異世界への想い
もし異世界に行こうとしている人がいたら私は全力で止 めるでしょう。
チートな能力をもらえるなんて好条件でも止めます。
日本みたいに安全で便利な国は中々ないんですよ。
コンビニやスーパーに行けば食べ物は直ぐに買えますから 飢えや渇きをに苦しむ事は滅多にありません。
冷暖房もしっかりしてますし夜も明るい。 何より王や貴族、騎士がいないし奴隷になる人もいません。
こんな素晴らしい日本を捨てて異世界に行く必要はないでしょ。
28歳独身彼女なし、ついでに異世界経験者の私が言うん だから間違いありません。
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天気の良い日に海沿いの道を車で走るのは格別ですよ ね。
カーラジオしか着いてないライトバンですけど思わず鼻歌 が出てしまいます。
「毎度どうもー、モーさん牛乳です。配達に来ました」
私の仕事はモーさん牛乳株式会社の配達員。 愛用のライトバンのドアにはスーツを着た牛、モーさん (既婚者30歳)が書かれています。
「あら、赤井さん何時も笑顔で良いわね」
「それは美人のお姉さんに会えたからですよ。何よりこの 仕事が好きですし」
お姉さんと言いましたが目の前にいるのは50歳は軽く越 してるおばちゃんなんですけどね。
「あら、分かる?そんな事より赤井さん何歳になったん だっけ?浮いた話を聞かないからおばちゃん心配だよ」
「28歳になりましたよ。親がもう少し良い顔に産んでく れたら良かったんですけどね」
「赤井さん、名前は格好いいじゃない。正牙なんて立派な 名前つけて貰ったんだから恨まないで親御さんに感謝しな さい。男は見た目じゃないわよ」
私は赤井正牙なんて立派な名前を持っていま すが、卵形の顔に広い額、そして顔の真ん中にはドでかい 鼻が鎮座しています。
おばさんの言う通りイケメンからはほど遠い顔ですよね。
そんな時、私の携帯が鳴りました。
「あっ、ちょっとすいません…課長どうしましたか?本当 ですか…分かりました。帰りにでも向かいます」
「赤井さんどうしたんだい?」
「潮騒高校に配達に行った後輩がコーヒー牛乳を積み忘れたみたいなんです。私のルートに近いから今から補充にしに行ってくれって言われたんですよ」
高校では牛乳よりもコーヒー牛乳の方が良く売れるので会社としても売り切れは防ぎたいんしょう。
「あら。潮騒の娘は可愛い娘が多いから嬉しいんじゃない の?」
「普通は休み時間の間に補充するから生徒を見る事はないんですよ。それに目が合っただけでもセクハラ扱いにされ る世の中ですよ。出来たら行きたくないんですけどね」
もっとも、私が潮騒高校に行きたくない理由は別にあるんで すけどね。
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潮騒高校の駐車場に着くと、会社の後輩が私の到着をソ ワソワしながら待っていました。
「赤井さんすいません。俺は事務主任に報告に行きますん で補充をお願いします」
学校に納入する業者は事務主任が決める事が多く、機嫌を損ねたくないのは私も分かります。
「山本事務主任は私も顔見知りだから私が行きますよ… 行っちゃいましたか」
仕方ないのでコーヒー牛乳が入った箱を抱えて学校へと歩 を進めましょう。
コーヒー牛乳を自販機に補充していると例の後輩が頭を下げながら私の所にやって来ました。
「赤井さんすいません…でも丁度放課後になって潮騒の生 徒が見れてラッキーじゃないっすか?」 確かに時間的には放課後になったので生徒の姿がちらほらと見えきています。
「まさか生徒さんに声とか掛けたりしてんじゃないでしょうね」
そんな噂一つでも自販機を撤去されかねないんですよ。
「ないですって。知ってます?潮騒には2大ハーレムなん てのがあるんですよ」
それを聞いた瞬間、顔が苦々しく歪んでしいました。
でも、次の瞬間さらに歪むはめになったんですけど。
「あっ!!しょうちゃんだ。おーいしょうちゃん」 ショートカットの小柄な少女が私を見つけると元気良く走り寄って来ました。
「かこちゃん、学校で見かけても話し掛けないでって言ったでしょ?」
「ごめん、ごめん。しょうちゃん最近家に来てくんないから、ついね」
かこちゃんがペロリと舌をだして謝ってきます。
「赤井さん!!こんな可愛い娘と知り合いなんですか?しかも家って?」
「この子はの名前は佐藤夏子私の友達の妹さんですよ」
かこちゃんの兄佐藤久郎とは小学校からの腐れ縁って奴なんですよね。
「赤井さんの名前はセイガですよね。それなのに何でしょうちゃん何ですか?」
「それはですね、しょうちゃんのあだ名から来てるんですよ。うちの兄貴が赤井正牙なんて格好良い名前は似合わねえ。紅しょうがで充分だろう?紅しょうがってメイン(主 役)にならないけど目立つからピッタリだろって、流石に紅しょうがとかショウガじゃ可哀想だから、僕はしょうちゃんって呼ぶんですよ…しょうちゃん兄貴の事よろしくね」
「よろしくも何も今日も2人で飲みに行くんですけど」
「また男だけで居酒屋?寂しいねー」
キャバクラとか行っても愛想笑いしかされないし、かこ ちゃんが不機嫌になるから久郎が行きたがらないんですけ どね。
久郎とかこちゃんは血の繋がっていない義兄妹。
久郎が13才、かこちゃんが1才の時に久郎の父親とかこ ちゃんの母親が再婚したんですよね。
その両親も8年前に死んでから久郎が親代わりとしてかこちゃんを育てて、お互いに惹かれ合う様になったんですけどお互いに素直になれないみたいで…もどかし いやら、羨ましいやら妬ましいやら。
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1人の少女が物陰から正牙達を見つめていた。 少女は手をギュッと握り締め
「せい君…」 切なそうに呟いた。