戦いの始まり
空飛ぶストーンゴーレム石名張さんのお陰で短時間で、リヤンに着く事が出来ました。リヤンに来た目的は三米君との合流、正確に言うと今回喚ばれた日本人を一ヶ所にまとめる為なんです。
私達を出迎えてくれたのは、イッポ率いるリヤン騎士団と三米君。リヤン騎士団は様々な獣人で構成されているので、ベルク騎士団とは違う迫力があります。
「兄貴、お久しぶりです。冨楽先生、連絡を怠った不義理をお許し下さい」
三米君は私達に気付くと深々と頭を下げてきました。
「あれが三米明ですの?嘘ですわよね」
館老さんが驚くのも無理はないでしょう。今の三米君にはチャラさが欠片もありません。短く切られた髪、ガッチリとした体つき。そして赤銅色に日焼けした肌には鍛練の賜物とも言える大小様々な傷が残っています。
「変われば変わるもんだな。礼儀も出来てるし、うちの会社に欲しい位だよ」
久郎も三米君の成長に目を丸くして驚いています。三米君がかこちゃんに声を掛けた時はムッとしてた癖に。
「男子三日会わすば刮目せよってやつさ。リヤン騎士団に鍛えられたんだから、確実に実力も着いてる」
ソースは私、帰還用の魔方陣をリヤンに作った関係で三米君とは定期的に会ってましたから。
「アキラ、幼馴染みを救って来い。今のお前なら大概の奴に勝てるさ」
王様仕様のイッポが優しく微笑みながら三米君に語りかけました。
「イッポ様、勿体なきお言葉ありがとうございます」
イッポの言葉を聞いた三米君が、ビシッと音がしそうな位に素早い礼を決めます。
「王様は止めろよ。お前は俺の自慢の弟子なんだぜ」
「アキラ、頑張れよ」「お前は俺の弟弟子なんだから何かあれば連絡をしろ。遠慮なんてしたら、ぶん殴るからな」「アキラ、踏み込みを忘れなんよ」
そんな三米君をリヤン騎士団の次々と激励していきました。
「ありがとうございます…お、俺、兄貴達に教えて貰えた事を一生忘れません」
先輩方からの激励が、余程嬉しかったらしく三米君は涙ぐんでいます。
「後から俺達も合流するんだぞ。今から泣く奴がいるか…アキラ、これをお前にやる」
イッポが三米君に手渡したのは、飾りっ気のない無骨な剣と盾。それは余計な装飾を必要としない存在感を放っています。
(あれは獣人の剣と盾…三米君も異世界で絆を結べたんだな)
「せい君、あの剣と盾はなに?凄く暖かい感じがするよ」
紅葉も何かを感じた様です。流石は勘の鋭い武人娘。
「あれは獣人の剣と盾だよ。獣人の爪や鱗を合成して作った装備さ。あれだけの物を作るとしたらかなりの人数が必要だな」
使えるのは生きてる獣人が思いを込めた素材のみ。良く使われるのは爪・鱗・牙・角・体毛との事。
「あ、あ、ありがとうございます。俺、リヤンに来て生まれ変われたんです…みんなのお陰でやっとまともになれたんです」
獣人装備の意味が分かっていたらしく三米君の涙腺は崩壊しまくりです。
「それじゃ、私からはこれを渡しておきますね」
私が準備したのはカバの形をしたストラップ(デザイン協力紅葉)。
「兄貴、これはなんですか?」
「それはカバの形をした収納用のマジックアイテムです。日本で剣や盾を持ち歩けないでしょ。まあ、お守として使って下さい」
武器や防具しかしまえない日本では使い様がないマジックアイテム。でも、不審者扱いや銃刀法違反で捕まって獣人装備を没収されるのは防げます。
「ありがとうございます。これが、あれば日本に帰ってもみんなと繋がっていれるんですね」
「イッポー王、私達は先に動いてキヨキ聖皇国を牽制します。ベルク公爵が甥のイッピョウ様を旗頭にして進軍して来ますので、合流して下さい。それと対ロンギング用のマジックアイテムを持って来たので配布してもらえますか」
イッポー達が着く頃には、戦局は決定している予定ですけどね。
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三米君は自ら参戦してくれましたが、次が問題です。カミカさんは私がジャスティスファングだった事を知ると、ショックの余り出家したそうです。
「しかし、まさかショックで出家するとはな」
ちなみに出家したのは織やんが眠る教会だそうです。
「憧れのジャスティスファング様が禿げたおっさんだったんだ。そりゃショックだろうさ」
いや、ジャスティスがエレメンにいたのは15年前。おじさんになっていてない方が不自然です。
「私がエレメンにいたのは中二の時だぞ。おじさんになって当たり前だろ」
「どこを聞いてんだ?憧れのヒーローが禿げてたのがショックなんだろ。まっ、お前とは似ても似つかない偶像に憧れていたんだから、禿げてなくもショックは受けたろうさ」
好きなアニメキャラの声優さんを見て、ショックを受ける様なものでしょうか?
「とりあえず冨楽先生達がうまく説得してくれる事を信じて待つか」
カミカさんの説得に行ってくれたのは冨楽先生、織やん、ブリーゼ、シェルムの四人。
「赤井さん、お待たせしました。カミカ・インシュタルは参戦を了承してくれましたよ…例の話も納得してくれました」
「アカイさん…いえ、ジャスティスファング様本当に宜しいのですか?」
カミカさんが様を着けた瞬間、紅葉のオーラが膨れ上がったのは気の所為でしょうか?ここは早く話をまとめてしまいましょう…絶対に年下の彼女に怯えたんじゃありません。一刻も早く木谷君達と合流する為です。
「ええ、寧ろ私からお願いしたい位ですので…あっ、先生に結界を張れるマジックアイテムを渡しておきますね。それでは行きましょう」
営業の経験から言わせて頂きます…たまには勢いで押しきる事も必要なんです。
「ジャスティスファング様。モクタニ・ルカはランクSSのアーツホーリソード、セワ・トキコはホーリーペガサスとホワイトドラゴンを従えて幾多の依頼を解決したと言います。急ぐ必要はないと思いますが」
ホーリーペガサス、神聖魔法を使うペガサスで汚れない乙女にのみ背中を許すと言います。ちなみに翼は貴重な素材になるんですよね。
ホワイトドラゴン、ホーリーペガサスと同じく神聖魔法を使うドラゴン。鱗は防具にもマジックアイテムにも使えます。
「今回は戦です。強ければ強い程、敵の的になるんですよ。何より、彼等は戦の狂気を知りません」
戦になれば普段は優しい人でも、平気で味方を裏切るんですから。
「季子っ、流夏っ!!」
三米君の叫びが戦場に木霊しました。何しろ、瀬羽さん達はキヨキ聖皇国に囲まれていたのですから。




