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さよなら

 近付くに連れて眼下の木谷君達に奇妙な違和感を感じました。キヨキ聖皇国(てき)に囲まれているにも関わらず、木谷君に焦っている様子が全く感じられません。むしろ、幸せそうに笑みを浮かべています。

 そんな木谷君とは対照的に瀬羽さんは目に涙を浮かべています。


「アカイさん、不味いですわ。あの男の子にチャームが掛られています」 

 ブリーゼは一流の神官なので、状態異常の診断も早いし正確なんですよね。でも、今の木谷君はかなりグレードの高い装備を身に付けているんです…つまり、木谷君にチャームを掛けた相手はそれなりの実力者と言う事。キヨキ聖皇国で高位のチャームを使うと言えば…


「私の予想通りなら…いました、マリー・ルージュです」

 マリー・ルージュ、真勇者パーティーの一人でチャーム効果のあるセクシーソードダンスの使い手。相変わらず露出度の高いビキニアーマーを着ています。教育に悪すぎて子連れの母親がいたら見ちゃいけませんって、子供の目を覆うと思います。


「あ、兄貴…あの痛い格好はマジですか?」

 昔の三米君ならテンションを上げていたかも知れませんが、今の彼はリヤンで鍛えられた戦士。何より獣人装備には状態異常を無効化する効果があります。


「露出度が高い格好はチャームの効果を上げるんですよ…チャームが効かない人には痛く見えてしまいすけどね」

 あの手の人と対峙する時には気を付けなければならない事があります…彼女が近くにいたらチラ見さえ危険なんですよ!!

そして紅葉も私の視線に注目しています。


「セワ・トキコ。俺と一緒にヒデオ様の所に行くぞ。ヒデオ様の愛に包まれたら世界の全てがピンク色になるんだぜ。お前の大切な幼馴染みもそれを望んでいる…なぁ、ルカ。そうだろ!?」

 マリー・ルージュが木谷君を従えなら瀬羽さんににじり寄って行きます…前言撤回、見た目だけでなく発言も危険でした。


「はい、マリー様。僕もそう思います」

 そして満面の笑みで答える木谷君。


「流夏っ!!どうしたの?ドラさん、ペガちゃん、あの女を倒してっ」

 瀬羽さんの言葉に応じてホワイトドラゴンとホーリーペガサスが戦闘体勢をとりました。


「マリー様は僕が守るっ!!ホーリィーッソゥードォッー!!」

 木谷君のホーリーソードは、聖属性の剣撃を飛ばすアーツ。聖属性のホワイトドラゴンやホーリーペガサスとは言え、当たれば痛みがあります。当然、ドラゴンとペガサスは木谷君も攻撃対象に加えました。


「ドラさん、ペガちゃん止めてっ。流夏を攻撃しないで」

 瀬羽さんの言葉を聞いたドラゴンとペガサスは、木谷君を攻撃対象から外しましたが、その間もホーリーソードは飛んできます。このままでは理不尽な命令をしてくる瀬羽さんも攻撃対象になりかねません。


「高位のアーツを持つ少年にチャームを掛ける事で味方に引き込んで、少女を取り込もうとしてるんですね。正牙さん、どうします。早くしないとドラゴンとペガサスを殺さなきゃいけなくなりますよ」

 今一番優先するのは木谷君達の保護、その邪魔になるのはキヨキ聖皇国の兵とマリー・ルージュ。


「シェルムはマリー・ルージュの相手をお願いします。三米君は木谷君を止めて。他の人は瀬羽さんの保護をお願いします…パラライズミストッ」

 先ずは囲まれたら面倒なのでキヨキ聖皇国の兵を麻痺させます。麻痺の霧に包まれ、キヨキ聖皇国の兵が次々に倒れていきます。


「兄貴っ!!お願いします」

 三米君が必死に懇願してきました。彼にとって二人は大切な幼馴染み…間に入れないのは分かっていても、彼は二人を命懸けで守るでしょう。


「石名波さん、チェンジッ、ステップ!!三米君、シェルムお願いします」

 まあ、石畳が石の階段に変化するだけなんですけどね。三米君とシェルムは地面に階段が着くと同時に一気に駈け降りて行きました。次いで石名波さんが土埃をあげながら着地。


「流ー夏っ!!この馬鹿野郎がー。チャームになんかに掛かってんじゃねー」

 木谷君に想い人である瀬羽さんを託していた三米君の怒りが一気に爆発しました。


「明、僕に勝てると思うの?僕は剣道部で明はサッカー部。僕のアーツはSS、明のアーツはAなんだよ」

 エレメンに来たばかりの時でしたら、三米君は木谷君に敵わなかったでしょう。


「関係ねえ!!俺はリヤンの王イッポー様に鍛えてもらったんだ」

 

「イッポーって河馬でしょ!?河馬に様をつけてどうしたの?」

 次の瞬間、三米君の表情が一変しました。


「流夏、取り消せ…イッポー様は素晴らしき王様なんだよ。いくら幼馴染みのお前でも師匠を愚弄する事は許さねぇ」


「河馬でも王になれるんなら、僕がマリー様を女王にするっ…ホゥーリィーソードォッ」

 光の剣撃が木谷君に向かって飛んでいきます。


「なんだ?この温い攻撃は?アーツを使うまでもねぇな」

 三米君がスッと身をよじり、光の剣撃を交わしました。ホーリーソードによる光の剣撃は威力が大きいアーツです。しかし、強い剣撃を飛ばすには剣を大きく振りかぶる必要があるので、見切る事は可能。


「ルカ、早く決めちまないな。褒美として頭を撫でてやるよ」


「おっと、あんたの相手は私だよ」

 シェルムは声を掛けると同時にマリー・ルージュに切り掛かりました。


「お前はシェルム・トロイ?現役を退いたババアが俺に勝てると訳ないだろっ」

 不味いですね、この戦いは見ているだけで、色んな事に巻き込まれて怪我をする可能性があります。


「季子ちゃん、今のうちにこっちに来て」

 

「紅葉ちゃん、でも流夏が…二人とも止めてっ」

 瀬羽さんの必死の呼び掛けにホワイトドラゴンとホーリーペガサスが反応しました。下手に二匹を攻撃したら、瀬羽さんが保護に対して抵抗する可能性があります。

 そこで使うのは石名波さんが着地する時に巻き上げた大量の土砂。


「土よ、繭と化して敵を閉じ込めろっ…アースコクーンッ。シェルム、お願いしますっ」

 大量の土砂が繭となり二匹を包んでいきます。


「こっちも決めるっ!!私は無敵の剣士ソウシの妻シェルムだよ。色ボケの餓鬼が勝てる訳ないだろっ」

 血煙が上がってマリー・ルージュが倒れました。


「マ、マリー様!?」

「流夏っ、目を覚ましやがれっ」

 木谷君が余所見をしている隙に、三米君が一気に距離を縮めて行きます。


「明、そこをどけっ!!どかないとお前でも殺すぞ」

 いくら斬られたとはいえ、直ぐには死にません。マリー・ルージュが生きてるうちは…いえ、生死の境にある今の方がチャームの効果が強くなります。


「アーツに頼りきりのお前じゃ無理だよ。それに剣道で盾は使わないし、こんな戦い方は教えないだろ?」

 三米君は木谷君の剣を獣人の楯で受け止めると、同時に鋭い蹴りを放ちました。それは獣人譲りの強力な蹴り。

 もろに腹に入ったらしく、木谷君はドサリと崩れ落ちました。


「正牙さん、遠方より敵が近付いてきてます」

 織やんの言う通り、二つの強力な魔力と大人数の人達が近づいてきます。

(この魔力はイビルファングとマーガレット・リュボン)

 イビルファング君は紅葉達を捕まえようとしている魔法使いで、マーガレット・リュボンは魔法を打ち消すアンチマジックと言うアーツを持つ神官。


「先ずは私と織やん、ブリーゼ、シェルムが前に出ます。三米君、木谷君を連れて冨楽先生達に合流して下さい。冨楽先生、木谷君と瀬羽さんが合流したら、結界を張って下さい」

 冨楽先生が結界を張るのに合わせて、紅葉の薙刀に干渉して結界を展開させます。


「ジャスティスファングさん、お久し振りですね。そこにいる少女達を貰いますよ。皆さん、わたしに魔力を流して下さい…ジャパニーガルーズネット」

 真っ白な網が紅葉達に襲い掛かりました。


「結界が張ってるのが、見えませんか?」


「いくら貴方の結界でも、三十人の魔法使いが唱える限定魔法には勝てませんよ」

 確かに、ただの結界なら防げません。でも、私には結界に細工を施す時間がありました。


「魔法の網が消えたっ!?」

 イビルファング君の言う通り、魔法の網は結界に触れると同時に消え去りました。


「違いますよ。結界が網の魔力を吸い込んだんですよね…織りやん、カミカさんお願いします」


「星の光よ、渦となりて我らをニホンに導きたまえ!!開けっ、スターライトゲイト」

 それはエレメンに来る時に、カミカさんが唱えた魔法、星の出ていない今では効果は半減します…そう、魔法を唱えるのが一人だけなら。


「我が名はジャスティスファング。遠き地にある魔方陣よ、我が呼び掛けに応えよ…そして歪められし因果率を元に戻したまえ…強制転移発動っ!!」

 結界の中が淡い光で満ちていきます。


「せい君!?嫌だよ。私も残りたいっ!!側にいさせてっ」


「紅葉、ごめん…紅葉なら直ぐに私なんか比べ物にならない素敵な彼氏が出来るよ」

 この魔法は紅葉の為を思って作った魔法なんだから。


「おい、禿っ。なに、ふざけた真似をしてんだっ」


「久郎、きちんとかこちゃんを幸せにするだぞ…先に言っておく、おめでとう」

 友人代表の挨拶は、異世界かあの世からになるかも知れません。


「ショウちゃん、帰るんなら一緒に帰ろうよ」


「かこちゃん、ごめん。これから起こるのは戦争なんだよ。みんなは関わらない方が良い。久郎とも…満中さんの事を頼みます。みんな、さよなら。そしてありがとう」

 紅葉と久郎が結界を攻撃していますが、その結界は外からも中からも壊れない結界。


「せい君、せい君、せい…く…」

 転移は無事に成功しました。ここから大人として過去の不始末を片付けます。

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