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夜を待つ花

今回は何時もと雰囲気が違います

 サクセス領内に着く頃には日暮れ間近になっていました。

 夕暮れが全てを紅く染め上げ胸に郷愁が押し寄せて来ます。

 思い出すのは日が暮れるまで夢中で遊べた幼い日の事。

 

「なんか久し振りにゆっくり夕暮れを見た感じがするね。ううん、こんな風に夕暮れに包まれたのは初めてかも」


「紅葉が生まれた頃には潮騒にも随分とビルが建ったもんな」

 私が子供の頃はランニング一枚で虫を追い掛けていましたが、今はビルが乱立し虫も蠅かゴキブリしか見なくなりました。

 私が虫を探さなくなっただけかも知れませんが。


「せい君、これかどうなるの?せい君が倒した人はサクセスの人なんでしょ?」

 

「正式には認めれないから殺された兵士の身内は泣き寝入り。多分、農家の次男や三男が殆んどだから金を渡して終わりだろうな」

 サクセスの王はさぞかし驚く事でしょう。

 殺した筈の人間がリヤンの王イッポの親書を携えて帰って来るのですから。

 

「恋人が待っている人もいたのかな?せい君が帰って来なくなったら紅葉は絶対に耐えられないよ」

 どんな傷も時が癒す…これが真実ですけど今言ったら大ヒンシュクです。


「紅葉の親御さんや友達も潮騒で紅葉の事を待ってるんだよ。だから紅葉は何があっても帰らなくちゃいけない」

 そう、紅葉は何があっても私が帰します。


「せい君も一緒じゃなきゃ、紅葉は帰らないからね」

 そう言って紅葉は私の肩に頭を乗せてきました。 


「おい、そこのエロ魔法使い。鼻の下を伸ばしてないで一回停まれ」

 そう言いながら剣の鞘で私の頭をポンポンと叩くシェルム。

 地肌が目立ってデリケートな私の頭になんて暴挙をするんです。


「警戒するには越した事はないですしね」

  

「ああ、いざって時に馬が疲れていちゃ意味がない。水を飲ませて一休みさせた方が良い」

 下手をしたら私達はサクセスから追われるのです。

 小休止をしていると、紅葉が一輪の花を摘んできました。

 それは黄色くて小さな可憐な花。


(イ、イヴンニングフラワー?選りに選ってなんて花を摘んでくるんです…)

 イヴンニングフラワー、別名夜待ち花。

 ジャスティスファング的に言うと紅葉に知られたくなかった花No.ワン。

 イヴンニングフラワーはその名の通り夕方に咲き始め夜に咲き誇り朝には散る花。


「せい君、綺麗なお花見つけちゃった。胸に刺しておこうかな?」

 紅葉は作業着の胸ポケットにイヴンニングフラワーを飾ろうとしています。


「ストッープ、紅葉。そのままサクセスの町に入ったら大変な事になる」

 イヴンニングフラワーに手を伸ばす、それは紅葉の胸に手を伸ばす事になります。


「へっ?せい君…そういうのは二人っきりの時だけにしよ」

 誤解のない様に言っておきますが私はあくまでイヴンニングフラワーを狙った訳で。


「おい、セクハラハゲ。俺の(かこ)の前で何をしてんだ?」

 ちなみにかこちゃんの顔は真っ赤になっています。


「も、紅葉は嫌がってないから良いんじゃないかな。でも、やっぱり二人っきりの時にして欲しかったな」


「違う、誤解です。この花を胸に刺していたら私の大切な紅葉が変な目で見られるんだって」

 そして紅葉も顔を赤らめてモジモジしています。


「ショウガ、どう言う意味だ?」


「この花は夜に咲く花だから娼婦に例えられるんだよ。そして娼婦を予約する時にも使われるんだ…花が咲く頃には貴女の所に行きます。私が迷わない様にこの花を胸に刺して待っていて下さいってね」

 行商人や冒険者の間では粋な行為と言われているらしいです。


「あー、早い話が予約済みの娼婦に見られる訳だ」


「そっ、そして猿人が多い町では夕暮れになると胸にイヴニングフラワーを刺した娼婦が門で待機し始めるんだ…娼婦にとっては私は予約が入る程の人気がありますってアピールになるらしい」

 ちなみに花をしおらせるのは娼婦にとっても客にとっても不名誉なるそうです。


「なんか好き嫌いが別れそうな風習だな」


「ちなみにイヴニングフラワーを育てているのは引退した娼婦で、花を売っているのは国の天下り機関が多いらしい」

 まるでどっかの国のパチ○コ屋みたいな利権図。


「なんか私は嫌だな。嘘の恋なんでしょ?」

 紅葉の顔に浮かぶ嫌悪感は若さの現れでしょう。


「私も昔はそう思っていたよ。でも今は分かるんだ、行商人も冒険者も嘘と分かっていても自分の帰りを待っていてくれる人が欲しいんだよ。人には辛い時に縋れる嘘も必要なんだと思う」

 そして私達はサクセスの門ですれ違う…花をしおらせた娼婦と。

 多分、それは私が犯した罪の結果でしょう。


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