置いてけぼりのレオ《上》
俺の妹であるセレーナが、ある日突然、悪魔退治の英雄になった。
セレーナは、村人の命を守っただけではなく、死にかけていたお父さんの命をも救ってくれた。
しかし、セレーナは、無理が祟って倒れてしまい、自分の魔力で生死を彷徨うことになる。
そんな時、お爺ちゃんが急遽村まで来てくれて、緊急手術をすることに……。
数日後、セレーナは意識不明の重体から目を覚まし、奇跡的に助かった。それからというもの、みるみるうちに回復していき、元の元気な姿を見せてくれた。
ある晩の日、お爺ちゃんからの提案で、セレーナとルカを引き取って、一緒にエルフ領へ移り住むと宣言をする。
だが、お爺ちゃんは、レオは連れて行けないと告げると、俺はショックを受ける。
「なんで、俺だけ置いてけぼりなんだよーー!!」
俺は不貞腐れて大暴れをする。
❇❇❇❇
物語はそこからスタートします。
俺は、レオ・クレメント。六歳。ブラウンのくせっ毛の髪と、顔のパーツがお父さんそっくりねって村のおばちゃんによく言われる。俺的には、お母さん譲りのグリーンの瞳がチャームポイントだと思っている。
自慢じゃないけど、去年の豊年祭で女子から花冠を三つもらったことがあるし。今のところ容姿は完璧だから、あとは強さがあれば、パーフェクトだよね。
「川に映っている俺って、やっぱ最高にイケてる方だと思う。うん」
今、俺はエール川のほとりで独り言をつぶやいている。ここは、俺のお気に入りの場所だ。友だちとよく魚釣りをしたり、石投げをしたり、葉っぱの船を流したりして遊んでいる場所でもある。透明で水底まで見える綺麗なこの川を眺めていると気分が落ち着く……はずだが。
「あ~あ、俺、ずっとこの村に居続けなきゃいけないのかな……」
さっき俺は、セレーナとルカお兄ちゃんに文句をぶつけた後、家を飛び出した。
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《10分前の回想》
「なんで、ルカ兄ちゃん達二人だけで、レン爺ちゃんの所へ移り住むんだよ!!」
俺は二段ベッドの上からセレーナとレオお兄ちゃんを見下ろした。
「レオ、お願いだ。愛嬌のあるお前にしかできない。僕たちがいない間、仲が悪くなったお父さんとお母さんの仲を取り持って欲しいんだ。お前の力でこの家を明るくしてくれ」
ルカお兄ちゃんがすがるような目で俺に言ってきた。
冗談じゃない。そんな役目、俺にできるわけない。厄介ごとを押し付けているようでとても嫌な感じだった。
「なんで、俺ばっかりに言うんだよ。子供は俺だけじゃないだろ? セレーナだって、ルカお兄ちゃんだって、この家の子供じゃないか! 二人だって、家を明るくする役割はできるだろ? それなのに、どうして二人は俺を置いていくんだよ。――そんなのずるいよ!!」
俺は、二段ベッドから飛び降りると、ルカお兄ちゃんを突き飛ばして、部屋を出て、外へ飛び出した。
「レオ!! 待つんだ!!」
ルカお兄ちゃんが呼ぶ声に俺は耳を貸さなかった。
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俺の夢は冒険者だ。いつか、この村を飛び出して、いろんな所へ行って、世界を旅して周りたい。
昨日の夜、レン爺ちゃんがお父さんに子供たちをエルフ領へ連れていくと話したときは、一瞬喜んだ。だけどそれは、ルカお兄ちゃんと、セレーナだけで俺はここに残れと言われた。……ショックだった。俺は仲間外れにされたんだ。
「ずるいよ……。俺ばっかり置いていくなんて……」
「おい、お前。そこで何しているんだ?」
振り返ると、フラマが声をかけてきた。こいつは、火の中級精霊で、セレーナの契約精霊だ。
「べっ、別に、なんでもねーし」
「不貞腐れているのか?」
「……悪いかよ」
「悪くない。自分だけ仲間外れな気がして、落ち込んでいたんだろ?」
ずばり言われて、慌てて顔を隠した。
「うるせーよ、落ち込んでねーし!!」
フラマは俺の隣に座った。コイツ、ルカお兄ちゃんより年上に見えるけど、腕の筋肉半端ない。子供のくせにどうやって鍛えているんだ!?
「俺な、ある罪を犯してしまってな。精霊仲間から弾かれたんだ。特に好きな子からはかなり嫌われた」
ある罪と聞いて、ぞっとしてフラマから距離を取った。
「おっ、お前!! どんな悪さをしたんだよ? ていうか、そんな奴がセレーナの契約精霊なんておかしいだろ!!」
フラマはまあまあと言った具合で、俺に近づいた。
「お前、兄妹とは離れたくないんだろ? その決意は固いのか?」
「そりゃあ、もちろん。俺もレン爺ちゃんの所へ行きたい!」
「だったら、俺と仮契約をすればいい。そうしたら、セレーナはお前を連れて行かないといけなくなるからな」
仮契約? 俺が精霊と?
「仮契約だから、マナは通常の三分の一もらい受ける。その代わり、俺の部下がお前のアシストをする」
「ただし、試練を与える。俺が与えた試練を乗り越えたら、俺と仮契約を結んでもらおう」
燃えるような赤い髪に男らしい眉毛と目つき。なんとなくだが、コイツに男気を感じた。
「なぁ、試練って何をしたらいいんだ?」
「なあに、簡単だよ。高い木の上に登って木のてっぺんにいるサラマンダーに触れたら勝ちだ。簡単だろ?」
「なんだ、それだけでいいのか? 意外と簡単だな」
――この時俺は、甘く見ていた。そこら辺の木に登るかと思いきや、ガーロン山の奥にあるレットウッドというとてつもなく太くて高い木の前に連れてこられたのだ。
俺は唖然とした。幹回りの太さが半端ない。それに、最初の枝までがかなり高い位置にある。とっかかりのないところをだいたい20メートル以上登りきらないと、最初の枝には届かない。
全体で見た感じは、あーーっ、分からん!! とにかく高すぎる!!
「こんな、高い木、道具なしで登れるわけないだろ!?」
すると、フラマは指を鳴らしてノクターンを呼び出した。コイツの友達、ノクターンは闇の精霊でセレーナの契約精霊だ。背が高く、声も低くて落ち着いている。右の瞳は深い銀色で、左の瞳が金色なのは珍しい。サラリとした長い髪を一つに束ねて、なんか、かっこつけている。
「ノクターン。お前の出番だ。コイツの手足に闇魔法を張り付けてくれ」
「了解」
ノクターンが指を鳴らすと、いきなり現れた四つの黒いモヤが、俺の両手両足にくっついた。手を振り払っても取れない。
「おい! ノクターン、俺に何したんだ?」
「これは、闇の魔力を手足に纏わせただけです。安心してください。害はありませんので。闇の特徴の一つは吸収です。闇の魔力は吸着力があるので、縄がなくても自力で木に登れると思いますよ」
「おお、そうか。ノクターン、ありがとう」
俺はちゃんとお礼を言える男だ。
俺は、張り切って木の幹にしがみついてみた。手足がしっかり木に吸着して離れない。
「うぉ~~すげ~~、ノクターン。闇魔法かっけーーーっ!!」
俺はばっちり見た。クールぶっているノクターンの照れた顔を。奴もあんな顔できるんだな。
「レオ、今はちょうどお昼過ぎたところだ。太陽が沈み切る前に天辺に登るんだぞ!!」
「OK!! フラマ。必ず登り切ってやる!」
俺は両手を伸ばして、上へと進んだ。
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《一時間後》
――やばい、手足が疲れている。今、俺は最初の枝を上ったところだ。枝は思ったより太くない。そして少ししなりがある。上に行けば行くほど、枝は細くなるのだろう。デブが乗ったら、絶対ぽっきり折れる。
俺は視線を下に向けた。ここからの景色はとても眺めがいい。なぜならここが崖の近くにあるからだ。そして向こうには大きな滝がある。滝の壺には霧が発生していて、小さな虹がここから見える。俺は木登りは得意だが、こんな高い木に登ったことは、一度もない。
フラマは崖の近くにある一枚岩の上で日光浴していて、クターンは森の木陰でハンモックをゆらして寝ている。
「ねえ、フラマ~。俺、喉乾いたんだけど?」
「はぁ? 水飲む暇があったら、上へ登れよな」
くぅ~~、フラマの塩対応。俺が木の上で脱水を起したらどうするんだよ。責任取ってくれるのかな?
すると、左の耳から吐息が聞こえた。背中がゾクゾクっとして、振り返ると、フルーランお姉ちゃんがにこりと微笑んだ。
「よお! 頑張ってるかい、少年」
フルーランお姉ちゃんは水の中級精霊でセレーナの契約精霊だ。たまにセレーナと一緒にいるところを見かけるが、ズバリ、俺のタイプである。透明な白い肌に青い髪のポニーテールが特に美しい。それに、〇っぱいがでかい。おかあさんといい勝負かな?
「フルーランお姉ちゃん。僕、喉が渇いちゃって……」
俺は、ありったけの愛嬌を集めて、上目遣いをしてみる。
「ふふふっ、しょうがないわね。じゃあ、お口を大きくあ~んしてみて?」
いっ、色っぽい。村の女の子よりも断然こっちの方がいい!! 俺は目を閉じて口を大きく開けた。
「あーーーん」
フルーランお姉ちゃんの清らかなお水が喉へ入っていく。とても冷たくて美味しい。
「ぷはぁ~、お姉ちゃんのおかげで、僕、元気が出てきたよ。ありがとうお姉ちゃん」
「あ~~んっ、可愛いわね~~!! 大きくなったら、私のお婿さんになる?」
「なりたい! なりたい! 僕、お婿さんになりたい!!」
俺は、元気いっぱいの挙手をした。
「ふふふっ、馬鹿ね、冗談よ。ほら、まだまだ先は長いんだから頑張りなさい。天辺まで登ったら、どうしようかな~~」
なんだ、冗談かよ。どうせ、俺は子供だからな。揶揄われてもしかたがないか……。
「ねぇ、天辺に登ったら何かくれるの?」
「それは、教えなーい!」
フルーランお姉ちゃんは俺にウィンクをくれた。うひょ~、かわいいーー!
俺は元気が出たところで、枝の上を立ち上がった。太い幹にしがみついて、鼻息荒くどんどん上へと登っていった。




