意地悪なお姉さま
どうしよう。
どうしたらいい?
都会のワンルームで過ごしていた私にとっては目ん玉が飛び出るほどの豪邸のしかも結婚式場に使われそうなかわゆい憧れの二つ方向に途中で別れた階段の中央、踊り場と呼ばれる部分で二人の年増にこき使われている可愛そうな可愛らしい娘を見て溜息をつく。
「あら。可愛そうな可愛らしい娘って韻踏んでるわ。ふふふ。」
じゃ、ないわ。
つい心の声がもれたけど。
そんな冗談を言っている場合ではない。
やっぱり現実におとぎ話の世界に何故か入り込んでしまったらしく目の前では継母らしき女と姉らしき女が可愛らしい乙女をいじめていた。
シンデレラって名前じゃなくてあだ名だったわよね。
本名ってなんて言うのかしら。
クララとか?
いや、それじゃあ山の上でハイジに出会わなきゃね。
ぷぷぷ。
いじめる光景を階段の上から眺めながらふぅと大きなため息をつく。
それにしても。
この服が動きにくい事この上ない。
何だかわからないけど、あのシンデレラ(仮)の来ている服の方が動きやすそうで経済的だ。
この、私に似合わないふりふり服は早々に脱ぎ捨てたい。
そう思いながら階段を下りていく。
あー。裸足になりたいそう思いながら。
「あら、お姉さまお目覚め?」
お姉さまという聞きなれない単語に心の中でうわぁと悲鳴をあげながら、妹らしいその意地悪な姉1に笑顔を向ける。
「ええ。」
「ほら、シンデレラ、早くお姉さまにお茶をお持ちしなさいよ!」
ふんっと小さな鼻を鳴らしながら奥へと引っ込む。
え、本名もシンデレラ?んなわけないわよね。
っていうか、やっぱりシンデレラの世界なのか。
ん?んん?
っていうか、姉1もそんなに悪くない顔をしてるんだけど。
へえ。と意地悪な姉1の顔をじろじろ見てたら「お姉さま?」と不審がられたのでとりあえず顔をそらす。
と、シンデレラと目があった。
お話の通り、金髪に碧眼の可愛らしい娘だ。
さっき鏡で見たけど茶髪に茶色の眼の私には似ても似つかない。
と、言うことは、元々の残酷な方の童話ではないのかも知れない。
とりあえず、継母らしき年増と姉1がその場を去ったので遠慮なくシンデレラに近づく。
「えーと、とりあえず、シンデレラって名前なの?」
ふわふわな邪魔なスカートをよいしょとつかんで座り込んだものだから体制が崩れて前のめりになる。
「??…大丈夫ですか?お姉さま。」
!!これまた、鈴の様に可愛い声をしている!
なるほど、これは王子様は一目ぼれなさるに違いない。
ほほう。
これは王子様じゃなくても魔法使いのおばあさんだってイチコロだわ。
あ、本当は魔法使いのおばあさんなんて出てないんだっけ?
いや、継母の方は出てきたんだっけ?まぁそんな事はどうでもいいわ。
とりあえず、この娘を王子様と結婚させれば任務完了な気がしてきた。
どうせ、夢の中だしね。
やりたいことやってから帰るわ。
「…シンデレラはお姉さま方が付けたあだ名で…。」
「そうよねぇ。で、なんていう名前だっけ?」
「??」
そりゃぁ怪訝な顔をするわよねぇ。でも、著作権との問題もあるかも知れないからはやくシンデレラなんて呼び名は回避したい。
(あ、こっちの話ね。)
「クラリスです。けど・・・。」
「あぁ、そうそう。クラリスだったわね。ついウッカリ。ふふふ。歳をとると何でも忘れちゃうからいやぁねー。」
へー。クラリス。
泥棒さんの心をもつかむ、あのクラリスちゃん。
あぁ、似ている似ている。
可愛らしいわ。
「ところでクラリス、お願いがあるんだけど。」
立ち上がろうとしてスカートのふわふわが邪魔で起き上がれないでよたよたしていたらクラリスが手を貸してくれた。
「はい、お姉さま?」
「その、メイド服?みたいな服、もう一着ないかしら。」
クラリスの着ている服を指さして、この服重いのよねーなんて呟いた。
メイド服をゲットしてから、クラリスにとりあえず私にも台所の使い方教えてくれる?と懇願し再びクラリスを混乱に陥れながら現在は二人でお湯が沸くのを待っている。
だって、飲みたい時に飲めないの、嫌じゃない?
こぽこぽと音を立ててお湯が沸き始める。
「あ、そうそうこの家、なんでメイドが一人もいないの?」
今更ですか?という顔をしたがそこは心優しい娘、クラリス。その言葉は呑み込んだようだ。
「…お母様が、メイドは私一人でも出来るからってお父様がお亡くなりになった時に皆さんを解雇なさって。」
「ふーん。そのメイドさんたちってその解雇先とか、結婚先とか…つまり退職金みたいなものはきちんと持たせてあげてたのかしら?」
一度人間関係で会社を退職した際に、自分から辞めてしまったものだから3ヶ月無収入だったのがとても辛かったので、メイドさんたちのその後がとても気になる。
「私はよく…解らなくて・・・全てお母様に任せてしまっていたから。」
「そう…お父様のお仕事は順調だったのかしら?」
「そこもよく…わからないの。」
「そう…。」
これは、後で家計簿的なのを引っ張り出してみるしかないわね。
きらりと目が光る。
絵本の世界なのか異世界なのか解らないけど、メイドさんたちの解雇先等をお世話する義務はあったはずだものね。
あと、この家、もしかしたら物凄く赤字なのかも知れない。
だからメイドさんを解雇してクラリスに全てを任せて、母や姉はあれでも何か内職しているとかー。んなわけないか。
とりあえずはお父様が亡くなってからの収入源がどうしても気になる。
なにやって生きてんだろ、この人たち。
とか考えている間にお湯が沸いたので茶葉の入れたポットにとくとくと注いだ。
「はー。生き返る。やっぱり香りが素敵ねー。本場は違うわ。」
本場が何処か知らないけど。
「あの、お姉さま、私お母様とソフィーお姉さまにお茶を…。」
あ、そうか。忘れてた。お茶を入れて来いって頼まれてたっけ。
「そうね。ごめんなさいね。引き留めてて。お茶、出してあげて?」
「え。ええ。」
クラリスは不審がりながらも笑顔で去っていく。
あぁ、いい子だわ。
まぁ、とりあえず状況がよく解らないけどお母様とソフィーお姉さまの事はクラリスに任せよう。
あれ??ソフィーって私の姉じゃなくて妹だったっけ?
まぁいいわ。
っていうか、ソフィーって。哲学書読むのかしら。まさかね。
それよりもお腹がすいたわ。
クッキーなんてもの隠してたりしないかしら。
ごそごそと戸棚の中をあさってみる。
小麦粉、砂糖、卵・・・・野菜?・・・の様なもの…多分…
今、食べられるのが欲しい…。
と、戻ってきたクラリスにお姉さま?と遠慮がちに声を掛けられた。
ええ、すみません。
お姉さまは戸棚をあさっていたのよ。おほほほほ。