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冥府の剣(改訂後版)  作者: 梅院 暁
第一章 ~転生編~
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第十話 ~訓練~

 墓参りを終わらせた明智(あけち)(まこと)は現在宿舎としても利用している訓練施設へ戻ってきた。バイクを車庫に入れ、母屋へ向かう。

 ――ここは、いつの時代の日本なのだろうか。

 半年前、初見で明智が抱いた印象がこれである。

 とりあえず、今の建築基準を満たしているのか、少し心配にもなった。

 何故なら、目の前にある建物は、明らかに純和風の造りだった。材質は見た限り木で、時代劇でよく見る、書院造の流れを汲んだ、いわば武家屋敷のような風貌だ。

 もっとも、それだけなら明智も、「製作者と住人の趣味」と思い込むことで片付けることが出来た。

 ――出来たのだが――

「お帰りなさいませ」

 整列し、一斉に頭を下げる妙齢の女性達。この訓練施設の主に仕える使用人である。

 再び頭を上げた女性達の服装は、とある電気街の喫茶店で「お帰りなさいませ、ご主人様」と男性客をもてなすウェイトレス達が着ている紺色のワンピースに白いエプロンではない。

 彼女達は、全員色や模様に違いはあったものの、着物姿だった。ほとんどが黒髪で、カチューシャの代わりに、結うかまとめるかした状態で(かんざし)(くし)で留めている。

 木材で建てられた純和風の家屋の前に並ぶ着物姿の侍女達……ここだけ時代が違うのではないかと明智が錯覚しても仕方のないことであった。

 明智は母屋を迂回した。進む先には別に書院造の家屋があった。その建物は、渡り廊下のようなもので別の建物に行けるようになっているが、一応玄関もある。

 明智は引き戸を開け、中に入り靴を脱ぐと、スリッパを履く。

 縁側を歩いていると、手入れの届いた松の木や、池、灯籠などの並ぶ庭が見える。

 目的の部屋に着き、障子を開けた。

 部屋は、外見を裏切らないものだった。

 床は無論畳で、柱や天井には木目が走り、違い棚や天袋(違い棚より上の位置にある、小さい押入れのような収納スペースのこと)、床の間(現在で使う床の間とは意味が違う)には掛け軸が掛けられ、壺が置かれている。

 敷居を(また)ぎ、出されていた座布団の上に正座すると、侍女の一人が湯呑(ゆのみ)を持ってきた。

 茶を喫していると、

「奥様からの言伝(ことづて)です。落ち着いたら、道場の方へ来てほしいとのことです」

 道場とは、訓練施設を指す。

 明智は頷き、茶を飲み切った。空の湯飲みを持って侍女が下がる。いなくなったのを確認し、(ふすま)を開けた。

 襖の先は、別室になっていて、和室であることに変わりはないが、箪笥(たんす)、そして部屋に不釣り合いなPCといった家具や電子機器が置かれている。

 明智は道着を取り出し、着替えた。


 初めて訓練施設に入ったときの感想は、「なるほど、これなら『道場』だな」である。

 このときには、明智の感性はすでに毒されていたのかもしれない。

 渡り廊下で移動していたために、正面ではなく、裏口の方から入る。

 建物の中は、百人以上入っても大丈夫なぐらい広く、床は完全に板張りだ。

「来ましたね」

 声のした方向へ向くと、上座(そこだけ高くなっており、彼女の背後の壁には何やら難しい四字の漢字が書かれた看板が掲げられていたからだ)に、一人の女性がいた。

 訓練官、喜三枝美妃(きみえみき)である。

 剣道着の上から、(めん)籠手(こて)以外の防具を身に着けている。髪も装飾品の類は一切なく、邪魔にならない程度に結ってある。

 ――あの時と同じか。

 明智は、彼女に初めて会った時のことを思い出した。

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