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惨劇の始まりには生贄を捧げよ(後編)


佐渡逸樹の趣味を知ると、意外と思う者は非常に多い。

もっとも、それは彼自身の普段の振る舞いの起因することなので自業自得である。逸樹もそれを知りつつ普段の行動を改めないので、その趣味を知られると必ずと言っていいほど奇異の目で見られる。

だから、柊木真由美も普段の逸樹からは想像もつかない彼の趣味を知って目を丸くした。


「へぇ、上手いわね」

「意外かい、まゆみん?」


肩越しに真由美から話し掛けられ、逸樹はいつもの飄々とした笑顔で振り返った。

今二人がいる場所は、静林学園付属中学校校舎の屋上だった。本来は立ち入り禁止されている場所だが、逸樹がそんなルールを守るはずがなかった。逸樹はよくこの場所で授業をサボっていることが多かった。

真由美もその事実を熟知していたため、放課後に屋上まで足を伸ばしたのだ。


「うん。まさか、こんな上手いなんて予想外」

「……そっか、そうだね。君はそういう人だったね……」


逸樹は小さく微笑み、スケッチブックを閉じた。

そのスケッチブックには、長髪の男のラフ画が描かれていた。


佐渡逸樹の意外な趣味、それは鉛筆画だった。彼が描く対象はほとんど人物、もっと限定的に言うなら似顔絵だ。背景として風景を描くこともあったが、スケッチ対象となるのは基本的に人だった。


「で、誰? この人?」

「さぁ? 知らない」


「……はァ? 知らないって……」


知らない人物を描いていたと聞いて、またも目を丸くする真由美。

スケッチブックに描かれた長髪の男は、空想で描いたとは思えないくらい、その人物の特徴をよく捉えた絵だった。少ない線だけで、これだけ特長を捉えたとなると、空想だけ描いたとは思えなかった。


「だって、一度見ただけの相手だし」

「何? あんたって一度見た相手なら誰でも描ける訳?」


「うん、まぁね」

「…………」


「あっ、信じてない?」

「信じてないっていうか……、あんたって色々凄いわね」


「別に色々ってことはないよ。僕は得意な物はとことん得意で、苦手な物はとことん苦手な両極端な天才タイプだもん」


「自分で言う、天才とか……」


真由美はそう言いつつ、天才という単語を否定できなかった。

実際、逸樹は非凡というか、常人とは懸け離れたセンスがあると思っていた。日常生活をする上では協調性もないし、駄目な部分が多過ぎるが、得意分野に関しては誰も寄せ付けない領域に達している。



「あっ、でも、絵に関しては一から学んだんだ。最初は下手くそだったよ。もう人に見せられる物じゃなかった。でも、もう一度この目に映したいモノがあったから頑張れた……」


「そうなの? あんたって努力とか無縁だと思ってた」


「ん~? まぁ、そういう風に振る舞っている部分はあるからね~。でも、僕だって努力はしているさ。血反吐を吐くくらいにね。だから、努力もしない平々凡々に生きているボンクラ連中を馬鹿にして嘲笑って、お前等ロクデナシだねーって言えるんだよ」


「あんたって奴はもう……。っていうか、佐渡とこんな普通に会話が続くのって初めてな気がする」


「……まぁ、絵を描いている時の僕って意識の大半がスケッチの方に向いているから、まゆみんをからかって遊ぼうとか考えてないし」


「はい、終了! 普通に話せた最長時間はここで打ち切り! あんた、本当に失礼な奴よね!」


「うひゃひゃひゃ~♪ やっぱりまゆみんと話すのは楽しいにゃ~♪」


逸樹はからかいの笑顔を浮かべるが、それもすぐに止めてしまった。いつもの彼ならば、もっと真由美を怒らせることを言っているはずだ。しかし、今の彼はどことなく心ここにあらずだった。


いや、心が真由美の方に向いていない、という方が正しい表現かもしれない。視線はどこか遠い空の先へと向けられていた。


真由美もいつもと違う逸樹の様子に気付き、少しだけ寂しい気持ちになっていた。別にからかってほしい訳ではなかったが、逸樹の意識がどこか他に向いているようで、それが少しだけ悲しかった。



「……ねぇ、佐渡。貴方、さっき『もう一度この目に映したいモノがあったから頑張れた』って言ったわよね。それって何なの?」


「…………」



真由美がその問いをした瞬間、逸樹の表情から感情が消えた。

いや、表情が消えたのではなかった。飄々とした佐渡逸樹という仮面が外れ、本当の佐渡逸樹の表情が垣間見えた。


それは、とても冷え切った絶対零度の表情。

これまで佐渡逸樹が隠していた怜悧な本質の一部だった。


「…………真由美、一つ質問いいかな?」

「えっ? う、うん」


いつもと違う逸樹の雰囲気に呑まれていた真由美は、ほとんど反射的に頷いていた。


「これは仮定の話です。君には愛する人がいます。愛して止まない大切な人。しかし、その人を犠牲にしなければ、世界は滅びてしまいます。世界を救うために愛する人を死なせなければいけません」


そこで逸樹は一度言葉を切り、大きく息を吐いた。

一瞬の沈黙。時間にしてみれば、数秒にも満たない時間だった。しかし、真由美にとって永遠とも思える時間を感じた。

まるで逸樹の冷たい表情が時間まで凍らせているようだった。




「……では、君はどうする? 愛する人を殺して世界を救うか。世界を殺して愛する人を救うか」




究極のジレンマ。

愛する者を救うか、世界を救うか。

物語の中に出てきそうな現実的ではない仮定の話。

もし、これがフィクションであるならば愛する人も救い、世界も救ってしまうのが王道で大団円なエンディングだろうか。


しかし、今逸樹が問うているのは、そういう愉快な話ではない。

救えるのはいずれか。必ずどちらかを失わなければいけない残酷な選択。大切などちらかを失わなければいけない時、どちらを切り捨てるのかと逸樹は聞いていた。


冗談を言って誤魔化せる雰囲気は微塵もなかった。おそらくこの問いを正直に答えなければ、逸樹は二度と本心を見せることはないだろう。


真由美はゴクリと唾を呑んで、震える口を開いた。



「……わ、私は……、……世界かな?」



もし、本当にそういう事態に陥ったと仮定して、真由美なりに本気で考えた答えだった。愛する人を失う重みより、世界を滅ぼしてしまうというプレッシャーに耐えられなかった。


何より、世界が滅んでしまえば愛する人と生き残ることさえ出来ない。


つまり、この選択には初めから愛する人を救える選択肢がないのだ。どちらに転んでも救えるのは世界のみ。もっと残酷な言い方をすれば、愛する人をいかにして切り捨てるか、そういう選択。ならば、救えるものがある方を選ぶに決まっている。それが普通の感性だろう。



「……僕は愛した人を選んだよ」



佐渡逸樹はいつだって普通じゃなかった。

どこか虚ろな笑顔でそう言うと、逸樹はスケッチブックを持って立ち上がった。



「でも、勝てなかった……。覚悟が足りなかった……。だから、失った……。写真の一つも残せなかった……。記憶だけが頼りだった……。ただ、もう一度この目に映したいから、そのために……。

 ……さっきの問いの答えはそれだよ」



もう一度この目に映したいモノ……。

ただ、それだけのために逸樹は絵を描き続けた。

それ以上、逸樹が何かを言うことはなかった。しかし、スケッチブックを片手に去っていく逸樹の背中には、雄弁な言葉が記されていた。


一人屋上に残された真由美の瞳から一筋の涙が零れた。











真由美と別れた逸樹は静林学園高校の生徒会室を目指していた。

逸樹は付属中の生徒なので本来ならば、静林学園の本校の校舎を歩いているのは少々場違いだった。静林学園高等学校は、付属中学と繋がっているために校舎間の行き来は可能だ。しかし、付属の生徒があまり本校に入ることは珍しかった。


本校の生徒から奇異の目で見られている逸樹の手には、大きな鞄が握られていた。


その鞄には十数冊のスケッチブックが詰め込まれていた。先程まで屋上で描いていた人物画のスケッチだ。そして、そこに描かれているのは、ここ数日間にとある場所に出入りしていた全人物の似顔絵だった。描いた枚数はすでに数千人分にも及んでおり、今鞄の中に入っているのはそのうちの一部だった。


逸樹はスケッチブックの入った重い鞄を抱えて、本校校舎の階段を上り始めた。しかし、そこで一人の男性教師と鉢合わせをした。


眼鏡を掛けた若い男性教師だ。モデル顔負けの整った長身で、ブランド物のスーツを完璧に着こなしている。教師というより一流企業に勤める商社マンのようだった。ふざけたグルグル眼鏡の逸樹とは対極の位置にいるエリート眼鏡だ。


その男性教師は逸樹を見るや顔を歪めた。逸樹も同様に眼鏡の奥で眼光を鋭くした。



「……付属の生徒が一体何の用だ、佐渡逸樹?」

「……秘密だにゃー、黒澤センセ」



黒澤拓摩、静林学園高等学校の数学教師。

付属中の逸樹が会うはずもない人物。だが、逸樹は黒澤のことを知っていたし、黒澤は逸樹のことを知っていた。互いに知り合った理由は敢えて記さない。今はまだ時ではない。



「邪魔だから、そこを退いてくれない? それとも、力ずくで通れってポーズなのかな? 僕はそういうのは得意だよ。オリオン座は懐かしいでしょ? ねぇ、黒澤センセ?」


「ほぅ、この私を前にして随分な自信だな? だが、今はその暴言を見逃してやろう。今はまだ我等が戦う時ではない。だが、時が来れば地獄に送り返してやるぞ、佐渡逸樹?」



張り詰めた緊張感が満ちていく。

危険物が二つ、今にも爆発しそうな一触即発の雰囲気だった。

互いに殺気を抑えるはなく、相手が一瞬でも隙を見せれば首の骨をへし折る気だった。しかし、動けるような隙は見せないので、互いに睨み合うだけで留まっていた。



「佐渡逸樹、貴様は何故、白き王の味方をする? 貴様の本質はむしろ我々に近いはずだ。貴様も生まれながら悪だろう? 我々の元へ来い。我等が王に忠誠を誓え」


「お断りだね。自分より弱い奴に従うつもりなんてない」


「強者こそが頂点に立ち、全てを支配する訳ではない。チェス盤において最強の駒がクイーンであっても、ゲームの勝敗を決めるのはキングの存在だ。それに、白き王など盤上において最弱の駒ではないか?」


「あぁ、そうだね。全く以ってそのとおりだ。弱いくせに偉そうだし、人使いは荒いし」


逸樹は何冊ものスケッチブックが入ったカバンを抱え直して苦笑した。


「だけど、僕は信念を持つ人間の方が好きだ」

「我が王に信念がないとでも言うのか? それは王に対する愚弄だぞ」


「お前こそ白の王を甘く見過ぎているよ。勝てない戦と知りつつも迎え撃とうとする王の覚悟を舐めるな。死の恐怖に震えながらも、それでも懸命に戦おうとする勇気は奇跡を起こすぞ」


「勇気に意味などない。力による蹂躙が全てを決める」

「かもしれない。だからこそ、僕は白の王に力を貸すのさ」


「……後悔するぞ、鬼の子よ」

「させてみな、クソ悪魔」



爆発物の間近で火花が散った。

壮絶な睨み合いが起こす火花によって導火線の端には火が点ってしまった。もはや爆発は時間の問題だった。刻一刻と爆発の時は近付き、二人の殺気は最高潮にまで達しかけていた。

ここが学校であることなど関係ない。目の前の気に食わない敵を八つ裂きにしたい。二人の我慢はすでに限界近くだった。


しかし、この壮絶な緊張状態は意外な形で終わりを迎えた。



「何しているんですか、佐渡君、黒澤先生」


「ありゃ?」

「むっ……」



可愛らしくも凛とした女性の声だった。

張り詰めていた緊張の糸が全く予期しない形で切られた。


「こんちわーっす、凪先生」


振り返れば、そこには珍しく怒り顔の凪桜が立っていた。

彼女は付属校の教師だが、業務関係で本校に訪れることは多かった。そこで偶然、不良生徒の逸樹を見つけて寄ってきたのだ。


「佐渡君、また今日も授業サボりましたね! 今日という今日こそは生徒指導室でみっちりお説教です!」


「凪先生と二人きりってのは魅力的だけど、用事があるんで今はお断りかな? じゃあ、またね~!」


「あっ、コラ、佐渡君!」


凪の制止を無視して、逸樹は黒澤の脇をすり抜けて階段を駆け上って行った。一瞬だけ黒澤と目が合うが、睨み返さずに通り過ぎた。


今はまだ戦う時ではない。

盤上で駒が対面しても、必ずしも戦うとは限らない。時には戦略戦術のために退きこともある。今回はまだ戦う時ではなかった。


生徒会室のある四階まで登り切り、逸樹は一度振り返った。凪は追ってくる様子はなかった。追いかけっこは無駄だと骨身に染みているのだろう。凪の運動能力は常人離れしているが、逸樹の行動は常識外れだ。三階から飛び降りたり、雨どいを伝って屋上まで登ったり、普通に走って追うだけでは捕まえられないのだ。


周囲に人がいないことを確認し、逸樹は生徒会室の扉を開けた。


「呼ばれて飛び出てジャジャジャーン!! 貴方の住む場所暮らす場所、一家に一台佐渡逸樹さんですよー」

「…………逸樹か。いらっしゃい」


生徒会室にいた女子生徒は逸樹のボケを華麗にスルーして、ごく普通の対応を取った。つまらない反応に逸樹はガッカリした。


どうやら今、生徒会室には女子生徒一人しかいないようだった。

彼女は岸辺藍、静林学園高校の生徒副会長だ。女性としては長身で大人びた顔立ちなので、高校生ながらもすでに自立した女性のような印象を受ける。髪はセミロングに切り揃えられ、瞳は切れ長で釣り上り気味だが、健康的な美人だった。


「……って、藍さんだけ? 我等が王様は?」

「あら、私だけじゃ不満?」


「うん、不満。藍さんって全然僕のタイプじゃないし、芸人キラーだし。ぶっちゃけ、最悪だね」


「……あんた、本当に人の神経逆撫でするのが得意ね? まぁ、いいわ。それより、頼んだ仕事は終わった?」


こめかみに青筋を立てながらも、藍は大人の対応を取った。


「もちろん、このとおり」


逸樹は鞄を引っ繰り返して、中に入っている大量のスケッチブックをドサッと出した。


「……で、こんなモノをどうするのさ?」


「さぁ? ウチの王様の考えることは私にもわからないわ。私達とは頭の出来が違うからね。馬鹿みたいに膨大な情報から何かを掬い取るのが得意だから、何かを見つけてくれると思うけど……」


「……けど?」


「別の情報源から何か見つけている可能性もあるかも」

「じゃあ、僕の努力、無駄骨!?」


「…………そうならないことを祈ってあげるわ」


と言いながら、藍は明後日の方向を向いた。

黒の王が風城市にばら撒いている謎の麻薬ブラッド、これに関する情報は逸樹以外にも調べてもらっている。今はただの学生としての身分しかない逸樹以上に、捜査に適した人物の協力を得ている。

ということなので、実は逸樹の調査が無駄になる可能性は否定できなかったのだ。



「まぁ、別に無駄になってもいいんだけど、早く暴れられる命令が欲しいね。さっきもムカつく奴と顔を合わせたし。思わず殺してやりたくなったよ」


「我慢しなさい。ゲームの関係者はほぼ風城学園に在籍しているんだから、顔を合わせるくらいあるでしょ」


「そうだねー。僕はまだ付属だから岸辺さん達ほど連中と顔を合わさないで済むけど、ゲームの関係者……、白き王も、黒き王も、その駒達も……、ほとんどが風城学園に在籍している。だから……って、王様から電話だよ」



唐突によさこい音頭のメロディが聞こえたと思ったら、逸樹の携帯電話の着信音だった。逸樹はヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべながら電話を取った。


電話の相手は白き王。

風城市を舞台としたゲームの勝負を決するキング。逸樹をゲームに引き込んだのは人物であり、全ての始まりであり終わりでもある人物。



「二十四時間、貴方の助けになりたい。みんなの癒し系マスコット佐渡逸樹さんに何か御用かね~?」


「……最近はそういうキャラで本性を隠すのが君のブーム?」



冷徹な知性を秘めた声によって逸樹の笑みは凍った。

笑顔の仮面の下には、佐渡逸樹という本来の姿をした怪物の表情があった。容易く人を傷付ける残虐で暴力的な鬼の本性だ。

同室にいた岸辺は軽く息を呑み、不快そうに生徒会室を出ていった。これ以上、この少年と同じ空気を吸っているのは毒だったから。



「……まぁね。なかなか愉快だろう?」

「むしろ滑稽。哀れな道化を見ているみたい」


「言ってくれるね。まぁ、それは自覚しているさ。僕は自ら望んで道化を演じてる。愉快でひょうきんで人に笑ってもらえるようなピエロの方が好きなのさ。それで、わざわざ僕に電話を掛けたのは何か命令があるからじゃないのかい? 言ってみたらどうだい?」


「……そんな君には残念な命令だ」

「残念? 本当にそうかな?」


「佐渡逸樹という駒を動かす。オープニングはこれで終わり」



白の王が電話越しで言うオープニングとはチェス用語としての意味だ。

敢えて単語としての意味を説明する必要はないだろうが、チェス用語としてのオープニングとはゲーム序盤の十五手程度までの期間を指している。序盤オープニングの駒の動きは必ず定跡に沿った流れになる。時代の流れの中で突き詰められた論理を踏襲していくのだ。


勝負を決するキングの防衛、主戦場となる中央の支配、駒の展開などをしていく準備段階。オープニングは駒が直接戦い合うまでの配置。

そして、その序盤の配置が終われば、中盤ミドルゲームに突入する。直接駒同士がしのぎを削り合う死闘の始まり。



「序盤は教本の如く、中盤は魔術師の如く、終盤は機械の如く。オープニングの終わりってことは、ファンタジーの始まりってことかい?」


「……そう、君の大好きな殺戮の始まりだ」

「大好きかどうかはともかく大得意ではあるね」


「まずは付属の売人達を潰せ。なるべく派手に、なるべく残虐に、なるべく絶望的に。無関係な人間が怯えてブラッドに近付こうと思わなくなるくらいに容赦なく潰せ。そうだな、両手両足を完全に潰せ。しばらく物理的に動けない身体にしておけ。念のためにな……」


「おやおやおや、それは鬼畜の所業だね」

「だから、鬼畜のお前に頼むのだよ」


「あぁ、本当に全く……」



鬼は愉快そうに嗤う。

血沸き、肉躍る。飢えた鬼が地鳴りのような腹の虫を鳴らす。



「それと、念のためにもう一人殺しておいてほしい奴がいる」

「念のため? そいつは今回のゲームに関係しているのかい?」


「さぁな? だが、疑わしきは殺せ」


容赦なき冷酷な一言だった。

疑いが過ちである可能性を完全に無視していた。その相手が善良な市民であっても構わない。無関係な人間であっても構わない。大局を見据えて、禍根となりうる全てを焼き払う。


それは、人の所業を嘲笑う鬼畜の思考だった。



「鬼畜だね~」

「あぁ、お互いにな」


「それで、誰を殺せばいい?」


一瞬の沈黙。

感情の押し殺した声が電話越しから聞こえてきた。


「……東雲正義。この静林学園のOBで、凪先生のお友達だよ」


この数分後、最初の惨劇の幕が開かれる。

愚かな十六人の悲鳴と共に。

鬼は惨劇を嗤う。






Tell the continuance in hell…


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