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第四章

今回無駄に時間がかかりました……。

理由は他の書いてたんです。それだけです。


私は今とても気分がいい。何故なら、今日から念願の一人暮らしだからだ。しかも新築の高層マンションの最上階。眺めがとてもいい。

部屋にはすでに家具が運び込まれており、全てマガラがこだわり抜いたアンティーク。家電は全て最新の国産品だ。部屋も賃貸ではなく一括購入であり、数千万単位のお金が動いていると思うとなんだか申し訳なくなる。

3LDKの部屋は一人で住むには広すぎる気がするが、狭いよりはマシだろう。

まぁ、個人的には薄暗いくせに埃一つないような気味の悪い部屋からお去らば出来るなら、ボロアパートでもよかったのだが。

「潔癖で引き籠りとか、人間としてどうだろう」

マガラへの愚痴もここならば言い放題である。しかもあんな引き籠りのどこにこんなお金があるのだろうか。不思議で仕方ない。

人を堕落させるフカフカのソファに身を預け微睡みながら、思考する。

今日しなくてはならないことは何か。まずは生活必需品と食料の買い出し。他は最悪後日でもいい。

今夜の献立を考える。料理は割と得意な方だ。マガラの部屋にいた頃も毎日作っていた。

そう言えば、マガラは味にも五月蝿かった。

「よし、出掛けるかな」

嫌な思い出を記憶の彼方に押しやって、立ち上がる。ソファの感覚が名残惜しい。

財布とスマホ、夜桜など最小限の物だけを持って、部屋を出る。

ホテルのロビーのようなエントランスを抜け、外に出る。

雲行きが怪しい。午後辺りに一雨来るかもしれない。

早足で歩いて目的地に向かう。大型ディスカウントショップで日常雑貨を、スーパーで食材を買って、鼻唄混じりで帰路につく。

人混みは好きではないので裏道を歩く。

曲がり角で誰かにぶつかる。浮かれていたのと相手の身長が低いことを差し引いても、ぶつかってしまったのは不覚だ。

「あ、ごめんなさいお姉ちゃん」

しかも可愛らしい女の子である。

「こっちこそごめんなさい。ところで、お嬢ちゃん一人?」

「うん」

「ふーん……。裏道は危ないから気を付けるのよ。いつ何が現れるか分かったもんじゃないからね」

忠告だけして、足を進めようとしたとき、少女が口を開いた。

「お姉ちゃんは大丈夫なの?」

「んー、私はまぁ、強いから大丈夫」

自虐的に笑みを浮かべつつ、私は少女に問う。

「お嬢ちゃん、名前は?」

「カナメ。お姉ちゃんは?」

「耀歌。じゃあ、カナメちゃん。気を付けて帰るのよ」

「私……耀歌お姉ちゃんと遊びたいなー」

曇りなき眼で見つめられた。子供は卑怯だ。こんな無垢なお願い、断れるハズがない。

「じゃあ、荷物あるから私の部屋に行こうか」

こうして私はカナメをお持ち帰りしたのだ。

マンションに着くなり、カナメが感嘆していた。私だってしたのだから、幼い子供なら尚更か。

部屋に入ると私はキッチンに向かい、食材を冷蔵庫に詰める。

「適当にテレビとか見てくつろいでて」

「はーい」

そこで気付いた。出せる飲み物やお菓子がないことに。さすがに水を出すわけにはいかないので、急いで買いに向かった。

五分程で帰る。そしてカナメにジュースとお菓子を出して、買った物の整理をする。

整理を終えて、ソファに座る。

「もうすぐお昼だけど、何か食べに行く?」

「うーん、私、耀歌お姉ちゃんの手料理食べたいな」

「え、私の? うーん、どうしようかな……」

食材は一人分しか買ってないため、作るにはかなり考えなければならない。

そういえば、パスタを買っていたので、それで何か作ることにする。

「ちょっと待っててね」

言葉を置いてキッチンに立つ。簡単に作る。

「うわ、美味しそう!」

「味は期待しないで」

適当に作ったものなので、自信がない。時間と食材があればもっとマシなものが作れただろう。

「美味しいよ」

「そう言ってくれて嬉しいわ」

笑顔で言ってくれるカナメを見てると癒される。やっぱり子供はいい。

「ところで耀歌お姉ちゃん、マガラは元気?」

「あぁ、元気も何も、相変わらず引き籠って机にかじりついてる……ってカナメちゃん、マガラの知り合い?」

「んー、あえて言うなら弟かな?」

言葉の意味が分からない。

「そのままの意味だよ。マガラは私の弟……。なんだ、言ってなかったんだ」

「何も……ってことはもしかして、私より年上……!?」

「そうなるんじゃない? ま、私達に年齢は関係ないんだけどね。正直、年とか大雑把にしか覚えてないし」

思考が絡まってきた。考えれば考えるほどに答えが見えなくなる。

「"人食い"、"絶望の扉"、"魔の交差点"、"窓写り"。彼らもまた、私の『きょうだい』なのよ」

「なん……っ!?」

身構える。が、カナメは気にせず食事を続ける。

「私はもう使命を放棄した身……私もマガラも、そして……あの子も。私達は人に危害を加える気はない。単に個人の興味のために生きてるのよ」

「使命……?」

「そう。遥か昔に封じられた、私達の大元、"伝説喰らい(レジェンドイーター)"。それを蘇らせることよ」

「どうやって」

「人の観測がそれに繋がると考えられたわ。だから私達は、人間の調査をするために作られたのよ」

けど、とカナメは続ける。

「アレが復活したら人は滅ぶわ。私はね、人間って素晴らしいと思うのよ。喜怒哀楽、豊かな感情と知識を持ち、愛を育み生きていく。時には己を見失い、自棄に駆られて法を犯し、同じ人に裁かれる。そんな人間が、私は好きなのよ」

その表情に先程までの幼さはない。それはなんと言うか、子を見て安堵する母のようだった。

「私はね、人の感情について観測していたの。マガラは遺伝子……。他は味、愛憎、強度、動き、創造性。計七つの面から、私達は人間について調べてたのよ」

「それが都市伝説……つまり、U.W.E.だった、と?」

「そゆこと。あなたにはマガラの能力の痕跡が残ってたからすぐに気付いたわ」

微笑むカナメを見て、警戒を解く。

「なら、あなたとマガラを除けばU.W.E.はあと一体なのか……?」

「……もういないわ。私とマガラで最後。もっとも、マガラはもうU.W.E.ではなく、自ら人間になってしまったようだけどね」

「そんなことが可能なの?」

「マガラの能力なら出来るわ。でも、今はもう使えないかもね」

正直、あまり理解出来ていない。分かったのは、カナメとマガラは敵じゃないということぐらいだ。

「なら、もうU.W.E.を倒す必要はないんじゃ……」

「まだよ。私が生きている限り、いつ復活するかは分からない。現に力はどんどん強まってる。私の見込みでは一週間後よ」

「そんな……」

でも、とカナメは続ける。

「安心して。もうすぐ、もうすぐなの。私の研究が真理に達したとき、奴の心を永遠に封じることが出来る」

心を封じれば、思考がなくなるとカナメは言う。思考がなくなれば、もう出ようとしなくなるとのことだ。

「ぅぐっ……!」

カナメが頭を抱える。

突然のことに慌ててカナメに手を伸ばす。

「触るな!」

反射的に手を戻す。

「大丈夫だから、触らないで」

子を諭すように言いつつも、その声には苦痛が滲み出ている。

しばらくして、少し落ち着いたようだ。

「今のは……?」

「目覚めへの胎動、とでも言えば分かるかしら」

「それって……!」

「もうすぐなのね……。でも、まだ大丈夫」

柔和な笑みに、心が痛んだ。

「封じられたら、私も消えるわ。だから耀歌、私の最後の思い出になってくれる?」

「私なんかでよければ」

即答する。

「カナメは何がしたい?」

「特別なことはいらないわ。ただの友人としての、何気ない、かけがえのない日常の思い出がほしいの」

私自身の友人との思い出を想起する。目蓋を閉じれば、何気ない日々が鮮明に映し出される。

「出掛けよう」

呟いた。

「カナメ、今から遊びに行こう」

「……エスコートは任せるわ」

私達は外に出た。そこから、思い付く限りの場所を巡った。

一緒に服を見て誉め合ったり、ゲームセンターに行って遊んだりした。

自慢の反射神経を駆使して格ゲーや音ゲー、さらにはUFOキャッチャーで勝負にしたが、全くの互角。やはり互いに人じゃないとこうなるものなのだろうか。

「カナメ、プリクラ撮ろ」

「うん」

ペイントもしっかりして、印刷されたものをカナメと二分する。

「ありがと。大切にするね」

カナメがポケットに仕舞う。そのまま何気ない会話を続けながら、屋上に出た。もう日が沈みかけていた。

「耀歌、今日は楽しかったよ。これで私に未練はないわ」

「カナメ……」

その言葉に嘘はなく、笑顔には清々しさが伺える。

「私はそろそろ研究に戻るわ。今日ほど楽しい日はないわ。ありがとう」

「私も、カナメが楽しんでくれたなのなら、それで……」

微笑む。

「ぐっ……うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

カナメが頭を抱えて絶叫した。

「カナメ!」

膝から崩れ落ちる寸前で、肩を抱く。

「そんな……私の見立てが、誤るなんて……!?」

絞り出すような声で、カナメは言った。

「騙されたのは、私の方ということね……、ぐぅっ!」

どうすればいいか分からず、私は何も出来ない。

「耀歌……私の最後のお願い、聞いてくれる?」

分かりたくなかったが、私はその言葉の真意が分かってしまった。

「耀歌」

「嫌だよ……絶対に、嫌……!」

「分かってよ」

「分かりたくない!」

声を荒げてしまった。それでも、私は言葉を抑えられない。

「だって、それって……」

「えぇ……私を、殺すのよ」

聞きたくなかった、現実を突き付けられる。だが、私には出来ない。現に、カナメを抱えるこの腕の震えは止まらない。涙が頬を伝う。

私はまた、友人を目の前で失うことになるのか。しかも、自らの手でその命を刈り取れと。

カナメの細い指が頬を撫でる。

「耀歌。あなたは、強い子よ。だから、私が人を襲い始めたら、あなたは必ず私を討ちに来るでしょう……。どうせあなたの手で殺されるなら、私は……」

にこやかに、カナメは言葉を紡ぐ。

「意識がある内に、殺されたいの」

切実な願いに、応えられる自信がない。自らの手で殺すなど、私には辛すぎる。だが、カナメはどうだろうか。カナメの言うことにも一理ある。私だって、同じ選択をするかもしれない。

辛いのはカナメだ。私よりも、辛いに決まっている。

私は決意した。優しく地面に寝かせ、夜桜を抜く。

「耀歌、私の(コア)は、ここよ」

左の胸に手を乗せた。

「いくよ……」

振りかぶった体勢で止まる。ここに来て、決意が鈍る。手が震える。視界がにじむ。膝が笑う。

「耀歌」

カナメの声は澄んでいて、よく通る。だからこそ、最後の言葉がハッキリと聞き取れた。

「ありがと」

カナメの思いを無駄にしてはいけない。だからこそ、私はこんなところで迷ってなどいけないのだ。

叫びで迷いを散らせ、夜桜を、カナメの胸に突き立てた。間欠泉のように血が吹き出す。

カナメの体が霧散していく。表情だけは、安らかな笑みを浮かべながら。

残ったものは、血を浴びた自分と、突き立てた夜桜。刃に貫かれた、血濡れのプリクラ。そして、私の胸に刻まれた、カナメの思い。カナメとの思い出。

やがて雨が降り始め、雨水が体中を叩く。

「畜生……」

ようやく出た言葉は、それだけだった。


雨が窓を叩く。それでも気にせず、私は机に向かい研究を続ける。誰かが入ってきても、変わらない。

「何をしに来た、耀歌」

声だけを投げる。返事はない。

気配が移動して、背後で止まった。そして、首に手を回して、背後から抱きつかれる。しかもずぶ濡れなようで、冷たさを感じる。

どうやら泣いているらしい。理由を問う気にはならない。

「重いぞ、離れろ」

それでも、背後の少女は離れる素振りすら見せない。

「聞いているのか」

言ったとき、机の上に何か紙のような物が落ちた。

記憶が確かならプリクラというものだった気がする。

それには血と、夜桜で貫いたらしき穴がある。

印刷されていたのは耀歌と、懐かしい顔。

「……そうか、逝ったのか」

ついに、自分だけになったということか。

いや、正確には違う。まだお山の大将が残っている。

泣いていた耀歌は、いつの間にか眠っていた。さすがにそのままというわけにはいかないので、服を替えてからベッドに寝かせた。

一段落して、窓際から外を眺める。

「そういえば、あの日もこんな天気だったか」

失ったあの日。気がつくと、あの日のことを思い返していた。



今回どうだったでしょうか。

戦闘もなく楽っちゃ楽だったんですけどね。

次の投稿はいつになるのやら……。

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