花の日曜日
「おう!金剛!」
力強い声で後ろから声をかけられる。
同級のジルさんだ。
「お前、今日何処かに行くのか?」
筋肉隆々スキンヘッドのこちらの方は、魔道士の要請はあったものの修行中の身ということで結構な歳になるまで出向しなかった経験の持ち主だ。
元々魔道具を扱う仕事をしていたので、魔道士の資格を取り魔道具作りにも役立てようと一念発起したらしい。
魔道具は魔道士の魔力を高めることにも役立つ、魔道士にはなくてはならない道具だ。
授業でたまたまペアを組んだことがきっかけで話しかけてくれるようになったのだ。
「ちょっと城下街まで行こうかと思ってます。」
「そうか!給料もでたしな!」
「え!?」
給料?
「なんだ、お前、まだもらってないのか?」
「はい。」
「あ、そうか、お前記憶がないんだったか。」
「はい。一般常識がまだ思いだせなくて。」
へへ。と笑う。
「魔道士見習いは魔道士と違って途中であきらめて帰る奴もいるから、週一で給料が支払われるんだよ。」
「本当ですか!?」
やった!給料の前借りしなくていいじゃない!
「ま、見習いだけあって少ないけどな。」
「どこでもらえますか?」
「執務室でもらえるぞ。ついてってやろうか?」
「あ、大丈夫です。一人で行けます。」
「そうか?まぁ、手取りにするか家に送るか選んで事務官に頼むだけだから…お前にも出来るか。」
「え、家に送ることも出来るんですか?」
「ああ。」
…そうか、銀行とかないからどうするのかな。と、思っていたけど。
「…因みにどうやって送るんですか?家に…。」
口座もないのにどうやって?郵便システムがあるのかな。
「そりゃ、お前、事務官お得意の梟便だ。」
「!!!!」
でたー!!!
魔法といえば、梟ですよね!!!
そうですよね!!
勢いあまってがしっとジルさんの力強い腕をつかんでしまった。
「…梟便がそんなに嬉しいのか?」
変わった奴だなぁと若干引かれた様だ。
「でも、梟にどうやって家の場所がわかるんでしょう。」
「…。ふー…。」
ジルさんがはげた頭を撫でつける。
「お前、今日やっぱり俺が一日付き添ってやろうか?」
ジルさんが心配気につぶやいた。
ジルさんが言うには梟には梟の得意分野があるらしい。
例えどんなに遠い所でもその人の思い描いた場所まで何でも運んでくれるらしい。
梟が来たら、必ずお礼の水と一つまみの金平糖を分けてあげるのが常識らしい。
玄関の近くの棚に可愛らしい金平糖の瓶がいくつもあったのは梟の為だったのかと、今更納得である。
小腹がすいた時に食べるため。とか、可愛いから何となく置いてあるのかと思ったけど違ったらしい。
…少し、食べてしまった事は内緒にしておこう。
あと、今日、梟が来た時のため(来ることがあるかはわからないけど)小さな小瓶の金平糖買ってこよう。
というか、こっちの梟は金平糖を食べるのか。
なんだか可愛らしい。
お城近くの街へくりだそうとしていた足を再び城の方へと方向転換しジルさんと共に歩き出す。
お言葉に甘えてジルさんに付き添ってもらうことにしたのだ。
優しい人だなぁ。
スキンヘッドで強面なのだが、この明るい性格のせいか見習いの皆から好かれている。
「そういえば、ジルさんは舞踏会参加されるんですか?」
「んあ?」
「2か月後に行われる、舞踏会ですよ。」
「そりゃ、魔道士見習いだからな。」
「え、見習いって城の警護としての仕事の割り振りありましたっけ?」
正式な魔道士の方々が数名当日の警護に当たるとは聞いていたけれど、見習いも警護に当たらされるのか。
「いや、基本、城に勤務している者は警護人以外、全員参加だぞ。あれ。」
「え、そうなんですか?」
「お前、本当に全部忘れているんだなぁ。」
「そうなんです。困ってます。正直。」
ジルさんはふむ。とスキンヘッドの頭に手を当てながらきょろきょろと周りを見渡した。
「事務官の所に行く前に、少し茶でも飲まないか?お前、そのまんまじゃ苦労するぞ?」
そういうと、城の中央庭園内にあるカフェへと足を運んだのだった。
「さて、まずこの国の成り立ちから話すぞ。」
親切なジルさんは、席に着くなり色々と話してくれたのだった。
大雑把にいって、大陸は3つに分かれているらしい。
大陸はそれぞれ海に囲われているため、外交はあるがそれぞれ独自の文化を持っているようだ。
この国はその一つの大陸を統治しているらしい。
そもそも三兄弟が大陸それぞれを統治したらしいので王族同士は血が繋がり交流もあるのかもしれない。
王族は王となった者のみ子供が生まれる。
必ず3人の男子が生まれるらしい。
お姫様は生まれないの?
と聞いたら、考えたこともないと言われてしまった。
3人の王子たちはそれぞれに強力な魔力が必ず宿りその力で統治され、平和が保たれてきたらしい。
大陸それぞれに魔獣の住む森があるため、人同士戦争をしている場合ではないのが現状といったところだ。
魔獣はもちろん、食料ともなる。
魔道士はその食料の確保、魔獣から人々を守る警備、そして道や建物など土木も行うとても重要な役割をしている。
城に勤務しているものは魔道士の中でも精鋭隊なのだそうだ。
魔道士が狩った魔獣の肉や骨や皮はそれぞれのルートを遠し人々へといきわたる。
要は肉や皮、骨を城が独占販売しているおかげで魔道士の給料が払われる。
そういう訳。
その他にも納税されているらしいけど。
魔道士以外の討伐隊は存在しないのかと聞いてみたら、それはあり得ないと言われた。
魔力の強い者は強制的に魔道士として城に呼ばれる。
先延ばしに出来ることは出来るが、明確な理由なしに断ることは出来ないらしい。
魔道士になるのが嫌なら魔力を捨てればいいしな。
と、ジルさんはかかかと笑って告げる。
「魔力って捨てられるの?」
「得る事も出来るらしいぞ。」
「え?」
「方法は俺は知らん。」
「…それって、方法はないって事なんじゃ?」
「いや、出来る事は確かだ。隊長あたりが知ってるんじゃないか?捨てたり得たりした者の話はここんところ聞いた事はないが、中にはいるのかもしれねぇしなぁ。俺はこのままでいいから、方法は知らなくていいかと思ってきいていないが。…古代魔術で何とかなるとかっていう話しだ。」
「へー…。」
何、そのアバウトな答え。
まぁ、私も魔術なくしたくないから別にいいけど。
古代魔術ねぇ…。
ジルさんの話しは進む。
舞踏会は年に4回、季節の祭典として開かれるお祭りらしい。
特に春と秋は、独身の男女だけが城の中へと入る事が許され、国上げてのお見合いイベントとなるらしい。
狙うは、魔道士及び聖職者、らしい。
次点で見習いも人気があるそうな。
魔道士も聖職者も結婚適齢期の男女の集団だ。
故に、独身者は全員参加なのだそうだ。
見習いも含めて。
既婚者は警備にあたるらしい。
まぁそうだよね。
国中の独身者が来たらすごいことになるんじゃないの?と思っていたら、それぞれの拠点で開催されるらしく、私の現世界での実家はかろうじて中央のこちらの城に招待されていたという事らしい。
しかし、人気があるのはやはり魔道士、聖職者の中央の精鋭部隊。
故にわざわざ時期に合わせて中央にやってくる者もいるんだとか。
「魔道士とか聖職者って人気なんだ。」
と言ったら
「魔力持ってる美青年と持ってない美青年、どっちを選ぶ?」
「…魔力持ってる美青年?」
「ほらな。」
と言われた。
つまり、魔力は市民の憧れであるらしい。
まぁ、でも魔力持っていようがいまいが、最後は結局性格と相性だよな。
と言われた。
それを言っちゃあ、元も子もないんじゃぁ…言わなかったけど。
でも、確かに魔道士や聖職者が人気が出るのは分かる気がする。
なんてったって見た目がカッコいい!
制服、万歳!
なんで軍服ってあんなに格好よく見えてしまうんだろう。
濃紺に金糸及び銀糸の刺繍のあの制服、誰が考えたのか。
見習いの制服は刺繍が黒なので若干見た目が劣る。
私も早く、銀か金の刺繍の入った軍服、着たいなー。
あ、大事な事聞くの忘れてた。
軍服に想いを馳せている場合ではないのだ。
「ジルさん!」
「ん?」
「現在の王子にお相手はいらっしゃるんですか?」
「・・何、お前、ねらってるのか?」
「違います!」
「違うのか?」
「で、どうなんです?」
「…多分・・・・3人ともいないはずだ。」
「3人?」
「お前、俺の話し聞いてたか?」
「所々。」
「おい。」
「すみません。」
「…。王子は3人、必ず3人必要なんだ。」
「へー。」
「お前…。」
…確かに3人とか言っていた気もする。
「…まぁ、3人といっても子供を宿す事が出来る王子は一人だけどな。」
「じゃぁ、あとの二人は一生独身を貫くんですか?」
「んー。貫いた王子もいたのかも知れないが、大抵はちゃんと結婚していたと思うぞ。子を宿すことは出来ないのは変えられないが愛する人と一生涯共にするのも、やっぱりいいよなぁ。」
「・・・ジルさんでも、恋人がほしいんですか?」
「俺でも、って何だよ。」
「はは。ジルさんは仕事一筋って感じなので恋人はむしろいらないんじゃないかと思ってました。」
というか、顔の印象で。
俺は女なんかに興味はねえ!
男気!
という顔なので。
つい。
顔で。
「お、俺も、恋人…。お、俺の事はいいんだよ!」
「…まぁでも、ジルさん優しいし。モテると思いますよ?」
「!!」
「話しさえ出来れば…。」
「…。」
「…。えーと、大丈夫です。」
「…。」
「…筋肉隆々に憧れる女子も存在するので、絶対大丈夫です!」
「本当だな。」
「…ほ、本当です!」
「…禿げていて歳を若干とっていてもだな?」
・・・・あ、それ、やっぱりスキンヘッドの髪型じゃなくて禿げ。だったんだ。
「…。はい!」
「そうか!」
にっこりと笑って私はジルさんと固い握手を交わしたのだった。
…ジルさん恋人出来るといいなー・・・責任とれとか言われそうだなー…。
お茶も無くなったのでジルさんと私は初給料をいただきに、執務室へと足を運んだのだった。