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私の彼氏がヤンデレだったようです。

私の彼氏がヤンデレだったようです(SF)

作者: みやこ

 2133年の現代では、恋は前時代のものとされています。









 2100年ごろ。


 技術の進化は、人類の完璧な精神的健康を実現しました。



「精神健康技術」 英語で マインドウェルフェアテクノロジー。略して、MWT。


 最初は2020年ごろからアメリカで進んだ研究で、戦争における兵士の恐怖や異常興奮もしくはPTSDをなんとかしようと開発されたものだったと聞きます。


 脳波を超小型コンピューターが読み取り、そこから実際の精神のストレス状態を読み、音・映像で精神を平常に戻すように干渉する。


 そんなモバイルで携帯するコンピュータープログラムが停滞しながらも少しづつ少しづつ進化をとげ、2060年には、完璧といえるアルゴリズムが完成。2080年ごろからじわじわと一般市民にも販売されるようになりました。


 たとえば、私の耳の後ろに埋め込まれている、MSーI型ニューロマシーンは、ほぼ自動で24時間、私の精神的を「健康」であるように管理してくれます。


 私がなにかに強い悲しみや劣等感を抱いたと仮定します。まず、警告音が発生します。


 やさしい女性の声で

 「貴方の精神は今、不健全であると、判断されました。キャンセルを入力しないかぎり、修正が実行されます。なおキャンセルは耳タブを強く触ってください」

 この声をきいたあとにそのまま5秒ほど待つと、次の瞬間に脳は少し嬉しい気持ちになるよう制御してくれます。さらにその次の瞬間には悲しみや劣等感を抱いたという実感までがぼやけます。

 けっして記憶そのものを弄るわけではありません。ただ激しくネガティブな感情がどうやっても自分の心の一部であったと思えなくなるのです。

 技術がどうそれを可能にするかは私にはわかりませんが、そういうものだと理解しています。

 あと、ついでというか、ニューロマシーンは脳波の監視をしていて、余りに運動しないとか・食事の偏りも「精神の不健康」に繋がるので、それも指導が入ります。



 

 科学が人間の心を解析した結果です。


 量子コンピューターにおける超高度計算は、感情を、心の動きを、脳の働きを、アルゴリズムとして解くことに成功しました。

 

 そして、それをコントロールする手段も開発されました。


 それがニューロマシーン。


 コンピューターと脳神経を直接、安全に繋ぐこのマシーンは、「精神健康技術」よりもはやく、2050年ごろに開発されて、私たちの情報処理を格段に加速させました。


 そして、私たちはその目まぐるしさに疲れていたのだと思います。


 先進諸国の精神病は一気に増加して、最悪時期の日本で成員の40パーにまで膨れ上がり、自殺も増えました。


 この、ニューロマシーンの開発と、「精神健康技術」の発達は車輪の両軸のように進んでいきました。


 過渡期にはもちろん、倫理的な反対はありました。


 この技術は人間の管理のはじまりだと。


 われわれの心への冒涜だと。


 しかし、その議論は長くは続きません。


 その技術の一般市民への浸透は、最初は精神病患者への任意の医療行為としてはじまりました。


 「任意」だったんです。


 けれど、2080年に販売された開始されたニューロマシーンアプリ「メディカルマインドサポート」は大ヒットして、わずか2年で社会の約65パーセントが自主的にそれを身につけるようになりました。(ニューロマシーンを着けている人がそんなものでしたから。数字は決して低くありません)


 現在の普及率は96パーセントです。


 耳の後ろの小さなコンピューターは、確かに私たちをコントロールします。


 が、


 なにかの思想に洗脳されるわけではありません。


 というか、実行前にはキャンセルが可能ですし。「忘れたくない感情」に設定されたものを消すことはありえません。


 ニューロマシーンはただただ、けなげに精神の安定をサポートしてくれようとしているのです。





 結局は、社会全体が、精神というあやふやなものの管理を、正確な機械に求めたのです。


 事実として、この技術は有用でした。 



 まず、人類は鬱病にかからなくなりました。

 

 ついで、自殺しなくなりました。


 ストレスを感じなくなったわけではありませんが、適切なストレスしか感じなくなったので、これは当然といえます。


 あと、人類が実際の医療技術の進歩とはほぼ無関係に癌・成人病による死亡数もかなり下がりました。


 結局は、生の苦しみという精神的苦痛が、人の死の理由だったのだ、と今の研究者は揃って言います。


 死亡率の急激な低下。


 および、犯罪率の低下。


 社会の安定。


 「精神健康技術」がもたらしたのは、すべて素晴らしいものばかりでした。




 苦痛からの開放。


 2133年の現代は、人類の成し遂げた成果をそうまとめます。


 心のあやふやさを克服して、人類はより幸せになりました。とさ。







 さて。



「精神健康技術」が浸透したあと、「恋愛」はゆっくりと、文化として廃れていきました。



 今現在ではアップデートにアップデートを重ねて、「メディカルマインドサポート」において、恋は精神的不健康に分類されます。


 適切でない過度の憧れや性的な興奮は、快楽が得やすい代わりに依存性が高く、犯罪行為・精神病・自殺もろもろのリスクがぐっと高まるのだそうです。


 あれですね。


 前時代でいうと、麻薬が社会的に違法とされるのと、同じです。


 これまた議論がもろもろありましたが、あくまでニューロマシーンは感情を強制してはきません。


 より健康な状態へ導こうとするだけです。


 この感情は残したい、という設定は、自分自身で可能なのです。


 しかし、デフォルトで恋が精神的不健康になってから。


 社会の中で、恋はいつのまにかどこかに消えました。


 


 おばあちゃんなどに話を聞く限り。


 恋をしなくなった第一世代の大多数は昔より気楽に人生を楽しむことができたと実感しているそうです。


 ああ。「恋愛結婚」が一般的でなくなったので、現代での配偶者探しは、もよりの病院で遺伝子の分析と問診を受けて保険局による配偶者斡旋を受けるのが一般的です。


 離婚率は、1パーセント未満です。

 私たちの社会では、誰と結婚しようとも、そうそう不幸になることはありません。

 皆穏やかで、幸せな人間同士なのですから。



 とある学説によると、恋という文化が衰退した最大の理由は、ニューロマシーンとそのアプリである「メディカルマインドサポート」がいつも私たちを理解し、受け入れ、励ましてくれるからだとされています。


 テクノロジーの塊であろうと、この上もなく、私たちの心を包み込む存在がいつも共にあるのです。


 他の誰かを求める理由などあるんでしょうか。


「赤い糸ではなく、耳の後ろの神経細胞で、私たちは最愛の存在と繋がっている。」


 詩的な学者はそう表現します。



 


 私の趣味は読書なのですが、著作権切れのおもしろい本を探して、2000年ごろの昔の文献もよく読みます。


「苦痛からの開放」以前の世界は、本当に恋に溢れています。

 どの本を見ても、誰しもが誰しもに恋をしています。

 何冊もそんな本を読むと

 恋とはどんなものかしら。そんなに素晴らしいものなのかと考えてしまうことは何度かありました。

 ロックを聴いてドラッグに憧れる少年のようですね。お恥ずかしい。

 しかし、同時に、この時代は、戦争と疾病と自殺に満ちた世界なのです。

 過度のあこがれは、そう「不健康」というものでしょう。





 さて。



「恋とはどんなものかしら。」


 私の目の前にいる彼に聞けば、彼は歓喜の色を目に浮かべて


「とても素晴らしいものだよ」


 と微笑むでしょう。




 彼は私の恋人です。本人が頑なにそう表現するので、私も負けて受け入れました。


 彼は私を見たときに一目で恋に落ちたのだと語ります。

 ある日、すれ違う私の色素の薄い髪をぼんやり見ていると、耳の後ろに埋め込まれたニューロマシーンが、警告音を奏でたそうです。


「貴方の精神は大変な不健全な状態……」


 ここまでの警告音しか聞こえなかったと、彼はいいます。


 そこまでの警告音を聞いたときに自分の指と爪で耳の奥に埋められたニューロマシーンをえぐりとったのだそうです。


 そして、彼は血を流しながら私を追いかけて、デートの約束をとりつけました。


「ああ。僕を大きな目で僕を凝視する君のなんて愛らしかったことだろう」

 たびたびはじめて出遭った日を彼はそう語りますが。

 

 私から言わせて貰えば、耳からだくだくと血を流した男からデートを申し込まれて動揺してただけです。


 「大丈夫ですか。脈拍があがっています」と、ニューロマシーンにも心配されました。


 ……結局、正直顔が好みだったのと、血が出てる傷口を一刻もはやく治療してほしくて、請われるままに連絡先を交換して分かれました。


 彼のニューロマシーンが破壊されていたので、かなり古いやり方ですが、パソコンのボイスチャットのIDを交換しました。


 ああ。もちろん、その後、彼の耳の傷は、ただちに救急車で病院に行って適切な処理は受けたそうですよ。引きちぎったナノコードは神経と繋がっているので、ほっておくと危ないんですから。


 耳たぶキャンセルすればいいのに。彼は痛いの平気なんでしょうか。

 恋心を「忘れたくない感情」としてニューロマシーンに設定すればよかったのでは、と聞くと。


「……この恋を消すことができる機械を体内に埋め込んでいる、っていうだけで気持ち悪いんだ」

 と吐き捨てるように言われました。



 今のこの世界で、ニューロマシーンなしで生きていくのはかなりきついはずです。

 「メディカルマインドサポート」はどのニューロマシンにも標準搭載されて、メインシステムにもかなり食い込んでるそうなので「メディカルマインドサポート」を拒絶するのなら、ニューロマシーンごと拒絶するしかないのかもしれませんが、不便は計り知れません。


 公共施設とかはたぶん問題ないですけど、コンビニとかの支払いとか今時、ニューロマシーン以外の電子マネー使えるところあるのかな。

 彼、彫刻家だからなんとかなってるらしいです。芸術家は、思想的なニューロマシーン否定派それなりにいますからね。

 



 基本的に彼は、いつでも、苦しそうです。


 私に出会えた瞬間だけは、しばらく蕩けるように幸せそうな顔をしていますが。


 私に会えないときは体が千切れるような寂しさに襲われて

 

 よく、ずいぶん前の時代のええと…ラブソング??っていうのを聞いては涙しているそうです。


 私と会っていても、平然とニューロマシーンをつけている私を見ては悲しげにしています。


 彼にとっては、ニューロマシーンを着けているというのは「私が彼を愛していない証」なのだそうです。


 でも、私は外す気はありませんけれど。




 会えないと、会いたくてたまらない。


 会っても、ため息ばかり。




 この状態って、本当に不健康だと思うんですが。




「君が与える苦しみが、僕の生きている意味なんだ。」




 そう胸を押さえて苦しそうに言う彼は、前時代的にはとても幸福な人ではないのかと。



 理解できないながらも、そう思うのです。



…ヤンデレを書こうとしたのに

主人公のほうが狂ってるかもしれない。パターンが確立されてきましたかね。このシリーズ。

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