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置いてけぼりのレオ《下》

(前回のお話)

蛇から雛鳥を守るために誤って木の半分まで落ちてしまったレオ。


やがて、日が暮れようとしています。タイムリミットまであと僅か。必死に登り、焦るレオです。

 正直、俺は半分諦めかけていた。情けないと思いながら、ゆっくりと登っていく。俺の顔は涙と鼻水だらけだ。タオル持ってこればよかった。


 俺が動かなくなると、肩に小さな燕が止まった。くちばしが鋭く、まるで矢じりのようだ。藍色の背中に白いお腹。喉は赤い錆びた色をしている。コイツはダーツ・スワローか?


《チッ・チッ・チッ・チッ》


 俺を慰めてくれているのか? それともさっきのひな鳥の親? お礼を言ってくれているのか? だったら……。


「お礼はいいから、俺をこの木の天辺まで連れて行ってくれないか?」


 冗談でその鳥に話しかけてみた。しかし、その鳥は肩から離れ、飛んで行ってしまった。ふと、横を見てみると、綺麗な山並みに夕焼け雲が浮かんでいた。オレンジ色に輝く太陽が山の稜線へと近づいていた。寂しさがぐっと迫ってくる。


「もういいや、ここで諦めよう。どうせ俺の頑張りはここまでだったんだ」


 俺は下ろしてもらうために視線を下に向けた。すると、フラマとノクターンが驚いた顔で俺を見ている。


「おーーい!! お前、テイマーなのか?」


 俺は馬鹿にされていると思った。


「鳥が肩に止まったぐらいで、テイマーになれるわけないだろ!! 馬鹿にするのもいい加減にしてくれよ!!」


「でも、お前、上を見てみろよーー! たくさんの鳥が集まっているぜ!」


 俺は真上を見上げると、空を埋め尽くす程のダーツスワローが飛んでいた。


「なんだ!? なんで、こんなたくさんの鳥が?」


 中でも、ひときわ大きな鳥が二羽、俺に近づいてきた。ダーツスワローの親玉だろうか。大きさがそこら辺の大鷲よりもデカい。


 二羽は、左右に分かれて俺の腕と肩を掴んだ。俺を運ぼうとしているようだ。しかし、両足が幹にくっついて離れない。


「ノクターン、俺の両手足の黒いモヤを取ってくれ! 早く!」


「ちっ、全く精霊使いの荒い人間だ!」


 ノクターンが指を鳴らすと、両手足の黒いモヤは取れた。ダーツスワローの爪先は猛禽類のように鋭く力強い。俺の肩をしっかり掴むと、ふわりと宙に浮かんだ。俺を木の天辺に連れていくようだ。


 鳥の握力が思ったよりも強すぎて、肩がかなり痛い。けど、俺は我慢した。だって、諦めかけていた木の天辺に来れたのだから。


 2羽の大型ダーツスワローに運ばれて、木の天辺を見下ろせるぐらいの高さまでやってきた。天辺の木はカットされていて、一人分の座るスペースがちゃんと作られていた。


 「まさか、ここは、フラマが用意してくれたのかな……」


 大きなダーツスワローが俺を天辺の幹に乗せた。落っこちないように慎重に座る。


 目の前には、果てしなく続く緑色の森と、ぐるりと囲む雄大な山々が、目の前に広がっていた。オレンジ色に燃える太陽はギリギリだけど、山の稜線のすぐ上にある。


「俺、もしかして間に合った? 間に合ったんだ! ありがとうーーーーダーツスワロー!」


 俺は、夕暮れの大空を舞うダーツスワローに両手を振った。


《チッ・チッ・チッ・チ~~ッ》


 一斉にダーツスワローの集団が鳴きだすと、大空をぐるりと旋回した。そしてしばらくすると、鳥たちは森の中へ静かに退散していった。ダーツスワローは、春夏までここで過ごし、秋ごろには南へと旅立つ。


「まさか、鳥たちに助けられるとは思ってもみなかったなぁ……」


 真っ赤なヤモリは俺の太ももにピョンと乗っかってきた。


「ごめんね。だいぶ待たせたね。俺の名前は、レオ・クレメント。お前がサラマンダーなのか?」


 真っ赤なヤモリはクルクルと回り出すと、にこりと笑ったような気がした。


「面白いものみせてもらったぜ」

 フラマの声が後ろから聞こえた。


 振り返ると、四人の精霊が宙に浮いていた。夕日に照らされた四人を見ると、俺は感動して泣きそうになった。俺はこの日を生涯忘れないだろう。


「まさか、お前が蛇の毒を闇魔法に吸着させるとはな。思ったより機転が利く」


 あのクールぶっているノクターンに褒められた?


「お前が、白い炎を出すとは思ってもみなかったぞ」


 フラマが俺に話しかけてきた。


「俺のお父さんと炎の色が全然違ってさ、お父さんは綺麗な赤い色なんだけど、俺のは白っぽいんだ。きっと炎の強さが未熟なんだろうな」


「馬鹿、逆だ。炎は、赤色よりも白い方が高温なんだ。あの蛇、焼けすぎて灰と化していたぞ」


「えっ? うそ!?」


「俺が見る限り、お前の炎には少量の光属性が練り込まれている。だいたい光が2、火が8割ぐらいだな。お前の場合、光属性だけの出力だと少なすぎて、なんの役にも立たない。光魔力を集めても、魔法にも至らない」


「少なすぎて、かっこわる!! どうせなら光魔法も使いたかった!!」


「馬鹿か、そこは少なくて正解だ。少ない光魔力だからこそ、火の魔力と上手く調和し、混ざりあえるんだ。白い炎は、不純物を素早く分解し、通常の炎より高温で燃え上がる。なにより白い炎で邪を滅することだってできるのだ。その炎の名を『白煌炎』という」


「はっこうえん? なんか、かっけーー名前だな!」


 今度はフルーランが俺に話しかけてきた。


「フラマは火を扱う人間が近くにいて嬉しいでしょうね。私はね、そんなことよりもレオにテイマーの才能があることに驚いたわよ」


「テイマー!? 俺が? 俺、どっちかというと冒険者になりたいんだけど」


「ならいいじゃん。旅のお供にフェンリルとか従えて冒険するのも悪くないし。ただ、今のところレオの言葉を動物は理解できるみたいだけど、レオは動物の言葉が理解できないでしょ?」


「うん。鳴き声にしか聞こえない。セレーナみたいに動物と話せる能力があれば面白いと思うけど……」


「それなら心配しなくてもいいわ。早く、魔物と契約を結びなさい。そしたら、その子の声が聞こえるようになるわ。それに、契約魔物を介して、他の動物とコンタクトが取れるようにもなる」


 それを聞いて俺は面白そうだと思った。なんだか胸がワクワクしてきた。


「それにあなたには、動物に愛される才能があるみたいね。今回のことだって、あなたが巣を守ってくれていたおかげで、あの警戒心の強いダーツスワローが心を開いたのよ。優しいあなたには、テイマーという職業は天職だと思うわ」


「天職? テイマーが天職……」


 いきなり突風が吹いてきた。俺はしっかりと幹にしがみつく。


「キャッ! あんた、ちょっと何すんのよ!!」


 シルフリードが風魔法でフルーランを軽く吹き飛ばした。


「ほら、フルーランの長いおしゃべりのせいで太陽が沈んでしまったよ。早く家に帰らないとみんなが心配するよ。特にルカとセレーナがね」


 シルフリードが俺を抱き上げようとした。


「ちょっと待って、その前にフラマと仮契約をする約束だろ?」


 俺はシルフリードを止めると、フラマに視線を流した。


「そうだな。では、さっそく仮契約をしよう。俺と仮契約をすることで、俺の眷属たちを使役することができる。ただし、マナは三分の一をもらい受ける。仮契約だから互いの合意があれば、解除も可能だ。どうだ?」


「はい、それでお願いします!!」


「はははっ、いい返事だ。ではこの火の精霊獣、サラマンダーに俺と契約しようと声をかけて、キスをしろ」


「キスか……。このサラマンダー、俺の唇噛まないよな……」


 じっとサラマンダーの顔を観察してみる。つぶらな瞳がなんだかとても愛らしい。


《キュ・キュ・キュ~~!!》


「そんなことするわけないだろって言ってるぞ。早く、仮契約してやれ」


「分かった。サラマンダー、僕と仮契約をしよう」


 俺は、真っ赤なサラマンダーの皮膚にキスをした。サラマンダーの皮膚は温かい。


 サラマンダーはいきなり白い炎に包まれて、回転をし始めた。


「うわっ!!」


 宙に浮いたサラマンダーは夕日と同じく、眩い光を放ち一回り大きくなった。


《僕と仮契約をしてくれてありがとう。レオ》


 俺は胸がドキッとした。サラマンダーの声がはっきり聞こえる。契約をしたからなのか?


「ねえ、声が聞こえるよ?」


「ああ、契約したからな。その者の声が聞こえるようになる。そしてお前の右腕に火の紋章がついているはずだ」


 シャツの間から腕を覗いてみると、なにやら魔法円のような紋章がついていた。


「本当だ、腕に紋章みたいなものがついている。本当に、俺、仮契約ができたんだ」


《レオ、僕、お腹空いたよ。ごはんが欲しい》


 ぐぅぅぅーーーー。


「お腹空いたよな。シルフリード、俺を家まで運んでくれないか?」


 すると、フラマがむっとした。


「馬鹿、お前、そこは火の契約者になったのだから、お願いは俺に頼むのが筋ってもんだろ?」


 フラマはシルフリードを突き飛ばし、俺を抱き上げた。俺はなんだか変な気分になった。なんというか、いつもとは違う、『特別な自分』になれた気がしたんだ。


「帰るぞ!」


 俺たちは、空を飛んで家まで帰ってきた。


****


数日後《旅立ちの日》


 俺は無事にセレーナとルカお兄ちゃんと一緒にレン爺ちゃんの住処であるエルフ領へ行くことに成功した。


 俺たちは長距離空間移動スクロールで、エルシュタット王都から、北へ50キロにあるマルグーレ半島の港町まで空間移動をしてきた。ここから海を渡り300キロ西へ進むと、エルフ島に着く。俺たちは貨物船でエルフ島へ向かうことになった。


 因みにエルフ島は、希少な精霊動物や魔物が多く住んでいるらしい。それに遺跡やダンジョンも多く存在するという。それだけで、冒険心をくすぐられる。


「長距離空間移動スクロールは、人数によって距離が変わるんだ。私と子供四人、それに精霊四人。この大人数だから、一気に海を越えるのは難しかった」


「そんなのいいよ、レン爺ちゃん。俺、こんな大きな木造船に乗ったのは、初めてだから、結構ワクワクしてるよ」


 俺の頭の上に乗っているサラマンダーもワクワクしている様子だ。


「レオ。レン爺ちゃんじゃなくて、レン様と言えと何回言えば分かるんだ」


 レン爺ちゃんは細い眉毛をぴくぴくさせている。そんなに眉間に皺をよせるとせっかくの男前が台無しだよ。


 他の精霊たちはというと、物珍しそうに貨物船の中を探索している。シルフリード、フラマ、ノクターンの三人も案外楽しそうだ。フルーランは水面のすれすれを飛び回って、海の感触を楽しんでいる。俺ってば、いつの間にか幽体のフルーランが見えるようになっていた。不思議~~。


 上を見上げると、たくさん張り巡らされたロープと大きくて立派な帆がいくつもある。帆にはエルシュタットの国の紋章が描かれていた。


「なんだか海賊船みたいね。幽界の港で見た船と一緒だ」


 セレーナも上を見上げて、なにやら感動していた。


「えっ、セレーナ。死後の世界に船はあるのか?」


「幽界にはこんな感じの木造船がいくつもあったよ。冥界に行く船だけどね」


 俺は少しだけ背筋がぞっとした。


「俺、その船にはまだ乗らないぜ。たくさん、たくさん、たーーーくさん長生きしてから、よぼよぼの爺さんになってから乗りに行くよ」


 ルカお兄ちゃんが、ふふふっと笑った。


「なんだか、想像できるな。だってレオは長生きしそうだし、白いあごひげなんか伸ばしていそうだ」


 セレーナもつられてふふふっと笑うと、俺にこういった。


「レオがいてくれて良かった。だって、いてくれるだけで楽しいもん」


 その言葉を聞いただけで『よっしゃ!』と心の中でガッツポーズをした。俺、ついてこれて本当に良かった。


「セレーナが、しわしわのよぼよぼのお婆さんになっても、俺たちは、仲良し兄妹だからな。絶対だぞ」


「ふふふっ、レオがつるつるに禿げても、私たちは永遠に兄妹よ」


「セレーナ!! 俺は禿げないっつーーの!!」


――俺たちの笑い声が、未来を明るく照らす。


 船をかすめる海風がとても心地よく、空は快晴だ。帆がはためく音も、海鳥の鳴き声も、どれも俺たちの船出を応援しているように感じた。今から始まる冒険に胸を躍らせ、まだ見ぬ世界に期待を寄せた。




終わり








 











































最後まで、読んでいただきありがとうございました。


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