コードネーム『クソやば女』出現しました
以下の条件を満たす者を王太子とする。
・ カメリア・ミスヴァルト公爵令嬢と正式に婚約すること
・ 王立学園入学時までに王子教育をすませること
・ 王立学園入学時までに試練の間の試練を達成すること
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王立学園は王家が管理運営をする教育機関で、在籍するのは貴族のみと定められている。たとえ優秀な平民でも特例は無い。しかし、庶子は当主もしくは当主代理による承認を経て入学が認められる代わりに、嫡出子に比べて卒業要件は厳しく設定されている。否、庶子が正式にその家に養子縁組された期間によって変動する。産まれてすぐであれば嫡出子と同じ教育を受けたものとして判断され、五年以内であれば教育が遅れていると判断されて学園での受講数が変わる。
手厚いといえば手厚いだろう。本来は家ですべき事前教育を学園が負担してくれるのだ。おかげで、それなりにいる突如貴族になってしまった平民生活が長い庶子は喜んでいる。
また、下位貴族の中には金銭面から満足の行く学習が出来なかったなどの理由で望んで庶子と同じ講義を受ける者もいる。
15歳から18歳までの3年という期間でどれだけの知識を得るかは本人次第である。
そんな学園には十数年に一度の割合で「クソやば女」というコードネームを与えられる女子生徒が入学する。このコードネームは学園の創始者で、異世界より召喚されて後の王妃となった聖女が付けたという。
「クソやば女」の特徴は、
入学時に何故か王子や高位貴族の令息にぶつかる、もしくは迷子になってそれを助けられる。
とにかく男を侍らせようとする。
自作自演のいじめをでっち上げて男に泣きつく。
やけに男に関しての時間管理が上手い。
男と女の前では態度が違う。
男の前で簡単に涙を流すことが出来る。
ふぇ~とかはわわ~とかきゃっ♡とか頻繁に使う。
婚約者のいる男を狙い、婚約相手にマウントを取ろうとする。
可愛いことを売りにするけどよく見たらそこまで可愛くない。
女が嫌う女で引き立て役以外の女友達がいない。
ドレスや装飾品のおねだりを平然とする。
平民だったら普通、と言いながら身体接触を試みる。
男側から婚約を破棄させようとする。
一人を決めずに派閥も考えずに侍らせた男に各自あなただけ、と言う。
他にもどんな恨みがあるのか延々と聖女が連ねた巻物があり、それが代々の学園長に引き継がれている。
聖女からは『ハニートラップへの対処をチェック出来るから生徒にはこの事が知られないように』と厳重に言い残されている。また、世代として被ってしまった親世代なんかは嫡子として相応しいかどうかの見極めにも使える為、災厄のようなコードネーム『クソやば女』の事は子供達には伝えない。
ただ、切々と「婚約者は大事にするんだぞ。将来の為にも」とやや鬼気迫る勢いで言われるのだ。
今年がまさに『クソやば女』が出現する災厄の年で、教師は直ぐさま警戒網を張った。生徒には決して分からないようにしながら、瑕疵にならないようにありとあらゆるセキュリティを発動した。
『クソやば女』が勉強が出来るならば進学はさせた方が良い。ごく稀に改心することがあるから。そうでなければ一年間様子を見て、退学処分。と申し送りがされている。大抵の『クソやば女』は成績が奮わないのだ。しかも何故か高確率で「礼儀作法」に合格しない。
男ばかりを侍らせる光景を異国の後宮ハレムから女性が主人である点で「逆ハーレム」と聖女は残していた。
その逆ハーレム狙いの女は必ずしも下位貴族や女子にとどまらず、高位貴族やなんなら王族ですら有り得るのだという。
結果として、直感として危ないと思えば警戒しろという。
今年現れた『クソやば女』は男爵家の令嬢で、入学式の為のホールに向かっていた王子に自ら突っ込んで行った。
耳掛け通信機器―イヤホン(聖女作成)で教員達は速やかに情報が共有された。
いつ現れるか分からない災厄だが、大まかなところは分かるのでこの数年は学年の担当教員の割り振りにも気を使っていた。新人に『クソやば女』は対処出来ない。教員歴の長い者たちで一学年は完全に固められていた。
また、学内に張り巡らされた防犯記録映像機や死角になる場所には巡回の警備員の数を増やす。空き教室の鍵は必ず閉めておく。これは何時ぞやに不埒なことをした愚か者がいる為だ。
様々な対策をしても、歩く災厄『クソやば女』はそれをすり抜けて着々と逆ハーレムを作るのだ。教員の中には前回の災厄を生徒側で経験した者がいて「学園がもっと対処してくれたらと思ってすみません!ここまで水面下でやれるだけやってるのに、災厄はすり抜けるんですね!」と嘆いてた。
今年は特に危険度が高い。
王子二人と婚約者が入学しているのだ。
この王子二人は双子ではない。側室二人からそれぞれ産まれた王子である。王妃は元々子供を産まないことが条件で他国から嫁いできた。そこには複雑な事情があるのだが、王妃自身も納得している。命がかかっているので子供を産めない。ならばどうするかと言えば、側室を据えて子供を産ませるわけで、念の為に二人娶ったら同じ歳に妊娠したのだ。
お陰で、腹違いの同い年の王子が産まれた。
どちらを王太子にするか、というのは王家の元々の立太子の為の条件があり、そこに神託で追加がされる。今回は婚約者が指定されてた。
この条件は王子は二人に平等に話されている。それから後は側室が教育に関して手配などを行う。国王も王妃も忙しいので、王子に関してはそれぞれの、側室が手配する事で見極めもされていた。
そしてこの入学前に王太子の内定がされていたが、婚約者候補カメリアがこの一年で様子を見ると言ったので暫定でしか無かった。
王子二人は『クソやば女』に耐えられるのかどうかを見られていたのだ。
「カメリア・ミスヴァルト公爵令嬢!貴様は私の婚約者であるという立場を利用し、ここにいるミナを虐げた!貴様のような女に国母は相応しくない!貴様との婚約は破棄し、ミナを新たなる婚約者とする!」
「ロベルト様♡ミナを王妃様にしてくれるのですか?」
「そうだ。王太子の私が言えば必ずそうなる」
「きゃ♡嬉しい♡」
という茶番劇が起きたのは学園主催のサマーパーティの時である。教員達は「この数代で一番早いな!」と驚きながらしっかり記録をしていた。
言った言わないで揉めるのを避ける為だ。
早く産まれたから第一王子のロベルトの周りには高位貴族の令息と今年の『クソやば女』がいる。
それに対するカメリアの隣には第二王子のルシエルと第一王子取り巻きの政敵の令息のみならず下位貴族の中でも有能な子息や大商会の子息もいた。
「さて、ロベルト殿下にお知らせでございます。今をもちまして貴方様から王位継承権は剥奪されました。また、臣籍降下の際には子爵位までしか得られません。これは王室典範に記載されている事ですので、疑問等あれば国王陛下もしくは宰相閣下への問い合わせをお願い致します。そして皆様にご報告致します。今この時をもちまして、私の婚約者はルシエル様となりました。そもそもロベルト様とも婚約を締結していなかったので破棄の意味がわかりませんが。この事で必然的にルシエル様が王太子となります。後日立太子の儀が執り行われますことも併せてご報告致します」
教員は予め王家から第二王子のルシエルが王子教育を終わらせ王家の試練も済ませていたが、第一王子のロベルトがどちらも済ませていなかった事は聞いている。
最後の決め手がカメリアによるルシエルをどうするかだったのだが、『クソやば女』ミナ・フルールがロベルトにちょっかいをかけながらルシエルにも近寄ったものの手酷く追い払った上、己の側近候補も守りぬいたのを見て、この段階で選んでも大丈夫だろうと判断した。
これまでの数ヶ月は本当に胃が痛かった。何せミナは歩く災厄なのだ。誰かの婚約者と分かれば直ぐに声を掛けるし色仕掛けだって平然と行う。流石にロベルトも王宮には呼び寄せなかったが、取り巻きの一人の家が持つ別宅にてそれはもうミナを共有していたのだ。
まだ15歳にも関わらず爛れきってきて、報告書を読んでいたカメリアは文字すら汚物のように眉を顰め、最終的には直ぐに手を洗っていた。
「ミナ・フルール様に関しては学園長より通達がございます」
「フルール男爵家ミナ嬢は、前期の講義全てにおいて落第、また、基礎礼儀作法の受講日数が補講を受けても不足する事に伴い、本日付で退学である。また、ロベルト殿下並びにそちらにいる令息方におかれましては、試験は点数が足りておりますが、受講日数が不足しておりますので、補講を受講して下さい。これを拒絶した場合は退学となります」
学園では前期課程と後期課程に分かれていて、出席し試験を受けて最低限の点数を取っておけば進級が出来る。
その中で対『クソやば女』と言われる講義が「基礎礼儀作法」である。女子生徒は必修としてほぼ毎日組み込まれているこの「基礎礼儀作法」を取らなければならない。一年次の前期しか受けられないそれを落とすのは貴族令嬢として最低限の振る舞いも出来ないという事である。
これに関しては希望者がいれば講師による特別講座を受ける事が出来るので、礼儀作法に自信の無い女子学生は帰宅が遅くなろうとも参加している。
ミナはその講義を三回しか受けていない。たった三日で無断欠席したのだ。当然ながら学園からは注意をしたしミナの家にも通知は送っている。領地が遠いので寮に入っているミナの元に寮監はもちろん、講師からも何度も何度も通達はしたけれど、ミナは王子がそばに居るから問題ないと思っていた。
ロベルトも何も考えることなく、自分が命じればミナは問題なく卒業出来ると考えていた。
王立学園は王家の管理運営する教育機関だが、最終決定権は国王と学園長にしかない。ただの王子であるロベルトには何の権限もない。王妃ですら口を挟めないにも関わらず、何故かロベルトは思い込んでいた。
これには理由がある。
二人の側室から生まれた王子二人は多少日付けに差があれども同じ年であり、どちらにも王位継承権があった。
教育は側室が手配するのだが、ロベルトの母はそこまで頭が良い方ではなかった。家柄こそ侯爵家の出だが、学園生時代から周りに流されやすかった。
それに対してルシエルの母は伯爵家の出身だが、学園生時代から才女と言われてきた。頭の良さは突き抜けていて嫉妬すら出来ないほどの天才。それでいて人を見る目があった。
結果として、ルシエルの母はロベルトの教育者に自分の手の者を入れた。決して害してはならないが、優秀にならないよう怠惰になるようにした。
ロベルトの母の生家である侯爵家がルシエルの母の生家である伯爵家に長年嫌がらせをしてきていたのが悪い。そしてそれに対処出来ないロベルトの母が悪いのである。
計略や策略や謀略はいくらでも繰り広げられているのが当然の世界で、対処出来ない方が悪いのだ。
ルシエルは母の手で最高の環境を整えられ、試練も難なく突破した。内容は誰にも語ってはならず、しかも毎回異なるので記録に残すことは無い。
そうしてルシエルの母の策略によりロベルトは成るべくして駄目な王子に成り下がった。当然、ミナという『クソやば女』の事もロベルトの母や生家の耳に入らないようにしていた。
国王及び王妃はルシエルの母のやり方を知っていて傍観に徹していた。王族として生きるならば、自らの周りや関係者を把握しているのは当たり前だし、この位のことに対処出来ない方が問題なので。
情報は差し出してある。
・ カメリア・ミスヴァルト公爵令嬢と婚姻すること
・ 王立学園入学時までに王子教育をすませること
・ 王立学園入学時までに試練の間の試練を達成すること
これが王太子になる条件である。側室と王子共に聞かせているので聞いていないとは言わせない。ただその後、ルシエルの母がロベルト側に手の者を使って「王太子になるのは長子」と思い込ませた上で堕落するようにしただけである。
ロベルトは学園入学前に負けていたのだ。可哀想な事ではあるし親の責任といえばそうなのだろうが、何かおかしいと思うべきでもあった。普段から勉強三昧のルシエルを見ていたのだから。
そして脅威の歩く災厄『クソやば女』にコロっと堕ちた時点で女が弱点になると周りに見せつけてしまった。ここらへんも本来であればハニートラップ対策を学ぶべきだったが、ルシエルの母の妨害により出来なかったし、ロベルトの母には思い付かなかったのが敗因である。
ルシエルの母は別に権力欲が強い訳ではない。ただ、愚か者が王になるくらいなら我が子を国を導けるように育てた方が余程国の為になると思っていた。
とは言えども子供の人格を尊重していた。厳しい王子教育が終われば褒める時は褒めたし、してはならない事をした時は叱った。
カメリアとの結婚が必要な事もよく理解していたので、交流の為のお茶会では二人が居心地良く話せるように手配したし、自身が持つ離宮内の図書室も惜しみなく開放した。
この図書室はルシエルの母が学園生時代からこつこつと集め続けて来た様々な国の本があり、王宮図書館には無いものすらある。
カメリアの好奇心を刺激出来るように親子一丸となっていた。何よりも、ルシエルの初恋がカメリアなので叶えたい親心があった。
歩く災厄『クソやば女』が早々に退場となったのは教員も関係者以外の保護者も、ルシエルの母にとっても大変ありがたい話である。これからまた十数年後に現れるとしても、平和が確保されたのだ。
その代わりに王子一人と数名の貴族令息の未来が潰されたが、明らかに危険領域最大値の『クソやば女』に自ら引っ掛かったのだから自業自得である。
「なんでよぉおおおおおお!」
それがこの学園で聞いた歩く災厄コードネーム『クソやば女』の最後の言葉であった。
活動報告に裏話載せてます。
聖女様について
>このコードネーム『クソやば女』を付けた学園の創始者で、異世界より召喚して後の王妃となった聖女は、25歳会社員。
付き合っていた男が地雷系女と浮気した上に妊娠させた為、別れた直後に召喚されました。
サブカル系が好きで、異世界転生物とか割と好きだったので、学園を作った時に「テンプレ系を残しておこう」と巻物にしました。
(マウンティング地雷系メンタルゴリラ女に対しての怒りもある)
(恋人に対しては18歳ギリ成人に手を出しやがったクソ男と思ってた)
(怒りはパワーとなるタイプ)
巻物にしたのは紙1枚で収まるものでは無かったので。
NTRかます女のメンタルって絶対にマウンティングゴリラだと思うんですよね。個人的にはお下がり大好き女と思ってますけど。
人の恋人と婚約者奪う女はお下がり大好き女ですよ。
他人の手垢ついてるものじゃないと満足できないってことですから。それでマウント取られても…ねぇ?
人のものが良く見える=自分の目利きに自信が無い、とも言えますね。




