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チョコとオルトギュウス 下

「あんたはあんたの世界があるように、」


オルトギュウスが喋りだしたところで、急にチョコが口を尖らす。


「…あんたじゃない。

みやび。チョコのみやび」


「ハイハイ。えーと、雅にも世界があるように、うちらにもある。

俺たちはこいつを主人とした兵器試作品の一つなんだよ」


口を拭って、オルトギュウスは話しはじめた。

俺は口を挟まない、とにかく話を聞きたかった。


「こいつの腕にタグがあったろ?

試験段階からずっと腕にはめられてるんだ、これ。

ここに載ってるのはこいつの名前じゃなくて、俺たちの名前なんだよ。こいつが枷をはめれる人間兵器のな。

俺なんかは力のみを特化した配列パターンで、ベースはこいつと一緒。だからおつむは同じくらい。

他にも色々いるが、そいつらが試験任務段階で脱走できちまう事態になったんだよ。

……こいつの記憶喪失だ。

俺含めて他の兵器は自由に飢えてるからな。

記憶喪失になりゃ枷なんてかけらんねーから、さっさと逃げたんさ」


これが彼らの世界。

この嘘みたいな話が、彼らの真実。


「記憶が完全になってまた見つかりゃ、こいつの言霊の枷でまた元に戻っちまう。

こいつ自体は人間にしちゃちょっと頑丈だが、俺からしたらただの弱っちいガキだ。

だから何も知らねーうちにぶっ殺しちまおうと思ったんだ。

したら土壇場で思い出しやがって。

因果なもんだよ。こーゆー経緯なワケ」  


おかわり、と皿を差し出すオルトギュウス。

あまりにも現実離れしているので、なんとも納得しがたいが…。

皿を受け取り、台所に向かう。

チョコは俺をじっと見て、悲しそうで寂しそうな目をしていた。ロールキャベツをよそいながら、疑問を口にする。


「兵器ってなんのためのだ?

お前みたいなすごい力を、人間から引き出せる技術があるなら、今の医療技術とかに使えば良いのに」


人間の限界を引き延ばす技術。

漫画みたいな話が現実なら、世界が変わる。


「さぁな、“兵器だから”聞かされてねぇよ。

ま、切り札はいつでもとっときたいもんじゃねーの?」


ロールキャベツのおかわりを手渡すと、オルトギュウスは嬉しそうに受け取る。見た目は普通の子供なのになぁ。

新しい物が出来たらまず武器にする。なんだか悲しい人間の本能だ。

…そんなものか、ダイナマイトや核融合が、結果武器に応用されたみたいに。


「でも、なんでそんな兵器を統括してんのが、チョコみたいなひ弱な奴なんだよ」


「ばーか。主人が弱くなきゃ凡人が扱えないだろ。

俺みたいな力を持った飼い犬じゃ、即殺されちまうからな」


確かに…そうだ。


「もういいだろ経緯はよ。

それより、お前どーすんの。

俺は馬鹿だけど、『あいつら』はそこそこ頭いーぜ?」


オルトギュウスはチョコに向き合う。傍から見ると双子のよう。


「お前か本部をぶっ壊せば自由になれるって、とっくに気付いてるだろーよ。

本部をやられるのはいいとして、少なくともお前のとこに来る奴がいたら、雅が危ないぞ。

このままでいーのか?」


チョコはうなだれて、考え混んでいる。

ボサボサの髪、いまだに俺の貸したジャージをワンピースみたいに着ている。その姿はまだ子供。

逃げ出した兵器を統括するために枷をはめるチョコだが、そのチョコ自身も『主人』という枷をはめられている。

俺から離れなかったのは、戻りたくないと思っていた本心もあったのかもしれない。


「チョコ、俺はいいぞ、ここにいても」


俺を見上げる、無垢な瞳。


「お前が帰りたくない場所なら、ここにいてもいい」


「……みやび、いっしょいたい」


嬉しそうに笑う、チョコ。

仕方ない、拾って世話した俺も責任がある。

なによりここで縁を切って、チョコは大丈夫なんだろうか。


「大丈夫だよ、この俺がいるからな」


オルトギュウスは皿を舐めながら、にやりと笑う。

案外、一番チョコを心配していたのが、こいつなのかもしれない。


「雅も護るよ。

…兵器の俺に飯を作ってくれる馬鹿は、お前だけだからな」


ぶっきらぼうに言うが、照れたように含み笑いをしているオルトギュウス。

こいつもそれなりに辛い事があったのかもな、と頭を撫でると真っ赤になって手を叩かれた。


居候が二人に増えた事をどうやって姉に説明したらいいか、頭を悩ませるが兄妹のように喧嘩をしている二人を見て……まぁ、なんとかなるかと笑った。



「みやび、あのね」


満腹になったのか、オルトギュウスは夕食後すぐに寝てしまった。

二人で皿を洗っていると、チョコが俺の袖をひっぱってくる。


「チョコはね、ほんとはなまえないの。

オルトギュウスとはちがうから『鎖』って呼ばれてた。

だから、チョコってなまえもらったの、すごくうれしいんだ」


笑う。

チョコの記憶は少しずつ快復しているようだ。口調も幼い子供の発音だが、所々明瞭になる。


「だからチョコは、みやびのこと一番だよ」


もちろんみやびの姉ちゃんもね、と笑う。


「ありがとな」


きっとチョコが人らしく、

女の子らしく笑えるのが、今なら。


それを永遠にしてやりたい、と俺は思った。



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