プロローグ
昔々、二つの大きな国は戦争を始めた。
きっかけは些細なことだったが、引き際を見失った両国は様々な種族と土地を巻き込み、砲煙は世界各地に広がった。
大陸の端の小国アストラは未だ轟音の届かない安寧の地だったが、国際的影響力の拡大を狙い、開戦国の片棒を担ぐことになった。
争いは泥沼に進み、各国の資源や兵力も底を尽いた頃、栄誉と貢献の機会を求めたアストラの軍部は新しく民間から兵を募り始めた。
血が飛び交い続ける戦争に人々は辟易していたが、
膠着していた大戦は突然終わりを迎えた。
ひどく乾いた晴天だった。
緊張を許さなかった前線では地を這う虫の足音が聞こえるほど静まり返り、手垢の付いた大砲や銃は辺りに放り出され、銃にかけられた手綱は握られたままだ。血に染まった兵は煙の舞う空の一点を見つめ、どこからか飛んできた羽虫がその頬に止まった。
生ぬるい風はかすかな土埃と煙を巻き上げ、戦地を吹き抜けた。
「一掃」された前線の静寂は参謀本部にも轟いた。
それまで引くことを知らなかった各国は一斉に撤収し、参戦国の軍部参謀たちは瞬く間に自国の首都へと戻った。
勝利だけを祈って資源は使い尽くされたが、戦果が回収されることはなく、
人も緑も失った世界には鉄の匂いだけが残った。