった。

「その通りだ。そして、その危険ドラッグのケミカル版、というわけだ」

「さすが物知りのリキさんだ」

 茂澄が賞賛し、

「こいつらの恐ろしいところは、複数の種類を混ぜ、その配合成分を変えることで、どんな種類でも作り上げられることです……それこそ、法に引っかからないものが、いくらでも」

「……マジかよ」

 レイモンドの声のトーンが落ちる。

「黄麟会め、とんでもないことをする」

 太刀掛も思わず唸った。

 黄麟会とは、中国の福建に本拠を構える、中国マフィアだ。先日押さえたトルコ船籍のオケアノス号の事実上の持ち主であり、日本に麻薬を持ち込むための密輸船として活用していた。実際、オケアノス号には黄麟会の幹部がいたが、残念ながら生け捕りは出来なかった。

「逆に言えば、こいつを俺らが抑えておけば黄麟会に大打撃当たられるってことだろ?」

「そうですね。奴らの『商品』がここにある上、これを解析していけば、闇のドラッグ市場に大きなメスが入ることになります」

 レイモンドのポジティブな発言により、場の空気が明るさを取り戻す。

「太刀掛さん」

 そこへ、望月(もちづき)(かおり)が現れた。

「輸送隊が到着しました」

 彼女の背後に、二人の男が続いている。二人とも若く、無骨さや屈強さを感じさせないが、MDSIの中でも実力者である。

「お疲れさまです、太刀掛さん」

 雲早くもはやしゅうが頭を下げる。一八〇センチを越える長身だが、痩せ気味の体型と日本人としては色白な肌から威圧感はそこまで感じられない。

 雲早の隣の英賀あがあつしもそれに倣った。彼は雲早よりも

年下で、勇海新に負けず劣らぬ童顔持ちだ。雲早と違ってそこそこ筋肉質なのだが、その若々しい顔が迫力を減少させてしまっている。

「二人ともすまんな。こんな雑用のようなことを押しつけて」

「いえ、これも重要な任務に違いありません」

 英賀が太刀掛の言葉に応える。

 当初、オケアノス号制圧に使用した、UHブラックホークを用いて輸送する予定だった。

 しかし、補給のため立ち寄った港で整備中、エンジントラブルが起きた。そのため、近場で活動していた別部隊に応援を頼んだわけである。

「お、シュウにアガっちじゃねぇか」

 二人に目敏く気付いたレイモンドが話しかけてきた。

「やぁ、レイモンド」

「二人がこのドラッグを運搬するんですか?」

 力石が尋ねる。その言葉には言外に「二人だけで?」という疑問符も含めている。

「無論、僕達だけではありませんよ」

「教え子を連れてきている」

 英賀と雲早が答える。

「あぁ、そういや、今あんたらで去年入ったあの四人訓練してるんだっけか」

 レイモンドが思い出した様子で言う。

「ちょっと大丈夫? 輸送とはいっても危険物運ぶのよ?」

 香は危惧を感じたようだ。

「大丈夫ですよ。やれば出来る娘達ですから」

 英賀は笑顔で答えつつ、

「そっちだって、オケアノス号に最近入ったばかりの新人連れて行ったと聞きましたよ」

 と、話題を新人へ移す。

「あれは、ユーミと勝連さんの判断だよ……まぁ、それなりに活躍してくれたけど」

「どんな?」

「彼のおかげで三人ほど生け捕りに出来た」

「それはスゴい」

 英賀が素直に賞賛する。

「これは、あいつらに言っとかないとな。『凄腕の新人が来た。うっかりしてるとあっという間に追い抜かれるぞ』ってね」

 雲早は意地の悪い顔をした。

 香は「止めときなさいよ」と呆れ顔で言いつつ、

「あれ、積み込むんじゃなかったの?」

 と、麻薬の積み込まれたコンテナを指す。

 談笑していた二人は「そうだった」と言い、

「輸送するためのトラックを運転させてたんですよ。すぐに呼びましょう」

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