第三章
今回時間かかったなぁ……
闇夜に踊るのは白銀の煌めき。光が尾を引く蒼の双眸。女性らしい体つきに整った顔立ち。それとは裏腹に、人間離れした戦闘能力。刀を振るう姿を見て、僕は初めて人を美しいと思った。
僕は自分が好きではない。むしろ嫌いな部類に入るだろう。身長は平均、体格はやややせ形だろうか。髪は適当に生やしている。僕が一番嫌いなのは、この童顔である。中性的と言えば聞こえがいいが、ようはどちらにでも見られてしまうのである。今でもたまに女の子に間違えられることがある。声変わりに失敗して少し声が高いのもあってか、女装すれば完璧と言われたこともある。そう、今みたいに。
「はぁ」
ため息がこぼれる。学園祭があるでもないのに、何故僕は女装させられているのだろうか。事の始まりはほんの一時間ほど前のことである。幼馴染みである愛夏に電話で呼ばれたかと思えば、あっという間に等身大着せ替え人形と化してしまった。
「愛夏、いい加減にしてくれないか?」
「ダメだよ。まだ写真撮ってないし」
「大体なんで僕が女装しなければならないんだ?」
「友達に送るの。あ、でも悠理ってことは内緒にしとくよ?」
「当たり前だろう」
「じゃ、ツーショット撮るよ」
スマホのカメラのレンズが向けられる。ダルいので、それを顔に出す。
「あー、もうだめだよ! ほら、もっとニコッとして!」
「あう、あう」
頬を引っ張られ、涙目になる。
「撮るよー。はい、チーズ」
少し目線を外して、ぶすっとした表情で写る。
「んと、どれどれ」
愛夏が今撮った写真を確認する。
「こ、これは……可愛いっ!」
そして何故か飛びかかってきた。
「もう、男の子なのにどうして悠理はそんなに可愛いのさ、反則だよ!」
「ちょっ、頬擦りやめっ……」
なんとか愛夏を引き剥がし、脱出する。
「もういいだろ! 僕は帰るからな!」
「えー、もうちょっといいじゃん。なんならご飯食べてく?」
「元の服に着替えたらな」
「仕方ないなぁ。写真は後で送ってあげるね」
「いらん」
黒歴史だ。そんなものいらない。
「でもさ、今度その格好で一緒に買い物行きたいな」
「僕は絶対に行きたくない。女装しなくていいなら付き合うけど」
「それはそれでいいんだけどさ。でも女友達としてでも……」
「断固拒否を発動する!」
「だよねー。はぁ、もったいないなぁ」
愛夏がブツブツと文句を言っているが、気にしたら負けなので放置する。
「で、愛夏。僕の服はどこだ?」
愛夏が右へ左へ視線を動かしてから。
「……てへ☆」
愛夏は手を頭に付け、舌を出した。
「てへじゃないだろてへじゃ……!」
グリグリとこめかみを刺激する。
「痛たたたたっ!? ゆーり、痛い! 私が悪かったから止めて頭割れちゃうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」
「大丈夫、そんな簡単に割れはしない」
「らめぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
手を離すと、愛夏が息も絶え絶えでベッドに突っ伏す。瞳が潤んでいてなんだか色っぽい。
「うるさいなー、いい加減にしてよ寝てたのに」
愛夏姉(彼氏あり26歳)が部屋に入ってくる。今思えばこの状況はまずくないか。
「あら、お取り込み中だった? しかも何それ疑似百合プレイ?」
「誤解です僕は悪くない!」
「ひ、酷いよぉゆーり。無理矢理なんてぇ……」
「お前は誤解を招くようなこと言うな!」
「若いねぇ……。ま、盛るのはいいけどちゃんと避妊して、シーツは汚さないようにねー」
「あのっ……!」
言い訳をする前に愛夏姉(近々婚約予定)は部屋を出ていってしまう。
猛烈に死にたくなった。
「お母さんに事後報告行く?」
「事後も何もしてないだろう。それよりも僕の服はどこだ」
「たぶんこの辺?」
「アバウトだな……。てかちゃんと整理しろよな。どんどん服出すからどこにあるか分からなくなるんだ」
「つい夢中になって……」
頑張って発掘するが、全然見つからない。
「あっ……!」
愛夏が突然声をあげる。覗き込む。
「二日前の下着……」
「馬鹿じゃねーの……?」
「一応乙女の下着なんだから、ジロジロ見ないで」
「自分で一応って言うなよ……」
「ジロジロ見ないで」
「分かったよ」
「シコシコしないで」
「してねぇよ!」
「巫女巫女しないで」
「何言ってんの!?」
「ミュコミュコしないで」
「何語!?」
「耳元で叫ばないで鼓膜破れちゃう」
「お望みとあらば」
「冗談! 冗談だから止めて! てかその耳掻きどこから出したの!?」
仕方なく耳掻きを仕舞って、自分の服の探索を再開する。
しかし、全く見つかる気配がしない。
「なぁ愛夏。お前、隠してたりしないだろうな」
その体が飛び上がる。
「そそそんなことないよ。き、気のせいじゃないかなー?」
「ならお前の後ろのそれはなんだ」
「あれ!? 見えてた!?」
「やっぱりお前じゃないか」
「バレては仕方ない。返して欲しくば私の言うことを聞いてもらおうか!」
見たことのある奇妙なポーズと共に、愛夏が言った。
「で?」
「水道工事行ってきて!」
意味が分からないのでとりあえず後ろに回り込んで拘束する。愛夏の弱点は首筋だ。そこを優しく愛撫してやる。
「ひゃうぅ!? ら、らめらよゆーりぃ!」
「お前は僕を怒らせた」
その十分後、愛夏がピクピクと痙攣してしばらく動けなかったのは言うまでもない。
「服を返せ」
「酷いよ、嫌がる私の弱いところを攻めて、そんなにあえぎ声が聞きたかったの?」
「誤解を招くような言い方をするな。大体お前が悪いだろ」
「もう。はい、服」
受け取ったのは、確かに自分の物だった。
「確かに。全く、もう二度と女装はしない」
「えーっ。もったいないよ。あ、ネットに上げてみる?」
「愛夏って実はドMなのか?」
「んー、どうだろ。でも私、悠理になら何されてもいいよ」
「じゃあ無視する」
「泣くよ? 泣くよ? 泣いちゃうよ?」
「勝手に泣いてろ」
額を指で押す。愛夏から間抜けな声が漏れる。
と、愛夏の携帯が鳴る。
「あ、メールだ」
僕が部屋を出ようとした時、愛夏が驚嘆の声を上げた。嫌な予感がするので、急いで部屋を出ようとした。……が、時すでに遅しと言うべきか、僕は愛夏に首根っこを掴まれていた。
「待ってよ。困ってる幼馴染みを放って帰るとか人間じゃないよ!」
「人間に決まってんだろ……! それより首っ……!」
「ごめん、ちょっと言い過ぎたかも。塩基配列が近いチンパンジーにしとく」
「首……!」
「でもさ、話くらい聞いてくれたっていいでしょ?」
「く……び……」
意識が遠退いてきた。
「って悠理!? 大丈夫!?」
愛夏の手が離れ、ようやく新鮮な空気が手に入る。
「し、死ぬかと思った……」
「ごめん悠理」
一生懸命に謝ってくるので許すことにした。
「で、何があったんだ?」
「肝試ししようよって話になったんだけど、友達が一人来れなくなっちゃったの」
「まさか、ピンチヒッターをしろってのか」
「うん。でもね、今回は男女のペアで回ろうってことになってるんだけど、来れなくなったのが女の子なんだよね」
「ま、頑張ってくれ」
「待って話を最後まで聞いてよ!」
愛夏が足にしがみついてくる。
「ええい邪魔だ! 僕は断るからな! 他を当たれ!」
「喋らなくていいから! 無口な子を演じてくれるだけでいいから!」
「嫌だ」
「口のない子を演じてくれるだけでいいから!」
「どうやって!?」
「口の裂けた女を演じてくれるだけでいいから!」
「それお化け役だろ!」
「腹の裂けたゾンビを演じてくれるだけでいいから!」
「女ですらなくなってんじゃねぇか!」
と、こんなやり取りをしてる間に疲れた。
「お願いっ! 今度なんか奢るからさ!」
その程度では僕はなびかない。
「誕生日は手作りケーキで盛大に祝うからさ!」
僕はなびかない。
「毎日お弁当作ってあげるからさ!」
なびかない。
「お風呂も一緒に入ってあげるからさ!」
なびか……。
「てか付き合って!」
「突然の告白!? でも、そこまで言うなら分かった行けばいいんだろ?」
「付き合う方は?」
「別に……いいけど」
「やった!」
無邪気にはしゃぐ愛夏を見ていると、何故か許せてしまう。不思議な奴だ。
「肝試しだけど、今日だから。ご飯も食べてってね」
「今日!? てかこの格好のまま!?」
「まぁそうだね。場所は出るって噂のトンネルだよー?」
女装もさることながら、そのトンネルも噂が絶えない曰く付きの心霊スポットである。
「てかご飯ぐらいは普通の服でいいだろ? 別にすぐ出かけるでもないだろ?」
「そだね。私外で待ってるから、着替えたら呼んで」
愛夏が部屋を出たのを確認してから、着替える。
「もういいぞ」
「はーい」
愛夏が入ってくる。
そのあとは夕飯まで適当に時間を潰し、夕飯を食べると女装をする。
動きやすい格好ではあるが、やはり恥ずかしい。
そこから愛夏の家を出て、集合場所へと向かう。
そこには、すでに二人の男が待っていた。
「ごめん、二人とも待った?」
「そんなに。五分ぐらい」
「よかった」
「ところでそっちの子は誰さ?」
「あ、忘れてた」
愛夏は僕を二人の前に押し出すと、紹介した。
「私の友達の、飯間悠理」
「悠理ね。俺は俊治。で、こっちが一樹」
「悠理ちゃんか。彼氏いる?」
「そういうデリカシーない発言禁止。ただでさえ人見知りなんだから、そんなんじゃ心開いてもらえないよ?」
「この心の壁、まさか!」
「黙ってろ。すまないな、こんな奴で。嫌なら帰ってもいいぞ」
俊治と名乗った少年が言ってくる。
別に嫌でもなかったので、首を横に振る。
「ならいいんだが。じゃあペアは俺とでいいか?」
「いや、僕がペアだよね!」
二人に言い寄られる。なんだかむず痒い。迷っていると、愛夏が一樹を引きずって、
「デリカシーないやつはこっちねー」
「あぅうぅ」
涙を流しかねない表情で引きずられていく一樹を見ていると、なんだか面白い。
「あ、その前に今回の都市伝説のおさらいしとこうよ」
「都市伝説なのか?」
「どうだろうね。幽霊騒ぎってだけだから都市伝説にはなり得ないんじゃないかな。やっぱり今話題の都市伝説と言えば最近出てきた"フードの女剣士"じゃないかい?」
フードの女剣士は聞いたことがある。なんでも日本刀を持っていて、ビルの壁面を走り回るとかなんとか。
「ま、僕の中では死神伝説がブームなんだけどね」
愛夏が一樹に催促する。
「あ、ごめん。今回の噂だけど、見る人によって様々なんだよ。子供を見たって人もいれば、成人だったとも、老人だったとも言う人もいる。中には妖怪を見たって人もいるらしいよ」
胡散臭さを感じるのは自分だけだろうか。
「とりあえず行ってみようよ。じゃ、お二人さんがお先にどうぞー」
愛夏が僕と俊治の背中を押した。
「……行くか」
僕は頷く。
「しっかし、暗いな。足元大丈夫か? 湿気てるから、足元気を付けろよ」
足元は大丈夫だが、どうも恐くて仕方ない。そして何故か、俊治の袖を掴んでいた。俊治は特に気にすることもなく歩いていく。
全長二キロ近くあるトンネルは、やはり不気味であることに違いはない。
「浮遊霊はいるけど他のはいないな」
今、この男はなんて言った?
「あ、言うの忘れてたけど俺霊感あるんだ」
そういうことなら納得できる。こんな状況だとむしろ心強くもある。
トンネルも半ばまで歩いただろうか。所々に明かりがついているだけで視界はよくない。雰囲気だけは完璧だが。
「はぁ」
そんなところに何故自分が女装して来ているのかと思うと、溜め息が出てしまう。
「どうした? 疲れたならおぶるけど」
「だ、大丈夫ですっ」
思わず言葉を発してしまった。
「……そうか。ならいいんだが」
バレはしなかった。だが、それはもう完全に女として見られているに他ならない。それが気に入らなかった。僕は男だと叫んでしまいたかった。そして、そんなことも出来ない自分が一番気に入らなかった。
そこからは特に会話もなく、ただ黙々と歩き続ける。
歩き始めて二十分ほどでトンネルを出た。
「あいつらあと十分ぐらいで来るから、それまで待つことになってるんだ」
頷いて、僕はガードレールに腰掛ける。その向こう側はかなり急な坂だ。小川もあるのか水の音が聞こえる。
俊治はというと、何か一人で呟いていて、少し気味が悪い。
空を見上げてみる。木が生い茂っていて空の隙間が見える。
視界が傾く。わけが分からないまま坂道を転げ落ちていく。ようやく止まったそこは、小川だった。
「大丈夫か!?」
俊治の声が聞こえる。全身が痛んで呼吸もままならないため、返事も出来ない。痛む体を引きずって、立ち上がろうとする。
「っ!」
左の足首に鋭い痛みが走り、崩れ落ちてしまう。軽く触れると、かなり腫れていた。
「最悪、折れてるよな……」
とりあえず小川で冷やす。
「今行くからな!」
しばらくして、俊治は降りてきた。
「大丈夫か?」
首を横に振る。
「足、か。この坂だと一人じゃ厳しいな……。電話も圏外だし、悪いけど待っててくれ。あいつら呼んでくる」
そう言って、俊治は坂を登っていく。こうして一人残された。
「なんでだよ」
自分に対して愚痴が漏れる。
ちゃんと確認していれば、ガードレールの足元が弱っていたのに気付いていただろう。そうすればこうなることもなかった。皆に迷惑をかけることもなかった。
だから自分が嫌いだ。鬱になりかねないほどに。
痛む体を客観的に眺めながら、呟く。
「ここで死ぬのも、悪くないかもな」
闇が近付いてくる。それに抗う気力も、もうない。
闇に包まれた僕は、もう光を見ることはなかった。
「生きることから逃げるな!」
女性の叫びと共に、視界が開く。強引に引きずり出され、さらに担がれる。彼女はそのまま飛び上がる。
わけが分からないまま地面に下ろされる。
「ここにいて」
彼女の手には、一振りの日本刀。顔はフードで隠れて見えなかったが、その端から銀髪が覗いていた。
「フードの、女剣士……!?」
荒陵と化した山肌を駆け、その体躯の二十倍はあろうかという化け物へと走っていく。刀を片手に、化け物と戦っている。
「なんだ、これ」
信じられなかった。こんなこと、テレビや小説の中だけの話だと思っていた。目の前で起こっていることが現実だとは思えなかった。
彼女は舞うように戦っている。そしてその姿は、とても楽しそうに見えた。
彼女が月夜に舞い上がる。
「なんだよ、これ……」
そして僕は、始めて人を美しいと思った。
「ハァァァァァァァッ!」
斬ッ、と斬る。手応えはあるものの、決定打にはならない。
「くそっ、核が肉塊の中心とかだったら、あとでマガラに、文句言ってやる!」
攻撃を避けながら、毒を吐く。
核が肉塊の中心にあるのか確かめるにも、普通に行ったら中心に辿り着く前にその肉に押し潰されてしまうだろう。魔針は条件があるため今は使えない。夜桜は使わなければならないとなると、大きな賭けである。
「やってみる価値は、あるかも」
短期決戦をするなら、賭けるしかない。候補は早くに消していくべきだ。
夜桜だけでは心もとないので、より確実性を持たせるため、出来るだけ自分で進む。
全力で進んでも、三分の一ほどしか進めない。ここで、真打ちを出す。
「CODE-A:モード夜桜!」
全力で振り抜く。その瞬間、未来が圧縮され五十以上の斬撃が肉塊に叩きつけられる。
内側からの攻撃に、U.W.E.はバラバラに弾けた。
「ハズレか!」
舌打ちをして、急いで脱出する。私のいた場所が肉塊に押し潰された。
そこで、助けた少女がまだ座り込んでいるのが目に入る。
「あぁ、もう!」
急いで駆け寄る。
「どうしてそこにいるの、早く遠くに!」
「あ、足を痛めてて……!」
「何でこんなときに! 気を付けて行動しなさい!」
言って、しまったと思う。
今回の都市伝説の情報を思い返す。
都市伝説"絶望の扉"。生きることに絶望した人間を喰らうというものだ。特定の感情を縄張りにするタイプのU.W.E.だ。
その時、少女が私の腰にしがみついてくる。
「何を……!?」
その瞳に光はない。操られてしまっているのだろうか。視界の端では肉塊が再生していく。それは徐々に近付いてくる。
まさか、まとめて飲み込もうとでも言うのか。
「目を覚ましなさい!」
死ぬ決意をした人間の意思はそう簡単には変わらない。それは重々承知の上で臨んでいたつもりだった。
「くそっ、最終手段だけど」
無理矢理少女を引き剥がし、出来るだけ手加減してその頬を打つ。手加減したが、ものすごい音がした。
「あ……やり過ぎたかも」
だが、少女は正気に戻ったようだ。その肩を掴む。
私にはもう核の場所が分かっていた。感情を縄張りにする、つまりこの少女の心の中に核を置いているのだ。そんな抽象的で形のないところに核を置かれると、手の出しようがない。
だからこそ、私はこの少女に許可をとらなければならない。
「よく聞いて。あの化け物を倒すには、あなたが生きることを諦めたという時間を切り取るしかない。その間の記憶はなくなるけど、それでもいい?」
私の問いに、少女はゆっくりと、だが確かに答える。
「……それで、倒せるのなら」
「よしきた。怖がらないでね」
私は刀の能力を切り替える。
「CODE-B:モード魔針」
そのつっ先を少女に向ける。そして、その指先を薄く斬る。
ガードレールに座ってから、今に至るまでの時間を切断する。
「さて、とどめを刺しますか」
見ると、宿り木を失った核が肉塊の上に浮いていた。
核目掛けて走る。
地面を蹴り、飛び上がる。
力の限り、刀を振り抜く。核を正確に捉えた刃は、それを両断する。
断末魔が響き渡る。
やがて、アンダーワールドは霧散した。
少女に歩み寄る。
「大丈夫だった?」
「あの、名前。教えてもらってもいいですか。僕は飯間悠理」
僕っ子か。ありかもしれない。
「私は耀歌。如月耀歌」
「言っときますけど、こんな格好ですが僕は男です」
「男の娘……!? これは、新たなる衝撃……!」
我慢出来ずにキスしてしまった。
「ごめん……つい」
「いえ……助けてもらったんで文句は言えません」
「そ。なら、もう都市伝説には気を付けなさい。二度と自分からアンダーワールドに近付かないように。絶対に」
何度も釘を刺して、私はその場を去る。帰りはトンネルを通ることにした。
今回はかなり手強い敵だった。帰ってゆっくり寝たい。
走る三人組とすれ違う。
もう前方に人は見当たらないので、走ることにした。
トンネルを出てしばらくして、スマホに着信。ディスプレイに踊るマガラの三文字。
「もしもし」
『次の仕事だ』
「ちょっ、さっき」
『終わるまで帰ってくるな』
マガラは電話を切った。かけ直しても出る気配はない。
「もう嫌ぁぁっ!」
私は叫ぶしか出来なかった。
僕は耀歌さんの姿が見えなくなった後も、トンネルの方を眺めていた。
すると、愛夏達が走ってきた。
「あれ、上がってこれたの!?」
「へ? 何が?」
「何がって、落ちたじゃないかそこから。で、足を怪我してたじゃないか」
「怪我? そんなのないけど」
どうも話が噛み合わない。だが、そんなことはどうでもよかった。如月耀歌、か。また会いたいな。
「悠理、何にやけてるのよ気持ち悪い。何かあったの?」
「別に」
言って、僕はトンネルに向かって歩き出す。
「あっ、待ってよ!」
愛夏達が追ってくる。
四人で元来た道を歩いていった。
これが、僕と耀歌さんの出会いだ。
ついったーにて進行状況などつぶやいてます。
もしよろしければどうぞ。
@kosel3652