目指せキヨキ聖皇国?
ブラック企業も真っ青な地獄のデスマーチを漸く終えて、なんとかマジックアイテムの生産が一段落しました。
これでお風呂に入れますし、ゆっくり寝る事も出来ます。
何よりラシーヌ様の掲げた鬼の社訓から逃げれます。
【食事時間で体を休めなさい。しかし、頭は休ませずに常に新しいアイディアを考る事】
ちなみに研究所の食事は一日の栄養素が詰め込まれたポーションのみ。
しかし、そんな日々も漸く終わります。
後は所長室に寄ってラシーヌ様に挨拶をして帰るだけ。
「ラシーヌ様、それではお先に失礼します」
「ご苦労様でした。所でキヨキ聖皇国にはいつ旅立つんですか?」
…ロンギングの対策に夢中になり過ぎて大切な事を忘れていました。
「つかぬことをお伺いしますが、期限とかはあるんでしょうか?」
マジックアイテムがキヨキ聖皇国側にバレる前に仕込みを終えたい筈。
「そうですね、ここからキヨキ聖皇国までは馬を使えば二週間で着きますから二十日の猶予を上げます。きちんと出張扱いにしてあげますから安心しなさい」
鬼だ…鬼エルフがいる。
「二週間は平時の日数じゃないですか?今、キヨキ聖皇国はブランゾンと戦争してるんですよ。二十日だとギリギリの日数じゃないですか」
つまりは休まずに移動しろと言う事。
「でしたら新しい移動手段を考えて下さい。セイガさんなら出来ますよね」
「いや、ゆっくり寝たいんですけど」
デスマーチを終えたばかりなのに、新たな行軍を命じてくるなんて酷くないですか?
「それなら一眠りしたら大丈夫ですよね」
ニコニコ笑顔のラシーヌ様が怖いです。
「いや、お風呂にも入りたいですし…」
「セイガさん、出来ますよね…次は確認しませんよ?」
ラシーヌ様の顔から笑顔か消えて真顔にチェンジ…あれに逆らうのは危険です。
「はい、分かりました…」
そして私は所長室から研究室にとんぼ返り…。
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ラシーヌ様は馬を使えば二週間と言いましたが、馬を使うのは難しいでしょう。
二週間は馬を乗り継いだ時の日数ですし、戦地で馬を手に入れるのは困難。
何より戦争に巻き込まれたら、予定が狂ってしまいます。
それなら車型のマジックアイテムを作れば…この世界の技術でサスペンションの再現は不可能。
しかも、道路はでこぼこ道ばかり。
サスペンションなしで、でこぼこ道を走ったら一日でダウンするでしょう。
陸が駄目なら空。
私の飛行魔法はスピードを上げれば酸欠になりますし、空気抵抗で首が折れかねない欠陥魔法。
何より私の魔力が持たないです。
飛行型ゴーレムを作れば…私に航空力学の知識なんてありません。
それなら海路…。
スクリューの再現は難しいですけど、魔法を利用すれば速度をあげるでしょう。
何より多くの荷物を運べます。
でも、私は船酔いしやすいんですよね。
海図の見かたなんて分かりませんし。
星を見ながら…この世界の星は地球とは違うので一から覚える必要があります。
それに私は海で泳げません。
キヨキ聖皇国へは私一人で行くので、誰も助けてくれないんですから。
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「海ですか…遠回りになりますが確かに邪魔は入りませんね」
ここミゼールシュバーは魚のマンボウと似た形をしており、ネサンスは口にありキヨキ聖皇国は尾びれにあります。
「ええ。陸に沿って行けば迷いませんし、寝る時はどこかに停泊させます」
「分かりました、旅には誰を連れて行くんですか?人数に合わせた船を用意させませす」
「今回は一人で行こうと思います。紅葉や久郎は実践経験が少ないですし、シェルムやブリーぜは有名過ぎます」
何よりブリーゼはネサンスに亡命しているので連れて行くのは危険です。
「一人で大丈夫なんですか?」
「大人数でキヨキ聖皇国に行く方がリスクが高くなりますから。久郎にはマジックアイテムを組み込む仕事に従事してもらいたいですし」
問題は紅葉の説得…まだ信用を失う訳にはいきません。
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「いや」
説明を聞き終えた紅葉はプイッと横を向いてしまいました。
「嫌って言われてもキヨキ聖皇国には、どんな危険が待っているか分からないんだよ」
そして一番の目的はオリヤンの救出…下手をしなくても一国と敵対する事になります。
「なんで危険なのにせい君が行かなきゃいけないの?捕まって監禁されたらどうするの?普通は使節団とかを派遣するんじゃないの」
「大勢で行けば向こうの不安を煽るだけなんだよ」
何より逃げる時が大変になりますし。
「せい君、出張をする時の約束を覚えてる?」
「一日一回は連絡をする事、変なお店には行かない事、きちんとご飯を食べる事…それと絶対に帰ってくる事だろ?覚えているよ」
紅葉は忘れたくても忘れられない大切な人ですから。




