エレメンの神
く、空気が重いです。
そうちゃんの話をした途端に、部屋の空気が重くなってしまいました。
「そう言えば城にいる時に、この世界の事を何か教えてもらえたのか?」
「全然だよ、俺とかこは殆ど放置されていたしな」
「私も次々に色んな人に話し掛けられましたけど、この世界の事は何も教えてもらっていません」
「ショウちゃん、この世界で信じられている神様って、どんな名前なの?」
そう言えば、かこちゃんは神様の名前が分からずに教会に所属を拒否されたんですよね。
「地母神ジャンティー・ミゼル様だ。ミゼル様はエレメンで信奉されている女神様なんだよ。伝説ではエレメンの全ての生物はミゼル様から産まれ、死してミゼル様の元に戻っていくそうだ」
人種も動物も植物も…そして魔物も。
「優しそうな女神様ですね」
「エレメンに生まれた全ての生命を暖かく見守ってくれる女神様、エレメンのグレイトマザーがミゼル様なんだよ」
「なんだよって、実際に女神様がいるって言うのか?」
「いるよ、エレメンに何かあると降臨されるんだよ。私も何回かご尊顔を拝見させてもらった事がある」
出来たら2度とお会いしたくはないんですが。
「女神様がいるのなら、何で魔物が人を襲うのを許してるんですか?」
「紅葉、私は言ったろ。エレメンの全ての生物はミゼル様から産まれたって、魔物もミゼル様から産まれたんだよ。ミゼル様からしてみれば魔物のが人を襲うのも、人種同士が争うのも、兄弟喧嘩みたいなものらしいよ。何しろ、最後は母ミゼル様の元に戻って来るんだから」
「女神様はどんな時に降臨してくるんですか?」
「ミゼル様が降臨される理由はマチマチさ。ただし、ミゼル様自らエレメンの生物に攻撃する事はないよ」
例え暴漢に襲われた女性がミゼル様の名前を叫んでも、子供が魔物に襲われていてもミゼル様は降臨してこない。
「それじゃ、母親って言えないだろ」
「救うべき者には助けを使わしてくれるし、哀しみのうちに倒れた者は自らお迎えに来てくれるんだよ」
ミゼル様から見れば暴漢も魔物もまた自分の子供になるんだから。
「つまり、外にいる時はミゼル様を敬わなきゃいけないのか。ところでショウガ、キヨキ聖皇国ってのはどこにあるんだ?」
「ちょっと待てよ…確かこの辺に地図があったんだよ。おー、これだこれ」
本棚から取り出したのは、私特製の大陸地図です。
「ショウガ、この潰れたドングリみてえのはなんだ?」
「兄貴、違うよ。これはマンボウじゃないかな?お魚のマンボウ、尾びれみたいのもあるし」
この兄妹は…。
「これは地図だって言っただろ。素人が詳細な地図なんて書ける訳ないだろうが…とりあえずマンボウで説明をする。私達がいるサクセスはマンボウの胸ビレ辺りになって、キヨキ聖皇国は尾ビレ辺りになる。間には国が2つ、騎士王国ブラゾンと神聖ミゼル共和国。今、ブラゾンはキヨキ聖皇国と戦争中でミゼルは中立の立場をとっているそうだ」
「つまりブラゾンが破れたらサクセスはキヨキ聖皇国と戦争になる可能性か高いんだな。ショウガ、他にはどんな国があるんだ?」
「大きい所で言えばマンボウの目の辺りにはエルフが住むラシーヌ、口の辺りには魔法国家ネサンス、お腹の辺りには多民族国家リヤン。後は小国が何ヵ国かあった筈だ。ちなみにエレメンに大陸は、ここミゼルシューブァとミゼルラルム、アルジアルの3つだ。その他には大小様々な島があるらしい」
さて、小声で魔法を唱えるとしましょう。
紅葉達には聞かせたくない話もありますし。
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今、研究室にいるのは私と久郎の2人だけです。
「紅葉とかこちゃんは寝たか?」
「ああ、2人共疲れたみたいで、部屋に戻るなり直ぐに寝ちまったよ」
正確には、私がスリープを弱めに掛けて寝むくなる様にしたんですけれども。
「それじゃ今日1日お疲れさん。とりあえず焼酎の水割りで良いか?つまみは焼き鳥の缶詰めと裂きイカにしとくか」
「まるで何時もの宅飲みだな。しっかし、お前が勇者のパーティーにいたとはね…良く生き延びれたな」
「必死に魔法の研究をしたからな。脇目も降らずに研究して彼女を横取りされたのにも気が付かなかったよ。あの時はフィルは私をずっと好きでいてくれるって、意味もなく信じていれたんだよな」
研究に没頭して構ってくれないブサメン魔法使いとフラグを立てまくるイケメン勇者じゃ勝負になるわけがないですよね。
「学生の頃なんて、そんなもんだろ。好きとか嫌いだけで物事を決めていたよな」
「だよな、昔は嫌な大人に平気で喰ってかかれたけど、今じゃ嫌味を言われても牛乳を置いてもらう為にはお世辞を言うし愛想笑いも上手くなっちまったよ」
今になると貴族にゴマを擦っていた騎士団長や、商人に愛想笑いをしていた宮廷魔術師の気持ちが良く分かります。
あの人達と再会出来たらきちんと謝らなきゃいけません。
「仕方ないだろ。会社に入れば自分より仕事を優先して当たり前。漫画やドラマみたいに上司や客にキレたら直ぐにクビになっちまうよ」
騎士団長は部下を苛烈な戦場に行かせない為に、宮廷魔術師は高騰する触媒の値段を少しでも安くする為に自分の気持ちを偽っていたんでしょう。
「久郎、お前かこちゃんを無事に日本に帰す為になら何でも出来るか?」
「当たり前だろ?俺はかこの兄貴…唯一の家族なんだぜ。かこが大人になるまできちんと見守るって、親父と義母さんと約束したからな」
久郎は、高校を出て直ぐに働き決して安くはない潮騒高校にかこちゃんを通わせています。
「かこちゃんに嫌われて、かこちゃんに彼氏が出来ても笑っていられるか?」
「笑うしかねえだろ…かこが幸せに浸っている時に、俺がごねていちゃ笑えねえよ。ショウガ、お前はどうなんだよ」
お前はって事は紅葉との事ですよね。
「俺は紅葉達を帰す為には汚れ役でも何でもやるよ。紅葉なら直ぐに私なんか及びもつかない彼氏が出来るさ」
誰かが汚れなきゃ無事には帰れないでしょうし。
「でもお前が満中さんと付き合っていたとはね。他の奴らが聞いたら驚くだろうな」
「だろうな。驚くってよりひくだろ?」
「何か他人事みたいな言い方だな…ショウガ、遊びだとか言うんじゃねえだろうな」
「遊びならどれだけ楽だろうな。自分でも情けないぐらいに紅葉に惚れてるんだよ」
良い年したおじさんが高校生の女の子に夢中なんて。
「惚気を聞かせるだけじゃないんだろ。早く言えよ、何か言いたい事があるんだろ?」
「まずは私のアーツの事だ。ショウガ、私のアーツで分かるのは魔法の使い方だけじゃなく人の考えている事や行動履歴も分かるんだよ。ただし、詳しく知るには目を10秒以上見なきゃ駄目だけどな。前にいた時には、この力があったから嘘や罠を見抜く事が出来たんだ」
ついでにフィルの本音まで分かってしまいましたが。
「そりゃ、またきつい力だな。それで次は何だ?」
「英ちゃんのアーツの事さ。英ちゃんアーツはヒーローになれるんだよ、英ちゃんが指揮すれば兵の士気は極限まで高まるし、行動は好意的に解釈されてしまう。その名もロンギングがキヨキ聖皇のアーツさ。厄介なのは催眠術やチャームと違って自発的に英ちゃんの為に動きたくなるんだ」
でも、ロンギングのせいで英ちゃんは道を誤ったんですよね。
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