魔法使いの帰還
只今の時刻は夜の九時、転移用の魔方陣を設置してある部屋も真っ暗です。
元々は物置に使われていた部屋だそうで窓もありません。ちなみに広さは四畳位でしょう。
時間が時間ですから、帰還の知らせは誰にもいれていません。
通信している所を誰かに聞かれでもしたら全てが台無しになりますから…杞憂でしたけどね。
(さてと、部屋に帰るか…人の気配?)
闇に浮かんで見えているのは人の目。
「ぜーいーぐーんー!!おがえりなざーい」
絶叫と共にタックルしてきたのは紅葉。
何故か、大泣きしている紅葉に抱きつかれて困惑しています。
「も、紅葉?どうしてここに?」
「だッでーイッピョー君が後がらぜい君も来るって聞いだがら待ってたどー」
イッピョー君を転移したのは午後三時位だから六時間は経っている筈。
つまり、紅葉は六時間近くも、この狭い部屋にいたと。
(なんで…いや、元カノが住む敵国に盗みに行ってたんだから、当たり前か)
下手したら、私は殺されていたんですから。
紅葉は私の胸でしゃくりをあげながら泣いています。
私の胸を紅葉の涙が濡らしていき、キヨキ聖皇国でついた汚れを長し落としてくれました。
ぎゅっと抱きしめると、紅葉は安心したらしく泣くのをやめました…その代わり匂いチェックを始めていますが。
私は笑える程モテないから浮気なんてする訳がありません。
だけど紅葉は心配なんでしょうね。それがたまらなく愛しい。
(英ちゃん、ハーレムなんかを作るより一人の人を深く愛する事の方が幸せだと思うよ)
ぎゅっと抱きしめて、心地よい暖かさに身を任せます。
「反応ブルー。キヨキ聖皇国で女との接触はなしですね」
そこにいたのはバーコードリーダーみたいなマジックアイテムを押し当てている私のお師匠様。
「ナ、ナトゥーラ様!?いつの間にいらっしゃったんですか?」
「魔方陣が起動したら分かる様にしたんですよ。マナカさん、安心して下さい。女の影は寂しい位にゼロですよ。例えるならセイガさんの頭並みの寂しさです」
ナトゥーラ様、なんて例えをするんですか。
私の頭はそんなに寂しくありません。
「あのナトゥーラ様、そのマジックアイテムはなんですか?」
「これですか?浮気を確認する為のマジックアイテムですよ。登録している異姓以外との接触があると反応するんです」
確かに王族の浮気は大問題、外に子供を作ったら大スキャンダルになります。
あのマジックアイテムを英ちゃんに使ったら、オーバーヒートするかも知れません。
「まあ、接触はゼロでしたから」
でも、私の髪はゼロじゃないです。
「ハニートラップを仕掛けて来なかったんですか?私ならフィルを仕掛けて抱き合っている時に、馬鹿勇者に突撃をさせるんですが」
ナトゥーラ様、しれっとした顔でなんて事を言うんですか!?
「私が味方に着くのが当たり前って感じでしたよ。話をしたのはキヨキ聖皇とイビルファングと名乗る魔法使い。それとイッピョー君の三人だけです。女性は遠目に見ただけですよ」
食い逃げになるから、ご飯も食べていません。
「みんな会議場に集まっています。報告によっては軍を編制しますので、お願いしますね」
「ナトゥーラ様、せい君は疲れています。休ませてもらえませんか?」
紅葉はナトゥーラ様にお願いをする為、体を離しました…ちょっと寂しいです。
「紅葉、良いんだよ。戦争は国の命運を賭けて行うんだ。一分一秒も無駄には出来ない。それに兵の命も一人も無駄にはしたくないんだ…だから私はキヨキ聖皇国に行ってきたんだよ」
当たり前ですが、兵には家族がいますし恋人も友人もいるでしょう。
一人の兵の死は、幾つもの哀しみを生みます。
あんなくだらない奴等の為に、死んで良い命なんてありません。
――――――――――――――
会議場で私達を待っていたのは、ネサンスの王様に各大臣にベルク様、シェルム、ブリーゼして織やん。
「セイガさん、お久し振りですね。今回はありがとうございました」
そう言って深々と頭を下げる織やん。
悔しい事にオリヤンはイケメンのイクメンになっていました。
「私は私の為に動いたんですよ…紅葉、外で待ってもらえるなかな?」
流石に彼女連れで出れる会議じゃないです。
「分かった…起きて待ってるからね」
紅葉が出ると同時に織やんが厳しい目で睨んできました。
「セイガさん、可愛らしい彼女ですね…ですが良い年した大人が未成年と付き合うのは看過出来ません。後からゆっくり話し合いましょう」
流石は真面目神官兼二児のパパ、織やんチェックが入りました。
「ははっ…まずは会議ですよ、会議。ネサンス王、お初にお目に掛かります。ジャスティスファングことセイガ・アカイです」
フンゴ・ネサンス、今年で四十才になりますが、お師匠様の血が入っている為、見た目は私より若くてイケメン。
「セイガ、お前は俺の弟弟子なんだから、そんなに畏まらなくても良いだろ…お互い大婆様に鍛えられた仲だろ」
そう、フンゴ様もナトゥーラ様から魔法を習っていたんです。
「フンゴ、貴方は王なんですから口の利き方を覚えなさい…それに私はネサンスの王藉を離れた身ですよ。セイガさん、キヨキ聖皇国を見た感想を教えて下さい」
ナトゥーラ様が王藉を離れたのは子孫に責任感を持たせる為と聞きました。
まあ、大婆様と呼ばれて相好を崩すナトゥーラ様は新鮮です。
「キヨキ聖皇によるキヨキ聖皇の為のキヨキ聖皇の国ですね。民はキヨキ聖皇家に尽くす事を無常の喜びとしています。キヨキ聖皇はただの馬鹿ですね。自己満足と酒色に浸る馬鹿ですね。ただ、民は死に物狂いで聖皇家を守ると思います。胸糞の悪い狂信国家ですね。まともに相手をするだけ損ですよ」
本来なら革命が起こってもおかしくはない政治体制ですが、馬鹿勇者のロンギングがそれを防いでいるだけ。
「そこまで狂ってんのか…いや、イッピョーを見れば分かる。あいつ、俺と飯を食っただけで喜んだだぞ」
ベルク様の額にぶっとい青筋が浮かびました…怖いです。
「ベルク様、今回の戦、イッピョー君を旗頭に出来ませんかね?イッピョー君によるキヨキ聖皇国の解放にしたいんですよ」
戦には大義名分が不可欠。イッピョー君は、その旗頭に最適。
「お前、イッピョーを家族と戦わせる気か?」
「実際に戦うのは私達ですよ。安心して下さい、余計な血は流しませんから」
大人になった魔法使いは駆け引きも覚えたんですよ。




