決闘
戦闘描写がありますが、優しい目で見てくれるとありがたいです。
次の日、ログインした俺はまずノーラさんの道具屋に顔も出しに行く。
ポーションの値段が元に戻っているか確認するためだ。
昨日ポーションを納品したときに大丈夫だと聞いていたが、自分の目で確かめたかった。
急にポーションの値段が戻って、もしかしたら何か問題が起きているかもしれないしな。
道具屋が見えるあたりまで来ると、店の前に人だかりができているのが見えた。
町にある道具屋はノーラさんの店だけではないので、他の店でも同じように人だかりが出来ているかもしれないが、なにが起こっているのか確認するために店に向かう。
店に近づくと中から怒鳴り声が聞こえてきた。
案の定何か問題が起こっているようだ。
店の様子をうかがっている野次馬をかき分けて店の中に入ると、六人のプレイヤーがいて店員の男性に詰め寄り怒鳴り声をあげていた。
ちなみにこの店員の男性はノーラさんの息子で、ポーションの納品の時に知り合っている。
性格は温和で普段から笑顔の絶えない人だが、現在その顔は笑顔が消えて青ざめている。
店に入ってきた俺に気付いたようで、目で助けを求めてくる。
かなり追いつめられている様なので、声をかけることにする。
「これはいったい何の騒ぎですか?」
俺の声を聴いてプレイヤーの六人も俺に気付いたが、邪魔をするなという様な視線を向けてくる。
しかし一人のエルフの男が何かに気付いた顔をして声を上げる。
どうやらエルフの男は俺の事を知っているようだが、俺にエルフの知り合いはいないはずだ。
というかプレイヤーの知り合いはリュウとカオルさんしかいない(NPCの知り合いならたくさんいるのだが)。
「あなたはポーションを作っていた…」
俺もその言葉を聞いて思い出した、カオルさんと会った日に話したしつこいエルフか!
この時点でこいつらが何を騒いでいたかは予想できるが、確認の為に話をして聞き出すことにする。
「お久しぶりですね。カオルさんにも言われていましたが、あんまりしつこいようだと迷惑ですよ」
俺の言葉で向こうも確信したようだ。
「いえ、別にしつこくしているわけではないのですよ。急にポーションの値段を下げていたので、その事について話をしていただけです」
どうやら俺の予想通りポーションの値段を下げたことに怒っている様だ。
彼らにしてみればここでポーションの値段が下がっては困るのだろう、完全に自業自得ではあるが。
話が長引くのも面倒なので、ストレートに話をすることにする。
「そんな言い訳する必要はない。お前等がポーションの値段を上げていた原因だということはみんな知っているし、どうせ今はポーションの値段があがっていた時の値段に戻すように脅してたんだろ?いい加減見苦しい」
俺の言葉を聞いて全員がにらみつけてくる。
そして今度は何の動物かはわからないがビーストの男が声を上げる。
「うるせえ、お前には関係ないだろうが!部外者はおとなしく引っ込んでろ!」
どうやらかなり短気な性格の様だ、このままノーラさんの息子さんと話をさせていると危なそうなので、俺に敵意を向けさせなければならない。
プレイヤーなら町の中で攻撃されても怪我をしないが、NPCは町の中でも攻撃されれば怪我をするし、死ねば復活することもない。
「それが部外者ではないんだ。今回の件では俺も報酬をもらっているからな」
「報酬をもらっているだと?」
「そうだ、お前達のお蔭で俺はかなり広い土地をもらうことができたからな。お前達には感謝したいくらいだ」
「ふざけるな!俺たちがどれだけ損をしたのかわかってんのか!」
「そんなこと知るわけがないだろ、俺はお前たちの仲間ではないのだから」
とうとう我慢の限界に達したのか俺に殴り掛かってきたが、町の中では攻撃が意味をなさないので避けることもしない。
ビーストの男はその結果に悪態をつく。
完全に敵意が俺のほうに向いたので、これからどうしようかと考えていると、しつこいエルフがこんなことを言い出した。
「あなた、私たちと決闘しませんか?私たちに口を出してきたことを考えれば、このお店に手を出されると困るのでしょう?あなたが勝ったら今後このお店に手を出すことはしません」
なかなか冷静にものを見ている奴もいたようだ。
確かに俺が口を出したのは店の為だし、勝てば今後店に手を出さないという条件も一見納得できる。
しかし町にある道具屋は一つではないしこいつら以外にも仲間がいるのは知っている、それに俺が負けた時の条件をきいていない。
「この店だけではなく、ほかの店やNPCにもお前たちを含めた関係者が手を出さないようにしろ。それと俺が負けた場合の条件は何だ?」
エルフの男は、俺の出した条件を聞いた瞬間に少しだけ顔をゆがめた。
やはり負けた場合でも、ここにいない仲間を使うか他の店に手を出そうと考えていたようだ。
とことん屑な男である。
「…わかりました、その条件でいいです。あなたが負けた場合ですが、今回あなたが受け取った報酬でどうでしょう?」
まあ、予想道理の答えだ。
初心者装備のままの俺が持っている物で一番価値があるのは、明らかに今回の報酬の土地だろう。
決闘で決めた条件は、違反するとアカウントが停止されるので破られることはない。
ここまで決めれば後は決闘を俺が受けるかどうかが問題になってくるが、俺の中で答えはすでに決まっている。
「分かった、決闘を受けよう」
「そうですか、それではここでは狭いですし場所を移動しましょうか」
エルフの男は笑顔を浮かべてそういう。
そして俺と六人は店を出て広場へと向かった。
広場に着くと、いつの間にか話が広まっていたのかたくさんの野次馬がいた。
しかし周囲の野次馬が広場の隅にいるのに、正確に数えてはいないが20人ほどが中央にいて俺たちを、正確にいえば俺以外の六人を待っていた。
「おい、そいつが話のカモか?」
「ええ、決闘の人数も決めず装備も初心者のままのカモです」
待っていた者の一人としつこいエルフがそんな会話をする。
どうやらほかの仲間を呼んでいたようだ、周囲の野次馬もこいつらが呼んだのかもしれない。
それか他の店でも同じことをしていて、そこにいた野次馬かもしれない。
それにしても一人に対してこの人数で相手をするようだ。
仲間も予想を裏切らない屑である。
俺もその可能性には気づいていたが、あえて指摘しなかった。
今回は本気で相手をするつもりなので何人いようと関係ない。
それより早く、決闘を始めたい。
この屑どもを早く叩きのめしたいのだ。
「おい、早く決闘をはじめないか?お前等がいくらいようと俺は構わないから」
「あなたは馬鹿ですか、そんな装備で、しかもこの人数に勝てるわけないでしょう」
「どうでもいい、早くはじめろ」
俺の言葉を聞いてまだ何か言いかけたが、決闘を始めることにしたようだ。
相手の数は28人で魔法職と思われるものが8人と残りが戦士の様だ、1パーティーは六人なので5パーティーには2人足りないことが気にかかる。
ただ足りないだけかもしれないが、あいつらの性格を考えると注意しておいた方がいいだろう。
俺は殺傷力と耐久値が棒よりは高いため、刀を構える。
すると俺の前に半透明の板が出てきて、決闘を受けるか確認してくる。
俺が受けることを選ぶと、カウントダウンが始まる。
カウントダウンが始まった瞬間に思考を戦闘用に切り替える。
カウントダウンが終わった瞬間に剣を持つ相手に向かって飛び出す。
相手は油断していたようで慌てて俺に向かって剣を振り下ろす。
しかしその瞬間、俺の視界からは色が抜け落ち、目に映るものがゆっくりとしたものに変わる。
現実の肉体であればここで俺の動きもゆっくりとしたものになるが、今の俺の肉体は高い性能を持つ妖鬼のものだ
現実よりも格段に動きがいい
振るわれた剣の腹を、刃に触れない様にしてそっと刀を持つ方とは逆の手で押し出す
すると剣は俺を避けるような軌道に変わり、地面を打つ
剣を地面に打ち付けた相手の体制が戻る前に首に刀を突き刺す
赤いエフェクトが起こり、相手が砕け散る
何が起こったのかも分からずに、仲間が一撃で殺されたことに茫然としている奴らの首にも刀を突き刺していく
赤いエフェクトを散らして砕け散った相手が、一人目も合わせて七人になったところで我に返ったように動き出す
ハンマーを持った相手が殴りかかってくるが、足を引っ掛けて転倒させた後に踏みつけることで首の骨を折る
首が折れたことが致命傷になり、足元で砕け散る
ここで8発魔法が飛んでくるが、ゆっくりと近づいてくる魔法など避けることは難しくない
射線を確保するために開けられたスペースを、無駄な動きを抑え紙一重で魔法を避けながら走り抜ける
魔法を放ったことで硬直している相手の首に、他の者と同じように刀を突き刺すことで致命傷を与え砕いていく
これで魔法が飛んでくることもない
残りの相手は固まって俺の様子をうかがっている
今度は走り寄ることをせずに、ゆっくりと歩きながら近づいていく
先頭にいた槍を持った相手が間合いに入った瞬間に突きを放ってくるが、槍が伸び切ったところをつかみ力任せに横に振る
妖鬼の力に耐えられず相手は槍を手放して転倒する
転倒した相手の首に奪った槍を突き刺すと、また赤いエフェクトが起こり砕け散る
その光景を見て残りのものがそれぞれの武器で攻撃してくるが、今までと同じように受け流してから首を突き刺し、転倒させて首の骨を折っていく
二人を残して他の相手が砕け散ったとき、俺に向かって左右から魔法が飛んできた
魔法を避けながら残り二人の首に刀を突き刺して砕いてから、魔法が飛んできた方向を確認してみると、避けられたことが信じられないといった様子の魔法職が二人いた
野次馬の中に隠れていたあいつらの仲間だろう、人数も二人でちょうど5パーティーだ
硬直が解ける前に片方の首に刀を突き刺し砕く
残りの一人が魔法を放ってくるが、俺はあえてゆっくりと避けながら近づいていく
距離が詰まるにつれて魔法が避けずらくなっていくが、当たることはない
相手がその様子を見て、決闘にも関わらずに逃げ出そうとしたところで距離を即座に詰めて転倒させる
ここで俺は思考を元に戻した
うつぶせに倒れた相手の背を踏みつけて逃げられないようにしながら言葉をかける。
「これに懲りたら二度と汚い真似をするなと仲間に伝えろ、それと俺に復讐しようとしてもお前たち程度では相手にならないともな」
最後の一人がうなずいたのを確認して、とどめを刺す。
相手が砕けて消えたことで決闘の終了を告げるアナウンスが起こる。
周囲の野次馬は静まり返っていたが、アナウンスが起こった瞬間に割れんばかりの歓声が起こる。
少し戦い方がえげつなかったので、怖がられるかと思ったがそんなことはないようだ。
俺は歓声に応えるように手を振っておく。
すると俺に声をかけてくるものがいた。
「よう、また派手にやらかしたなヨル」
声をかけてきたのはドラゴニュートの青年だ。
一瞬だれか分からなかったが、髪と目の色が違いドラゴニュートの特徴の後ろに突きでた角を除けば、達也だということが分かった。
「そうだなリュウ、確かにやりすぎたかもしれない」
「おっ珍しいな。素直に認めるなんて」
「さすがにこの周りの様子を見ればやりすぎたと分かる」
「そうだな、とりあえず野次馬に捕まる前に逃げるか。話も聞きたいしな」
「分かった」
そういって俺とリュウはその場を後にした。
ヨルのチートスペックが発揮されました。
前書きでも書きましたが、もろもろ含めてやさしい目で見てくれるとありがたいです。




