特訓開始
寝ますよ、そう言うとせい君は静かに寝息をたて始めました。
私の知っているせい君は何時も笑顔の優しい人。
でも今日のせい君は表情を変えずに人を死においやりました。
せい君は中学生の時にエレメンに来た事があるそうです。
(せい君、昔のせい君はエレメンで何を見て何を経験したの?私には私にだけは教えて欲しいよ)
明日から特訓して強くなればせい君は私を頼ってくれるのかな?
せい君、私は命を奪う事が出来るのかな?
せい君ともう一度恋人同士になれるのかな?
色んな想いが頭の中をグルグルと巡って、私はいつの間にか寝ていました。
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牛乳屋の性でしょうか、夜明け間近かには目が覚めていました。
今日から3人の特訓を開始するんですが問題はどこでやるかなんですよね。
普通は、ギルドの訓練場を借りるんですけれども私の正体がバレる可能性があります。
これ以上、紅葉との溝が深くなれば私の淡い期待が有り得ない期待になっちゃいます・・・振られた私が今更何に期待するんだって話なんですけどね。
かといって紅葉にアーツを使うのはパスです。
想い人にアーツを使うのはトラウマなんですよね。
それなら一層の事、街の外でやりますか。
魔物は結界を張れば防げますし、あれを使えば特訓にも護衛にも使えます。
そして私はその間に依頼をこなす事が出来るし、ついでに触媒も集めれると。
幸いな事に私の魔力も大分回復しています。
「せい君、お早う・・・ございます」
「はい、お早うございます」
久しぶりのお早うなのに、何とも色気のない朝の挨拶ですね。
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今日の朝食は黒パンにジャガ芋のスープ、そして牛乳です。
「これは少し黄色味がかっていてコクのある味、地球で言えばジャージ種が近いか」
「ショウガ、朝っぱらから牛乳で語るなよ」
「せい君、牛乳大好きですもんね。県外に行くと必ずその地方の牛乳チェックしてましたし」
私の趣味は各地の牛乳チェックと紙パックのコレクションなんです。
「だけどみんなは気を付けた方が良いぞ。加熱殺菌をしていないからお腹を壊す可能性が高い。でも飲みたいんなら魔法で殺菌をするよ」
「お前はどんだけ魔法を無駄遣いするんだよ。しかし、硬いパンだな」
「慣れたらうまいんだぞ、よく噛めるから腹も膨れるし。慣れないうちはスープに浸してから食べれば良いよ」
白くて柔らかいパンを食べるには、かなり頑張って稼がないと無理でしょう。
「そういや昨日はなんであんな事をしたんだ?ただ絡んできただけだろ」
久郎が言っているのは絡んできた男を外に行かせた事でしょう。
「それは飯を食べたら私の部屋で話すよ」
誰がどこで聞いてるか分からないんですから。
「私とせい君のお部屋ですよね」
紅葉は今日も泊まるつもりなんでしょうか?
スリープに込める魔力を強くしないと私の自制心が崩壊しさうです。
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「結論から言えばあいつらは殺人や暴行を何件も起こしていたから復讐を企てる可能性が高かったんだよ」
「警察みたいな所に渡さなくても良かったのか?」
「あいつらは何件もの犯罪を犯してるのに野放し状態だったんだぜ。それから推測出来る事は警察機構がうまく機能していないか、あいつらが何らかの組織に入っているかだ」
躊躇してるうちに仲間が来る可能性もあるんですから。
「ショウちゃんはあいつらが悪者だから殺したんだよね?そうだよね」
かこちゃんは殺した事を納得できる理由が欲しいんでしょう。
「これから私達がエレメンで生きていくには他の生き物の命を奪わなきゃいけない。でも、かこちゃんそれに理由をつけちゃいけないんだよ。悪いから殺す、許せれないから殺す、そんな事をしていたら殺す度に自分に都合の良い理由をつけちゃうんだ」
「なんか、難しいですね」
「本当に自分が悪いって思う人間は病人ぐらいだからね。結局は心のどこかで言い訳をしちゃう。仲間を守る為とかね、でも今言った事は忘れないで欲しいな」
「それで今日は何をするんだ?」
「とりあえず私はギルドに登録をして依頼を受ける。その間にみんなには特訓をしてもらう予定だよ」
「俺達も登録をするのか?」
「いや、登録は最低限の基礎が出来てからだ。それに今の金じゃ録な武器が買えないからな」
私が稼いでみんなの武器を充実させる、先行投資ってやつです。
「防具は買わないのか?」
「久郎、お前の前にいるのは誰だと思ってる?この間買った作業着に私が防刃とかの魔法を付与しておくから大丈夫だよ」
大魔導士ジャステイスファングが付与魔法をつけた衣類なんて付加価値が着くかもしれません。
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この世界にギルドが出来た理由は魔物の被害を抑える為と犯罪抑制と聞きました。
本来は魔物退治は騎士の仕事なんですけれど、騎士様の腰は総じて重いんですよね。
王や姫が近くにいないと動きたがらない騎士もいたりします。
そして犯罪抑制は荒くれ者達にまともに金を稼げる手段を与える為だったと聞きます。
今じゃ村や町に仕事をしていない若者がいると同郷の冒険者が腕ずくでスカウトに来るみたいです。
それでも所謂闇組織に入る人もいますけどね。
「登録をしたいのですが」
そこから細かい説明が始まりました。
全部知ってる内容だったんですが、きちんと聞きました。
エレメンのギルドは階級製で1級から10級まで別れています。
当然、自分より上の階級の依頼を受ける事は出来ません。
上の階級にあがるには規程の依頼をこなすのが条件、これは欲に目がくらんだ冒険者が実力にあわない依頼を受けて失敗するのを防ぐ為です。
別に冒険者を心配してでなく依頼を失敗したら取り返しがつかなくなる事があるからです。
私は10級からのスタートで薬草の収集を請け負いました。
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久郎達と合流して街の外に移動、サクセス神聖国の周りを草原と森に囲まれていました。
「ショウガ、なんで道路の脇に柵が建ててあるんだ?これを維持管理するのは結構なコストが掛かるぞ」
さすがは工務店勤務の久郎。
「それはゴブリン返しだよ。ゴブリンは背が低いから柵を越えれないんだよ」
「ゴブリンって危険なのか?」
「畑を荒らすぐらいで強さは小学低学年ぐらい、でも歯は鋭いぞ」
「それならなんで柵がいるんだ?」
「ゴブリンは中型の魔物や熊の餌になるんだよ。つまりゴブリンを犠牲にして人の被害を減らしてる訳だ。まっ、ゴブリンは繁殖力が凄いから丁度良いんだよ」
その柵を越えて歩く事20分、丁度いい場所に着きました。
「さてまずは結界を張って・・・マナよ、砂に宿りて人形となれ!!出でよサンドゴーレム。お前達の特訓はこの砂山作休さんがしてくれる」
「ショウガ、お前ネーミングセンスねえな」
そんな事は黒歴史を振り返れば分かります。
バレンタイン感想もらえたので頑張りました




