旅の陰で
悪趣味なドラマを見ている様で不快になります…いや、独り善がりのコントの方が相応しいかも知れません。
舞台はリヴェール村とレイク自治区の境界線近くの森。
獣人の娘達が閉じ込められた馬車を、偶然近くを通り掛かったサクセスの騎士が偶然見つけたって筋書きなんでしょう。
サクセスの騎士達は、獣人の娘達が閉じ込められた馬車を一旦放置した後に、そ知らぬ風で近づき大袈裟に驚いてみせました。
「大変だ!!こんな所に馬車が放置されている」
「大丈夫ですか?我々はサクセスの騎士です。聞こえていたら返事をして下さい」
「これは魔法で封印がしてある、みんな助けるぞ」
「「「オオーッ!!」」」
ちなみに道中は、件の馬車に布を被せた芸の細かい騎士さん達が主演です。
「脚本家と出演者が同じヒーローショーか…悪趣味だよな」
「せい君は行かないの?」
「私は自分の顔を知ってるよ。イケメン度を選抜基準にした騎士隊に混じる勇気なんてないって」
騎士隊にイケメンが多いのは、獣人の娘への第一印象を考慮したんでしょう。
「三米君は行ってますよ。閉じ込められていた女の子を助けるのに爽やかな笑顔はいらないと思うんだけどな」
「彼は騎士でイケメンです。ただ、この悪趣味な筋書きは知らないでしょうけどね…私はヒーローなんて頼まれてもお断りなんですけどね」
庶民や貴族の誉め言葉は、次の死地への片道切符みたいな物なんですから。
「これから、どうるの?」
ちなみに紅葉の口調は、ここ数日で以前と同じ砕けたものになりました。
「とりあえずリヴェール村の宿屋に行って獣人の娘の回復を待ってからリヤンに出発ってところかな…紅葉にお願いがあるんだけど」
「せい君、なに?」
「レイク自治区を移動する間は馬車に乗ってもらえる?」
「うー、本当は嫌なんだけど何で?」
「レイクは治安が悪いから紅葉みたいに若くて綺麗な娘は目を着けられやすいんだよ。レイクの盗賊は商品を手に入れる為なら馬を殺すなんて何とも思わない連中だから」
そう言って、レッドファングの背中を撫でていると紅葉が頬をプッと膨らませました。
「せい君、ずるい。そんな風に言われたら断れないよ」
「それともう一つ、獣人の娘達の壁になってくれ。ヒーローの騎士様が現地妻ならぬ旅の妻にしかねないんから。知り合いの身内をそんな目に合わせるのは忍びないし、久郎とカミカさんも同乗すれば騎士も馬鹿な気を起こさないだろ」
「久郎さん怖がられたりしないかな」
確かに、久郎は私とは違う意味で警戒されやすいタイプ。
「久郎は熊人の男性と似ているから、獣人の警戒も薄くなる筈。それに獣人の娘の好みは力が強く家族を大切にする男なんだよ」
正に久郎は絵に書いた様な理想の男。
「かこちゃん怒らないかな」
「大丈夫だよ、久郎はかこちゃんが成人するまでは結婚どころか恋人も作らないって言ってるから」
久郎は親父さん達からかこちゃんを託されてから、少しでも大人にみせる為に髭まで伸ばしたんですから。
前の彼女と別れた理由が、かこちゃんが大人になるまで結婚は出来ないだったんですし。
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幸いな事に、獣人の娘達に深刻な健康被害がなく二日休んだだけで旅立つ事になりました。
「ひでえよな、この狭っ苦しい馬車に閉じ込められていたんだろ?」
久郎は獣人の娘が閉じ込められていた馬車を見て憤っています。
「あるのは板で仕切られたトイレと水桶のみか…飯はこの小窓から差し入れていたんだな」
「かこや満中さんより年下の子もいたそうじゃねえか。その貴族をぶん殴ってやりてえ」
「たぶんもう無理だな、貴族はお前の手の届かない場所に行ったよ」
まあ、私の魔法も届きませんが。
「あん?城かどっかで匿ってるってのか?」
「旅立つの日に顔見知りの商人から聞いたんだよ。サクセスの男爵が1人暗殺されたらしい」
流石はデュライさん、仕事が早い。
「まさか…その男爵ってのは」
「十中八九そうだろ。これで真実は闇の中さ。それと男爵の屋敷からレイク自治区だけで作られている酒が出てきたらしいぜ…きっと、この話は意図的に広げられているんだろうな」
普通なら自領の貴族が暗殺されたら病死扱いにするんですから。
「そういや話を聞いたぜ。次から一人で馬に乗るらしいな」
「ああ、紅葉を守りながら1人で戦うのはきついからな。紅葉の事は頼むな」
主に三米君やイケメン騎士から守って欲しいんです。
「1人?護衛の騎士がいるだろ?」
「騎士が動くのは国や自分の名誉の為だけさ、それにサクセスの騎士がレイクでは剣を抜くと騒ぎになるんだよ…レイクにはサクセスから追い出されたら人が多く住んでるんだよ」
最悪、私1人で戦わなきゃいけません、使える魔法はファイヤーボール限定ですから、気合いを入れなきゃいけませ
ん。
何しろ私が公式的に使える魔法はファイヤーボールだけになっているんですから。
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大きな橋を渡り、レイク自治区に入ると景色が一辺しました。
森や草原が消え荒涼とした荒れ地が広がっています。
昔は緑が広がっていたそうですが、魔王軍の攻撃で荒れ地に変わったそうです。
それを見て怯えたサクセスは魔王軍との対立を避ける様になったらしいんですよね。
(さてと、リヤンで野宿をするのは墓穴を掘る様なものですから今日中に無理をしてでも町に入りたいですよね。水よ、霧となりて彼の者を包め…クールミスト)
レッドファングの体を考えて霧を纏わせておきます。
(紅葉、頼みましたよ)
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獣人さん達は怯えて馬車の隅にカタマっています。
その原因は、久郎さんの腕を掴みながら獣人さん達を牽制しているかこちゃんと
「お願いだから、耳か尻尾を触らせて」
初対面でセクハラ発言をした三米君です。
カミカちゃんは我ら関せずで、偽せい君の絵本を読んでいます。
「カミカちゃん、ジャスティスファングさんがまたエレメンに来たらどうするの?」
カミカちゃんは大切そうに本を閉じると、真剣な表情でこう言いました。
「弟子にしてもらいます。ジャスティスファング様は潮騒町近辺の出身と聞いていたので日本にいる時に色々探してみたんたですが、結局お会いする事が叶いませんでしたし」
ちなみに、せい君の実家は隣町です。
「ジャスティスファングさんって、そんなに凄い人だったんですか?」
「当たり前です!!ジャスティスファング様とソードさん、そしてオリジンの3人で魔王を倒したんですよ!!勇者ヒーローなんてジャスティスファング様のおまけみたいなものです」
3人で倒したって、どういう事なんだろ?
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