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4人の魔女と守護騎士  作者: 案子丹子
プロローグ
3/13

荒天の夜に

「ただいま!」


剣術訓練を一日終え、夕暮れ時にクタクタになっての帰宅であるはずだが、エルウィンの第一声はたった今から遊びに出掛けるかのように弾んでいる。その様子からもハンスの指導がいかに満足のいく内容なのか手に取るようにわかる。我が子を思う母として本心では、剣術訓練に危険性が伴う以上、憂慮に堪えないものではあるが、帰宅後に嬉々としてその日の訓練内容を話すエルウィンの表情を見れば、そんな親心もどこへやら。


「おかえりなさいエルウィン。今日は怪我はしてない?大丈夫?」


「うん!だいぶ慣れたからね。でも先生にはまた一発も入れられなかったんだよ。やっぱり先生は強いね!」


返答には悔しさの中にも、ハンスに対しての尊敬の念が確かに込められている。


「ウフフ、ハンス先生は騎士団の中でもかなりの剣術の腕前だったんですってね。エルウィンがいくら強いと言ってもまだまだ子供だしこれからどんどん成長して、きっとハンス先生も超えられるんじゃないかしら?」


エルウィンは誰かに言われなくとも、その固い信念からやる事を決して途中で投げ出す事はない。そしてそんな我が子の性格は百も承知で、慰めるような事はせずにあえて発奮を促すような言葉をかける。


「うん!だからいっぱい食べて早く大きくなるんだ!今日もお腹ペコペコだぁ!」


「もう少しでご飯の準備も終わるから、服も汚れているし先にお風呂で体を洗ってらっしゃい。」


お腹を手で擦り、待ちきれないといった顔で用意されている食卓を覗き込みつつ、お風呂へと歩を進めながらの返事をする。


「はぁーい!」


服を脱ぎ捨てお風呂場へと入っていくエルウィン。中には大人一人分ほどのサイズはあろうかという魔蓄瓶が二本並んでいる。その瓶の口にあるボタンを押すと勢い良くお湯が吹き出してくる。水の魔蓄瓶から出る水を炎の魔蓄瓶に繋ぐ事で、水を温める事ができ、その温められたお湯が出てくる仕組みである。

魔法革命時に発明された魔蓄瓶の中でも炎と水はそれぞれライフラインに直結するため急速的に普及した魔具の一つでもある。

いつでも調理や暖房用の炎、そして飲料にもなる清潔な水が用意できるようになった事は本当に革新的であったのだ。


「あぁー気持ちいい・・・いててっ!少し手合わせの時に擦りむいてたかな?それにしてもコーネルとホルガー二人がかりでも余裕で負けちゃったな。ハンス先生は底が見えないや・・・。それだけ僕たちがまだまだ弱いって事だよね、悔しいなぁ・・・あのフェイントは本当に厄介だけど、最近は攻撃も見えるようになってきたし、絶対一発いれてやるぞ!」


エルウィンが体を洗いながら今日の訓練を思い返し独り言を繰り返していた時、この家に来客があった。

コンコン、と玄関扉からはノックが聞こえる。


「はぁい、どちら様ですか?」

料理の準備の手を止めて玄関扉の小窓を開け訪問者の顔を確認すると、男が二人立っていた。


「こんばんわ、アネットさん。魔局ブーケルランド支部局員のダミアンです。」


「魔守護騎士団のブーケルランド分隊、魔騎士のエミールだ。」


二人はそれぞれの所属先の記章を小窓から覗いたアネットに向けて掲げる。

魔局とガーディアンのセットでの訪問に少し嫌な予感がしたアネットは、一瞬にして表情が曇る。


「・・・何かあったんですか?」


そう言いながら扉を開けるアネット。

二人は顔を見合せるとアネットへ向き直り少しだけ頷くと、ダミアンは重い口を開いた。


「・・・はい、水の魔女ランク2のカトリンさんはご存知ですか?」


「ええ、もちろん知っています。・・・まさか彼女に何か?」


「・・・大変申し上げにくいのですが少し前に人が倒れてると魔局へ通報が入り、現場へ駆けつけたところ、残念ながらカトリンさんが遺体で発見されました。遺体の状況からして魔女狩りの可能性が高く・・・」


知人の魔女が亡くなった事実に動揺を隠せず少し足元がふらつくアネット。


「大丈夫か?アネットさん!気をしっかり!」


エミールがアネットの腕を支える。


「ごめんなさい・・・あまりに急だったもので。そうですか、カトリンが・・・」


「ご心中お察しいたします。ここのところ世界で組織的な魔女狩りが多発していてますが、相手の全貌が不明な以上、こちらは後手になっているのが現状です。今回アネットさんの元に来たのは無事の確認もそうですが、カトリンさんを襲撃した犯人がまだブーケルランド内に潜んでいる可能性もあるため、今夜はエミールを護衛に残したく。」


「ありがとうございます。でも、よろしいのですか?町内にもまだ何人か魔女が・・・」


自身の護衛の申し出に、一瞬安堵したものの、すぐに他の魔女の身を案じるアネット。

すかさずエミールが口を開く。


「敵の情勢がわからない以上全員を必ず守れるとは言えないのが現状なんだ。ただ魔女狩りは比較的高ランクの魔女から狙われる傾向にある。今この町にいるランクの高い魔女は炎のランク3に位置するアネットさん、あなたと雷の魔女ランク3のハンネマリーさんの二人だ。もちろん向こうにもガーディアンがついてる。他所に応援要請も出しているんだが、到着まで個別に全員の魔女を守護するだけの余裕がない。現在はそれぞれの魔女の所に異変があれば駆け付けられるようにバラけて配置をしてるんだ。魔女をどこか一ヶ所に集めようって案もあったんだが、夜になってからの移動は危険すぎる。」


「アネットさん、応援の到着があれば都度配置などにも変更が生じるため、指示が必要です。私は一度支部に戻り支部長へ進捗報告をしてきます。今夜は決して外に出たりする事なく、エミールの側に居ていただくようお願いしますね。」


そう言うとダミアンは軽く会釈をして引き返そうとしたが、そこへエルウィンがお風呂から戻ってきた。


「あれ?お母さん、こんな時間にお客さん??」


アネットが二人に向けてエルウィンを簡単に紹介する。


「息子のエルウィンです。」


紹介を受けたダミアンは被っていたハットを取ると片膝をついてエルウィンの目線の高さに合わせた。


「こんばんわエルウィン君。初めまして。私は魔局のダミアンです。こっちはガーディアンのエミールです。今夜はこのエミールがお仕事でエルウィン君のお家へ泊まらせてもらう事になるからよろしくね?」


優しく微笑みかけるダミアン。しかしエルウィンはダミアンに挨拶だけ済ませると興味はすでにエミールへと移っている。


「エミールさんガーディアンなんですか!?すごい!僕は今統一騎士団を目指して剣術訓練をしてるんです!」


「そうか、エルウィン君は騎士団に入りたいのか。剣術の訓練はしているのかい?」


「はい!今はハンス先生の所で鍛えてもらってます!まだ全然先生には勝てないけどいつか先生を超えて、強い騎士になるのが目標です!」


「そうか、あのハンスさんの所で!あの人ほど強い騎士はこの国でも数える程しかいないんじゃないか?未だにガーディアンの中でも話に良く聞くよ。エルウィン君はガーディアンには興味はないのかい?」


純粋に自身の所属している魔守護騎士団ではなく統一騎士団に入団したがるエルウィンに率直な気持ちを聞いてみたくなったエミール。だが聞かれたエルウィンは少し悲しそうな表情を浮かべて躊躇うような素振りを見せながら口を開く。


「・・・お父さん、騎士団だったんです。でも戦いを止めに行って死んじゃったんだ。」


チラリとアネットの顔を見るエルウィン。


「あの人が派遣されたのはケルシュテンでの民族同士の内紛でした・・・。」


アネットがエルウィンに続く。

ケルシュテン内戦とはケルシュテンという都市内部にて、民族同士の小競合いだったものが、多くの人々の命を奪う紛争にまで発展したものだ。統一騎士団を派遣、介入する事で紛争は早期終結を迎えると軽く見ていた統一政府であったが、それによる終結を拒否したお互いの民族は、だんだんと戦闘が激化していき、ついにはその目的から介入当初は武力行使を禁じられていた騎士団員まで手にかける事態が発生してしまい、最終的には統一騎士団による武力鎮圧で終戦するという後味の悪い結果であった。


「そうか・・・ケルシュテンでは多くの騎士団員が命を落とした。悪い事を聞いてしまった、すまんエルウィン君、アネットさん。許してくれ・・・」


「いえ、知らずの事ですのでお気になさらないでください。それにもう7年も前の事ですから。」


申し訳なさそうに頭を深々と下げるエミールに本心から笑いかけるアネット。

するとなぜかエルウィンの表情も釣られて明るくなる。当然に父親の話しが出ればアネットは幼かったエルウィンよりも辛い時期が長かっただろう。そんなアネットを見て育ったエルウィンも、自然と察するようになり、話題が出る事で気まずい思いも確かにあったのだが、時間を経て少しは変化したアネットの心情が今回見えた事が嬉しかったのだろう。


「僕は今よりずっと子供だったから、はっきり憶えてはないんだけど、父さんはね、沢山の人を守ったんだって・・・だから僕も、そんなお父さんみたいな立派な騎士になって世界中の人を守れるようになりたいんだ。だからエミールさん、いっぱい騎士団の話教えてください!」


「そうか、じゃあ今日はお母さんに内緒で夜更かしして、騎士団について色んな話を聞かせてあげよう!」


エミールはそう言うとエルウィンの頭をグシャグシャっと乱暴に撫でるが、エルウィンも嬉しそうに子供らしい無邪気な顔を浮かべる。そんな二人の様子を微笑ましく見つめていたダミアンはハットを被ると玄関口から一歩踵を返す。


「ではアネットさん、私はこの辺で失礼します。エルウィン君もまた。エミール。あとはよろしくお願いしますね。」


「ありがとうございましたダミアンさん。お構いも出来ずすみません。」


「ダミアンさん、またね!」


エルウィンが手を振るとダミアンも手を振り返し、アネットにまた視線をやり軽く会釈すると夜の闇の中へ姿を消していった。


「玄関口でごめんなさい、エミールさんも夕食まだでしたら一緒にいかがですか?」


「おおっ、ありがたい、そう言えばまだだった・・・。お言葉に甘えさせていただこうかな?」


「一緒に食べましょう!僕もお腹ペコペコだったんです!」


そう言うとエミールの手を無理矢理引っ張って行き早々と食卓に着くエルウィン。

ふと夫が生きていて三人で食卓を囲っていた頃の温かい気持ちを少しだけ思い出し談笑している二人を見つめるアネット。

いつの間にか外では昼間の晴天が嘘のように雨がぱらつく空模様となっていた。

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