【短編ホラー】非通知からの電話嵐
仕事から帰ると、スマホに留守電が1件入っていた。
画面をタップすると、ザザ……ザ…ッ……という砂嵐のようなノイズが耳を刺す。
その奥で、か細い声が繰り返していた。
「……さみしい、さみしい、さみしい……」
何度も、同じ声で。
俺は息を呑んだ。
留守電が残っていたのは、朝の6時──まだ寝ていた時間だ。
「誰だよ……こんな時間に……」
背筋にじっとり冷たいものが張りつく。
番号は【非通知】。
再生は一回きりで、もうデータは消えていた。
変な勧誘か、イタズラか──
そう思いたかった。
風呂に入り、夕飯を済ませると、少し落ち着いた。
だが、夜ベッドに入りスマホを確認すると、また通知が来ていた。
今度はメッセージアプリ。
『さみしい…』
差出人は表示されない。履歴を開こうとした瞬間、画面が真っ黒になった。
──ヒュゥゥ……
耳鳴りのような音がして、背後から生温い風が吹いた気がする。
慌てて振り返る。
当然、誰もいない。
「馬鹿馬鹿しい……寝よう」
布団をかぶり目を閉じる。
(しかし、気になる……)
少し物音がするだけで、スマホが震えた気がして、何度も画面を確認してしまうのだった。
翌朝、目が覚めるとまた留守電が入っていた。
画面をタップする指が、小刻みに震える。
「……さみしい……」
昨日と同じ声。だが続きがあった。
「……ずっと見てたのに……気づいてくれなかった……」
辺りを見渡す。何もない……。 心臓が嫌な音を立てる。
「やっと、会えるね……」
留守電はそこで切れた。
朝、カーテンの隙間から差す朝日が妙に赤い。
コンコン、と玄関をノックする音がした。
「……おーい、真一? 起きてるか?」
友達の古川だ。
今日は昼から出かける約束をしていて、その誘いに来たのだろう。
「おう! 待ってたよ!」
ドアを開けた瞬間、目の前の古川がスマホをいじりながらニヤリと笑った。
「さみしかったよ……」
「古川…そういうイタズラは良くないぞ…」
すると古川は、画面をこちらに向けて見せた。
スマホの通話履歴。
そこには昨夜から今朝にかけての発信履歴がずらりと並んでいた。
すべて【非通知】に偽装されて。
「あれ…お前だったのか…?」
「これ使えば、番号隠してかけられるんだよ。すごいだろ?」
古川は、いたずら小僧みたいな笑みを浮かべて言った。
「でもさ……こんなにかけても、全然気づいてくれなかったじゃないか……」
「いやいや…こんな悪趣味なイタズラすんじゃねぇーよ」
「わりぃわりぃ、これから気を付けるよ…」
次の瞬間、古川のポケットから何かが光った。
銀色の刃物だった。
「フン…俺…、お前のこと昔からすげえ大嫌いだったんだよな」
と小声で呟いた。