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船上の出会い

先輩とのやり取りを一部改変しました。

空間決壊についての説明を変更しました。

台詞を追加。

 暗い、無音の世界。 時間の流れは自身で確かめる(すべ)もない。

体は重く、その気だるさから物事に対する思考が定まらない。


無限に続く虚無の世界。 ただ、そんな中にひとつだけ、我という意識が浮遊しているという事実が、不自然に感じながらも確定している。


暫くすると、呼吸をいつからか忘れてしまっている事に気が付く。 そして、今まで感知していなかった身体はここにあり、そこから生気が(こぼ)れ出していく。


「そうか、これが死ぬというものなのか」

 と、自身の最期を意外にも客観的に捉えている自分がいることに気がついた。


「え、あれ……」


 自己の存在に気づいた途端、急に押し寄せてくる息苦しさ。

 酸素を求め、息を吸おうとするが、体がいうことをきかない。

汗ばんだ全身の感触と、何かに覆われている圧迫感のせいで息苦しさは増していく。

 もがこうにも体は動かない。 そうこうしているうちに息苦しさは絶頂へ達していく。

 最後に、幼い頃の記憶から掘り起こされた少女の名を無意識のうちに叫んでいた。


 



薄暗い一室、狭い室内の窪みのスペースに設けられた二段ベッドからうめき声が聞こえる。


「うぅ、ぐっ。 ……はあ、はあ、はあ」


 現在、この部屋の使用者は一人。 鍵谷真二(かぎたに しんじ)という魔術協会に属する若き魔術士だ。

魔術協会とは、世界各国の最高位の魔術師達が結成した結社である。 協会の支部は世界各地に点在している。

主な活動内容は、魔術に関する法令を定め、魔術行使者にそれを遵守させることである。 又、魔術を必要とする行政活動や、未だに謎の多い魔術の研究等、様々な活動を行っている。


そんな協会の魔術士である真二達の今回の任務は、太平洋に浮かぶ無人島にて起こった自然現象の事後処理であった。

 真二達は現在、島で起こった現象の処理を済ませ、その現場で回収した魔石と呼ばれる特殊なエネルギー資源を協会が管理する保管施設へ船で移送している。 目的地に到着するのは本日の午前中の予定だ。


目が覚めた真二は体を起こす。


「気持ち、悪……」

 彼の顔には大きな水玉のような脂汗が流れている。 まとわりつくような汗の不快感に耐え切れず、上段のベッドから降り、床に置いておいたバッグからタオルを取り出し、顔を拭く。


時計を見ると、デジタル式の時計が午前四時前を表示している。

「早く目が覚めてしまった」

 真二が船内の歩哨(ほしょう)に立つのは二時間後の六時からだ。 体は重たいし、気分も優れない。 ここは一度、寝直しても良かったのだが、彼の目は不思議と冴えてしまっていた。


 明かりを点け、部屋にかけられている鏡を覗く。 その鏡に映った彼の顔は、血が充分に行き通ってないのか、少し青白い。

「なんだったんだ。 さっきの夢は」


 協会の制服に着替えながら、先ほど見た夢について思い出そうとするが、ぼんやりとした断片的な場面しか記憶に残っていなかった。





「鍵谷、随分早いじゃないか。 どうしたんだ」


 真二は顔を洗った後、甲板に出ると大柄な男がこちらに気づき、声をかけてきた。

強めに吹いている風と、肌寒さで、真二の顔が引き締まる。


「いえ、悪夢にうなされまして、どうも寝付けないのでこちらに……」

 真二がそう言うと、男は笑った。

「まだまだ子供だな。 しかし少年部を出て、俺達と合流してからまだ三ヶ月なんだよな」


 少年部。 魔術協会では、親を失った身寄りのない子供等を引き取り、魔術士としての教育を施し、ある程度の実力を付けた者は協会の末端として派遣させるという教育機関がある。 少年部はそのカテゴリの一つで、幼児から小学生までの児童部、小学生から高校生までの少年部、そして、高校生から成人した者たちは青年部へと、年齢によって教育施設やその内容が区分されている。

ちなみに、この大柄な男は一般的な教育機関を()て協会に入った魔術師である。


「少年部から一気に現場の魔術士にまでなっちまったんだからな。 今までお前のこと、とんでもねえバケモンだと思ってたが、夢が怖くて眠れない。 なんて、意外と可愛いところがあるんだなぁ。 ……って、妙に安心しちまったじゃねえか」

 再び笑いながら真二の背中を叩く三十路間近の先輩魔術士。


「っとと、そんなぁ。 僕も人の子ですよ。 怖い夢くらい見ます」

 真二は少し不満そうに、頬を膨らませながら反論した。


「あっはっは。 悪かった、悪かったって。 ……まあ、そういうことなら一緒に回るか」

 先輩はそう言い、歩き出した。 その後に続く真二。


「くはぁ〜あ、早くこんな油臭いオンボロ船なんて降りて、休みてえなぁ」

 先輩は大きく伸びながら、愚痴をこぼす。


「失礼ですよ、先輩。 協会の船じゃないんですよ」

 小声で制す真二だが、全く気にしない先輩。 広い甲板には真二たちとは別に幾人かの乗組員がいる。 乗組員達は入港の準備を始めようとしていた。


真二達が現在搭乗している輸送船は、協会が業者に発注して出しているものだ。 彼らは彼らで仕事をしている。 なので船内歩哨といっても、魔術士のやることは、自分たちが持ってきた機材と回収した魔石の管理くらいで、魔術士である真二達の仕事は実質現場の処理が終わった時点で無くなったと言ってもいいのだ。


(せわ)しく動き回っている乗組員を見ながら先輩は言う。

「あいつらだって皆似たこと思ってるって。 なんでこんな仕事してんだろ、ってよ。 己の人生行路について(なげ)いたって別に構いやしないさ。 誰も気にしやしないし、言ったところで何か変わるもんでもない」


「じゃあ言うなよっ」


 鋭く突っ込む真二。 胸板を叩かれて満足げな表情を浮かべる先輩。


「確かに誰もちゃんとは聞かないかもしれませんが、それでも耳には入るのです。 余計な事は言わない、そして、しないのが魔術士という者の在り方(ありかた)でしょう」


「ツッコミも様になってきたじゃないか。 そうだ、その通りだとも。 だがな、それでも言いたくなるんだよ。 言わなきゃやってられないのよ。 鍵谷みたいなガキにまで仕事回して、それでも人が足りない状況だ。 特に最近は時空間で魔力の波が活発になってきてやがる。 あちらこちらで空間決壊(くうかんけっかい)が起こってんだ。 死人も数え切れないくらい出ている。 そんな世の中で生きていかなきゃならんとなると、自然と愚痴が出てきてもしょうがないだろ」


 空間決壊。 この世界とは異なる世界から押し寄せる魔力と呼ばれる特殊なエネルギーの波に、世界の境界線が破壊される現象である。


決壊した界面から異界の濃密な魔力がこの世界に流入してくるのだが、この魔力には特性がある。 それは、魔力の高い融解性である。

物質ではない、概念のような存在である魔力は、それに式を与えると形を成し、色々な物やエネルギーに姿を変えるが、同時に何物も溶かしてしまう性質を持っている。

 この世界のあらゆる物質は、そんな魔力に耐性を付け始めているが、異界から流れ入って来た純度の高い魔力に飲み込まれると溶かされてしまうだ。


溶かされてしまった人間や物は一緒くたに混ざり合い、魔石となっていく。 魔石になったものはもう元に戻すことは出来ず、エネルギー資源として利用されたり、石として半永久的にそこに残るだけなのである。


 この特性を持つ魔力が一気に流れ込んでくるのが空間決壊という自然災害の全容だ。 現在、魔術協会や各国の研究機関がこれの対処法や、対策の開発に取り掛かっているが、後手の処置法か、漂う魔力が魔石へと変わり、自然に決壊箇所が閉じるのを待つだけというのが現状である。


 後半、先輩の表情は冗談を言っている顔ではなくなっていた。 救いの道が見えない世の中をまだ子供の真二達にまで背負わせ歩いていかないといけないという現実を目の当たりにするのは彼にとって、耐え難い苦痛なのだろう。


「それでも、僕達はやっていかないといけない。 いえ、やりたいことだからこそ僕は頑張れているんですよ。 先輩」


 真二の笑顔に目頭が熱くなった先輩は、そっぽを向いて涙を堪える。

船体から響くボイラーやエンジンの音が、二人を包む。

少しして、先輩は頭を掻きながら振り返った。


「はあぁ。 適わねえなぁもう。 ガキってのはこれだから困るんだ」


 気が付くと空が明るくなってきていた。 藍色の空から、青紫へと色が変わっている。

 再び二人は歩き出し、魔石の収容されているコンテナの確認へと向かう。


「鍵谷はこの任務が終われば、そのまま情報管理局に転任だっけ?」

 先輩の問いに頷く真二。


「なんでまた」

 訝しげる先輩。 そもそも真二は現場の人間だ。 事務仕事をこなす真二の姿を先輩は想像できないみたいだ。


「守秘義務がありますので大きな声じゃ言えないんですが、先輩にだけなら良いですよね」

「おいおーい、悪い顔しとるぞ」

 ちろりと舌を出しながら、真二は歳相応の無邪気な顔をする。


「なんとですね、次の任務は諜報活動なんですよ」

「ッ!? おい、スパイが簡単に口を滑らすな。 余計な事は言わないんじゃじなかったのか……」

 呆れる先輩。 それに対して、特に悪びれる様子もない真二。

 先輩は辺りを見回して、ため息を吐いた。

「はぁ……。 まあ、わかった。 もうそれ以上言うなよ」


 そうこうしているうちに、コンテナのある場所へ着いた。

「先輩」

「ああ、誰かいるな」


一際大きなコンテナの前に何者かが立っている。 長く伸びた黒髪に、場に似つかわしくない黒い浴衣を羽織っている細身の少女、だろうか。


「鍵谷、拘束術式(リストレイン)用意しとけ」

 そう言いながら、ゆっくりと近づいていく先輩。 真二は四角い液晶モニターのような機器をロングコートの中から取り出し、操作している。


「そこの女。 手を上げろ。 ゆっくりだ」


 先輩が声をかけるが、少女は微動だにしない。 真二の操作していた手が止まる。 すると、真二の腕の周りに光の粒子が集まり、それは魔法陣を形成した。


「おい、聞こえてんのかっ」

 声を荒らげ、更に接近する先輩。


そのまま腕を引っ掴み、こちらに向けたその時だった。

「ッ……。 うぅ」

 先輩の膝が折れ、膝立ちのまま動かなくなった。


「先輩ッ!」


少女は真二を見る。 狐の面が顔を覆い、素顔は見えない。

 身構える真二。 狐面の少女はただ突っ立っているだけだ。


ここで大声を出すなり物音を立てるなり、自分一人で対処するよりも、助けを呼ぶほうが得策なのは真二もわかっている。 だが、できない。 少女のすぐ傍に先輩がいるからだ。


そのまま、数秒間の沈黙が続いた。 そして、その流れを切ったのは少女だった。

「利口じゃの。 そなたが動いておればこの男の命、今頃は無かったぞ」

 方言混じりで発せられる彼女の声は、こんな状況でなければ可愛いとも思えただろう。


彼女の手に収まっている(きり)の切っ先が先輩の首を捉えており、いつでも獲物を貫く準備が出来ている。


 このままでは何も進展がない。 寧ろ、主導権の有無を彼女に宣言されてしまった。

「どうじゃ、ここは一つ、見逃してはくれまいか。 この男は気絶しておるだけじゃ。 じきに目が覚める」

 そう言いながら、少女は先輩の頭を撫でる。


 真二は思考を巡らせる。

また一つ、状況が悪化した。 先輩の命と引き換えに、彼女の命令に従わなくてはならない。 しかし、どんな要求をしてくるのか? 無断乗船なら高が知れたことだが、そんなことはないだろう。 恐らく彼女の目的は、そこにある魔石の入ったコンテナだろう。 と。


 だが、もしそうなら、真二はどうするのか。

「確認したい。 お前の目的はなんだ」

 息を飲みながら返答を待つ。


ふふっ、と、鼻を鳴らす音が狐面から聞こえた。

「それは勿論、このコンテナの中に入っておる魔石じゃ。 なあに、そなたの手はわずらわせんよ。 そこで惚けておれば良いだけじゃ。 悪い話じゃないだろう」


 思った通りの返答に、真二の表情が陰る。

「そうか、わかった。 交渉は……、決裂だ!」


 真二は甲板を蹴り出し、一気に狐面の少女へと飛びかかる。

「魔石は渡さないッ」


 少女は先輩を手放し、飛びかかってくる真二の真上へ跳躍し、突進を避けた。

「ちっ、(わらべ)の癖してなかなか肝が座っておるではないか」

 空中を舞う少女は真二に向かって三本の錐を連続して投げつける。 放たれた錐は、大気を貫き真二を襲う。


拘束術式リストレイン展開オープン


 振り向きざまに、真二は腕に纏っていた魔法陣を展開させる。 魔法陣はたちどころに光の帯となった。 そして帯は意志を持った蛇の如く、向かってくる錐を絡め取っていく。


「青くとも協会の魔術士と言ったところか。 やりおる」


そこらに並び置かれているコンテナに舞い降りた少女は浴衣の帯揚(おびあ)げに仕込まれていた短刀を取り出し、鞘から刃を抜く。 そして、刃の(しのぎ)に刻まれた特殊な文字に沿って指を伝わす。 すると、その刻印に紅色の光が灯っていく。


『天狼の牙に宿りし魔を断つ力よ、我が精を喰らい、今ここにその力を顕現せよ……』


 三本の錐を全て受け止めた帯は、そのまま少女に向かって伸びていく。


「短刀だと。 いや、そんなもので切れるわけがない」

 真二は光の帯を操り、少女を中心に円転させ、円環を形成する。


少女は短刀を片手に構える。


「無駄だ、そのまま縛り込めッ」

 真二は広げた拳を勢いよく握る。


 その瞬間、布の擦り切れる音が聞こえてきそうな速度で帯が収縮を始めた。 そのまま帯で出来た円環が小さくなっていき、彼女の胴に巻き付こうとする。


「断て、天狼牙」

 縦に一閃。 迫る帯の輪を刃が切断した。

そのまま彼女は真二に向かって飛び込む。


「なっ。 術式が」

 帯の切れ端から術式が崩れ、帯が消えていく。

 耐久性、特に防刃性に優れる帯が、短刀にあっけなく切断されて狼狽える真二。


「己の術に過信しておったか……。 それがお前の敗因じゃ」

 いつの間にか目前まで迫っていた少女が真二の耳元で囁く。


「え?」

 そして、突然こみ上げてくる腹部からの圧迫感。 見下ろすと、少女の膝が真二の腹に打ち込まれていた。


「がふッ」

 強烈な一撃に体勢が崩れる真二。 ゆっくりと、くの字に曲がっていく。

少女は着地した足を軸に体を捻り回す。 そして、間髪入れずに放たれた回し蹴りが真二を吹き飛ばす。

コンテナに激突し、倒れる真二。 (うずくま)っている真二に近づく少女。


「筋はいいが、魔術に頼りすぎじゃ。 もう少し体術も鍛錬しておくことじゃな」

 短刀を鞘に収め、少女は言う。


「小僧、名はなんという」

「鍵谷……、真二」

 倒れたまま、真二は自分の名を少女に明かした。


「真二か、真二。 鍵谷ね。 ……鍵谷真二じゃと!?」

 少女は驚いたような声をあげ真二の胸ぐらを掴み、顔を見る。


「な、なんと。 協会におったのか。 通りで……」

 そのまま少女は何かをブツブツとつぶやき始めた。 何か彼女は真二について知っているのか? しかし、真二にとってそんなことは今、どうでもいいことなのであった。


 真二は周りを見渡す。 いくら広い甲板とはいえ、あれだけの大立ち回りをやったのだ。

 見回りの乗組員が気付いても良いのだが、と、思った矢先、見回りが来た。


「おおいッ。 助けてくれーッ! おおいッ」

「な、なんじゃっ」

 びくっ、と跳ね上がる少女。

 力の限りの声を張り上げ、真二は見回りに向かって叫んだ。


真二と少女に気付く乗組員。 連鎖するように広がっていく不審者発見の合図。

警笛が鳴り響く船上で、真二はにやりとほくそ笑んだ。


「なんということを……」

 戸惑いと焦りから、少女はつい先ほどの間での落ち着きは無い。


「アンタは確かに強い。 だけど、余裕かましすぎだよ」

 したり顔を少女へ向ける真二。


 わなわなと、真二の胸ぐらを掴んでいる少女の拳が震えている。

「いいか、真二。 わしは必ずお前の元へ再び現れる。 それまで、決して死ぬではないぞ」

 念を押すように言う彼女から真二は妙な視線を感じて、たじろぐ。


 少女は真二を放り捨て、魔石の入ったコンテナに向かった。

「大丈夫かぁ」

 入れ違いで向かってきた船の乗組員達。 真二は先輩の居場所を告げ、処置を要求する。


「なんだっていうんだ……」

 真二は手当てを受けながら呟いた。



 ◆



 少女は囲まれていた。 目的のコンテナまでたどり着いたものの、それからどうやって中身を外へ持ち出すのか。 ワープでもしないとこの状況は切り抜けられないが、そのような術式はまだ確立されていない。


少女はコンテナの上に登って、なにやら魔術式をコンテナに刻んでいるみたいだ。


 コンテナに付いているハシゴに真二とは別の班の魔術士が手をかけようとする。

「痛ッ。 アイツ、コンテナに結界を張ってやがる」


 魔術士は上を見上げ叫ぶ。

「おい、聞こえてるんだろう。 お前はもう囲まれてる。 逃げ場などない。 さっさと観念したらどうだ」


 すると、少し経ってから少女が前に出てきた。

「待たせたのう。 ……おうおう、いっぱいおるわ」

 見渡すと、コンテナの周りには大勢の魔術士や乗組員が武器を、そして術式を展開してこちらに向けていた。


「さあ、早くそのコンテナから降りろ。 さもなくば、腕付くで引き剥がすことになる」

 少女は笑う。

「かっかっか。 この程度の結界に手を焼いておる癖によく言うわ」

「小娘が……」

 少女の挑発に殺気立つも手を出せないのが現実である。 囲みはしたが、そこから何もできていない。


「さて、時間が惜しいので私はこれにてお暇させてもらう」

 この言葉に、一同は困惑する。

「どうやってここから出ると言うんだ?」


「こうやってじゃ」

 少女はコンテナに刻んでいた魔術式を起動させた。 すると、コンテナは端からすうっと、形を崩していき、霧のように消えていく。


「これは」

 魔術士の一人が驚きの声を上げる。

「自殺行為だ……。 自分の体ごと粒子に分解するなんて、そんな馬鹿げたこと、出来るわけがないっ」

 段々と形を崩していく少女は最後に言った。 

「案外やってみると出来るもんなんじゃよ。 さらば、協会の魔術士の諸君」

 そして、目の前にあったコンテナと少女は、唖然とする彼らの前から姿を消してしまった。

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