魔法使いとお約束な予感
久しぶりに、研究室で目を覚ましました。
前にこの部屋で泊まっていた時は、食事の時間を惜しんで、パンを片手に研究をしていたんですよね。
でも今は
「久郎、飯が出来たから紅葉とかこちゃんに声を掛けて来てくれ」
食事の大切さを知りましたし、長年の独り暮らしのお陰で、それなりに料理を作れる様になりました。
「ショウガ、どうやってお粥を作ったんだ?」
「んなもん鍋で炊いたに決まっているだろ。お前達は夕べはちゃんと飯を食ってないからお粥の方が胃に優しいだろ?」
風邪を引いた自分の為に、お粥を作った哀しい経験が役に立ちました。
「そうじゃなくて火はどうしたんだよ?この部屋に囲炉裏やかまどなんて見当たらないぜ」
「魔石に火の魔力を込めて、それを熱源にしたんだよ。それよりも冷める前に食え、食わないと体が持たないぞ」
腹が減っては戦も鍛練も出来ないんですから。
「ショウちゃん、魔石って何?パワーストーンとは違うの?」
「パワーストーンは力のある宝石や貴石でしょ。それと同じで魔石もパワーストーンの1種なんだけど、魔石は魔力を大量に溜め込む性質があるんだよ。だから火の魔力を込めれば熱源になるし、光の魔力を込めれば光源になるんだ」
最も、魔石自体が反応を起こすから触媒には使えませんが。
「それじゃ、水もそうやって手に入れたのか?」
「魔法は万能じゃないから無から有は産めない。魔石に転移の魔力を込めて川に沈めたんだよ」
しかも、魔石を沈めてあるのはエレメンでも有名な清流です。
「そう言えば私達の武器を買いに行くって言ってましたけど、せい君は何の武器を使うんですか?」
「そりゃ杖だよ。私が使うのは、パワーストーンを取り外し出来る様にした杖なんだ。この辺は草原や森が多いから、冷却系か射出系のパワーストーンを使う予定だよ」
冷却系のパワーストーンがあればアイス系が少ない魔力で使えますし、射出系のパワーストーンがあれば、落ちている石も武器になります。
「森の中なら、火の魔法が有効なんじゃねえのか?」
「森のクマさん良く聞いておけ。森の中で火炎魔法なんて使ったら森林火災に巻き込まれて自分が危険に晒されるんだよ、無事に逃げても猟師や林業の人に恨まれるんだぞ」
生木は燃えにくいとはいえ、森の中で火炎魔法を使ったのがばれたら逮捕されてもおかしくありません。
「そうだよな、誰かさんの頭みたいに禿げ山になったら大変だもんな。他にも制限があるのか?」
「何度も言わせるな!!私は禿げじゃなく額が広いだけなんだよ。制限って訳じゃないけどゲームなんかに出てくる真空の刃みたいの使えないな。カマイタチって真空が原因じゃないんだろ?だから再現が出来ないんだよ」
確か、カマイタチ現象は冷やされて乾い皮膚に小石が当たって切れるとか、寒暖の差に皮膚の伸縮が追い付かずに裂けるとか言われています。
「魔法使いも大変だな。武器を買う時に俺達はいなくて良いのか?バランスとかあるんじゃねえのか?」
「それはある程度の技術を持った人間の話だよ。プロ野球選手なら自分用のバットを使うけど、草野球をしている人は、そこまで拘らないだろ?気になるんらついて来ても良いぜ」
武器の重さとかはら自分で実際に持ってみた方が確かですし。
「ショウちゃん、僕の武器は?」
昨日は、ついつい遅くまで飲んじゃったんですよね。
「とりあえずかこちゃんは、私が前に使っていた杖を使って。研究室にも何本か置いてあるから好きな杖を選んで良いよ」
それで杖を見せたんですが…
「…ショウちゃん、僕はできたらもう少し大人しめの杖の方が良いな」
「ドラコンを模した杖に羽を着けた杖、それに宝石を散りばめた杖か…ショウガ、こんな物を持っていたら嫌でも目立つぞ」
どれも細工代が結構掛かってるんですけどね。
「分かったよ、かこちゃんの杖も買うよ」
私の触媒コレクションの1部を売れば 100万ウルは簡単に手に入ります。
問題は何を売るかなんですよね。
売れば目立つ物もありますし、中々手に入らないから売りたくない物もありますし、コンプリートしているから売りたくない物もあります。
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サクセスシティの武器屋は問屋街の一角にありました。
剣と槍がクロスした看板が目印の武器屋ウェポンショップギルメット。
ギルメットはサクセスに割りと多い苗字なので、日本風に言うと田中武器店と言った感じでしょうか。
「ここだな、問屋街にあるから質には問題ないと思うよ」
貴族御用達のお店は装飾重視で使いにくい物が多かったりしますが、問屋街の店だから機能性を重視している筈。
「ショウガ本当に良いのか?お前が売った触媒は珍しい物なんだろ?」
私が売ったのは加工済みのパワーストーン10個トータル150万ウル。
「珍しいのもあるけど加工が丁寧だから、あの値段になったんだよ。問屋街にある店だから大きい額の取引は珍しくないから目立つ事もない。さっ、入るぞ」
ウェポンショップギルメットは中々の大きさで従業員も6人ほどいました。
置いてあるのは剣、槍、斧等の基本的な武器から鞭や鉄球等の珍しい物、鎧や兜の防具もあります。
「せい君、エレメンにも薙刀があるんですね」
「私より前に日本から喚ばれた人が何人かいるみたいなんだ。きっと、その人が伝えたんだと思うよ。持ちながら長距離を移動する事を忘れるなよ」
紅葉は真剣な表情で薙刀を選び始めました。
かこちゃんの話によると、普段の紅葉は凛々しい武道少女だそうです。
「ショウガ、これなんてどうだ?持ち運びも苦にならない重さだぜ」
久郎が持って来たのは鉄で作られた大型のハンマー。
「それを何十回か振り回した後にでも持ち運べるんならな。盾を持たせたいから片手で使えるモーニングスターを従業員の人に選んでもらえ」
依頼にしろ戦いにしろ、目的を果たした後にも武器を持って帰らなきゃいけないんですから。
強力な魔物を倒したのは良いけど、疲れでうまく武器を振るえずに盗賊に殺されたなんて話もそんなに珍しくはありません。
「ショウちゃん、どんな杖が僕に合うのかな?」
「かこちゃんの場合は、敵を倒すより防御を重要視した方が良いね。軽くて持ち運び易い杖を選べば結界を張れる様にするから」
治療中は無防備になりやすいからメインウェポンとの併用も良いかもしれません。
結果、久郎は小型のモーニングスター、紅葉は刃だけが鉄製の薙刀、かこちゃんは30㎝くらいの樫の木の杖を選びました。
他には久郎と紅葉に鉄のナイフ、武器お手入れセット、久郎に持たせる木の盾を買って合計70万ウル。
3人の相手は砂山さんに任せて私は依頼をこなしながらの触媒集めに出発したんですが、嫌な物を見てしました。
それは商隊です。
大きめの荷馬車の後ろには鉄格子がはめられて中には数人の人間が押し込められていました。
周りをお世辞にも上品とは言えない荒くれ者が護衛している商隊。
(奴隷商か…彼奴ら変な正義感を起こさなきゃ良いんだけどな)
商隊1つを痕跡を残さずに消すのは、とんでもなく骨が折れるんですから。
感想お待ちしています。
みてみんに久郎のイラストを載せました。
全員が揃ったらリンクを張ります。




