ナトゥーラ・ラシーヌ
それはネサンス領内に入る関所まで後少しとなった時の事です。
「せい君、凄く人が並んでいるよ。あの人達全員ネサンスに入国する人なの?」
確かに関所は入国手続きを待つ人達で溢れ返っていましたた。
ちょっと嫌な予感がしてきました。
「それにしても高そうな服を着ている奴等が多くねえか?」
「兄貴、あっちの人が着ているのはシルクだよ。馬車も豪華だし、何をしてる人達なんだろ?」
久郎とかこちゃんが言う通り、並んでいる人達はどう見ても庶民に見えません。
とんでもなく嫌な予感がしてきました。
別の関所に移動しようかと考えていると、関所の方から騎士の方々が近づいて来ます。
「失礼します、アカイ様御一行ですよね。私はネサンス国境警備隊の者です。ナトゥーラ様の命によりお迎えに上がりました」
挨拶をしてきたのは口ヒゲが渋いダンディな中年騎士。
「そ、それは御苦労様です。私達も列に並びますからお仕事にお戻り下さい」
私の予想が確かなら関所に並んでいる人達のお目当ては私達一行でしょう。
今、正体がばれたら確実に面倒な事になります。
「よお、セイガ。久しぶりじゃねえか。随分と大人になったな…特にデコが」
それは地の底から響いてくる様な低く野太い声。
声を掛けてきたのは頬に刀傷があるゴツい騎士。
「べ、べルク公爵様。お久しぶりです」
私は直ぐ様御者台から飛び降りて片膝を着きました。
「よせいやい、俺はもう公爵じゃねえんだぜ。ナトゥーラ様がラビィでお待ちかねだ。行くぞ」
べルク様がナトゥーラ様の命で私を迎えに来たと…なんかもう嫌な汗が止まりません。
「わ、分かりました。それじゃ列に並びますので少しお待ち下さい」
「お前達は手続き無用だよ。何しろナトゥーラ様が保証人だからな。お前ら、セイガの馬車を取り囲め」
べルク様の一声で騎士団が馬車を取り囲みます。
どの顔も見覚えがあります。
「べ、べルク騎士団…」
サクセスの騎士団とは比べ物にならない迫力。
「セイガ、元気だったか?相変わらず細い体だな」
「アカイ、今回も頼むぞ。お前はべルク様の味方だよな」
「デコ、結婚はしたのか?」
次々にお声を掛けてくる元べルク騎士団の皆様。
気分はヤンキーな先輩方との久しぶりの再会。
「み、皆様、お、お久しぶりです。なんとか元気にしています…」
「それなら安心だ。何しろラビィじゃジャスティスファング復活祭が開かれてるんだ。主役が弱ってちゃ盛り上がらねもんな」
…嫌な予感が的中しました。
「べルク様、復活祭はナトゥーラ様の案なんですよね」
「ああ、その通りだぜ。当然、お前にも出てもらうからな」
流石は元お妃様、弟子との再会も政治に活用するんですから。
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馬車を取り囲ものは馬体のいいレッドファングが可愛く見えてしまう軍用馬。
それに乗るのは世紀末拳法漫画に出てきそうな方々。
「わざわざお出迎えとは随分とVIP待遇だな」
久郎も緊張しているのか声が震えています。
ちなみに紅葉はべルク騎士団に怯えて馬車の中に入ってしまいました。
「多分、私を政治的に活用したいんだよ。それにジャンテイー・ミゼル様が降臨したのも大きい。何より私達一行はジャンテイー・ミゼル様にお声を掛けられている…私達引き入れるだけでも同盟国が増える」
「つまり女神様のお墨付きになる訳か…しかも強力な魔法使いと女戦士二人がついてくると」
言い方を変えればジャンテイー・ミゼルは私達にキヨキ聖皇国討伐を許可したと言う事。
戦において大義名分は必須なんですから。
「ああ、ちなみに関所に並んでいたのは各国の使者だよ。多分、ナトゥーラ様が使い魔や工作員に命じてジャンテイー・ミゼル様の降臨や私の再召喚を広めさせたんだろうな」
つまりナトゥーラ様は話だけで同盟国を増やしたって事です。
「それじゃジャスティスファング復活祭にも意味があんのか?」
「噂はあくまで噂だろ。だから各国の使者に本物の顔をお披露目するのさ」
そこにブリーゼとシェルムがいれば使者は信じるでしょう。
「でも大丈夫か?カミカさんはお前の事を認めてないんだろ」
カミカさんはショックのあまりジャンテイー・ミゼルが降臨した事も覚えていないそうです。
「まっ、いざとなれば認めざるをえない魔法を使うさ」
私にしてみればナトゥーラ様に紅葉を認めてもらう方が困難なんですし。
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ナトゥーラ・ラシーヌ、御年四百才になられるエルフ。
エルフだけあって顔は整っていて、二十代後半くらいにしか見えません。
私達がいるのはジャスティスファング復活祭の会場。
会場の一角には大きなステージが作られていました。
私達はべルク様にステージの前で待機する様に言われました。
言われたのですが、そのステージの上にはナトゥーラ様がいたのです。
「あの人がナトゥーラ様?綺麗な緑色の髪の毛…それに凄く優しそう」
壇上にいるナトゥーラ様に見とれた紅葉が溜め息をつきました。
紅葉の言う通り、ナトゥーラ様の髪は新緑の森を思わせる緑色をしています。
そして見た目だけ癒し系、保母さんにいそうな感じです。
そう見た目だけは
「ジャスティスファング決め台詞大会ってなんなんだよ。壇上で私の決め台詞を叫ばせるなんて酷くない?」
参加者が私の厨二な台詞を叫ぶ度に、私の精神力はガリガリと削られていきます。
そしてナトゥーラ様は大会の審査委員長。
「よお、爆炎の魔導士。いや雷撃のウィザード様だったか?」
「てめ、久郎!!これ以上私の傷を抉るな!!」
ちなみに久郎とかこちゃんは参加者の台詞を聞く度に大笑い。
「しょうちゃん、本当に”私の雷撃がお前の野望を打ち砕く”なんて言ったの?」
こうなれば大会が早く終わる事を祈るだけです。
「さて、これで参加者全員が叫び終わりました。それではこれから審査に入ります…ナトゥーラ様どうしましたか?」
司会の人が審査に入りますと言った瞬間にナトゥーラ様が手を挙げました。
視線は完璧に私を捉えています。
「あの人にも叫んでもらっても良いですか?あまりに弟子に似ているから彼の台詞も聞きたくなりましたの」
そりゃ似てますよ、本人なんですから。
「そうですか。さあ、そこの猿人さん壇上に上がって下さい」
まさか異世界のステージで厨ニな台詞を叫ばされる羽目になるとは。
「猿人さん、名前をお願いします」
「セイガ・アカイ。二十八才です」
ざわつく会場…多分、ジャステイスファングの本名を語った痛い人と思われているんでしょう。
私が顔を赤らめていると、ナトゥーラ様が手を挙げました。
「アカイさんに質問があります。炎と氷の合体魔法は成功しましたか?」
はい、漫画みたく上手くいく訳がありません。
「な、なんの事でしょうか?あっ、台詞でしたね」
ここは魔法の名前でも叫んでお茶を濁しておきましょう。
「それでしたらフレイムデビルを倒した時の台詞が良いですわ。遅刻をしたんですから良いですよね、セイガさん」
よりよって一番恥ずかしい台詞を。
「お前の悪事は私の絶対零度が凍りつかせる。氷雪の魔導士ジャステイスファングをなめるな!!」
はい、凍りつきましたよ…会場が。




