表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/70

ナトゥーラ様の正体

 直ぐに旅立とうと思い、辺りを見渡すと、執務室は異様な雰囲気に包まれていました。

 サクセス王と側近の方々は小さなフェアリーに睨まれて顔面蒼白となり震えています。

 

「わ、私は出立の準備がありますので、これにて失礼します…ナトゥーラ様、不肖の弟子は再会出来る日を心待ちにしています。それではっ!!」


「待て、ジャステイスファング…いや、待って下さい」


「誰かアカイ殿をお止めろしろっ。サクセスが滅亡しても良いのか?」

 脱兎の様に逃げ出す私を見て慌てふためく執務室の皆様…申し訳ありませんが、私も自分の身が可愛いんです。


「サクセス王、貴方には今回の召還について色々と聞きたい事があります。よろしいですか?」

 一瞬の静寂の後、王の言い訳が執務室に響き渡りました。

静けさや 部屋に染み入る 王の声

 今の内に逃げましょう。


――――――――――――――


 ショウちゃんが王様に会いに行ってから紅葉はソワソワしっ放し。


「夏子ちゃん、せい君大丈夫かな?王様とちゃんと話出来てるかな?また安請け合いしてないかな?王様とケンカしてないかな?変な物食べたりしてないかな?」

 その姿はまるで子供を心配する母親だ。


「大丈夫だって、ショウちゃんは凄い魔法使いなんでしょ?」


「それでも心配なのっ!!第二王女との結婚を勧められていたらどうしよう?ねえ、夏子ちゃん、どうしよう!?」

 涙目で両手をバタバタさせ始める紅葉。

 心配性と言うか想像力が豊かだと言うか、紅葉は次々に表情を変えて見ていて飽きない。

 次の瞬間、ノックもなしに部屋のドアが乱暴に開けられた。

 そこにいたのは顔を真っ青にしたショウちゃん。

 広いおでこは冷や汗でびっしょり。

 部屋のみんなが固まっている中、物凄い勢いで飛び出した人がいた…紅葉だ。


「せ、せい君、何があったの!?顔が真っ青だよ!!それにひどい冷や汗」

 そう言って甲斐甲斐しくショウちゃんの汗を拭い始める紅葉…そしてそれを見て唖然としている潮騒(がっこう)のみんな。

 そりゃそうだろう。

 学校では鬼の満中先輩とか堅物紅葉とかノンデレ紅葉とか言われている満中紅葉が冴えないおじさんを甲斐甲斐しく世話しているんだから。 


「満中さん、どうしたの?」

 紅葉の豹変ぶりに戸惑う敦子ちゃん。


「満中さんの趣味は独特なんですわねっ…ヒィィッ」

 紅葉に睨まれて怯える館老さん。

 今の紅葉の視線は人を殺せるレベルだ。


「今すぐネサンスに旅立ちます。私一人でも…私と紅葉だけでもネサンスに行きます」

 ショウちゃんが私一人でもと言った瞬間、紅葉がショウちゃんを思いっきりつねった。

 

「赤井さん、何があったんですか?もう夜中ですよ。それに旅の準備が何も出来ていません。先ずは座って下さい」

 富楽先生の言葉に部屋のみんなが頷く。


「すいません、取り乱しました…富楽先生、生徒の皆様にどこまで説明をしてくれましたか?」

 そう言って椅子に座るショウちゃんと隣をキープする紅葉。

 紅葉(しんゆう)に言いたい、誰もショウちゃんを誘惑なんかしないって。


「義姉から聞いた事は一通り説明をしましたよ。みんな納得してくれました」


「それは安心しました。ナトゥーラ様に私がエレメンに来ている事を知られました」


「ナトゥーラ様ってせい君のお師匠様のナトゥーラ様?」

 紅葉はショウちゃんの腕を胸で抱え込みながら上目遣いで見つめている。

 それをガン見する木谷と、そんな木谷を見てムッとする季子。

 

「ナトゥーラ・ラシーヌ様、御年四百才になられるエルフの魔法使い。エルフの国ラシーヌの第三王女にしてネサンスの元第一王妃。今はネサンス国立魔法研究所の所長をされているんだ」

 ショウちゃんの師匠はなんとも凄い経歴の持ち主だった。


「そういやイッポ王もお前の知り合いもみんな様をつけて呼んでたもんな。つまり最低でも二か国に顔が効くって分けか」

 兄貴の言葉にみんなが息を飲む…流石は僕の兄貴。


「二か国じゃねえよ。ナトゥーラ様の子孫はエレメンの色んな国や部族と婚姻を結んでいるんだ。ナトゥーラ様と敵対したらサクセスは孤立して、キヨキ聖皇国との板挟みになり…早晩、滅亡する」


「王女で元王妃、更には救世主(おまえ)のお師匠様か。確かに、とんでもないお人だな…それでいつネサンスに行くんだ」

 兄貴は軽く溜め息を洩らすと椅子にドカリと座り直した。


「まず全員分の契約書を書き直して、旅に着いて来る人の準備を終えてからだ…最低でも明日の午後には出発したい。ここからネサンスまではどれだけ急いでも二週間は掛かる。場合によってはまた物を売るか」


「流石にサクセスからは金をもらえないしな。毎回、悪いな」

 ショウちゃんに世話になっているのは僕も一緒。

 だから兄貴は僕の分も頭を下げてくれている。

 …多分、紅葉は特別枠だし。


「次の飲みはお前持ちだからな。でん八に行くぞ」


「分かったよ、満中さんも一緒に連れてけば良いんだろ?そうなるとかこも合わせて四人分か」

 僕が除け者にされなくて安心したけど、ショウちゃんは自由にお酒を飲めなくなると思う。


「せい君、ビールは中で三杯、焼酎も三杯まで。約束だからねっ」


「紅葉、久郎のおごりなんだからもう少し駄目?」

 王族を震わせた魔法使いは年下の彼女に懇願をしていた。


「駄目ですっ!!せい君お酒を飲んだら先に寝ちゃうでしょ」

 どうやら伝説の魔法使いは尻に敷かれているみたい。

 ちなみにネサンスに行くのは僕達と富楽先生のパーティー、それにカミカちゃん。

 カミカちゃんへの紅葉ガードが厳しくなりそうだ。

活動報告にも書きましたが、作中に出て来たでん八は作者の知人が一月からかだれ横丁で開いた店です

安くてうまい店なので弘前にお越しのさいは是非利用して下さい

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ