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あいこ

作者: 三宝

 むかしむかしあるところに、毎日じゃんけんをしている老夫婦がいました。


「最初はグー!」


 昼食後、おじいさんのかけ声からそれは始まります。


「じゃんけんポン!」


 おじいさんの手はパー、おばあさんもパーです。あいこでも2回目の手は出さず、これで終わりです。


「ばあさんや、愛しておるぞよ」


「ふふふ、私もですよ」


 2人はじゃんけんが終わると毎日、愛の言葉を贈り合います。


 2人は気が合いすぎるようで、これまでに勝敗がついたことはありませんでした。次の日も、また次の日も、1日に1度じゃんけんをしてはお互いに「愛してる」と口にします。


「どうして2人は毎日じゃんけんをするの?」


 ある時、2人の話を聞いた村の少年がそう言いました。


「うーん、何でじゃったかのぅ」


「覚えてないわねぇ⋯⋯」


 おじいさんもおばあさんもすっかり忘れていますが、この2人は過去に1度だけ、殺し合いになるほどの大喧嘩をしたことがあったのです。


 その際、衝動的におじいさんは家の裏に(なた)を、おばあさんは表に(くわ)を取りに行きました。

 その後部屋に戻った2人はお互いの姿を見て戦意を喪失し、農具を元の場所に戻しました。


 次の日、まだ怒りが消えていなかった2人はそれぞれ出先で紐を調達し、家に持ち帰りました。


 おばあさんが「(かわや)へ行く」と言って部屋を出たのを確認したおじいさんはポケットから紐を取り出し、襖の陰に隠れました。

 その頃、厠に行くふりをしておじいさんの目を盗んでいたおばあさんも同様に紐を取り出し、覚悟を決めました。


 おばあさんが紐を構えて部屋に戻ると、襖の陰から紐を持ったおじいさんが出てきます。また引き分けです。


 次の日、おじいさんがおやつにファミチキを買ってきました。


 食卓に箸とコップ、そしてしましまの袋が並んだ頃に、おばあさんが「外から物音がするので見てきて欲しい」と言いました。


 おじいさんは外を見に行きましたが、怪しい人物や動物はいませんでした。

 部屋に戻って腰を下ろし、「いただきます」と手を合わせるおじいさん。おばあさんが優しい笑顔で見守ります。


 ⋯⋯食べません。


「おじいさん、食べないんですか?」


「ばあさんこそ、せっかくのファミチキが冷めてしまうぞ」


 2人ともなんとなく気づいていたのです。お互いにファミチキに毒を盛っていたことに。


 2人は心の中で「毒ファミチキ」というシュールな単語を思い浮かべると、同時に吹き出しました。


「ふひひ、どうしたんですかおじいさん」


「ホハハホホホホホ、多分ばあさんと同じじゃよ」


「ねぇおじいさん、私たち、何を争ってたんでしたっけ?」


「なんじゃったかのう⋯⋯」


 人間、笑うと嫌なことは忘れるのです。


「ばあさんや、こうなったらじゃんけんで決めんかの」


「それしかありませんね、勝った方が殺す権利を得るということにしましょう」


 なぜ争っていたのか忘れた2人でしたが、殺意だけは明確に残っていました。これが人間の心というものなのです。


 しかし今ではそれも忘れ、毎日のじゃんけんは、愛の言葉を贈り合うための前フリになっていました。


 そんな生活が何年か続いた(のち)、同時に息を引き取った2人は、同じお墓でいつまでも一緒に過ごすのでした。おしまい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 突然ファミチキ [気になる点] 怖い童話・・・グリム? [一言] 殺意と愛情のジェットコースター。 勝負がついたらどうなるのやら・・・
[一言]  愛も憎しみも、強い感情を向けられる相手だからこそのものだったのかも、ですね。  チキンはケンタッキーのほうが好きです(笑)
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