魔道士と聖職者②
次の朝、見習いの集まる場所に行ったら、あだ名がつけられていた。
その名も、金剛。
やだ、何そのカッコいいあだ名!
男女、とかだったら泣いちゃうけど、金剛ってかっこいい!
何気にイギリスに発注された最後の主力戦艦、金剛を思いだすけど。
まぁ金剛力士像とかも思いだしますけど。
それに戦艦のゲームの金剛ちゃんはとてもキュートだった。
まぁ、似てもにつきませんけど。
クレームくるレベルですけど。
私の馴染めない本当のこの世界の名前よりは、全然、覚えやすいし馴染める。
本当の名前、まだ憶えてないし。
呼ばれても振り返れないし。
名前の由来は、金の光を放つ剛力。で、金剛らしい。
誰がつけたのか解らないけど。
素敵なあだ名に乾杯。
見習いの皆さんが遠巻きに私を見ているのが、ほんの少し悲しいけれど。
慣れたら仲良くなれるかな?
あの事件から既に一週間たっている。
午後、白魔法の試験ももちろん受けたんだけど、こちらの魔法は一向に発動してくれなくてこの世界では特例で魔道士見習いとしての勤務となった。
もちろん、聖職者と魔道士の宿舎は分かれていたらしく、私は魔道士の塔に住み込む事になった。
本当は男なのではないか。という疑念もまだちらほらある。
私だって白魔法を発動させてみたかった。
女性は可憐にするべしとかいう独自論を説いたくせに女性に拳骨をくらわす隊長のいる隊より、爽やかイケメンのいる聖職者の部隊の方がいい。
ぜひとも、お近づきになり、独身で彼女がいなかったら、妹とお近づきになって頂きたい!
と、朝の寝ぼけた頭でぼーっベッドから起き上がる。
窓の外はまだまだ薄暗い。
朝日の昇る前に起床。
それが、魔道士見習いの日常だ。
今まで女性の魔道士はいなかったということから、私が与えられた部屋は何故か隊長の隣の部屋。という最悪の環境ではあるが。
しかし、他の見習いの方々とは違い見習いの内から一人部屋というのは有難かった。
しかも、何故か魔道士見習いの宿舎とは離れてるのよね。
この塔。
見習いの塔には一人部屋が存在しないので、こちらの塔から通っている。
女性扱いされてるう。
へらっと笑って身支度をする。
お城で勤務といっても、要は魔道士の基礎を学ぶので学校のような感じだ。
この歳でまた学校という所に通うとは思わなかったが、だからこそ、楽しい。
やり残していた青春カムバックの心境である。
それに。
色々な事を経験してからの学校生活は一人になる事も怖くないわけで。
たとえ、男かもしれない。という目を向けられても、そうだったらどうするー?という開き直った態度だってしれっと出来る。
服装もメイド服は動き辛いと、少年の魔道士見習いの服を拝借し、気分は既に少年だ。
漫画でよくある学際に男女で制服を入れ替える。というシチュエーションに憧れを抱いていた私は毎朝にやにやしながら袖を通している。
いや、ほら、男子の制服なんて滅多に着れないしね。
それに、やはり動きやすい。
魔道士は男性の職場だけあって、書物の勉強もあるが体力面での訓練も厳しい。
故にこの制服は何かと役立っていた。
…まぁ、この制服の所為で、やはり男性だったのに違いないという噂が消えないのだが。
そんな事を振り返りながらとぼとぼと皆の集まる別館の食堂へと足を運ばせていた。
今日こそは、給料の前借を頼まなくては!という意気込みも胸に秘めながら。
舞踏会の事も忘れてはいけないのだ!
別世界から来たとはいえ、かなりの日数をあの家でお世話になったのだから、やはり妹たちには不自由のない暮らしをさせてあげたいのが姉心。
ちょっとこの一週間、引っ越しとか、城内の説明とかでまともに考える暇がなくて舞踏会の事なんて実はすっかりうっかり忘れていたけれども。
まぁ、ぶっちゃけつい先ほど思い出した。ということは内緒だ。
とりあえず、ドレスと靴だけでもねぇ。
明日はどうやら週に一度のお休みの日なので城下町に繰り出して、ドレスや靴の値段の下見に行くのもありだろうし。
相場っていくらなのかな。
給料の前借がダメなら隊長、貸してくれないだろうか。
ダメか。
あの、堅物じゃあ。
顔がイケメンでも。
「げえ。」
魔道士隊長の事を思い出していたら、まさにその隊長が前から歩いてきていた。
朝早いのに、身だしなみが完璧だ。
思わず声が出る。
声が出たが、しれっとした顔でセルフィス隊長に朝のご挨拶をした。
「おはようございます、隊長―。」
「…。」
「な、何か…。」
「…今、挨拶の前にげ。という声が聞こえた気がしたのだが。」
言いました。
言いましたけど、そこは見逃してください。
「え、そうですか?」
しれっとうそぶく。
そそくさと逃げようとしたら何故か手をつかまれた。
「…。」
な、何かな。
「…今の部屋に不便はないか?」
「へ?」
「…不便はないかと聞いている。」
「…え。」
と、特に不便はない・・・よ、ね?と自問自答していたら
「俺は男としか付き合ってこなかったのでな。」
「ええええ!!!」
衝撃事実の告白を受けた!
何その、BL発言!
「?何をそんなに驚いている?」
「え、だって、隊長、男性としかお付き合いされてなかったって…。あ、いや、私は偏見はないので安心してください!というか、何故、その衝撃事実を今この場で私に話したのという事で驚きまして。」
「??」
「あ、いえ!大丈夫です!皆には言いません!あれ。でも公言なさっているんですか?」
「何をだ。」
「え、先ほどの発言。」
「?」
あれ?
何だか話が違うのかな?
「・・・・隊長は男の人が好きで今まで男の人としか付き合った事がないから女性の事は解らない。という…。」
「!!!!!阿呆―!!!!!!」
顔を真っ赤にさせた隊長の怒号がまだ日も登っていないというのにあたり一面に響き渡った瞬間だった。
衝撃BL発言は、とんだ勘違いで、魔道士は男性しかいないから女性を寮に住まわすのは初めての事。だから、不便していないか。という趣旨の質問だったらしい。
まぎらわしいわ!!!
もちろん、拳骨付きだ。
くそう、だから、覚えていろよ。(涙目)
その日は頭をさすりながら食堂へと足を運ぶことになったのだった。